魔術の靴
10日かけて来たのは王都。
王様が住む都。
連れてこられたのはシロじゃなくて城なの!
私、もしかして死んで夢見てるのかも…。
「いくぞっ!!」
「え?ちょっと…」
アイザックに手をぐいぐい引っ張られて、城の中へ入って行く。
ここにつくまで『王太子』の偽物と思ってたのよね。
「ドロシー様、こちらにお着替え下さい。」
髭眼鏡が私に綺麗なワンピースを渡してきた。
「何故?」
嫌な予感がするわ…。
「それを着て、今から陛下に謁見でございます。」
「っちょっと待ってよ!本気で言ってるの?私をここまで連れてきた目的、本当は結婚なんかじゃないんでしょ!?」
「詳しい話は陛下から致します。」
『致します』…じゃなくて、私はただの靴屋なのよ!王様になんて会ったら息が止まるかもしれない!
まぁ、権力には逆らえないのよね…。
「君がドロシーかな?」
「…そうでございます。何故に私はここへ連れてこられたのでしょうか…。」
「うちの愚息の魔術を解いて貰いたい。」
…魔術?
「馬鹿な話だと信じられないかもしれんが、本当はアイザックは20才なんだ。」
「……えと、どう見ても7,8才くらいに見えるのですが。」
「ああ、王家に伝わる魔術の7つ道具の1つを持ち出した。子供にもどる靴を履いてしまった。どうにかして元に戻したいのだが…」
「あの…誠に申し上げにくいのですが、仰ってる事の意味が…よくわかりません。その魔術をとくと言っても…私は魔術師ではありませんし…。」
「そうだ、この国にそんな物を使える者など1人もいない。」
だったら何故、私にそれをとけというの?この王様は…。
「その魔術を解くのと私は何の関係があるのですか?」
どう考えてもないよね。ない…っていうか、今日まで王子の名前すら知らなかったんだから。
「何故かアイザックは君を好いているらしい。」
「好いている…っと申されましても、会った事もないのに何をどうやって私は好かれたのでしょうか?」
「毎日、君の夢を見てるらしい。それが、何か手掛かりになるのでは…と思ってな。」
「夢…ですか?」
そういえば一緒に寝てた時、『今日からずっと本物のドロシーと一緒だ』…とか何とか…。
アイザック坊っちゃん、何を思ってそんな靴を履いたの…。
20才の姿絵を見せて貰ったけど…あまり興味ない。それに、はっきり言って好みじゃない。
私は王子が7才になったとしても痛くも痒くもないのよね。影でも何でもいるでしょ。
人前に立つのをその人にして、大人になったら交代すればいいのよ。いつまでも若くて綺麗な王子か王太子か国王、その時は何になってるか知らないけれど、女性は喜ぶだろうしね。
「君の事は一通り調べさせてもらった。」
「……何をですか?」
まずい…
「君には借金があるね。」
「…だから何ですか?」
そう、私には莫大な借金がある。父親が賭博でガッツリ負けたから。なんと保証人は子供の私にされていたのよ!
私は売られそうになったのを逃げて逃げて逃げまくって、簡単にいうと借金ふみたおしてるのである。いわゆる犯罪…。
「それを代わりに払おう。もうコソコソする事もなく生きていける。それに、結婚もアイザックの我が儘。正式な物ではない。」
「やります!」
正式じゃないって事は、終わりはあるって事だよね。借金なくなるんだしやるわ!
「魔法を解くまでは必ず一緒にいてやってくれ。」
『必ず』って、
最後の最後に、それ言うの酷くない?
「はい…。」
としか答えようないよね…。
「失礼致します。」
部屋から出ると、ポフっとアイザックが抱きついてきた。
「父上に会ったのだから、オレたちけっこんだな!」
「アイザック坊っちゃんはまだ7才なので、結婚はできません。」
「む、坊っちゃんとはなんだ。夫にむかって。」
「…では、何とお呼びすれば?」
「『アイク』だ」
「では、アイク、この国では18才にならないと結婚できません。」
「ダメだ!すぐにけっこんする!」
まわりもニコニコしてないで、誰かアイク坊っちゃんの愚行を止めてよ!
「国の決まり事は、王子様でも変えられません。アイクが結婚できるのは11年後です。」
「ふむ、じゃあそれまでは『どうせい』だな。」
「アイク、その時私が何才かわかりますか?」
「ん?29才だ。」
「そう29才なんです。11才も違うんです。」
「だからなんだ!オレの海よりもふかい愛は死ぬまでずっと続くんだ!」
子供なのに…愛とか言っちゃうところは可愛い。
魔術を解けば帰れる訳だし、早く20才に戻ってもらおう。
「ここがオレたちの部屋だ!」
自慢げに見せられた部屋、私の家の敷地よりこの部屋の方が広いってどういう事なの。
「いちおうけっこんしてないから、別々のベッドだ。」
「はい。」
この9日間ずっと一緒に寝てたのに…今さら。
アイクって大人の記憶って残ってないの?行動からして確実に子供なのはわかるんだけど、20才の記憶もあるなら一緒の部屋は困るんだよね。