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仮初夫婦に


「美味しいですか?」

「うん、もったいなくなっちゃった」

「また作ってあげますよ」

「本当?」

「はい」


 こんないい笑顔をされたら、またいくらでも作ってあげたいじゃない?

 それに、思い出した。

 カフェの話をしなきゃ。


「あの、それでですね」

「?」

「私、この国で生きていくことにしました。リオもその方がいいって」

「んぁー」


 モゾ、モゾ、と背中で動くリオ。

 その後ろからコルトも顔を出して「キキ」と短く鳴く。

 どうやらコルトも私たちに賛成らしい。


「それで、このお店、とても広くて陽当たりもいいので、厨房とテラスを間借りしてカフェを経営させてもらえないかと」

「カフェ?」

「はい。私……前世でカフェに憧れがあって……幸い料理は嫌いじゃないし、アーキさんやマチトさんも賛成してくれてて」

「カフェ……」


 微妙な反応だな。

 やっぱりダメだろうか?


「カフェってご飯食べるところ、ですっけ?」

「えーと、そうですね。軽食や飲み物、ゆっくりできる空間ですね」

「ふーん。うちのテラスで?」

「はい。厨房もお借りできたらと」

「まあ、俺のオルゴールは売れないし、厨房は使いこなせてないからいいけど」


 と、後ろを見たルイさんの視線の先にある汚れたお皿の溜まった厨房。

 呆れて言葉もない。

 あとで片づけないとなぁ。


「あ、でもルイさんのオルゴールは是非そのまま売ってほしいんです!」

「へ?」

「オルゴールカフェって素敵じゃありません?」


 私は一晩考えたのだ。

 ルイさんのお店を間借りするのだから、ルイさんにも旨味がなければ。

 そして、ルイさんの商売に少しでも還元したい。

 だってオルゴールの音色、とても素敵なんだもの。


「うーあー、うー」

「どうしたの、リオ?」

「うー、うーんぁー」

「あ、リオもオルゴールが聴きたいのね」

「あー、あー」


 髪を引っ張られ、リオが手足をバタつかせる。

 テーブルの端にあった木製の箱。

 蓋を開けて鳴らすタイプだと思う。

 手に取って、ルイさんに「鳴らしてもいいですか?」と確認を取ると「どうぞ」と言われた。

 許可をいただいたのでありがたく蓋を開くと、これは、アニメの曲だ。

 題名はうまく思い出せないけど、多分。

 前世の……科学にまつわるものは、思い出せない。

 転移してきた人はそうではないのだろうか?

 少し羨ましいなぁ。


「オルゴールの音色を聴きながら食事したり、飲み物を楽しみながらまったり過ごすの……素敵じゃありませんか? ほら、音色や曲が気に入ったら、オルゴールもお買い上げいただける、みたいな。お土産にもなりますよ、って」

「な、なるほど」


 うん、いい考え!

 ルイさんも「それなら」と頷いてくれる。

 けれど、ここからがもう一踏ん張り。


「そ、それでですね」

「はい? ま、まだなにかあるんですか?」

「私もリオもコバルト王国に身バレするわけにはいきません。アーキさんとマチトさんに、ルイさんも同じだと聞きました」

「ま、まあ、そうですね」


 息を吸い込む。

 落ち着け、これは必要なこと。


「なので、私と夫婦のふりをしてくれませんか? それならバレにくいんじゃないかって」

「ふ、夫婦!?」


 やっぱり驚かれるよね。

 そりゃそうだ。

 私もびっくりしたもの。


「えっとですね」


 しかし悪い案ではないのだ。

 アーキさんとマチトさんに相談した時言われたことを、そのままルイさんに伝えた。


「なるほど……店の資金にもなるし、身を隠すのにも使えるんですね」

「はい、どうでしょうか」

「うちはいいですよ、別に。二階に使っていない部屋もありますし——あー、まあ、片づけないととても住めないんですけど」

「え?」

「え?」


 住む?

 思わず聞き返すと、聞き返されると思わなかったのか逆に首を傾げられた。

 けれど、住む、と聞いてはっとした。


「そ、そうか! 住む場所!」

「え、うちに住む話だったんじゃないんですか?」

「ぁぁぁぁぁぁあ! ……い、いえ、そ、それもそうだな、と」

「ええ……?」


 そうだ、今寝泊まりしている部屋はお宿の従業員さんたちの仮眠室。

 いつまでもあの部屋に住んでられるわけない。

 あまりにも居心地よくて忘れていた。

 それに、結婚するってことは、ルイさんと一つ屋根の下ってこと。

 いえ、さすがに相手は元勇者だし、そんな、襲われるようなことはないと思うけれど!


「か、鍵……」

「はい?」

「か、鍵はついてます、よね?」

「部屋ですか? ついてますよ」


 変な質問だっただろうか?

 けれど私には重要なことだ。

 だって、一応未婚の女なので。

 子持ちだけど。

 い、いえいえ、さすがに元勇者を信用してないわけではないのよ?

 でも、一応、一応ね?

 鍵がついていても家主は彼だし。

 結婚と言っても形だけ。

 ふりだし。

 そう、夫婦のふり! 結婚したふり!


「えっと、改めてですけど、こちらに私とリオと、あとコルト……住んでもいいんですか?」

「俺は構わないですよ。コルト——猩猩は俺のことあんまり好きじゃなさそうだから、それは申し訳ないというか」

「いえいえ! 多分昨日、威圧を受けて驚いてしまったんだと思います。とても人懐こい子だし」



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