第15話 チート能力
「あ~~~!クッソ腹立つわ!!」
オッサンから話を聞いた後、そのまま酒場で飲み会へと移行した私達。
良い感じに酔いだした坂上が突然叫びだす。
「どうした坂上?発作か?もういい歳なんだから無理せず病院行ってこい……頭の方のな」
「お前もいちいち俺に毒吐かねぇと会話できねぇ病気持ちじゃねぇかよ倉田?不治の病かもしれねぇから、今の内に遺書書いといた方がいいんじゃねぇか?」
「何で会話のたびに喧嘩すんのさ2人とも……話の進み具合が遅くなるから、ほどほどにしといてくれないかな?」
毎回変わらない3人のやりとりが行われる。
まぁ簡単に言うと、まったく実の無いいつも通りの会話が繰り広げられている、という事である。
「それで?ケンゴは何に腹を立ててるの?」
う~ん……外見だけ歳取ってる私達と違って、土屋君は実に大人だね。
少しは見習うべきかもしれないけど、こればっかりは性格なんでどうしようもない。
「飯島もそうだが、ルーナ・ルイスも明らかにチート能力があるだろ!?……『異世界転生』って言えばチート能力付与ってのが定番だろ?この世界で生まれた時、そんな能力が無い事がわかって、期待してたぶん内心ガッカリしたんだぞ俺!それなのに何でアイツ等だけチート能力持ってんだよ!!」
坂上が言いたい事は、何となくだけどわかる。
私達だってサボってたわけじゃない。
むしろ、強くなるために、かなり頑張ったんじゃないかと自負もしている。
まぁその強さが認められたからこそ、今の『ギルドマスター』って地位に就いているのかもしれないが、そういうレベルの話ではない。
愛花もルーナ・ルイスも、強さが桁違いすぎる。
生まれてから今までで、もうちょっとだけプラスで努力していれば追いついていた、とかそういう次元ではない。
私達は「1日24時間」という括りで努力しているのに、アイツ等は「1日200時間くらいレベル上げしてればこうなれるけど?」とか言ってくるような感じなのだ。
簡単に言うと、チートしてないと手に入らないような強さを持っているのだ。
「……僕の考えだけど、チート能力を持った人物は3人いる。いや……『いる』じゃなくて『いた』って表現の方がいいかな?」
坂上の愚痴を受けて、土屋君はマジメな口調で話し出す。
「飯島さん……というか『勇者レイナ・ベレージナ』『銀髪の堕天使ルーナ・ルイス』それと『魔王ルカ』この3人だと思う。そして……3人とも転生者だと思う」
魔王は愛花に倒されてるから「3人いた」ね。
私も、魔王は転生者だったんじゃないか?とは思ってたけど、土屋君も同じ考えだったか。
「魔王も、どうしようもない程強かったって聞いてるし、それに……あの当時は『転生者が他にいる』って考えてなかったから気にならなかったんだけど……」
確かにね。私も愛花に聞くまで、あの時のクラスメイト達全員が転生してきてるなんて知らなかったし。
「魔王の名前……『ルカ』って、あの当時のクラスメイトにいたよね?……たしか、西野さん?だっけ?下の名前って『琉花』じゃなかったっけ?」
あ~……言われてみればいた気がする。あまり接点なかったから忘れてたよ。
「いたけどよ……アイツって結構、暗い感じじゃなかったか?前世の名前アピールしながら『魔王』なんてやるような奴じゃなかったろ?」
「裏で魔王を操ってた、って言われてたルーナ・ルイスも転生者なんだ。彼女に担がれてたっていうなら、あながち間違いじゃないんじゃないかな?」
それはあるかもな。あまり主体性があるような子じゃなかったから、言われるがままに魔王やってた可能性ってのは否定できない。
その結果が愛花に殺される、か……ルーナ・ルイスは生きてるのに、スケープゴートで殺されるのも自業自得なのかもしれないけど、ちょっと可哀想な人生だな。
「西野ってたしか、奥澤の派閥でパシリみたいな扱いされてたよね?……まさかルーナ・ルイスの正体って奥澤?」
「すまん倉田。『されてたよね?』とか言われても、男からすると、女子の派閥とかまったく興味なかったから知らん」
まぁ男からするとそんなもんか。
「僕も派閥の事はよくわからないけど、奥澤さんは西野さんの事パシリみたいな扱いしてたけど、西野さんの方は、言われた事半分くらいは無視してたよね?その事で奥澤さんが、よく西野さんの悪口言ってるの聞いた事あるから」
あ~そんな感じだったかも。奥澤のヤツ癇癪持ちだな~とか思ってた記憶があるわ。
「そんな西野さんにも1人いたよね?仲良くしてて、その人の言う事ならちゃんと聞いてたって人」
「……沙川マヤ!!?」
そうだ!当時は「2大根暗女」とか奥澤達から言われてたから覚えてる。
奥澤が2人の事嫌いなだけだろ?勝手にやってろよ……とか思ってたわ。
……ちょっと待てよ?
この前の同窓会の時、愛花のヤツ勝手に沙川の名前を使って招待状出してたよね?それで「勝手に名前使えば怒って乗り込んでくると思ったのに」みたいな事言ってガッカリしてなかったっけ?
で、ルーナ・ルイスについては、この前「絶対に探し出してやる!」みたいに言ってたよね?
そして愛花は、私達の前世の名前までわかる能力を持ってる……
って事は……ルーナ・ルイスの正体は沙川マヤ!!
「そうなのか?」
ってお前はどんだけ女子の派閥に興味無いんだよ坂上!?
人が頭んなかで、良い感じの結論に達したのに台無しだよ!
「100%の確信は無いけど、僕はそうなんじゃないかと思ってる」
いや、もうコレほぼ100%正解だろ。
愛花のつぶやきを聞いてないから確信が持てないだけでしょ?
むしろ私と違って、愛花のつぶやきを聞いてないのに、よくその結論に達したね土屋君。
「それでさっきのチート能力云々なんだけど、僕は後天的に身に着けたモノだと思う」
唐突に話戻ったな……どういう事だ?
「最初は、ランダムで選ばれた数人だけがチート能力持ってたのかな?とか思ったけど、僕達は赤ん坊の頃から転生したわけだ……先天的にチート能力を持っていて『魔王として世界征服したい』とか思っていたのなら、それこそ歩けるようになった時点で行動していてもおかしくない」
「いやいや。魔王がガキだと威厳ってもんが出ねぇから、ある程度まで待ってた可能性もあるんじゃねぇか?」
う~ん……どちらも可能性の問題だからなんとも言えないな。
「じゃあケンゴは、チート能力を持ってたとして、15年くらい一切使わずに普通に生活する?」
「しねぇな。『俺強ぇ!』したくて、見せびらかすように使うな」
あっさり論破されたな坂上。
「おそらくだけど、チート能力を手に入れるための、何かしらの条件があるんだと思う。これに最初に気付いたのがルーナ・ルイス……沙川さんなんだと思う。彼女が頭角を現したのが10歳くらいの時だ。それに続くように、その5年後くらいに『魔王』と『勇者』が現れる……どっちもルーナ・ルイスと接点があったと考えると、2人供ルーナ・ルイスからチート能力発現について何かを聞いた可能性がある」
「つまり……条件さえ満たせば、今からだったとしても、俺達でもチート能力を……」
「可能性はあると思う。それがどんな条件なのかはわからないし、条件を満たすために数年かかる可能性だってある」
今から数年か……生きてられるかな?
愛花やルーナ・ルイスの外見が若いのは、チート能力で若返ったのか?それとも、それ以上の老化を防いでいるのか?……前者ならともかく後者だったら、せっかくチート能力手に入れてもヨボヨボじゃちょっと嫌だな。
「可能性で言うならもう1つ……チート能力を手に入れたのはルーナ・ルイスだけで、ルーナ・ルイスが他の人にチート能力を分け与えている説、ってのも考えられる」
可能性だけで話をしてれば、そりゃいくつも説は出て来ちゃうわね。
「あ~~!もうグダグダ考えるの面倒臭ぇ!!もうルーナ・ルイスとっ捕まえて直接聞く方が手っ取り早いじゃねぇか!」
短絡思考だな坂上……
「うん。だから僕等の次の目的はルーナ・ルイスだ。飯島さんが暴走した時の戦力を僕等自身が手に入れるためには、まずはルーナ・ルイスと接触するしかないんだ……生きるか死ぬかちょっとした賭けになるけど、相手が沙川さんだったら、元クラスメイトとして接すれば可能性はなくはないと思うんだ」
コッチも短絡思考だったか。
ここでも可能性か……生死がかかったソレを試すのは私的にはちょっと遠慮しておきたいんだけどな……




