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第13話 事情聴取

 ギルド支部というのは、基本的なつくりはどこも一緒だ。

 そりゃあ、基本的な仕事内容はどこのギルドでも一緒で、掲示板に貼り出された依頼一覧から、受諾したい仕事を選んで受付で手続きをし、依頼達成したら再び受付に行って報酬を受け取る、という単純作業の場だ。

 それをいちいち、その土地その土地で建物の作りを変えていたら、デザイン料が無駄にかかってしまうだろう。

 ……この世界に建屋のデザイン料という概念があるのかどうかは、一軒家に住んだことのない私は知らんけど。


 ともかく、建屋内の広さの大小は若干あるだろうが、どこのギルドも同じような感じになっている。


「それで?情報提供者のオッサン、ってのはどこよ?」


 坂上がギルマスをやっているギルドにやってきた私達は、さっそく併設されている酒場の一席に腰を下ろす。


「毎日これくらいの時間になったら酒飲みに来てるから、待ってりゃもうそろそろ来るだろ」


 周りを見渡してみると、まだ夕方前だからだろうか、あまり人はいない。

 そのあたりは田舎ギルドだからなのだろうか?王都にある私のギルドだと、この時間でも暇人共がそこそこの人数酒を飲んでいたりする。

 ……アイツ等、他にやる事ないんかい?


「じゃあ待ってる間に、ちょっとだけ愚痴言ってもいいかな?道中聞いた話だと、僕って来る必要なかったよね?」


 ただ「緊急事態だ!」と言って連れて来られ、ここに向かっている最中に事情を聴かされた土屋君が不機嫌な声を出す。


「対象がブリッドだったら、僕がいなくても2人で十分だよね?で、ルーナ・ルイスだったら、僕がいたところでどうにもならないよね?ただ戦わない、って選択肢をとるだけだよね?何で僕連れて来られたの?」


 ごもっともだ。

 最近は3人で行動する事が多かったせいで、ついついノリで誘ってしまったとは言いにくい。


「まぁそう言うなよ土屋。旅は道連れ世は情けって言うだろ?うっかりルーナ・ルイスと鉢合ったりした場合、死ぬ時は一緒に死のうぜ」


「死ぬ気なんて無いくせによく言うよ……ピンチになったら、僕と倉田さんを囮にしてでも逃げるだろ?ケンゴ」


 魂胆バレバレだぞ坂上。


「おいおい……いくら俺でも、友達は見捨てねぇっての」


 本当かソレ?

 その言葉、いまいち信用できないな……


「っと!そんな事言ってる間に、さっそくオッサンきたぞ!」


 誤魔化すかのように坂上は立ち上がる。

 それに合わせるように、どんな人物なのかを確認するために、私は視線を入り口付近に向ける。


「…………『オッサン』?」


 そこにいるのは、見た目的には私達と同年代……下手したら少し年下かもしれない男性が立っていた。

 坂上のヤツ、自分が50手前だって自覚してんのか?どう見てもオマエの方がオッサンだろうが。


「ん?オッサンだろ?だってアイツ、あの見た目で30代なんだぜ。だから皆から『オッサン』てあだ名付けられてんだよ」


 オッサンってあだ名かよ!?言われないとわからないっての!?身内ネタはわからない人間からしたら不快なだけだってわかってんのかコイツ?


「おいオッサン!ちょっとコッチ来い!お前、この前『手配書にある銀髪の人物を見た』って言ってたよな?詳しく聞かせてくれねぇ?」


 坂上に呼ばれて、通称オッサンは、渋々とコチラにやってくる。


「ん~……詳しくって言ってもなぁ……この町を出て、すぐ西側に山があるだろ?そこに山菜取りに行った時に偶然会ったってくらいだしなぁ」


 『会った』?『見た』じゃなくて?

 ブリッドもルーナ・ルイスも、どっちも凶悪犯罪者だぞ?会ったって事は、相手からも認識されたって事なんじゃないの?

 よく生きてたなオッサン……


「山菜取りなんてどうでもいいっての!お前の状況じゃなくて、その発見した相手の事を詳しく教えろって事だよ」


「だから何回も言ってるだろぉ……手配書の銀髪の人物だって……」


「だからそうじゃなくて!」


 苛立つ坂上と、おっとりした口調でマイペースに喋るオッサン。仲良いのか悪いのかわからない関係性だな。


 ともかく、坂上は苛立っているようだけど、ある意味もう答えは出てるんだよなぁ……

 もしかして、って可能性があったから警戒はしてたけど、相手はブリッドなのだろう。


 だってルーナ・ルイスの手配書は。30年以上更新されていない。

 オッサンが『手配書の人物を見た』というなら、それはブリッドなのだろう。

 さすがに30年以上、あの容姿のまま変化が無いというのは……


「おいオッサン!せめて、ソイツが男だったか女だったかくらいわかんだろ!?」

「だから何回も言ってるだろぉ……『手配書の銀髪の人物』2人とも見たんだよぉ!」


 は?

 今、何て言った?


「2人とも?それは、どういう状況だったの?オッサンさん」


 私と同じように驚いたのだろう。土屋君が話に割って入る。


「ん~……男の方が女の方に喧嘩を吹っ掛けてた感じかなぁ?『貴様みたいな凶悪犯は生きていてはいけない!』みたいな事を、男の方が叫んでた感じだったかなぁ?」


 ブリッドというのは、正義感に溢れすぎているような人物だ……それはもう狂ったようなレベルで。

 『依頼者というのは困った末にギルドへ依頼してくる。それを助ける事こそがギルドの本懐だ』と信じて疑わないような人物。

 その結果の思考が『ギルド員は死んでも依頼を達成するべきだ!困っている人達を助けられないようなヤツは生きてる価値がない』というもので、依頼失敗したギルド員を大量殺戮して指名手配されたようなヤツなのだ。


 そんなブリッドが、数十年逃げ延びている犯罪者ルーナ・ルイスと偶然遭遇したのなら……そう考えると、オッサンの言っている事に偽りはないのかもしれない。

 でも、凶悪犯が凶悪犯に「凶悪犯は生きていてはいけない!」って……凄いブーメラン刺さってるような気がするな……


「いやぁ~……片方は、歴戦の戦士って風貌の男と、もう片方は貴族のお嬢様って感じの若い女だったから、こりゃあえらいこっちゃって思ったよ」


「ちょっと待って!『若い女』?」


 聞きづてならない単語が聞こえたので、思わず話を止めて質問してしまう。


「ああ、手配書通りのべっぴんさんだったよ」


「おいおいオッサン!こりゃあ30年以上更新されてない手配書だぞ。手配書通りなわけねぇだろ?どこの世界に30年以上経っても見た目が変わらないようなヤツが…………ぁ」


 坂上のやつも言ってて気が付いたのだろう。

 『どこの世界に30年以上経っても見た目が変わらないようなヤツがいるのか?』答えは『この世界』だ。

 私は、少なくとも1人、出会ってから数十年、一切老いる事無く見た目が変わらない実例を知っている。


「ルーナ・ルイスも飯島さんと同類って事か……なるほど、飯島さんが唯一勝てない、って言うのにはその辺の事も関係してるのかな?」


 ブツブツ言いながら一人思考タイムに突入する土屋君。


 いやいやダメだよ土屋君。『愛花と同類』っていう時点で『考えるだけ無駄』な案件なんだから、私達が取るべき行動は、聞かなかった事にしてこの場を去る。って選択肢しかないんだよ。


 早くその思考に行き着いて、土屋君。


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