王都とギルド
検問所を抜けてすぐはあまり人がいなく、南の主要道路(長いので南道路にする)があるはずの方向へ進むに向けて人が多くなってくのだが、なかなかの頻度で獣人とでもいえばいいのだろうか、普通の人の耳では無くこの世界に元の世界と同じ動物がいるかどうかはわからないが動物の耳が生えていたり尻尾があったりする人(?)や耳だけが長いエルフらしき人を見かけ、
「本当に別の世界に来たのか…」
と独りごちらずにはいられない。
半ば呆然としながら歩いているとついに南道路と一目見てわかるほど大きい道路に出る。
これまで通ってきた道とは比較にならないほどの人の量に気圧されながらも、少し遠くに見える先ほどより傾いた日に照らされた周りの建物とは一回り大きな建物を目指す。道路には普通縄間や六つ足の馬、毛が赤い熊などに引かれた台車や客車が通っている。一番多いのは六つ足の馬だろうか。他には剣や盾、斧のような武具類、小さめのガラスで作られた淡く光る液体…ポーション?などなんとも異世界チックな物を売っているほか、屋台などといった食べ物を売っている店も見かけた。
いろいろ観察しながら歩くうちについに冒険者ギルドと書かれた入り口のドアの上に書かれた建物の前に着いた。
中を覗くと正面、フロアの中央には掲示板があり、建物の奥には受付があるのが見える。
中に入ると数人の視線がこちらに向くがすぐに興味を失ったように視線を外す。
登録と書かれた札が置いてある受付に近づくと、受付嬢と思われる黒髪で焦げ茶色の目の小柄な若い女性がこちらに気づき事務作業の手を止め顔を上げる。
受付の前に着くと女性はぎこちない笑顔を浮かべ口を開く。
「登録でよろしいでしょうか」
札が置いてあるとはいえ、少し不安だったが合っていたのでひとまず安心する。
よく見ると制服らしき服に名札が留めてあり[エル]と書かれているのが見えた。
「はい」
「では身分証の提示をお願いします」
ポケットから身分証の入ったケースを渡す。受付の女性…エルさんは受け取った後中身を確認して「あら、あなたが…」とつぶやき、再びこちらを見て、
「東南の検問所の方から連絡は受け取っております。転生者のフウガさんですね。冒険者登録の手続きを行ないますが、登録証などを作るのに少し時間がかかりますのでギルドのシステムやこの世界の事についてお教えしようと思います。ここでは他の人の邪魔になる可能性がありますので別室に移動して話の続きを行ないますね」
そういうとエルさんは受付の奥へ行き、名札に[リラ]と書かれたエルさんより背が少し大きく、目の色、髪がどちらも茶色女性に
「登録の手続きをお願い、私は彼への説明をしてくるから登録証ができ次第応接間に届けに来てちょうだい」
と言い、「わっかりました~!」と元気な反応を確認すると受付から出てきてた。
「お待たせしました。案内いたします」
と言われ通されたのは階段を上がった二階の部屋で、部屋の真ん中に長方形のテーブルがあり両側にソファーがある実にオーソドックスな応接間だった。
「おかけください」と促されソファーに僕が座り、一息ついたのを確認したのち
「最初にこの世界について説明します。この世界にはまず、魔力と呼ばれる、魔法や錬金術魔道具を作ったり使ったりするときに使用する一種の[力]が存在します。そして極稀に転生者が現れる事があること、大陸の事はもう聞いたようですが、この他には、お金の単位は[イム]です。共通語と同じく大陸で統一化されています。
次に、この世界の人の種族は我々のような何の変哲も無い人間、動物の耳や尻尾を持った獣人、悪魔などの特徴を持った魔人、あぁ、魔人と言っても性格が悪いとか攻撃的だというわけでは無いんですけどね。
話が少しそれましたが、このように大きく分けて3つの種族がいます。
次に、この世界に生きる人全員が一人一つずつ持つ[特技]と呼ばれる能力があります。[特技]の種類は剣術や槍術などの戦闘系や魔法、錬金術などの魔法系、鍛冶や料理などといった様々な種類があります。
そして[特技]は使えば使うほど努力をすればするほどつまり、鍛錬するほど上手く、強くなっていきます」
その特技は転生者である自分も持っているのだろうか?
「その特技っていうのは別の世界から来た僕も持っているんですかね?」
「そのはずですよ。この[特技]はこの世界の人であれば遅くても10歳になる頃には発現します。例外はありますが大抵の場合自分がしたい、やりたいと思ったことに関連する[特技]になりますね。しかしこの世界に来て間もないフウガさんは能力が発現していてもまだ気づいてない可能性が高いです。通常、発現すると自然と頭に使い方や[特技]の名称や能力が浮かぶんですけどまだ浮かんでないようですし」
「ならふとした拍子に使えるようになるって事ですよね!」
元の世界でできなかったことファンタジー的なことが自分でもできるようになるかもしれないと思うと心が躍る。
「そうなりますね。確実な事は言えないですけどこの世界に慣れてきたら自然と使えるようになるのではないでしょうか」
しかし魔法系の[特技]ではないと魔法や錬金などはできないのだろうか。
「魔法系の[特技]がないと魔法は使えないんですか?」
「そうであるともそうでないともいえますね。錬金術は[特技]が無いとできませんが普通の魔法なら[特技]が無くても使えますよ。それも努力次第ですが…」
「じゃあ錬金術以外の魔法系の[特技]持ちとそうで無い人との違いって何です?」
「規模と習得の早さや繊細さの違いですね。[特技]を持っていない人は規模が大きい魔法を使えませんし、魔法の操作も[特技]を持っている人には勝てません」
なるほど…差別化はされているものの使えはするわけか。是非使えるようになりたいものだ。
「後は…そうですね、殺人などの重大な犯罪を犯すと[特技]が失われることがあるので無いとは思いますが気をつけてください」
犯罪を犯すと[特技]が消えることがあるのか。まぁ犯罪を犯すつもりは毛頭無いので問題ないだろう。
「最後にこの世界には魔物がいます。魔物にも2種類有り、普通の動物が魔力を過剰に摂取した固体と、空間に魔力が溜まりすぎた結果、魔力溜まりと呼ばれる場所が生まれ、そこに溜まった魔力を使い生まれ落ちる固体がいます。前者は元になった動物が強くなるだけなので弱い魔物は弱いですが、後者は強く危険な魔物が生まれやすいです。冒険者は様々な依頼を受けますがその依頼で一番多いのが魔物の討伐となります」
魔物の討伐…か危険であるだろうが[特技]があるこの世界ではどんな職業であれその職業に合った[特技]を持つ人がその職業に就いていると考えられる。なら該当する[特技]を持たない者は常に[特技]を持つ者の後ろを走ることになると言える。
それでは安定な収入を得られはしないであろう。だが冒険者なら依頼は無数にあるだろうから食うのには困るまい。
それでも自分で冒険者として何もできない、もう無理だと思ったならその時考えよう。
「魔物ですか、どんな魔物がいるんですか?」
「弱い魔物で言うとゴブリンやウルフ、スライムなどですね。強い魔物だと、リッチーやドラゴンなどですね」
「この世界についての説明はこのくらいにして、冒険者ギルドの仕組みについて説明いたします。冒険者ギルドは一個人や町、村、国などから依頼される
様々な依頼をギルドに登録している方々に斡旋する機関です。そして冒険者には等級があります。
上位ランクから上から、金、銀、銅、鉄、黒、赤、黄、白の8ランクです。実力と実績が付けばより上位の等級に上がれます。最初は全員白からスタートになり、金や銀級に至ってはほとんどいません。黒からは昇級試験があります.
依頼を受けるとき一人じゃ無理だと思ったら他の冒険者の方と組んだりもできますよ」
「最初から実力があったら上位の等級からになる事は無いんですか?」
「昔はあったみたいなんですけど、実力があっても性格や素行に難がある方や、自分の実力を過大評価し勝てない魔物に挑み死亡する方が殊の外多かったようで廃止になったようです。
それに今の制度でもなんで白からなんだなんて言う人は他の場所でも他人に迷惑をかけそうですから、その時点でふるいにかけられます」
なるほど、昔はあったんだな。
「あとは、ギルドに入ったときに見たと思いますが、一階中央の掲示板に貼ってある依頼を受けることができます。
ゴブリンやウルフなどの弱い魔物は弱い代わりに繁殖力が高いため常時依頼を受けることができますよ。
錬金術で生成するポーションなどで使う薬草もいつも依頼が出されているため最初は戦闘が無い薬草採取の依頼がいいでしょう。
ある程度等級が上がると指名依頼などが来る場合があります。その場合は掲示板では無く直接声をかけますので」
ならば最初の依頼は様子見も兼ねて薬草採取がいいだろう。だがもし薬草採取中に魔物を倒したらどう証明するのだろう?
そもそも魔物を討伐した事を証明するのはどうしているだろうか。
「魔物を討伐した場合、討伐した事の証明はどうしてるんですか?」
「魔物は死んだとき魔石と呼ばれる今まで吸収してきた魔力の結晶を落とすのでそれを持ってきていただければ証明になります」
「わかりました。憶えておきます」
倒した魔物の魔石が討伐の証明になるのか。
「これでこの世界とギルドの説明はこれで終わりです。何か他に質問はございますか?」
質問は…今は特に無いな。
「いえ、特には無いですね。何かわからないことがあれば聞きますね」
「はい。受付に来てくださればお答えします」
丁度話が終わったところで応接間のドアからノックする音が聞こえ、先ほど受付の奥にいたリラさんが入ってきた。
「登録証ができましたよ~!はい、これ!初めて登録したときはタダなんですけど、もし無くしちゃったりしたら今度はお金がかかりますからね!なくさないようにしてくださいね!」
と首にかけられるようになっているチェーン付きの白色のカードを渡してきた。
「ありがとうございます。わかりました」
と受け取る。すると、
「敬語なんていいですよ!無駄に堅苦しいだけなんで!」
「…えぇ、わかりま」
むっと睨まれた。あまり敬語で話されるのが好きでは無いらしい。
「わかったよ。これでいい?」
「はい!」
「エルさんも丁寧に教えていただきありがとうございました」
ここまで説明してくれたエルさんにもお礼を言う。
「いえ、これも仕事のうちですので」
と淡々と答えられる。…対照的だなこの二人。
「転生者さん…なんですよね!許可は取りましたので慣れるまではこのギルドの客室で寝泊まりしていただいてかまいません!今日はいろいろあって疲れていますでしょうし、このまま部屋に案内しちゃいますね!エルもそれでいいよね?」
エルさんもこくりと頷いたのでもう一度お礼を言い、リラさんに付いて応接間を後にする。
「転生者さんなんて初めて見ました!半ば都市伝説みたいなものだと思ってたんでびっくりです!」
「けっこう珍しいみたいだね。いや、いきなりこんなことになって僕も驚いてるんだけど…」
一階が受付、二階が応接間など、三階が客室のようだ。四階より上はギルドマスターの執務室などがあるらしい。
話をしているうち着いたようだ。
「ここが客室です、今日は疲れを取って、慣れないでしょうが明日から頑張ってください!」
「ありがとう。しっかり休むことにするよ、じゃまた明日」
笑顔で手を振るリラさんに、頭を下げ気味でドアを閉める。
部屋の奥に入り、窓の外を見ると、夕焼けを通り過ぎて日は落ち、夕闇が広がっていた。思っていたより時間が
経過していたようだ。
「異世界に魔法に特技に魔物か…夢みたいだなぁ…」
と独りごちながら再び窓の外を見て気づく。
「月が二つある…」
元の世界にいた頃にはあり得なかった光景が否応なしに自分が異世界に来たことへの実感を沸き立たせる。
しばらくぼーっと外を眺めていると、ドアからノック音が響いた。
返事をしながらドアを開けると、そこには先ほど別れたリラさんだった。
リラさんは手に持っていた紙袋を差し出して、
「この世界に来てから何も食べていないようでしたので、外の屋台で買ってきちゃいました!よかったら食べてください!」
見計らったかのようにぐぅぅっと自分の腹が鳴る。
「ふふっやっぱりおなか空いてたみたいですね」
と言われ、自分の腹が空いていることに初めて気づく。他のことに頭がいっぱいで自分が空腹であることに気づいていなかった。
改めてリラさんにお礼を述べた後、紙袋を受け取る。
「では改めて、また明日会いましょう!おやすみなさい!」
と言った後リラさんは去って行った。部屋の椅子に腰掛け、紙袋の中身を取り出すと、肉が挟まれたパンと瓶に入ったほのかに果実の香りがする水が入っていた。
甘辛い肉とパンをありがたくいただき、果実水を飲んだ後、ベッドに寝転がり今日起きたことを振り返るうち、いつの間にか眠りに落ちていた。