雪山を埋め尽くしている墓標
地球温暖化が引き金になって氷河期が到来した。
人間の行いより自然の摂理の方が強かったってところだろうか。
氷河期到来で人の生息地域はどんどん狭くなって行く。
各国政府は国民に食わせる食糧の確保に難儀する。
人が暮らせる地域さえ狭まってる状況で、食料を生産できる場所の確保は困難な状況になっていた。
全ての国民に食料を配給することは不可能。
国を維持するのに必要不可欠な人たちに優先して食料を配布、そこから外れた者たちには自給自足で生きて行くよう促した。
と言われても、今迄農業などに従事した事の無い者たちが急に家族全員分の食料生産しようとしても無理。
各国政府に見捨てられた殆どの人は自死を選択する。
政府も自死を試みる人たちの為にそれを幇助する人を罰する事が無くなり、逆に推奨するようになった。
だが自死を選んでも地面は硬く凍りつき埋める事が出来無いし、遺体を焼却しようにもその燃料を確保する事が不可能な状態。
だから亡くなった人の遺体は氷で作られた棺桶に入れられ数百年から数千年後、もしかしたら数万年後の氷河期が解消した時に自然に返す方法が取られる。
そんな中どうせ数千年数万年の間氷漬けになるのならと、自分自身の遺体を墓標とするやり方が全世界で流行り始めた。
雪山の頂上でガッツポーズで氷漬けの墓標になっている登山家のように、スポーツ選手はそれぞれ自分が活躍した時の格好で氷漬けの墓標となり、車や自転車などの愛好家はその愛車と共に氷漬けの墓標になる。
また、恋人と2人抱き合って氷漬けの墓標になるカップルや、記念写真を撮るように同じポーズで家族や友人たちと氷漬けの墓標になった者たちもいた。
それが俺の高祖父のそのまた高祖父のそのまた高祖父が生きていた頃、今から約4〜500年ほど前に流行った事らしい。
今じゃ地球全体が氷に閉ざされ、政府なんてものは何処かの地の底に存在しているのかも知れないが、部落がある此処ら周辺では見たことが無い。
それで俺たち俺や部落の者たちが今何をやっているのかって言うと、雪山を埋め尽くすように立っている墓標の幾つかを切り倒しているところ。
人の墓標じゃ無くて、氷漬けになった肉が雪山を埋め尽くしているんだぞ。
どうせ数千年後か数万年後か知らないが、氷河期が終わったら腐っちまうんだ。
それなら今氷河期を生きている俺たちの食料として有効利用しても、罰は当たらないと思うんだよ。