見張り
「さて、これからだな」
エティムが立ち止まって遠くから神殿を見つめる。神殿の入り口にはガタイの良い、鎧を身に着けた屈強そうな男が二人、槍を持って立っているのが見える。エティムは自身の腰に掛かっている革袋から少し黄ばんだ紙を取り出した。それはみきの知っている紙と比べて少し分厚い。そこにはインクでなにごとか書かれていて、大きな印が押されているのが分かった。
「彼女はどうするんだ」エティムが紙の内容を一度確認している中、ジュトがエティムに問いかける。
「僕たちが入ることができても彼女は絶対に怪しまれるぞ」
「うん、確かに。服の替えなんてないからな……」問われたエティムが苦笑して頷く。
「まあでも仕方ない……。少し強引ではあるが。みき、合わせてくれるか」
紙を革袋に戻しながら若干眉を寄せているエティムに言われて、みきはよくわかっていなかったが、ひとまずはうん、と頭を縦に振った。
よし、エティムは微笑み、三人は神殿の入口へと進んでいく。
*
エティムが先頭になって進み、そのすぐ後ろにジュト、そしてみきと続く。二人の男は三人の姿を見せると表情を強張らせて姿勢を正した。正した際にその手に持つ槍が地面に少し擦れる音がする。エティムが男たちの前へ進むと、さきほど確認していたあの紙を取り出して二人の前へ見せた。
「お待ちしておりました」
二人の男は紙の書面の内容を確認するとすぐさま深々と頭を下げた。それを見たエティムが腕をあげて男たちを制す。その姿はみきとジュトが話しているときよりも威厳があり、その表情は少し硬い。
「お忍びできたんだ。楽にしてほしい。…守護者さまはどちらに?」
「宝珠の間にて皆様をお待ちしております」
「わかった」
話をしていると、もう一人の男がエティムたちの後ろに控えているみきを見つけた。少し怪しまれている気がする。みきは少し緊張して礼儀よく姿勢を正していた。
「公主様、そちらの方は……」男が言う。
「見慣れない者のようですが」
「ああ、気にしなくていい」それにそっけなくエティムが返す。
「すまないな、事前に知らせておけばよかったんだが。俺の付き人なんだ」
「付き人、ですか」
「実は俺が総領主さまに無理を言ってな。見ての通り彼女は異郷の者だったんだが付き人に召し上げていただいた。……だが彼女に合う服がなくてな。とりあえずこの格好のまま来てもらったというわけだ。……なあ?」
エティムがみきに振り返る。さきほどとは違って少し冷めた目。それにみきははい、と緊張気味に答えて深々と礼をする。ほう、と男の一人が興味深そうにみきを眺めた。
「異郷の者とは珍しい」
「だろう?」エティムが僅かに口角をあげる。
「しかし、異郷の人間を召し上げるとは、大丈夫なのでしょうか」もう一人の男が怪しげにみきを見つめた。
「安全とは言いきれないのでは……」
そこでジュトが口をはさむ。
「公主さまの希望あってのことだ。総領主さまが自ら調査されすでに身元の確認はできている。……ところで」
睨みを利かせた目で男を見上げる。
「お前は公主さまの付き人に関してとやかく言うことができる立場か」
「とんでもございません。ご無礼をいたしました」男は慌てて頭を下げた。
「かまわない、気になるのも無理はないだろう」
エティムは硬い表情を少しだけ緩ませて、それから、もう行ってもいいだろうか、と二人に呼びかけた。
「はい、お時間をおかけしまして申し訳ございません」
「どうぞお入りください」
男たちが横にそれる。深々と頭を下げた彼らを横目にエティムとジュトは慣れた風で堂々と段を上がっていった。そしてそのあとに続くようにみきも段差を上がる。チラリと横を盗み見れば男たちはいまだに頭を下げていた。
先に段差を上がる二人の頭を見ながらみきはひょっとして、と訝しんだ。
――この二人、結構偉い人なんじゃ…?
次話11/28 10時投稿予定