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〇〇からの脱出シリーズ

[〇〇からの脱出シリーズ、第2章]仮想からの脱出ゲーム。黄金の羽は誰の手に?

作者: 風見鳥

この作品は「仮想からの脱出ゲーム。メダル集めは信頼と駆け引き」の続編です。


タイトルの上にある〇〇からの脱出シリーズを押してもらえると、前作の作品があります。


☆さぁ、ゲームの続きをしよう!


 薄暗い部屋に何台も置かれたパソコン。そこにはショッピングモールの様子が映し出されていた。


 画面の前に1人の男が座っている。その男が手にしているタブレットには真紀たち4人の姿が写っていた。


「どうだった? 彼らのプレーは」


 男が手元の画面の様子を見ながら尋ねると……


「悪くないと思いますよ。誰1人として犠牲を出す事なくクリアーしたので」


 無機質な機械声の返事が帰ってきた。


「これは面白くなってきたね!」


「あの、まさかですが……」


「そのまさかだよ! 私もゲームに参加する。ここは任せたよ」


 男はそう言い残すと鼻歌混じりに部屋を出ていった。






キャラクター紹介


真紀(まき)  元気で明るい、赤髪ポニーテールの女の子


宗市(そういち)  強面だけど頼りになる男


彩人(あやと)  真面目で無邪気な小学生


(わたる)   知的でクールなゲームオタク







* * *


「面白い映画だったね! ねぇ、この後どうする?」


 くるりと振り返ってそう言ったのがしっかり者の彩人(あやと)ちゃん。ボーイッシュな見た目だけど実は女の子。


 今日はゲームをきっかけに知り合った皆んなと、ショッピングモールに遊びに来ていた。


「よし、ゲーセンでも行くか!」


 そう提案したのが宗市(そういち)。彩人のお兄さんで見た目は少し怖いけど頼りになる。


「でも今の僕たちには物足りないだろうね。前回のゲームがハードな内容だったからね」


 (わたる)が肩をすくめてそう答える。この中で一番頭がいいけど筋金入りのゲーマー。ゲームのことになると誰も止められない。


 そして私の名前は真紀(まき)。どこにでもいる普通の女子高生。


 さてと、紹介はこの辺でいいとして、前回、私たちは仮想の世界と現実の世界を行き来してメダル集めをしていた。無事に目標枚数に到達してクリアーしたはずなんだけど……


「よし、そうと決まったら行くか! 真紀、もう転ぶなよ」


「…………」


「お〜い、真紀、聞いてるか?」


「えっ? あっ、ごめん聞いてなかった。なんて言った?」


「だからもう転ぶなって話」


「ああ……うん、大丈夫だよ」


 他ごとを考えていたせいで、適当に返事をすると「どうしたの真紀くん浮かない顔して」っと弥が聞いてきた。


「ちょっとこれを見てほしいのだけど……」


 私は財布に入っていた可愛らしい鳥のデザインのコインを出して見せた。


「これは⁉︎」


 弥が驚いた表情でメダルを凝視する。


「おかしいよね? どうしてこれがあるのかな? ゲームのアイテムがここにあるってことは……」


 弥曰く、『メダルはゲームの中のアイテム。現実の世界には存在しない』と断言していた。じゃあ今、手元にあるってことは……


「まさかここはゲームの中?」


 彩人ちゃんも驚いた顔でコインを見つめる。


「なんだよそれ⁉︎ どう言うことだよ!」


 宗市が弥に詰め寄る。


「う〜ん……あれ? 最後、僕たちってポットから出たっけ?」


 弥が全員の顔を見わたす。そう言われるとポットから出た覚えがないようなぁ……


「なぁ、そもそも俺たち家に帰ったか?」


「えっ? 何言ってるのお兄ちゃん? 当然家に……あれ? 帰ってないかも?」


 宗市と彩人ちゃんが顔を見合わせて唸り声を上げる。


「ゲームの中のアイテムがある。ポットは開いてない。あれ? ここは現実? それとも……」


 私が疑問に思ったことを口にすると……


「ここは()()()()()です」


 それに答えるように突然スマホからゲームマスターの声がした。


「ビックリした! 脅かさないでよ」


 私の文句を無視してゲームマスターは話を続ける。


「皆様の言う通り、まだポットは開いていません。ここは仮想の世界です。これより第二ゲームを始めます」


 淡々とした声で話を進めていく。


「第二ゲーム? 何だよそれ⁉︎」


 宗市がスマホ画面に向かって文句を言うが……


「今から15分以内に3階フードコートに向かってください」


 ゲームマスターには聞こえていないようだ。


 スマホ画面を開くと『フードコートに行け!』と書かれたメッセージとタイムリミットが表示されていた。時間は刻一刻と過ぎていく。


「とにかく移動しよう!」


 スマホをしまい私たちは急いで3階のフードコートに向かった。今度は転ばないように気をつけながら……



* * *


 フードコートにはすでに多くの人が集まっていた。


「近くの席に座ってください」


 ゲームマスターに言われるまま、私たちは空いている席に着いた。


「それでは早速ルール説明を始めます」


 淡々とした声がスマホから鳴り響く。


「ちょっと待てよ! 俺たちゲームをクリアーしたんじゃなかったのか?」


「そうだよ! ちゃんとメダルを集めたよ!」


 開始早々、宗市と彩人が口をそろえて文句を述べる。それとは対照的に弥は……


「まぁまぁ2人とも。せっかくなんだから最後まで付き合おうじゃないか」


 相変わらず心底ゲームを楽しんでいる様子だ。


「ゲームを始める前に一つ確認だけど、僕の推理はあっていたの?」


 弥は腕を組むと、ゲームマスターに話しかけた。前回、弥は『仮想の世界でゲームをしている間に、ゲームそっくりの場所にポットごと移動したのでは?』と仮説を立てていた。


「はい。その仮説はあっています。皆様がポットに入っている間に現実のショッピングモールに直走していました。メダルはゲームの中のアイテム。それもあっています。皆様の予想通り最後ポットが開いていないことも正解です」


「なるほどね……」


 弥の推理は全てあっていたようだ。でもどこか納得のいかない顔をしている。どうやら勝利をお預けされた事が気に入らないみたい。


「この仮想世界から脱出方法はただ一つ。ゲームに勝つ事です。それでは早速ルール説明を始めます。今回のゲームは……」


 全員が固づを飲んでスマホを見つめる。前回はメダルを集めたけど今回は一体……?


「今回のゲームは羽拾いです」


「「「「羽拾い?」」」」


 私も含め、その場にいた全員が口をそろえて聞き返す。


「羽拾い? 何それ? 栗拾いみたい!」


 彩人ちゃんが笑いながらが茶化す。このゲームを作った制作者はネーミングセンスがないようだ。


「今から1時間後にこのデパート全体に羽が出現します。羽1枚につき100ポイント。皆様で協力して、対戦相手よりも多く集めて下さい。負けた場合は……」


 ゲームマスターが勿体ぶるように言葉を切る。何となく予測はつくけど……


「一生この仮想世界で過ごしてもらいます」


 やっぱりそうなるよね……


「ふざけるな!」


 流石にこれには激昂した様子の宗市。相変わらずゲームマスターには届いていないようだ。


「それでは最初に、皆様には元手として100枚メダルを配ります」


 ゲームマスターがそう言い終わると、1人の若い女性店員が袋を持って私たちの前にやってきた。頭の上に薄くCPUと書かれている。


 袋の中を覗いて見ると相変わらず鳥のデザインのメダルが入っていた。それにしても、このゲームを作った人物は相当な鳥好きなんだなぁ……


「なぁ、このメダルはどうやって使えばいいんだ?」


 宗市がスマホ画面を見つめて質問した。


「このメダルは仮想世界のお金です。ショッピングモール内にあるものはこのメダルを払う事で買えます」


「本当⁉︎ じゃあ行ってくるね!」


「まだ一つ大事な話があります」


 早速、彩人ちゃん買い出しに行こうとするが、ゲームマスターに止められる。


「何だい? 大事な事って?」


 弥が興味深そうに聞き返す。


「皆様の対戦相手を紹介します」


「あぁ、そうだったね。それで、僕たちの対戦相手は誰なんだい?」


「ここにいるCPU全員です」


「「「全員⁉︎」」」


「はい、そうです。少々お待ち下さい」


 ゲームマスターはそう言うと、スマホ越しにキーボードを叩く音が聞こえてきた。


「今ここにいるCPUたちに、落ちている羽は全て拾い集めるようにプログラムしました。皆様は彼らよりも多く羽を集めなければなりません」


「羽は全て拾い集めるか……」


 何か気になる事があったのか腕を組んで唸る弥。


「ちなみに何人のCPUがいるのですか?」


 フードコートの席はほとんど埋まっている。私が恐る恐る聞いてみると……


「100人です」


 淡々とした声で返事が返ってきた。想像以上の数に困惑する私たち。ただ1人を除いて……


「4人vs100人……面白いね! ゲーマーとしての腕が鳴る!」


 腕をまくり笑みを浮かべる弥。私にはこの絶望的な数の差にどうして笑えるのか分からない。


「ねぇ! 弥、負けたら一生この世界に閉じ込められるんだよ!」


「そうだよ! 100人相手にどうやって立ち向かうの?」


 私と彩人ちゃんが口を酸っぱくして言うが「大丈夫。何とかなる」っと弥は余裕の笑みを浮かべて答えた。


「それではゲーム開始までにまたここに戻ってきて下さい」


 ゲームマスターの話が終わると、スマホ画面にゲーム開始までのタイムリミットが表示された。


「とりあえずまだ時間があるから各自、このメダルを使ってゲームに必要な道具を揃えようか。30分後にまたここに集合しよう」


 その言葉を合図に私たちは各々フードコートを後にした。


 100体のCPUに挑むたった4人のプレイヤー。圧倒的な数の差にどう立ち向かうのか? 負けは許されない。もし負けたら一生この仮想世界に閉じ込められる。さぁ、ゲームを始めよう。





☆パンケーキと詐欺師の甘い誘惑


「さてと、どうしうようかな?」


 私はメダルが入った小袋を持って、適当にショッピングモールを歩いていた。羽拾いに使える道具って何だろう?


 1人であれこれ考えていると、どこからともなく甘〜い香りが漂って来た。


「いい匂い〜お腹すいたな……」


 香りを辿って行くと、そこはパンケーキ屋さんだった。


 ちらっと中を覗いてみると、2人の店員が作業している。頭の上に薄くCPUと書かれていた。生クリームとイチゴが乗ったパンケーキがカウンターに並べられていく。すごく美味しそう!


(このメダルを使えば買えるよね? ダメダメ、このメダルはゲームに勝つために必要な物と交換しないと! でも少しなら……)


 甘い誘惑に負けそうになったその時だった……


「そこのお嬢ちゃん」


 突然、誰かに呼ばれて『はっ!』と我に返った。


 振り向くと知らない人が私を見ていた。すらりと背が高く、何故か肩には鳥の人形が乗っている。明らかに怪しい。


「大丈夫だよそんなに警戒しないで」


 笑みを浮かべながら近づいてきた。余計に怪しすぎる。


「僕にメダルを預けてみませんか? 5分ごとに利子として増えた分のメダルを還元します。どうですか?」


 怪しい男がまくし立てるように言ってきた。


「えっと……急にそんなこと言われましても……」


「試しに30枚ほど預けてみてはいかがでしょうか?」


「う〜ん……」


 私が腕を組んで唸っていると、相手も同じように腕を組んで考え事を始めた。


「では10枚でどうでしょうか?」


「10枚ですか……(もし返ってこなくてもそれくらいならいいかな?)試しにお願いします」


 私は袋からメダルを取り出して男に渡した。


「ありがとうございます。それでは5分後にまたここでお会いしましょう」


 肩に鳥を乗せた男は私からメダルを受け取ると颯爽とその場を後にした。



* * *


「お待たせしました。こちらが10枚のメダルに対する利子です」


 時間通りにあの男はやって来て、私に5枚のメダルを手渡した。


「5分後にまた5枚貰えるのですか?」


「はい。もちろんです。ちなみにもっと多くのメダルを僕に預けてくれたらより多くメダルが増えますよ」


 満面の笑みで男が頷く。


「今がチャンスですよ! そうですね……追加で20枚預けてみませんか? 今度は10枚増えますよ」


「20枚ですか……(どうしようかな? 少し怪しい人だけど、預けるだけでメダルが増えるのなら……)お願いします!」


 私は袋から20枚メダルを取り出して男に渡した。


「任せてください。また5分後にお会いしましょう」


 肩に鳥を乗せた男は私からメダルを受け取ると颯爽とその場を後にした。



* * *


「お待たせしました。こちらが10枚のメダルに対する利子の5枚と、20枚のメダルに対する利子の10枚。合わせて15枚です」


 時間通りにあの男はやって来て、今度は私に15枚のメダルを手渡した。


「すごい! 前回のゲームは必死になって集めたのに、こんな簡単に貰えていいの⁉︎」


「そうでしょ! すごいでしょ? いっそ全部、預けてみませんか?」


「お願いします!」


 私はもう疑う事はやめて、メダルの入った袋ごと男に渡した。これでもっとたくさんメダルが増えるはず!


「おまかせ下さい。次も5分後に会いましょう」


 肩に鳥を乗せた男はニヤっと笑みを浮かべると、私からメダルを受け取り、颯爽とその場を後にした。



* * *


「遅いな……」


 もう10分以上待っているのに、一向に来る気配がない。


 その後、あの男が私の前に現れることはなかった。


「どうしてこないの⁉︎ まさか騙された?」


 時計の針は集合時間に迫っている。手元に残ったメダルは1枚も無い。私は重い足取りで3階フードコートに向かった。やばい、なんか泣きそう。



* * *


「全員集まったね。1人ずつ報告していこうか」


 30分が過ぎて私たちはフードコートに集まった。


「とりあえず4人分の鞄を買っておいたよ。ここに集めた羽を入れようかなと思って」


 彩人ちゃんがショルダーバックを机の上に置いた。何故か持ち手に羽のストラップがついている。


「弥さんは?」


「僕も色々と買ってきた。また後で詳しく話すよ。真紀くんはどうだった?」


 ついに自分の番が回ってきた。心臓が跳ね上がる。


「えっと……」


 私は正直にあったことを自白した。


「はぁ? お前どうしてそんな分かりやすい詐欺に遭うんだよ!」


 宗市が深いため息をつく。


「だって最初はちゃんとメダルをくれたよ!」


「それポンジ・スキームだね」


 弥もやれやれと言った表情で苦笑いを浮かべる。


「何それ?」


「人からお金を集めて、その集めたお金から配当として還元する。味を占めたターゲットが追加のメダルを出したら、それを持ってどこかに消えてしまう。昔からある詐欺の手方だよ」


「そんな……知らなかったよ……」


 私がシュン……と落ち込んでいると、「真紀姉は悪くないよ」と彩人ちゃんが慰めてくれた。いい子だな……


「まぁ、過ぎたことをどうこう言ってもしょうがない」


「でもどうするんだよ」


「とりあえず元手を増やそう。普通に戦っても4人対100人はきついからね」


「何かいいアイデアがあるの?」


 私が不安げに尋ねると……


「もちろん。僕を誰だと思っているの? ゲーマーだよ? 良い作戦がある。でもそのためには元手がいる」


 弥が羽のストラップを見てニヤリと笑みを浮かべる。でも何故だろう? その表情があの詐欺師の男とよく似てる。気のせいだよね?





☆オークション


「本日は羽拾いに役立つ物を多数ご用意しました。是非、最後まで楽しんで下さい!」


 フードコートの中央で弥が声を張り上げると、周囲にいたCPUたちが羽拾いに役立つと聞いてゾロゾロと集まってくる。まさかこんな事になるとは想像もしなかったなぁ……



※20分前


「オークション?」


「一番それが手っ取り早くメダルを増やせるかなと思って」


 弥は当然の事のように言うけど、私たちにはピンとこない。


「例えば金の発掘現場があったとする。多くの人たちはスコップを片手にそこらじゅうを掘るだろうね。希少な金塊を求めて。ここで問題。この発掘現場で一番儲かる人は誰だと思う?」


「そんなの金塊を見つけたやつだろ?」


 宗市が当然の事のように答えるが……


「残念!」


 どうやら違っていたみたい。


「正解は。金塊を掘るためのスコップを売った人さ」


「どういうこと?」


 彩人が首を傾げて質問する。


「スコップはその場にいる人全員が求めてた物だから飛ぶように売れる。その結果、多額の売り上げを叩き出した。実際に僕の履いているこのジーパンは元々発掘現場の人向けに作ったという説もある。丈夫で強いから飛ぶように売れた。ちょうど金塊を掘るためのスコップのように」


「でもそれとオークションと何が関係してるの?」


 素朴な私の疑問に彩人と宗市も頷く。


「羽拾いに役立つものをCPUに売りつける。金塊を掘るスコップのように。それでメダルを稼ごう!」


 弥はそう言うと、テーブルの上にこれから売る物を取り出した。



※20分後


「こちらをご覧ください」


 弥がCPUに向かって紙袋を見せた

「皆様、集めた羽はどうしますか? まさか()()()()()()()()。とか言いませんよね? 大量に集めた羽を入れておく袋。一枚どうですか? 定価はメダル20枚でしたが、たったの1枚から競りを始めます!」


 弥があたりを見渡すと、私たちがいる所で視線を止めた。


「はい! 私それをメダル3枚で買います!」


「待ってボクは5枚で買うよ!」


「俺は10枚払う!」


 周囲にいたCPUたちがざわつき出す。後もう一息かな?


「10枚まで出ました。もう他にいませんか?」


 弥が煽るように言葉をたたみかけると……


「12枚払う!」


「12枚が出ました。他にいませんか」


「15枚!」


 CPUの中からチラホラ手を上げる人が出てきた。


「15枚! もういませんか? では15枚で落札です」


 弥がテンポ良くオークションを進めていく。


「ねぇ真紀姉、これってサクラだよね?」


「うん、そうだね……」


「何だか嘘をついてるみたいで嫌だな……」


 確かにそう言われると後ろめたい。


「しょうがないだろ負けたら一生この世界に閉じ込められるなんてごめんだ」


 確かに宗市の言う通り、ここはゲームに勝つためにサクラを演じきろう!


 その後も私たちのおかげで飛ぶように何の変哲もない紙袋が売れていった。


「次の商品はこちらです」


 弥はそう言うと、CPUたちにカ○リーメイトを見せつけた。


「ゲームをすると腹が減る。腹が減っては戦はできない。さぁどうですか? 定価はメダル15枚でしたが、今回も1枚からスタートします!」


 また弥が私たちに目で合図を送る。例によってサクラを演じると、10枚のメダルで売れた。


「なぁ、さっきから売れているけど全部定価以下だよな?」


 宗市が言うように、今のところ全て赤字。大丈夫なのかな?


「それでは次が最後の商品です。これをご覧ください」


 弥が一枚のメダルを摘んで見せた。タカのデザインがカッコいい一際大きなメダル。


「皆様、お手持ちのメダルを確認して下さい。これと同じメダルが入っていますか? もしあったら手を上げて下さい」


 CPUたちがメダルの入った袋を漁るが、誰も手を上げない。


「実はこれ、とれも希少なメダルです。持っているだけきっといいことがあるでしょうね。もしかしたら羽が沢山手に入るかもしれませんよ?」


 弥が会場を見渡す。CPUはレアメダルに釘付けだった。


「これまでと同じく、1番多くメダルを出すと言った方にこのレアメダルを差し上げます。ただし! 代金を支払うのは2番目に多く払うと言った方です」


 突然追加されたルールに戸惑うCPUたち。


「さぁ皆様、1位を目指して頑張ってください。支払うのはどうせ2位の方なので」


 弥がそう言い終わると、今までとは桁違いの額が飛び交った。



* * *


「うまくいったね!」


 ご満悦な様子で頷く弥。その手には大量のメダルが入った袋が握られていた。


「でも最後のは何だったんだ?」


 宗市が言うように、最後のオークションは異様だった。


「100円のオークションって知らない? 厳密には1ドルオークションって言われているけど……」


「初耳だな」


「ちょっとしたゲームさ。100円をオークションにかける。最初1円からスタートして一番高い額を提示した人のものになる。ただし代金を払うのは2番目に高い金額を提示した人さ」


「えっと……つまりどう言うこと」


「たとえば1位の人が99円で買うと言った。でも2位の人はどう思うだろう? 仮に98円払うと宣言していたらその額を払わないといけない。それなのに自分は何ももらえない。まだ時間はある。さぁどうすると思う?」


「えっと……もっと多くの額を出すのかな?」


「その通り! 自分が損をしたくない。だから相手よりも多くの金額を提示する。それがどんどんエスカレートして100円が101円、102円と上がっていき、最終的には百円が何千円、何万円で取引されることになる。まさかここまでうまくいくとはね、君たちサクラのおかけだよ」


 袋の中には大量のメダルがぎっしりと詰まっている


「でもレアメダルなんてどこにあったの?」


 彩人ちゃんが言うように、少し気になる。たまたま弥の配られたメダルの中にあったのかな? でもそんな偶然って起きるの?


「あれは僕が雑貨屋で適当に買ったメダルだよ。レアメダルでも何でもない」


「えっ? それって嘘をついたってこと? 持っていると良いことがある。羽が沢山手に入るって言ったよね?」


 彩人が不満げな顔で指摘をするが……


「半分は本当だよ。彼らは大量の羽を手に入れるだろうね」


 弥は肩をすくめると、悪そうな笑みを浮かべた。


「そのためにも真紀くん、お遣いに行ってきてもらえるかな?」


 弥がそう言うと、メダルの入った袋を私の前にどさっと置いた。





☆羽拾い 前半戦


「それではこれよりゲームを始めます。もう一度軽くルール説明をします。羽1枚につき100ポイント。制限時間は30分。対戦相手はここにいる100体のCPU。彼らよりも多く羽を集め、ポイントを稼いだら勝ちです」


 ついに始まる。私たちはフードコートの出口を陣取った。


「さぁ、ここからが勝負だ! 準備はいいかい?」


「ああ、いつでもいいぞ!」


「絶対にみんなでクリアーしようね!」


 弥が一人一人の顔を見渡すと、宗市と彩人が力強く頷く。


「真紀くん、例の物は大丈夫かい?」


「もちろん! 3階の中央に置いてあるよ」


 私は力強くうなづいた。後は上手くいけば良いけど……


「まずはこちらのモニターをご覧下さい」


 フードコートに設置された巨大なモニターが動き出す。映し出されていたのは1階中央ステージ。そこにヒラヒラと1枚の羽が落ちていく。


「それでは羽拾いを始めます」


 これに勝たないと、一生この仮想世界に閉じ込められる。負けるわけにはいかない!


「よーい 始め!」


 合図と同時に一斉にCPUが1階中央ステージに向かって走り出した。


「よっしゃー! やってやるぞ!」


 宗市がCPUを払い除けながら突き進む。


「最初の羽は宗市くんにまかせるとして、僕たちは各階で次の羽が出現するまで待機。彩人くんは2階の羽拾いを任せるよ」


「分かった行ってくる!」


 彩人は元気よくうなづくと、早速、駆け出して行った。


「それじゃあ僕たちも行くよ」


「うん!」


 私と弥は3階の中央に向かった。吹き抜けから下を覗いて見ると、宗市が1階中央ステージにある羽を目指して走っているのが見えた。



* * *


「どけどけどけ!」


 俺は目の前にいるCPU共をどかしながら突き進んだ。必ず俺が全員、元の世界に戻す。一生この仮想世界で過ごすのはごめんだ!


 階段を駆け降りて一心に走り、1階中央ステージに飛び乗った。そこには手のひらサイズの小さな黄色い羽が落ちていた。これで間違いなさそうだ。


「まず1枚!」


 俺は羽を鞄にしまうと、3階にいる真紀と弥に手を振った。



* * *


 1階にいる宗市が私たちに手を振っているのが見える。


「今だよ真紀くん!」


「了解!」


 私はあらかじめ用意しておいた羽毛布団を抱きかかえた。


「「せーの‼︎」」


 弥と力を合わせて、布団を引きちぎった。中に詰まっていた白い羽毛が溢れ出す。それはまるで雪のようにフワフワと舞い降りていった……



* * *


「これでしばらく足止めが出来そうだ」


 作戦が上手くいき、満足そうに頷く弥。下を覗き込むと、CPUたちが群がるように羽毛を拾い集めていた。


 弥から頼まれたのは羽毛布団。正確には中にある羽毛。オークションで稼いだコインでギリギリ買えたからよかったけど、CPUはどうしてポイントと関係のない羽毛を必死に集めているの? そんな私の疑問を感じ取ったのか、弥が口を開く。


「CPUは目の前の羽を全て拾い集めるようにプログラムされている。ある意味、間違ってないね」


 弥が1階の滑稽な光景を見ながら答える。


「だけど少し考えたら今、集めるべき羽は羽毛じゃないって分からないのかな?」


 私の素朴な疑問に鼻で笑う弥。


「彼らは所詮CPU。()()()()()()()()()()()()()()()。それじゃあ僕は3階の羽を集めるから、ここは任せる。何かあったらすぐに連絡して」


 弥はそう言い残すと走り去ってしまった。スマホ画面に次々と羽マークが出現していく。



* * *


「うわ〜 凄い光景‼︎」


 1階は大混乱。真紀姉がばら撒いた羽毛をCPUたちが拾い集めている。


 弥さんが『彼らは大量の羽を手に入れる』って言ってたのは嘘じゃなかった。


 ボクも負けてられないよ! 絶対にここから抜け出す! そう心に決めて、2階に出現した羽を探し始めた。



* * *


 羽毛を投げ終えてスマホを見ると、地図上に散らばっていた羽マークが次々と消えていき、私たちのポイントが加算されていく。この調子なら勝てるかも!


「真紀姉! 見てみて!」


 2階から声がして、覗いてみると、彩人ちゃんが肩に背負っている鞄を開けて見せてくれた。中には黄色い羽が入っている。


「すごい! けどもう羽毛がないから足止めは無理そう……」


「分かった。こっちは任せて!」


 あんなにたくさん入っていたのに、もうなくなってしまった。


「ここからは赤い羽が出現します。1枚につき500ポイント」


 突然スマホから、ゲームマスターの声がした。


「えっ? 一気に500ポイントもらえるの⁉︎」


 地図を開いてみると、1階に赤い羽が出現していた。でも……


「どうやら足止めはここまでのようだね」


「弥‼︎」


 電話をかけようか迷っていたところに弥がやって来た。


「ねぇ、どうしよう!」


「2階と3階の羽は集め終えたから、あとは一階の赤い羽だけ。僕と彩人くんは一度、宗市くんと合流しようと思う」


「じゃあ私も!」


「いや、君はここにいてほしい」


「でも……」


「きっとまだ何かしてくる」


「どう言う事?」


「ゲーマーの勘さ」


 弥はそう言い残すとまたどこかに行ってしまった。


 スマホで地図を見てみると、1階の赤い羽が次々と消えていく。でも私たちのポイントは一向に増えない。その代わりにCPUたちのポイントが凄い勢いで増えていく。


 今の私たちのスコアは3200ポイント。対してCPUは3000ポイント。まだ大丈夫。慌てる事はない。そう思ったのに……


「えっ? うそ⁉︎」


 画面上にあった赤い羽が消えた。3200ポイント対3500ポイント。逆転された……


「どうしよう、このままだと負けちゃう……」


 最後の赤い羽が消えた。3200ポイントに対して、CPUは4000ポイント。やっぱり私も行ったほうがよかったんじゃぁ……


 負けたら一生この世界に閉じ込められる。一瞬ゲームマスターが話していた事が頭の隅をよぎって背筋に悪寒が走る。


 不安に襲われ駆け出そうとしたその時だった。目の前のフードコートに、今までとは明らかに違う羽が出現した。


「何これ?」


 走って確認に向かうと、そこには金色に輝く黄金の羽が1枚落ちてた。


「これは一体……」


「一番レアな羽です。1枚で1000ポイント分の価値があります。ちなみにこれがこのゲーム最後の羽です」


 私の声が聞こえたのか、ゲームマスターが教えてくれた。


「1000ポイント⁉︎ 最後の羽? じゃあこれで私たちの逆転勝利だよね!」


 心臓がバクバクする。やった! これで勝てる! 早くみんなにに教えてあげなきゃ! 急いで羽を手に取り、大切に鞄にしまうと……


「その羽を渡してもらおうか」


 低い声で誰かに呼び止められた。


 聞き覚えのある声にビクッと体が震える。恐る恐る振り返ると、目の前にあの鳥の人形を肩に乗せた怪しい男が立っていた。


「あなたは誰ですか!」


 この人にはまんまと騙されてメダルを取られた。私は一歩下がり相手を睨みつけた。


「ただのゲーマーだよ。早くその羽が入った鞄を渡しなさい」


 相手がジリジリと距離を詰めてくる。危険を感じて私は鞄を強く抱き締めると、全速力でその場から逃げ出した。


「待て!」


 足音が背後から迫ってくる。振り向く余裕すらない。階段を駆け降りてもまだ追ってくる。息が上がり、脇腹が痛くなってきた。ちょっときついかも……


「捕まえた! 早くその鞄を渡しなさい」


「離してください!」


 2階に降りた辺りでがしっと腕を握られた。必死に抵抗するけど男性の大人に女子高生の力じゃ敵わない。だったら……


「さぁ無駄な抵抗はやめるんだ!」


 乱暴に鞄を取ろうとするあまり、もつれあいになり、突き飛ばされる。


「………っ‼︎」


 勢い余って壁に激突した。顔をしかめてうずくまっていると流石に動揺したのか……


「すまない、そんなつもりは……」


 心配そうに男が近寄ってきた。チャンス! 私は思いっきり男性の急所を蹴飛ばしてやった。


「うっ……‼︎ 」


 今度は怪しげな男が顔をしかめて悶え苦しむ。


「騙したな………」


 芋虫のようにうずくまった男が、情けない声を出して私を睨みつける。


「そっちだって騙したでしょ! 私のメダルを奪ったくせに!」


 私は急いで弥に電話をかけた。


「弥、聞こえる? ねぇ!」


 数コール待った後、繋がった。電話越しにCPUがあちこち走り回っている足音が聞こえる。


「聞こえてるよ。何かあったのかい?」


「黄金の羽を拾ったんだ。1000ポイントも貰えるみたい!」


「何だって⁉︎ それは本当?」


「うん! ゲームマスターが言ってたから間違いないと思うよ」


「なるほど、ちなみに今はどこにいるの?」


「2階の中央辺りかな? ここから下が見えるよ」


「了解。真紀くんが持っている羽が最後の1枚。このまま時間が過ぎれば僕たちの逆転勝利だ! そのまま逃げ切って!」


「分かった」


 いまだに苦しんでいる怪しい男を横目に、私はその場を後にした。ちょっとやり過ぎたかな?





☆羽拾い 後半戦


「もうだめだ、ボクたちの負けだよお兄ちゃん」


 どれだけ急いでもCPUたちに先回りされてしまった。結局赤い羽は1枚も取れていない……


「大丈夫だ必ずここから抜け出す! 俺たちは負けねぇ!」


 そう言ってボクの頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。でも一向に不安な気持ちは晴れない。


「ちょうどいい所にいるね2人とも」


 そこに軽く息を切らした弥さんが手を振りながらやって来た。


「おい弥、どうするんだよ!」


「大丈夫、何とかなる。いま2階にいる真紀くんが、1000ポイント入る黄金の羽を持っている」


「えっ⁉︎ 弥さんそれ本当⁉︎」


「真紀くんが言うにはね。僕たちとCPUの点差は800ポイント。金の羽1000ポインを持って逃げ切れば逆転勝ちさ」


 弥さんが自信に満ちた顔で宣言した。希望が湧いてくる。でもそれは一瞬の出来事だった。


「そうはさせないよ!」


 聞いたことがない男の声がして2階を見上げると、そこには肩に鳥の人形を乗せたいかにも怪しい男性が立っていた。


「誰だ⁉︎」


 さっ、とお兄ちゃんがボクを守ように前に立つと、相手を睨みつける。


「よく聞くんだ。あの娘から()を奪い取れ!」


 何人ものCPUたちが2階に向かって走り出した。このままだと真紀姉が危ない!


「彩人、悪いけど持っていてくれ」


 お兄ちゃんがボクにショルダーバックを押しつける。


「分かった。絶対、真紀姉を助けてね!」


 ボクの顔を見て頷くと走り去っていった。



* * *


 ゲーム終了まで10分。もう少しで仮想の世界から脱出できる。なのに!


 一階から大量のCPUが私目掛けて追いかけてくるのが見えた。まずい早く逃げないと!


 とっくの前に息は上がり足に力が入らない。でも絶対にこの羽は渡さない! 必ずみんなでここから脱出するために。


 慌てて柱の物陰に身を潜め、壁にもたれかかった。遠くから足音が弾丸のように聞こえてくる。()()()()()()()()()()()()()()。中には黄金の羽が入っている。


 バレるのは時間の問題。早くここから離れないと! そう頭では分かっているのに足が震えて動かない。胸が苦しい。


「こんな所に隠れていたんだね」


「ひゃぁ!」


 怪しげなあの男に見つかり、変な声がもれる。


「嘘でしょ……」


 あたりを見渡すと、もうすでにCPUに取り囲まれていた。逃げ道は……どこにも無い。


「さぁ、鬼ごっこもこれで終わりだよ。その鞄をよこしなさい」


 男がゆっくりと私の前に右手を差し出す。


「嫌だ‼︎ って言ったらどうなるの?」


 男がため息をついて私を見下ろす。


「出来ればこんな事したくはないけどね……」


 男が目で合図をすると、柄の悪そうなCPUが木の棒を握りしめて私の前にやって来た。


「えっ? まさか…… やめて下さい!」


 CPUが木の棒を振り上げた。恐怖のせいで声が裏返える、全身の血の気が引いていくのを感じる。


「仮想の世界とはいえ、痛みは現実世界と同じように感じる。だから諦めて鞄を……」


「それは嫌!」


 私は男とCPUを睨みつけて答えた。


 きっとこの後ボコボコにされる。顔は腫れ上がり、全身あざだらけになるかもしれない。だけど鞄を渡すつもりはない! みんなを元の世界に戻すためなら、どんな酷い目に遭っても構わない! 私は覚悟を決めて固く目を閉じた。



* * *


 おかしいな……全然痛くない。もしかして感覚が麻痺しているのかな? 恐る恐る目を開いてみると……


「おい、テメェー、真紀に何する気だ?」


 CPUの手は宗市によって止められていた。


「宗市⁉︎」


「大丈夫か? 怪我はないか?」


 宗市が私に手を差し伸べる。フラつく体を支えてもらいながら、何とか立ち上がった。


「ねぇ、どうしてここに?」


「んな事決まってるだろ、助けに来たんだ! お前、また自分だけ犠牲になるつもりだろ?」


「……………」


「お前が何度、自己犠牲を企んでも、俺が必ず助けに行く! よく覚えてろ!」


「………うん、分かった……ごめんなさい……」


 気迫のこもった声に私は、頷くことしか出来ない。


「よく聞け! お前たち! 真紀に手を出したら、俺が許さねーからな!」


 宗市は私を守ように前に立つと、CPUたちを見渡して宣言した。今まで聞いた事の無い低い声が少し怖い。本気で怒っているのが伝わってくる。


「いいね、いい覚悟だよ。だけどこの状況をどう打破するつもりなんだい?」


 宗市が来てくれたのは嬉しいけど、このままだと2人揃って捕まる。ゲームは残り3分、逃げ道はどこにもない。私たち負けちゃうの?


「真紀くん、まだ負けていないよ!」


「お兄ちゃん! 真紀姉! こっち!」


 諦めかけたその時、下から2人の声がした。


「真紀!」


「うん!」


 私は宗市と目を合わせて頷くと、肩にかけたショルダーバックを手に持った。弥ならきっとこうするよね?


「そんなに鞄が欲しいのなら……あげるよ!」


 私は男に背を向けると、残りの力を振り絞って鞄を投げ飛ばした。ついでに走り回ったせいで緩んだヘアゴムも飛んでいく。束ねていた髪が解ける。


 鞄はCPUたちの上空を舞って1階に落ちた。


「ほら、取れるものなら取ってみなさい!」


 私は怪しい男とCPUを見渡して笑みを浮かべた。これできっと上手くいくよね?


「彩人! 弥! その鞄を持って逃げろ!」


 宗市が大声で叫ぶ。だけど返事がない。大丈夫だよね?


「はっはっはっ! やっぱりそうするよね」


 突然目の前の男が笑い出した。すごく嫌な予感がする……


「何がおかしいんだ?」


 宗市が怪しい男を睨みつける。


「あまりにも君たちのやることが予想通りでね。周りをよく見てご覧、ここには100人もCPUはいないよ。さぁ問題、残りのCPUはどこにいるでしょうか?」


 目の前の男は、生徒に質問するように私に問いかける。


「まさか……1階にいるとか?」


「正解!」


 恐る恐る尋ねてみると満足げな顔で男は頷いた。


「こうなると予想して1階に50体ほど隠しておいたんだ。ゲームは相手の裏をかく。それが醍醐味さ!」


 慌てて下を覗き込むと、弥たちが壁際に追い詰められていた。


「弥! 彩人ちゃん!」


「待ってろ、今行く!」


 宗市が慌てて1階に向かう。それとは対照的に怪しげな男は余裕の表情を浮かべている。


「じゃあ、僕も行くとするよ。君はそこで見ていなさい」


 男は私にそう言い残すと、ゆっくりと階段を降りて行った。



* * *


「クソ、もう少しで勝てたのに」


 弥たちと合流して、俺は目の前に立つCPUを睨みつけた。その手には鞄が握られている。


「ごめんお兄ちゃん、取られちゃった……」


「すまない、これは僕のミスだ。CPUが隠れていたとはね……」


 彩人と弥が悔しげな表情を浮かべて俯く。


「残念だったね、もう少しで君たちの勝利だったのに」


 そこに怪しげな男が降りて来た。


「チェックメイトだよ」


 スマホから終了の合図が鳴り響く。ゲームに負けた俺たちは、一生この世界で過ごすことになった。


 お・し・ま・い……


 ?


 ?


 ?


 ?


 ?


 ↓
























☆種明かし


「ゲームに負けた君たちは一生、死ぬまでこの仮想世界で過ごしてもらうよ!」


 男は俺たちを見渡すとそう宣言する。


「流石にそれはないよね?」


 恐る恐る彩人がそう聞くが……


「本当さ、これはルールだからね」


 男は腰を下ろして彩人と目線を同じにすると、余裕の笑みを浮かべて答えた。その声はどこまでも冷たい。


「嫌だよそんなの! 家に帰りたいよ!」


 目を赤くして泣き出す彩人を俺は強く抱きしめた。


「頼む! 彩人だけでも元の世界に戻してくれないか?」


 文句を言いたい衝動を抑え、俺は頭を深く下げた。


「何を言ってるの? ダメに決まってるじゃないか。君たちはゲームに負けた。残念だったね」


 男は勝ち誇った笑みを浮かべて俺たちを見渡す。クソ! 今すぐにでもこいつをぶん殴りたい!


「おい弥、何か作戦はないのか?」


「…………」


「おい!」


 返事がない。拳をにぎりしめ唇を噛み締めているその表情から、嫌でも打つ手がない事が分かる。


「楽しかったよ。君たちは頑張った方だ。まぁ、勝ったのは僕だけどね」


 男が金の羽を取り出すためにカバンの中を覗くが……


「ん? どういうことだ……?」


 男の顔色が悪くなっていく。焦りからなのか、小刻みに肩が震えている。それと一緒に鳥の人形も揺れる。


()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 鞄を逆さにして振っても何も出てこない。


「弥さん、どういう事?」


「分からない……」


 首を傾げる彩人と腕を組んで考え込む弥。黄金の羽はどこだ? 勝負はどうなったんだ? そんな俺たちの疑問は次の一言でかき消された。


「ねぇ、あなたが探しているのは銀の羽? それともこの金の羽かしら?」


 澄んだ声がデパート全体に響く。つられるように全員が上を見上げた。


「どうしてそれを持っているんだ!」


 男が驚いた顔で声を張り上げる。


「ゲームは相手の裏をかく。それが醍醐味だったよね?」


 2階から真紀が俺たちを見下ろしていた。髪を下ろしているせいだろうか? いつもより大人びて見える。フラフラになりながらも体を支え、堂々と立つ姿に俺は呼吸も忘れて釘付けだった。


 多分この光景は一生忘れないと思う。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



* * *


 私は1階にいるみんなの所に合流して、金の羽を男に見せた。


「どういうことなんだ?」


「彼らは所詮CPU、命令された通りの事しかできない。そうだったよね?」


 私が質問すると、弥がこっくりと頷いた。いつも質問される側だったから何だか新鮮な気分。


「あなたはCPUたちに()()()()と命令した。羽を盗めとは言ってない!」


「まさか……」


「そのまさかよ! 実は鞄から羽を抜き取ってポケットにしまっておいたの!」


 10分前、物陰に隠れたあの時、こっそりと鞄の中にある羽をポケットにしまっていた。CPUが欲しいのは鞄。だったらあげるよ。私たちが欲しいのは黄金の羽だから……


「なるほど……そんな事をしていたとは……」


 男が悔しそうに俯く、でもなぜか口元は笑っていた。


「ボクもう負けちゃったかと思ったよ!」


「ごめんね騙して。だからもう泣かないで」


 私は彩人ちゃんを優しく抱きしめると。ハンカチを取り出して涙を拭いてあげた。


「真紀姉、髪を下ろした姿も似合うよ!」


 キラキラと輝く純粋な瞳が私を見つめる。


「ありがとね。でも邪魔だから結ぼうかな?」


 ヘアゴムで髪を束ねると、なぜか宗市が残念そうな表情をする。どうしてそんな顔をするの?


「おめでとう君たちの勝利だ」


 少し離れた位置にいた怪しい男が、私たちに拍手を送る。この人は一体……


「あの、あなたは誰なのですか?」


 見た目は怪しいし場合によっては警察を呼ぼうかな?


「ああ、すまない。紹介がまだだったね。実はゲームを作った制作者さ。そして……」


()()()()()()()


 弥がサラッと付け加えた衝撃の発言に、私たちが絶叫したのは言うまでもなかった。3人の叫びが天上を突き破る……



* * *


「初めまして弥の父の白鳥(しらとり) (ひさし)です」


 怪しい雰囲気は全くなく、礼儀正しく自己紹介を始めた。


「ねぇ、弥。どう言う事?」


「そのままの意味だよ真紀くん。これは僕と父さんの勝負さ」


「勝負?」


「このゲームをクリアーできたら弥の勝ち。ゲームオーバーになったら僕の勝ち。そういうルールさ!」


 いまいちピンとこない私たちに白鳥さんが補足を加える。


「弥、いい仲間を集めたようだね」


「流石にソロプレーだときついからね」


(ソロプレーはきつい? いい仲間を集めた?)


「ちょっと待って! 集めたってどう言うこと?」


 彩人が2人の親子を見比べる。


「ほら、このゲームの招待状が届いたでしょ? あれ僕が流したんだよ」


 これまた衝撃的な発言に愕然とする私たち。確か志桜里(しおり)が『そんなの詐欺メールに決まってるでしょ』って言ってたな……あながち間違いじゃなかったかも。


「なんだよ、じゃあ、お前は全部わかっていたのか?」


 宗市が問いただそうと弥に詰めよるが……


「いや、何も。ただゲームで勝負しようとだけ聞いていた。第二ゲームがあることも同然知らなかったよ」


 弥は肩を窄めて答える。

 

「君たちが必死になってプレイしてくれたからね。つい僕も参戦しちゃったよ」


 白鳥さんが楽しそうに話す。


「あの、もしボクたちが負けていたらどうなっていたのですか? この世界に閉じ込めるって……」


「まさかまさか、閉じ込めるわけないじゃないか、ゲームを盛り上げるために言った冗談だよ!」


 笑っているけど冗談では済まされないのでは?


「いい大人がゲームばかりしているとバカになりますよ」


 私がため息をついて言うと……


「何をバカなことを言ってるんだ。バカじゃゲームは出来ない」 


 よく分からない理論で返された。


「完敗だよ。君たちの勝ちだ」


 その言葉の後、目の前が真っ暗になった。



☆最後の待ち合わせ


 ゆっくりとポットが開いていく。見慣れた古びた天井、埃っぽい匂い。そこは古びた駅の中。何だかすごく懐かしい。


「ボクたち帰ってこれたよね?」


「ポットが開いたから大丈夫なはずさ」


 なんとなく弥の声に自信がない。それに気づいたのか……


白鳥(しらとり)様からメッセージがあるので読み上げます」


 ゲームマスターが話しかけてきた。


「いや〜負けたよ。今日はゲームに参加してくれてありがとう。楽しかったよ。またいつでも遊びにきてね!」


 スマホから白鳥さんの明るい声がする。


「あと一つ言い忘れていたけど、このメッセージは1分後に爆発処理されます。直ちに逃げてね」


 最後にしれっととんでもないことを言い出した。爆発? 嘘でしょ?


「えっ! どう言うこと⁉︎ どうしよう」


「落ち着いて真紀姉。とりあえずスマホを下ろして」


「どいてろ! いますぐぶん投げる」


 3人であたふたしていると……


「はっはっは、冗談だよ、一度言ってみたかったんだ!」


 その言葉を最後にメッセージが途絶えた。


「おい! 弥! あの親父をどうにかしろ!」


「ごめん、ごめん」


 宗市が本気で捕まえようとするが、弥は笑いながらひょろりと交わす。最後まで騒がしい人だな。


「お兄ちゃん、弥さんが困っているよ!」


 彩人に止めらて叱られる宗市。これではどっちが年上なのか分からない。


「まぁ、無事にゲームクリアーできた事だし帰ろうか」


 弥の合図で私たちは外に出た。



 * * *


 住宅地にぽつんとある駅を出ると、外はもう日が沈んでいた。


「ねぇ、お兄ちゃん、ちょっと耳かして」


 彩人が俺にしか聞こえない声で話しかけてきた。何か2人には聞かれたくない話でもあるのか?


「ねぇ、この機会に真紀姉とどこか遊びに行く約束をしたら?」


「どういうことだ?」


「真紀姉をデートに誘ってみたら? って言ってるんだよ」


「はぁ⁉︎ 何言ってるんだよ」


「だってお兄ちゃん、真紀姉の事が好きでしょ?」


「べっ、別に好きじゃねーし!」


「この機会を無くしたらもう会えないかもしれないよ」


「いや、そんなことはねーだろ」


「じゃあここでお別れでいいの?」


「…………」


「ほら早く。ねぇ真紀姉。お兄ちゃんが話があるって」


「えっ? 私に? どうしたの?」


 前を歩いていた真紀が振り返る。


「ほら、お兄ちゃん早く」


 小声で彩人がそう言うと、背中を突いてくる。変な汗が止まらない。口の中が乾いていく。後で覚えていろよ!


 俺は一つ咳払いをして呼吸を整えた。


「その……今度デパートに行かないか?」


「デパート? 今行ったじゃん」


「いや、ゲームでじゃなくてさ、その2人で行かないかって言ってるんだよ。今度の休日出かけないか?」


「今度の休日……あれ? 今日は何曜日だったっけ?」


「土曜日だよ真紀くん」


「やばい! 今日は志桜里と勉強会の日だ! ごめんもう行くね」


 真紀は俺たちに手を振って走り去ってしまった。


「おい待てよ!」


 急いで呼び止めようとしたが、届かない。


「真紀姉、行っちゃったね」


 彩人が笑いを堪えながら慰めてくるが、耳に入ってこない。もはや言い返す気力もない。


「どうしよう弥さん?」


「そっとしておいてあげよう。ドンマイ宗市くん。またきっとチャンスはあるよ」


 こうして奇妙なVR体験と俺の初告白は幕を閉じた。



* * *


「真紀遅いな……」


 土曜日は、ファミレスでテスト勉強するって言ったのに……


「お客さま、後10分でお時間となります」


「はい、分かりました」


 真紀、忘れているのかな? そういえば、最新VRゲームがしたいとか言ってたし……


 仕方がなく私は席を立ちレジに向かうと……


「志桜里お待たせ‼︎」


 名前を呼ばれて振り返ると、真紀が全速力で走ってやって来た。



* * *


「ごめん遅れた!」


 私は顔の前に手を合わせて謝った。


「ど〜せ、ゲームでしょ?」


「っう……まぁ……そうだけど」


 図星をつかれ目を逸らすと、あきれた様子で志桜里がため息をつく。


「もう時間だから、行けないって言ってくれればよかったのに」


「そうだけど、待ち合わせ場所には絶対、行く! って決めたんだ。あと、ここは私が奢るよ!」


「いや、それは悪いよ」


「遅れちゃたから払わせて」


 私は財布を開いてお金を取り出した。お札が数枚、小銭も入っている。でもその中に可愛らしい鳥のデザインのメダルは入っていなかった。





                   ──完──



☆次のゲームの招待状


「暇だよ! 暇っ!、暇暇暇暇暇暇暇暇………‼︎」


 私が暇を連呼していると「うるさいな、もう50回以上は聞いた」と志桜里(しおり)が文句を言った。


「何か面白い話して」


「だから自分で調べて」


 志桜里が突っぱねるように言い放つ。仕方がなく自分のスマホを開いて調べようとすると……


「ん? 何これ?」


「どうしたの?」


「弥からのメッセージが来ている。新しいゲームの招待状⁉︎ 今度は館からの脱出ゲーム? ねぇ! 見て!」


「ところで、テストの結果はどうだったの?」


 志桜里が冷たい目で私の事を見る。


「えっと……」


「土曜日は勉強会ね」


「………」


「分かった?」


「は〜い……」


 適当に返事はしてみたけれど新しいゲームと言われたらいてもたってもいられない。補習は嫌だけど、頭の中は次のゲームの事でいっぱいだった。



* * *


「クソ、しつこい奴だな」


「おい! 待て! 逃げるな」


 後ろから警察が怒鳴り声を上げながら追いかけてくる。


「だから何もしてねーっていってるだろ!」


 オレは1人悪態をつけながら住宅地を駆け抜けた。細い路地裏をくぐり抜けて縦横無尽に走り回る。正直、今がどこにいるのか分からない。


 所々服を引っ掛けながら無理やり進み、何とか開けた場所に出た。息を整えて顔を上げると、目の前に立派な館が立っている。


「おい! どこに行ったんだ! お前がナイフを所有しているのは分かってるんだ! 早く出てこい!」


(やばい見つかると面倒だ。どうしてこんな目に……)


 仕方なくオレは目の前に立つ館に滑り込んだ。まさかここが()()()()()()()()であるとは知らずに……


 ナイフを保有する謎の男、その男を追う警察。新たなゲームの幕開けは、真紀たちの知らない所で既に始まっていたようだ。






 To Be Continued……

最後までご覧いただきありがとうございました!


ど素人なので違和感や誤字があるかもしれませんが、少しでも楽しんで頂けたら幸いですm(_ _)m


続編は広告の下にURLが貼ってあります! ナイフを持つ謎の男もゲームに参戦。真紀たちのは無事にクリアーできるのか? これまで以上にハラハラする展開になっていますので、ぜひご覧ください。お待ちしております♪

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次回作ですこのURLから飛んで行けます! 館からの脱出ゲーム、危機一髪‼︎まさか隣に殺人鬼⁉︎
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[良い点] なんと! 肩に鳥を乗せた男はポンジ・スキームという詐欺なのですね?! 面白いのでハラハラしながら読めました。相手との信頼度を築きあげてから根こそぎ騙しとるなんて……! しかも30ポイント預…
[良い点]  執筆お疲れ様です!  やっと読みました。楽しかったです!  話のテンポが速くそれでいて駆け引きやトリックが盛り込まれ、ハラハラしながら読了しました。特に、ゲーマーの弥くんが軍司のような感…
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