第11話 第二の魔王対策
注文していた酒が目の前に置かれる。
特に感傷に浸る事もなく、一気にグラスの半分を飲み干す。
一週間に一度の贅沢日。
どんな事が起ころうとも、この日課だけは続いている。
「よぉ生きてたか、倉田」
「あ、ケンゴの言った通り、本当に倉田さんいた……」
仕事の大変さとか、日々の苦労とか、そういうモノ全てを忘れて、一人でゆったりと酒を飲もうとしているのに、転生組ギルドマスター2人組がわざわざやってくる。
「倉田。お前はどうやって『勇者討伐依頼』をすり抜けたんだ?……あ、お姉ちゃん!俺とコイツにビールな」
騒がしく注文をしながら、ちゃっかりと私の隣の席へと座ってくる。
「すり抜けたも何も、依頼を受けるって言う若手連中が出て来ちゃっただけで、私は何もしてないわよ……いや、命を大切にしろって説教くらいはしたかな?」
「って事は僕のとこと同じだね。まぁ僕の場合は、本人達の意思を尊重して、引き止めるような事はしてないけどね」
私の返答に土屋君が反応する。
意外と淡泊だな土屋君……まぁ本人達がやりたいって言ってる事を無理に説教してまで辞めさせても仕方ないのかもしれないな。
「お前等2人とも生に執着ってものがねぇのかよ?依頼受けるヤツが誰もいなかったらどうしてたんだよ?」
「その時はその時で何とかするつもりだったさ……倉田さんも何かしら考えてたでしょ?」
いや……私、別に何も考えてないよ。
依頼を私が受けるハメになったら、その時はその時で「まぁしゃあないな」くらいにしか考えてませんでしたよ?
まぁとりあえず、何も考えてないバカ女だと思われるのは癪なので、「まあね!」くらいな感じの意味深な笑みだけは浮かべておく事にする。
「ったく、俺はまだ死にたくなかったから、依頼料を自腹でかさ増ししたってのに……結局アイツ等逃げ帰ってきやがったんで金払い損ってやつだよ。それが許されるんだったら、俺が行って、とっとと逃げて来たっての!」
今回のコレに関しては逃げるのが正しい選択だったんだろうな。
本来だったら、国からの依頼で『逃げ帰って来た』なんていったら、そいつらは二度とギルド員として仕事ができない事になっていただろう。
ギルドにも世間体に対しての信用ってものは必要だ。
ただ今回に関しては、国の精鋭部隊ですら瓦解した事が知れ渡っている。
逃亡者としては印象は若干悪いかもしれないが、言い換えれば「地獄の戦場からの生き残り」と言えなくもないので、まぁギリセーフってところだ。
「ケンゴからしたら不満かもしれないけど、若者が生き残るのは良い事だよ。僕のところは戦死報告が届いたよ……」
若干悲しそうな表情をしながら土屋君は私へと視線を向けてくる。
私も報告しろって事かな?
「ウチは行方不明だよ。生き残ったけどバツが悪くて帰るに帰れなくなっているのか……死体の損傷が激しすぎて、誰なのか認知されないまま逝ったか……個人的には前者であってほしいものだけどね」
私の報告を聞いて、空気が若干重くなる。
いや、私の報告だけじゃなくて、土屋君の報告も重なっての、この空気の重さかな?
「にしてもだ!飯島ヤバすぎだろ!倉田から話を聞いた時は半信半疑だったけど、一人で国の戦力を退けるって尋常じゃねぇだろ!」
重い空気を何とかしようと思ってなのか、坂上は強引に話題を変えようと、大き目な声を出す。
馬鹿だけど、一応空気は読めるんだな。
「今回の件で、国と完全に対立したような感じにはなったからね……いよいよ『勇者』が『第二の魔王』になるかもね」
前の世界での漫画の中とかでありそうな展開だな。
だから土屋君少しウキウキした感じで喋ってるのか?こういう展開好きなのかな?
でも、漫画の中だけならいいかもしれないけど、それを実際に体験する側としてはたまったもんじゃないんだけどね。
「飯島が『魔王』になったら、今度こそ世界ヤバイだろ。もう止められる『勇者』はいねぇぞ……いや、『勇者』って限定しなくても、誰も止められるヤツいねぇだろ」
「そうなったら飯島さんの慈悲に期待するしかないね。まぁ飯島さんも『この世界で自分が一番強い』って自覚はあるだろうから、力を誇示しないでいてくれるかもしれないしね。それを祈るしかないね」
2人の会話を聞いていて、ふと愛花との会話を思い出す……
「愛花が言うには、一人いるらしい……愛花が勝てない相手」
「は!?」
「え!?嘘でしょ?」
一瞬にして、私のつぶやきに反応する2人。
「『銀髪の堕天使』って覚えてる?」
「ルーナ・ルイスでしょ?死んだんじゃないの?」
まぁそういう反応になるよね。私もそうだったし。
「生きてるらしいよ。あくまでも愛花が言うには、だけど」
私も半信半疑なので、「私じゃないよ、愛花が言ってるんだよ」という一文はしっかりと加えておく。
「……いや、可能性はあるな。死んだって噂だけは出回っても、手配書が一切撤去されてねぇ……つまりは誰も、役人に突き出すか、死体を持って行ってねぇって事だ」
……言われてみれば坂上の言う通りだ。
ルーナ・ルイスの手配書なんて、私がギルドに所属した時からずっとそこに貼り出されていたから、完全にオブジェ感覚になってたよ。
「つまりは、飯島が暴走した時は、ルーナ・ルイス探し出して、土下座でも何でもしてお願いすれば、飯島の暴走は止められるって事だよな!」
なるほど……愛花と話した感じだと『第二の魔王』になる、なんて感じはまったく無さそうではあったけど、可能性は0じゃない。
仮に愛花が暴走した時のストッパーとして、ルーナ・ルイスとコンタクトを取っておくってのも手なのかもしれない。
「落ち着こうよケンゴ。ルーナ・ルイスが『超極悪犯罪者』だって事忘れてない?僕からしてみたら、どっちも『第二の魔王』だよ」
ごもっとも。
手配書が出回ってる時点で、まともな性格なんてしてないよね。
その場のテンションで、うっかり坂上に同意しなくてよかったぁ~……




