第1話
「お父様、お母様、突然ですが私、騎士を目指します!」
「・・・・・・」
私は、ユリア・イヴァノフ。イヴァノフ子爵家の娘だ。
まさか貴族の令嬢が騎士になるなんて想像もしなかったわよね。
それも、自分の娘だなんて余計に考えもしないわよね。
予想通りの反応ではあるけど、さすがの黙られるのはやっぱりきつい・・・・・・・。
「ユリア・・・・・。いきなり騎士になるなど言って、冗談ならもっとまともなことを言いなさい」
「お父様、これは冗談ではありません。本気です!」
「だが、あんな危険な場所に娘を行かせるわけには・・・・・・」
「私なら大丈夫です。領地の森に出る魔物を討伐して、ずいぶん強くなりましたから。そう簡単には死にません」
「よく屋敷を抜け出していると思ったらそんなことを・・・・・・」
黙って抜け出していたから大丈夫だと思っていたけど、まさかバレていたなんてね。
でも、言ったら絶対止められてただろうからなぁ。
こんなこと考えてる場合じゃなかった。
なんとか騎士にしてもらえるように頼まないとなんだけど、どうしよう・・・・・・。
「ユリア、お父様は何かあったら前戦で闘うようなところにあなたを行かせることもだけど、男性ばかりのところにあなたを行かせることも心配してるのよ」
男性ばかりだと言っても、女性でも騎士にはなれるのに。
でも、確かにお父様の心配もわからなくはない・・・・・・。
お兄様意外とほとんど話したことがないから少し苦手なのよね。
それに、女性でもなれるとは言ってもほとんど、というか全くと言っていいほどいないようだし。
「わかりました」
「わかってくれたか。すまないなユリア。なるべくお前の願いは叶えてやりたかったんだが・・・・・・」
「私、男装して騎士になります!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「我ながらいい考えだと思います! 周囲には男だと認識してもらえるので、お父様の心配もなくなりますね。戦いの方は安心してください! 剣と魔法は得意ですから!」
うん。すっごくいいアイディアだ。これならお父様も納得してくださるはず!
「ユリア・・・・・・。確かにバレなければいいが・・・・・・」
「でしょ? これで問題は解決したので騎士なることを許してください」
「いや・・・・・・。そういう問題ではないのだが」
「ユリア、騎士になるの?」
「お兄様!」
クリス・イヴァノフは子爵家の時期当主で、私の兄。
今は、お父様の仕事を手伝っている。
お兄様、見た目がいいし優しいからすっごくモテるのよね。
本人は全然気がついていないようだけれど。
「騎士団に入っても女の子の友達とかはできないと思うけどいいの?」
「私は、友達を作るために騎士になるわけではないので大丈夫です」
お兄様はたまに謎な心配をすることがあるのよね。
確かに、友達は欲しいとは思うけど。
貴族のお友達だと、一緒にお茶を飲んだりお話ししたりするんだろうなぁ。
「でも、男装していくにしても色々設定とか必要だよね? そこはどうするの?」
「あ・・・・・・」
どうしようどうしようどうしよう。
設定とか何にも考えてなかったよ・・・・・・。
「やっぱり。ユリアのことだから考えてないと思ったよ」
こんなんじゃ騎士になんてしてもらえないよ・・・・・・。
「クリューガー男爵のところの養子ってことにしたら?」
確かに、クリューガ男爵は親戚だしいいかも。
だいぶ遠いらしいけど・・・・・・。
「少年は幼い頃に両親を亡くしていて、孤児院に引き取られた。その孤児院はクリューガー家の近くで、子供が好きな婦人がよく訪れていた。そこで、婦人は少年が魔法の練習をしているところを発見し、その少年に興味を持った。そして男爵と相談しその少年を引き取ることに決めた」
「こんな感じの設定でどう? ちなみに、少年の名前はユーリ・クリューガー」
だいぶ細かい設定になったわね。
それに名前まで決めてくれるなんて。
細かい方がバレにくくていいのかも知れないけど、覚えられるかしら?
「覚えられるか心配してると思うけど、大丈夫だよ。 ありきたりな設定にしておいたからすぐに覚えられるよ」
孤児院に行くことがありきたりなのはどうかと思うわ・・・・・。
「クリス、勝手に話を進めるんじゃない」
お父様はまだ許してくれそうにないな。
もう、どうしたらいいんだろう。
「騎士になるには試験があります。まずはそれを受けないことには騎士にはなれません。なので、受けるだけ受けてみれはいいと僕は思いますよ」
「それで受かったらどうするんだ」
「ユリアは本気のようですしやってみればいいと思います」
「・・・・・・」
お父様が考えてる!
このまま押せばいけるかも!
「私は、本気で騎士になりたいです。なのでなれるまで諦めるつもりはありません。たくさん鍛錬をして立派な騎士になって見せます。なので、私が騎士になることを許してください」
「あまり無理はするな」
「では・・・・・・!」
「騎士になることを許してやる」
「ありがとうございます! お父様!」
許してくれた!
最初はあんなに渋っていたのに。
お父様が意外と優しい人でよかった。
後でお兄様にお礼を言わないと。
お兄様がいなかったらきっと、私一人ではお父様を説得することはできなかったわ。
「ユリア、辛くなったらいつでもお母様のところに帰ってくるのよ」
「お母様も、ありがとうございます」
「よかったね。ユリア」
「お兄様のおかげです。本当にありがとうございます」
「ユリアの力になれたならよかった」
お兄様は本当に優しいわね。
「それでは、私は部屋に戻って準備をしようと思います!」
「うん。わかった。男爵への説明とかは僕に任せて。お父様も協力してくれると思うから」
「何から何まで本当にありがとうございます!」
私は、一度部屋に戻ってハサミを準備した。
「男装と言ったら、まずはこの長い髪を切らないとね。
大体の長さを決めて切って、ととのえて・・・・・・」
「うん。完成!」
いい感じにできたかな?
あとでおのおさまに見てもらおっかな。
なんだか、髪を切っただけで気合いが入ってきた!
これからは、ユーリ・クリューガーとして生きるんだ。
「よし! 頑張るぞー!」