第1話 謎の封書
この、ゲームのようなファンタジー世界で、文明を持って生活している種族が3種存在している。
『人間』『エルフ』『魔族』この3種だ。
ただ、よくあるファンタジー小説や漫画とは異なり、この種族にさほど違いは無い。
たぶん見た目が違うくらいだろう。
もしかしたら、それ以外にも違いはあるのかもしれないが、少なくとも私が生きてきた中で、それ以外の違いは認識できていない。
『人間』は……まぁ現代世界の人と差異はないだろう。
『エルフ』は耳が長く若干色白。そして『魔族』は角とシッポが生えていて若干色黒。
……たぶん、それくらいの違いしかないだろう。というか「色白」「色黒」ってのも個体差があって、人によってはよくわからないレベルなんで、『特徴』として挙げるには弱いかもしれない。
とにかく、その程度の違いしかないのだ。
寿命だって同じだ。
よくあるファンタジー漫画みたいに、エルフだから魔族だからと言って、人間より寿命が長いというわけではない。
いや、まぁそこも個人差はあるから何とも言えないところはあるが、平均して60代くらいで天寿を全うしている感じだ。そりゃあもう全種族平等に。
そんなわけで、その平均寿命を考えると、もうすぐ50歳な私は棺桶に片足突っ込んでいるような状態だろう。
この世界の文化レベルを考えると、この平均寿命は長い方なのかもしれないが、その辺を色々と考えたところで、私の余生が変わるわけではないので、あまり気にした事はない。
別に長く生きられない事に未練があるわけじゃない。
前世の記憶を持っている分、前世での享年である17歳分を多く生きられてるって考えれば、むしろお得感さえある。
おっと、微妙に話が逸れたな……
とにかく、この世界にいるこの三種。文化レベルも変わりなく、基本的な生活環境もほぼ同じなのだ。
それぞれ、その種族を束ねている王国が存在し、それぞれの領土に貴族・平民等が存在している。
基本的な身分ピラミッドがあり、王族なんて一握りしかいない。それを支える貴族はそこそこはいるかもしれないが、その比じゃないレベルの人数で平民がいる。
そして私は、もちろん例に漏れず、立派な平民である。
まぁ王族や貴族だったら、わざわざ危険なギルドになんて所属しないだろう。
私が所属している冒険者ギルド協会ってのは世界中にある。
人間領にもエルフ領にも魔族領にもだ。
小さな町から大きな都市まで、規模は様々だが1つの町に1つはギルド支部は存在している。
というのも、ギルドは国に属していないのだ。
そのあたりが、領土関係無く至る場所にギルドがある理由だ。
そんなわけで、国が関与してない分色々と好き勝手はできるのだが、それにともなう責任というのも国は保証してくれないので、全て個人にのしかかってくる。
まぁその点をどう判断するかってやつね。
ちなみに、厄介な魔物の討伐依頼や、犯罪者の捕縛といった内容の仕事が国から依頼される事もあるが、そういう場合は何かあった時多少の補償があったりもする。
ギルドにくる仕事は魔物退治がメインで、ダンジョンの探索や、そのダンジョンの生態系の調査とかって仕事もある。あと多いのは護衛の仕事とかかな?
もちろん民間から依頼される、国が関係してない通常任務では、仕事中何かあったとしても自己責任だ。
私が今ギルドマスターをしているギルド支部はクルーク王国城下町にある。
人間領の王宮がある町なので、かなり大きなギルドだ。
そのため仕事も依頼も結構大量に入ってきており、毎日大忙しなのだ。
そう、そして……こういう大都市のギルドに舞い込んでくる依頼っていうのは、表沙汰にできないような黒い案件もあったりする。
暗殺や誘拐、強盗、監禁……挙げるときりがないが、ともかく声を大きくして言えないような依頼だ。
依頼人の名義を公開できない、そんな裏依頼と呼ばれる仕事もあるのだ。
ギルドマスターやベテランの受付嬢に、コッソリと「裏依頼はあるか?」と聞いてくれれば、誰もいない場所でコッソリと教えてくれたりもするので、試してみるのも一興かもしれない。
……あんまりおススメはできないけどね。
報酬が通常依頼とは比べものにならないくらいに破格なので、目がくらんでしまうかもしれないが、成功しても失敗しても、責任が全て自分にかかってくるのだ。
依頼人の情報は一切知らされていないので、役人に捕まっても責任転嫁できないので、高確率で死刑になる。そもそも、どう言い訳したところで実行犯なんだから極刑は免れないだろう。
そして、捕まらなくても、高確率でお尋ね者の賞金首になるだろう。
ただ上手くいけば、その依頼一件で通常依頼500件分くらいの報酬を得られるっていう、あまり働きたくない怠け者にはありがたい依頼でもある。
わかりやすいハイリスク・ハイリターンってやつだね。
まぁ過去には、リスクをまったく気にする事なく懸賞金金額歴代1位を更新して殿堂入りした『出会っても絶対に手を出してはいけない超極悪賞金首』ってのはいたんだけどね。
……そう、『いる』ではなく『いた』なのだ。
今はもういない。
「やあ朝香!今日も忙しいフリして自室で仕事サボってる?」
今日も今日とて、私の執務室にノックも無しに入ってくる見た目は少女な愛花が、騒がしく現れる。
毎日毎日、暇なのかコイツ?
「フリじゃなくて、本当に忙しいのよ……邪魔しに来ただけなんだったら帰ってほしいんだけど?」
そう、生前での親友・愛花を名乗る不思議な少女。
少なくとも私がこの世界に来てからの災厄は、全てコイツが解決している。
このゲームのようなファンタジー世界からみても、よくわからない不思議な言動や行動をしている。
長年コイツと付き合ってきたわけだが、コイツとの付き合い方で一番重要な事はたった一つ。
『ツッコんだら負け!』だ。
コイツの言動や行動をいちいち気にしてたらやってられない。
ある程度はスルーする!それがコイツと長く付き合うコツなのだ。
「ひっどいなぁ~別に邪魔しに来ただけってわけじゃないんだけどなぁ」
適当にあしらうつもりで言った私の言葉に反論してくる。
でも『邪魔しに来たわけじゃない』じゃなくて『邪魔しに来ただけってわけじゃない』って事は『用事ついでに邪魔もしに来た』って事じゃないの?
「はいコレ。届け物だよ」
私の呆れたような視線を無視して、愛花は封書のような物を私へと投げ渡してくる。
届け物なんだったら、もっと大事にあつかえよ……
「何これ?手紙?……この文字、なんて書いてあるのよ?」
愛花から渡された封書を開け、中に入っていた紙を取り出してマジマジと見てみる。
そこには何やら文字のようなものが書かれてはいるのだが、この世界の文字ではないため、何て書いてあるかはわからな……いや、ちょっと待てよ……ここに書かれている文字、なんとなくだけど見覚えがある気がする。
「……どう、そうかい、の、おしらせ……?」
読めた。
50年近く、こっちの世界の文字に慣れ親しんでたせいで、すっかり忘れてたけど、この紙に書いてある文字って……日本語じゃん!?
「そう『同窓会のお知らせ』だって。私も通知貰ったから参加しようかと思ってるんだけど、朝香はどうすんの?」
「いや『どうする?』って言われても……何?開催一週間後じゃない!?急すぎない?……って会場が、ここのギルドに併設されてる酒場じゃない!?聞いてないんだけど!?こういう事やるなら、ギルマスの私に話を通してもらわないと困るんだけど!主催者は……『沙川マヤ』?あの根暗女か!」
紙に書かれた文字を読みながら、一つ一つに丁寧にツッコミを入れていく。
「いやぁ~楽しみだよね同窓会!50年ぶりくらいだよね?皆元気かな?」
……いや、ゴメン。『コイツとの付き合いはツッコんだら負け』とか言っといてなんだけど、コレにはツッコミ入れさせてもらってもいいかな?
「こんな怪しい通知もらってノコノコやってくる馬鹿、そうそういないっての!!!」