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番外編4 ~出席番号20番 土屋茂~

 この世界には、誰も踏破した事のない、未知の領域がある。

 『古の幻林』と呼ばれる場所で、足を踏み入れた者は二度と帰って来る事は無い、と言われている。


 オカルトめいた云われではあるが、単純な話、この場所に出現する魔物が強すぎる、という話なだけで、ミステリー感はまったくない。


 僕も一度、超位職になった時にチャレンジした事はあるが、最初に会った魔物に四苦八苦して、結果逃げ帰った経験がある。

 攻撃が通じない相手とか、いったいどう倒せばいいんだろうか?


 ここの魔物達が、自分のテリトリーから一切出て来ないのは非常にありがたい。

 もし人里まで来られたら、最悪人類滅亡まで視野に入れる必要が出てくるレベルだ。


 ともかく……僕は今、そんな人類未踏破の場所の入り口に立っている。


 何故そんな危険な場所にいるのか?

 答えは簡単だ。ルーナ・ルイスを探しに来たのだ。


 生きていたにも関わらず、数十年誰からも発見された事がない、というのは、人が簡単に足を踏み入れ事ができるような場所にはいなかったからだ、と考えるの普通だろう。

 そして、我々が足を踏み入れられない最たる理由である「魔物が強すぎる」という難題は、ルーナ・ルイスの強さをもってすれば問題ではなくなる。

 雑魚モンスターしかいない場所でなら、僕でも何の躊躇いもなく野宿できる。むしろ依頼の都合上、今まで何度もやってきた。ルーナ・ルイスにとっては、この『古の幻林』でも、その感覚でいるだろう。


 まぁ本当にいるのかどうかの確証は無いが、確率的には一番高いと踏んでのこの場所だ。


 コレは、討伐や調査の依頼ではないので、無理に魔物と戦う必要はない。なので、とりあえずは魔物に遭遇したら、ひたすら逃げ続け、戦わなければならない場合は必要最低限だけ戦ってすぐ逃げる。それを徹底するしかないだろう。


 ケンゴや倉田さんにも声をかけようかとも思ったけれど、基本魔物から逃げ続ける事を考えると、たぶん高確率で離ればなれになってしまうので、単独で行く事にした。

 ただ何よりも、これはかなり危険な行為だ。

 この場所に出現する魔物の強さだけでなく、仮にルーナ・ルイスに遭遇できた場合、相手が沙川さん……元クラスメイトだったとしても殺される危険性は大いにある。相手は、懸賞金額歴代トップ、最強最悪の賞金首『銀髪の堕天使』だ。既に前世でのモラルは捨て去ってると考えるべきだろう。

 そんな危険な行為に2人を巻き込むわけにはいかない。

 コレはあくまでも僕個人で興味があるだけの、自分都合の行動なのだ。



 ……とりあえず、いつまでも古の幻林の入り口にいても始まらない。もうここまで来てしまったのだから、いい加減覚悟を決めて行動に移ろう……


「あれ?誰かと思ったら土屋君じゃん」


 一歩を踏み出した瞬間、後ろから声をかけられ、咄嗟に振り返る。


「この場所は危ないから、あまり近づかない方がいいよ」


 そこに立っていたのは、勇者レイナ・ベレージナ……飯島さんだった。


 失念していた。

 ここはルーナ・ルイスにとって最適な隠れ場所だと思っていたけれど、同じような強さを持つ、今はお尋ね者となっている飯島さんにとっても、絶好の隠れ場所なのだ。


「あれ?もしかして私、警戒されてる?あ、そっか!世間的に見れば私、大犯罪者だもんね」


 長年蓄積された経験の賜物なのだろうか?無意識に、手が剣にかかっていた。

 まずいな……僕の印象は最悪じゃないか。無駄に警戒される事をしてどうする僕!


「あ~……アンちゃんもこんな気分だったのかねぇ~賞金首になって初めて理解できた気がするよ」


 アンちゃん?誰だ?もしかして4人目のチート能力者?とか?

 頼むからこれ以上厄介な登場人物増やさないでほしい。


「ゴメンゴメン。急に声をかけられたから咄嗟に取っちゃった行動なんだ。僕としては敵意なんて無いつもりだから安心してよ飯島さん」


 両手を上にあげて、戦うつもりは無い事をアピールしておく。


「ふ~ん……で?どうしてこんな危険な場所に来たの?土屋君」


 若干警戒されてる感じかな?

 そりゃそうだよね。こんな危険な場所に来るのは、若い頃の僕みたいな、腕試ししてみたい連中しか来ない。そしてそんな連中も一発で心折られて二度と来ない。

 そんなわけで、基本はイキがってる若手が来るような場所で、僕みたいな年寄りが来るのは違和感がある。


 どうする?正直に話すか?

 いや、それよりも、せっかく飯島さんに直接会えたんだ……引き出せる情報は引き出しておきたい。

 多少の駆け引きは必要かもしれない。


「……そんな大した理由じゃないよ。もしかしたらここにルーナ・ルイス……沙川さんがいるんじゃないかな?って思ってね」


「ルーナ・ルイスが沙川?へぇ~そうなんだぁ」


 とぼけるつもりかな?でも、その発言は悪手だよ飯島さん。


「前世が誰だったのかがわかる飯島さんが知らないわけないよね?とぼけるのには理由があるのかな?」


「……『ルーナ・ルイス=沙川』って結論付けた根拠を聞いてもいいかな?」


 空気が変わったな。

 表情と口調は変えてないつもりだろうけど、声のトーンが若干低くなっている。


「最初に質問を投げたのは僕なんだけどなぁ……まぁいいか。根拠は話せない……情報は武器になる。おいそれと喋るつもりはないよ。ただ、証明するための仮定を話せないけれど、至った結論に間違いは無いと思っているよ」


 多少は話を盛っておく。

 でも、飯島さんの反応を見ると、ルーナ・ルイスが沙川さんだって説は正しいのかもしれない。


「じゃあ飯島さん。とぼけた理由を聞いてもいいかな?ついでに沙川さんとの関係性とかも教えてくれると嬉しいんだけど」


「土屋君もさっき言ったよね?『情報は武器になる』って。その考え、私も同じなんだ……だから、私もそれについては言いたくない、ってのが答えかな」


 なるほど……その感じだと、やっぱりルーナ・ルイスとの接点はあったんだな。


「そうか……残念。じゃあせめて、僕が考えてる事を聞いてもらってもいいかな?」


 飯島さんは何も答えない。

 表情は変わっていないけれど、警戒心はかなり高くなっている感じだ。


「飯島さん、沙川さん、そして『魔王ルカ』……西野さんは、色々と関わりがあった。時代は……たぶん15歳くらいの時だ」


 飯島さんの纏っている殺気……というのだろうか?空気がヒリつくような感覚。それが少し増した。

 ……つまりは僕が言ってる事は正解なんだろう。


「中心は沙川さんだ……飯島さんの今のその強さ、その時沙川さんと関わっていたから得られたんじゃないかな?もちろん西野さんも、その時強くなって『魔王』になった」


 飯島さんは表情には決して出さない。

 でも、空気が正解か不正解かを教えてくれている。

 前世ではこんな事できなかったけれど、この世界で、常に生きるか死ぬかの仕事をしていると、自然と身についた、相手の殺気が何となくわかる力。

 それが今、かなり役に立っている。


「その関係性を考えると、飯島さんが西野さんを討伐した事に違和感がある。仲違いをして殺し合いをするとも思えない……となると、西野さんが殺された事はイレギュラーだった。たぶんだけど、別の4人目が現れた、とかかな?」


 飯島さんが最初にポロっと出した名前……4人目がいた、って仮定すると、この話に辻褄があう。


「そして西野さんの死をきっかけに、全員がバラバラになった。ルーナ・ルイスが表舞台から消えたのもその時期だ」


 凄い殺気だな飯島さん。

 これはほぼ正解で間違いないだろう。

 となると、飯島さん並の強さを手に入れるには、やっぱりルーナ・ルイス……沙川さんと接触するしか方法はなさそうだ。


 ルーナ・ルイスに会うために、この場所に来たけれど、思わぬ大収穫だ。

 後は、ルーナ・ルイスが居そうな場所を絞り込んで……


「……ゴメンね土屋君。キミは…………知りすぎた」


 しまった!!引き際を誤った!

 まずい!何とかしないと……


「僕が突然死んだら、さっき話した内容の情報をバラ撒くように、信頼する人物に話してある……落ち着いて取引しよう飯島さん。その強さの秘密を教えてくれるなら、さっき話した事は口外しないと誓うよ」


「信頼する人物?今の交友関係を考えると坂上君かな?それとも朝香?私が知らないと思ったかな?やっぱり情報は重要だよね」


 なんで最近の交友関係がバレてる!?ケンゴや倉田さんと何度も会うようになったのって同窓会以降なのに!?


「それと土屋君……キミは私と同じ匂いがするから、口約束は信用できない」


 そう言いながら剣を引き抜く飯島さん。

 応戦するため、僕もすぐに剣を抜くが、何と言うか……勝てる気がしない。


 あ~あ……自分では器用に生きて来たつもりだったんだけど、最後の最後でしくじったな……

 できれば最後は自宅のベットの上で安らかに逝きたかったんだけど、その願いはかないそうにない。

 まぁでも、割といい人生だったかな?

 普通は味わえない、異世界転生とかも味わえたしね。


 とりあえずゴメン!ケンゴ、倉田さん。

 口から出まかせだったんだけど、今回の僕のヘマで飯島さんに狙われる事になると思う。


 あの世で何度土下座して謝れば許してもらえるかなぁ……


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