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体の確認と王都への帰還

歩くたびに胸が揺れる違和感と戦いながら歩くことしばらく、前方に光が見えてきたことに安堵すると同時にこの狼っ娘の姿のまま王都に入るのが不安になってきた。

いや、不安と言うより恥ずかしいといった感情の方が大きい。朝の時点で門番をしていたのはカインさんだからだ。

王都の中には獣人も多く居たので普通に入れるだろうが、昨日会ったばっかりで関係は浅いといえどこの姿を見られるのは正直、凄まじく、顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。

だが時間が経てば元に戻れるとわかっていてもその時間がわからない今ずっと外にいるわけにもいかない。

こうなったらもうやけくそだ。諦めてここからも遠目に見える南の大門へと向かおう。



南の大門に着く。門の前には内から外に出るときと同じく長くは無いものの検査待ちの列ができていた。

列に並び順番を待っていると妙に視線を感じる。そんなに自分が気になるだろうか。

獣人は王都じゃそう珍しくないだろうに。そう思いふと今自分が着ている服を見る。


「あちゃー」


反射的に出てしまった声が、自分の声だと気づきついドキッとしながらも周りからの視線が痛いことに納得がいった。

体だけに意識が持って行かれていて忘れていたが、先ほどのウルフとの戦闘で浴びた返り血が着ているワンピースに付着しているのだ。

昨日はすぐに寝てしまったため浴びれなかったが泊めさせて貰っている部屋に風呂場があったことを思い出し、早く体を洗いたいなぁと思いつつ、洗うまでに戻っていなかったら狼っ娘のまま風呂に入る

事になるのだろうかと思い心臓が跳ねる。

他の冒険者は返り血とか汚れはどうしているのだろう?服を綺麗にできる魔法でもあるのだろうか…と

現実逃避しているとついに自分の順番が来た。検査をしていたカインが僕の姿を見てギョッとする。


「おい嬢ちゃん大丈夫か血だらけじゃねえか!」


予想以上に心配されてたじたじになる。……嬢ちゃんて。


「えぇ、まぁ、はい大丈夫です…これ全部ウルフの返り血なんで…」


「そ、そうか。怪我をしてないならいいんだ。大変な目に遭ったとこ悪いが一応身分を確認できるものを見せてくれるか?」


うぅ…やっぱ身分がわかるものを提示しなくてはならないみたいだ。

仕方なく少し躊躇った後諦めて自分の冒険者証を渡す。


「冒険者だったのか」


とカインは初心者の証である白い冒険者証とそこに書かれている文字を見て唖然とした顔になる。


「え?フウガ?いやあいつは男で…」


下を向いてもじもじする僕を見て確認を取ってくる。


「なぁ、嬢ちゃん。なんかの間違いじゃ無いのか?他の人の冒険者証を間違えて持ってたりなんかしたりは…」


うぅぅ…やっぱりそういう反応するぅぅ


「あの、本人、です…僕の[特技]がそういう能力だったんですっ」


き、気まずい…


「え、えぇ…?本当にフウガなのか?」


「そう、です」


「そ、そうか、[特技]ならそういうこともある…のか?や、でも性別も種族も変わってるじゃねか…」


改めて言わないでほしい…きっと今鏡を見たらゆでだこのように顔が赤くなっているだろう。


「本当ですって信じてください。僕自身もまだ受け止め切れてないんです!」


「……信じよう。異世界から人が来るくらいだ。性別や種族が変わるくらいあってもおかしくない、よな?うん深く考えたら負けな気がしてきた。それでその…元には戻れるのか?」


「時間が経てば戻れるみたいです」


「そうか、なら明日戻ってたらまた冒険者証を持ってここに来てくれるか?」


「わかりました。さすがに明日には戻ってるはず…です」


「じゃあ、もう入っていいぞ。その、なんだ…お前も大変だな…」


すごく同情的な視線を投げかけられた。うぅ…さらに恥ずかしい


「言わないでください…凄く恥ずかしいんで…」


カインから冒険者証を受け取る。

顔を上げて周りを見渡すと朝も見かけたカイン以外の門番の方達は言わずもがな、周りの人全員が驚いた顔でこちらを見ている。その視線にたまらずギルドめがけて走り出す。

走り出したときチラッとカインの顔が見えたがすごく心配そうにこちらを見ていたので本当にいい人なのだろうと現実逃避気味に思った。

いろんな奇異の視線に晒されながら皮肉にも、俊敏性が上がったこの体のおかげで朝に南の大門にかかった時間の半分以下の時間で冒険者ギルドに帰ってくることができた。

ギルドに入る。すると外と同じように奇異の視線に晒される。

元の姿より聞こえがいい耳には、「誰だあの娘…」とか「あんな娘いたっけ?」「血まみれじゃん大丈夫かな?」

などと聞こえてくるが、聞こえないふりをしながら朝と同じくエルさんがいる受付へ向かう。

こちらに気付いたエルさんは血塗れなことに一瞬驚いたあとすぐに平静を取り戻した。


「こんにちは。緊急の依頼ですか?」


魔物に襲われたと思ったのかそう言われる。

またももじもじしながら白色の冒険者証を取り出し渡す。

冒険者証を受け取り、内容の確認をしたエルさんの顔が今度こそ驚きに歪む。

そのまま受付のカウンターから身を乗り出し、問いかけられる。


「フウガさんに何かあったんですか!?」


どうやらあまりにも元の姿の僕とかけ離れて過ぎているため僕に何かあってそれを伝えに来たとでも思われているらしい。


「いや、あの、僕です…本人です…僕の[特技]がこういう姿になれるっていう[特技]だったのでこんな姿に…」


「……冗談ですよね?」


「いえ、残念ながら冗談じゃ無いんです…」


エルさんはたっぷり5秒間ほど硬直した後、諦めたようにまた口を開く。


「[特技]ならしょうがないですね。というか血塗れじゃないですか、この際フウガさんの[特技]のことは後回しです。薬草採取しにいっただけなのにどうして血塗れになって帰ってるんですか?」


エルさんがちょっと怒ってる…


「うっ…薬草探しで夢中になって気がついたら森の奥の方まで入っちゃってて、いざ帰ろうとしたときにウルフに襲われまして、なんとか倒したんですけど返り血で血塗れになっちゃったんです」


「そうですか。無事だったから良かったものの、ろくに戦闘ができない状態で魔物と戦って大けがじゃ済まなかったかも知れないんですよ?もう少し危機感を持ってください。」


「うぅ…仰るとおりです…ごめんなさい」


「わかればいいです」


お説教を受けてしまった。女の子の体だからだろうか。精神が引っ張られたからかもしれないが少し涙が出てきてしまった。

それをエルさんが優しくハンカチで拭い背中をさすってくれた。次からはもっと気を張ろう。そう思った。

僕が泣き止むのを確認した後エルさんは話を切り出した。


「それはそうと薬草と、ウルフも討伐できたみたいですし精算をしてしまいましょうか」


「はい。陽黄草も採れたんですよ!」


そう言って、採ってきた緑陽草、陽黄草、ウルフの魔石をポーチから取り出す。

「陽黄草は珍しいですね。緑陽草は100g400イム、陽黄草は一房約40gで2000イム、ウルフの魔石は一個1500イムです。なので…緑陽草が300g、陽黄草が一房、ウルフの魔石が一個で合計4700イムになります」


そう言ってカウンターから大銅貨4枚と小銅貨7枚を渡される。

宿1泊4000イム程度だそうなので食費を含めると大体一日分くらいしか稼げていないことになる。


「今日はもう休んでください。今日は様子見ということで薬草採取をしてもらいました。…結果的にウルフと戦闘になってしまったようですが…まぁこの世界が危険だって事をわかっていただけたでしょう。なのでまた襲われてもいいように明日は簡単な魔法の練習をしますよ」


「わかりました、よろしくお願いします」


明日は魔法を教えて貰えるそうだ。魔法かぁ異世界って感じがするなぁと思いながら、エルさんにお礼を言いそろそろ部屋に戻って体を洗おうと階段に足を向けかけたとき、今度はリラさんがやってきた。


「エル~なんだかかわいい娘がいるけど誰~?」


かわいいと言われ、普段全く言われない言葉だけにむずがゆくなる。


「フウガさんですよ。[特技]の関係で今は女の子の姿になっているそうです」


エルさんの言葉を聞いてリラさんも同じように驚く。


「えぇ~~!?そんな[特技]あるの!?聞いたこと無いよ!ほんとに?ほんとにフウガ君?」


あまりの勢いに気圧される。


「う、うん、昨日とは全然姿が違うけど…」


「すごい!ほんとに女の子になってる!というか血だらけじゃないですか!仮にも今は女の子なんだから身だしなみに気をつけなきゃですよ!その感じだと今から部屋で体を洗うんですよね?せっかくだからあたしが洗い方教えてあげます!さぁ!行きましょう!」


「い、いや、自分で洗えるから!しかも仕事中でしょ!?ほら、エルさんも何か言ってくださいよ!」


とエルさんに助けを求めるも、


「これはしょうがないです。諦めて洗われてきてください。今は比較的暇ですのでリラの分は私がやっておきます」


助けどころか賛成されてしまった。


「えぇ!?エルさんまで!ほ、ほら中身は男だし嫌じゃないの?」


「でも今は女の子じゃないですか~かわいい女の子なら大歓迎です!さぁ今度こそ、行きましょう!」


結局押し切られ部屋に引きずられてきてしまった。

ドアを開けて部屋に入る。そのまますぐ脱衣所に放り込まれた。


「服を脱いじゃってください♪」


そう言われてもまごついていると、


「脱ぎ方がわかりませんか?なら脱がせてあげましょうか?」


「そ、それくらい自分でできるから!」


観念して服を脱ぎ風呂場に入る。

すぐにリラさんも入ってきて魔力で起動する温水シャワーを起動し髪を洗われる。

そのあとも手や足、胸恥ずかしい所まで血が落ち綺麗になるまで丁寧に洗われてしまい、男として大事な何かを失った気がした。



体を拭き簡易的な服に着替え、ベッドに寝っ転がる。…昨日や今日の朝に見たときよりベッドが大きく見えるのは自分が一回り小さくなったからだろう。それにうつ伏せになるとベッドに胸が辺り形が変わる感覚に

なんとも言えない気持ちになる。そうしているうちになんだかツヤツヤになったリラさんも脱衣所から出てくる。


「いやぁかわいかったですよ~元々男の子だったとは思えないくらいに。もう女の子になってるときふうちゃんって呼んでもいいですか?」


「うぅ…もう好きにして…」


後から言葉の意味を考えて適当に返事してしまったことを後悔するがもう遅い。


「安心してください元の男の子の時はちゃんとフウガさんって呼びますから!」


そういう問題じゃ無いんだけどなぁとぼやきつつベッドで寝返りを打つ。

それにしても風呂場で鏡を見たとき目を疑った。小顔で、目がぱっちりとして二重で鼻はすらっと小さくまとまっていて、ほっぺたは触ると柔らかくくちびるはふっくらとし狼っぽく少し尖った八重歯がチャームポイントな、均整のとれた美しい体がそこにはあったのだ。とても鏡に映る美少女が自分だとは思えなかった。

リラさんはかわいいと言われた僕の反応をひとしきり楽しんだ後、

「もっと見ていたいですがそろそろ戻らないと…エルにいつまでも任せっきりじゃ悪いですし~

あっ、ふうちゃんのかわいいとこエルにも教えときますね~」といいつつ仕事に戻っていった。

明日エルさんの顔を見れないかも知れない…


それから30分ほど経ち、ウルフとの戦闘からちょうど3時間ほど経過したくらいで、この姿になったときと同じように光に包まれたが今度は心臓の辺りから体全体が白く温かい光に包まれ、数秒経つと光が消え、元の男の姿に戻っていた。


「変身してられる時間は今のところ三時間くらいか…」


この世界の特徴である[特技]は、鍛錬することでその能力が強くなると昨日教わった。

自分のこの変身[獣・魔]も使えば使うほど効果が高くなっていくのだろう。

変身してられる時間が増えたりゆくゆくは変身した姿と元の姿を自由に操作できるようになるのだろうか。

そうだといいなぁと思いつつ、変身後の体も不思議と悪い感じはしなかったと考えハッとする。


「何を考えてるんだ…」


慣れ親しんだこの体よりいい事なんて無い……はずだ。

とりあえず明日魔法を全力で教わろうと心に決め、寝る前に何か食べようかとも思ったが、初めての戦闘や慣れないことの連続で相当疲れていたのか、そのまま意識は眠りに落ちていった。


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