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ケチャップ

 

 翌朝。

 この国に来て四日目となる。

 昨日の涙のせいで顔が赤くパンパン。

 しかし、とりあえず若さで乗り切れそう。

 いかに若さで乗り切れそうとはいえ、張ったところは痛いので朝、宿の裏の井戸に水をいただきにやってくると……。


「「あ」」


 そこにいたのはアーキさんよりやや大きなオーガ。

 忘れもしない、私がコバルト王国で倒れる直前に見たあのオーガだ。


「あ、あなたは——」

「っ」

「ま、待ってください!」


 私が姿を見るなり、顔を隠して水がたっぷり入った桶を持ち上げ、厨房の方へ走っていこうとする。

 それを引き留め、駆け寄った。


「マチトさん、ですよね?」

「う、す、すまねぇ。すぐあっちに行く」

「い、いえ、待ってください! お礼を言いたかったんです、ずっと!」

「え?」


 ようやく振り返って私を見てくれた。

 とっても大きいオーガ。

 下唇から牙が突き出てる。

 見た目は怖い。

 でも、この人こそ、私とリオハルトを助けてくれた人。


「あの、マチトさん。私とリオハルト、あと、コルトを、助けてくれてありがとうございました。おかげで命が助かりました」


 ずっと言いたかった。

 よかった、ようやく、言えた。

 頭を下げて心から。


「あ、頭をあげろ」


 焦ったような声に顔をあげる。

 見れば実際とても焦って、あちこちに顔を向けていた。


「おれ、おれは、人間族にとってはおっかねぇんだろ。無理しなくていい」

「っ」


 頭の後ろを掻きながら私と顔を合わせないようにしている。

 ああ、本当に優しいひとなんだ。

 そうだよね、アーキさんの旦那様だものね。


「いえ、助けてくれて、ありがとうございました。本当に」

「……そ、そうか。いや、いいんだ。じゃあな」

「はい、頑張ります!」


 アーキさんにどのくらい私のことを聞いているかはわからないけれど、決意表明を伝えた。

 ひとつだけ——マチトさんにお礼を伝える目標を達成できたわ。

 次はルイさんのお店を一部借りてカフェをできないか、相談する、ね!


「おはよう。今日の朝ご飯はどうする?」

「おはようございます、アーキさん! あの、今日は私が作ってもいいでしょうか! カフェを開くにあたり、メニューを試食してほしいんです! あ、もちろんルイさんに相談したあとなんですけど、相談するためにも、といいますか!」

「ああ、そうだね、いいね! アンタの料理も食べてみたい」


 というわけで、まずは——あ、いえ、その前にもう一つ!


「あの、アーキさん」

「うん?」

「私、訳あって本名を名乗れません。命に関わることなので」

「ああ、聞いてるよ?」

「だから、ティータと名乗ることにしたんです。リオハルトも、リオ、と。あの、とても遅くなってしまったんですが……これからは、その……」


 名を、あえて聞かずにいてくれたアーキさん。

 そんなアーキさんへ、昨日決めた偽名を名乗る。

 偽名とはいえ、これからは“本名”になる名前だけれど。


「ティータ! いい名前じゃないか! リオハルトは“リオ”だね! わかったよ! コルトはこのままコルトでいいのかい?」

「はい」

「うんうん、いいねいいね! じゃあ改めてよろしくね、ティータ! 朝飯楽しみにしてるよ!」

「はい! 頑張ります!」


 よーし、報告も終わったしリオハルト——リオのことも預けたしやるわよー!

 まずはフライパンを熱魔石にかざしてあたためる。

 オリーブオイルを敷いて、広げて、まずはみじん切りしてある玉ねぎと、小さく切った鶏肉を炒めてそこへ昨日の残りのご飯を投入。

 ケチャップはないので、塩と胡椒とトマトピューレ、ニンニクを入れてしっかり炒める。


 ピューレだからちょっと水分が多いな。

 ケチャップの作り方はうろ覚えだけど、トマトと玉ねぎ、ニンニク、香草、酢、赤唐辛子、塩、砂糖——だったかな?

 ケチャップもあとで試作してみよう。

 でも、まずは続き!

 チキンライスをお皿に盛って、次に卵に取りかかる。

 卵を解いて、牛乳、砂糖、お塩を少々。

 あたためたフライパンに入れてトントン、と持ち手を軽く叩きながら中火でじっくり焼いていく。

 表面がしっかり固まったらチキンライスの上に乗せて完成!


「できました! オムライスです!」

「あらあらー」

「ほぉ」

「ウキィー!」

「コルトはこっち。バナナよ」

「ウキキーーー!」


 アーキさんとマチトさん、そして自分用の三つのオムライス。

 そしてコルト用のカットバナナ。

 リオにはこれからミルクです。

 いえ、そんなことよりも!


「ケチャップはこれから作ろうと思ってるんですけど、ひとまずメニューの一つとしてどうかな、って」

「いいんじゃないかい? まあ、けど味見させてもらうよ」

「はい、よろしくお願いします!」

「どれ……もぐ、もぐもぐ……」


 アーキさんとマチトさんは厨房にもよく入るプロ。

 二人に通用すると認めてもらえないと、お店はとてもやっていけないだろう。

 自分の分も食べてみるけど、やはりピューレだと水分量が多いし味がとっ散らかってる感じがする、かな。


「うん、美味いね。けど、少し水分が多くて米がベタついてるかもね」

「私もそう思います。この辺りは改善点ですね」

「ケチャップ? ってのはなんだ?」

「トマトと玉ねぎ、香草、酢、塩、砂糖、あとは赤唐辛子を加えて液状になるまですりつぶして煮込んだものですね。香草の種類や砂糖以外に果物などで甘さや酸味の調整をするんですけど、実家ではたまに作っていました」

「へぇー」

「他にもマヨネーズがおすすめです。新鮮な卵と酢、油のみで作るんですけど、サラダにとても合います。もちろんサラダ以外、料理にも使えますね。香草を入れると味わいが変わって面白いですよ」


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― 新着の感想 ―
[一言] マヨネーズ……生卵は大丈夫な設定なんですね 生卵食べるのは世界でも日本人だけだと聞いたことがあるので コメ不要です
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