検問所と門番
道に沿い歩いて数時間は経過しただろうか。
体感で1時間ほど歩いたあたりで前方に薄っすらと城壁のような物が見えていたのだが、侵入者を防ぐためにあるのであろう水堀と、壁をくりぬいて作られたであろう検問所のような建物が見えたのはついさっきのことだ。
今まで辿ってきた道は水堀に架かった検問所(仮)へ繋がる橋へ続いていた。
あそこなら人がいるだろうと橋に近づいて行くと橋の向こうから自分の事を見つけたのであろう鎧を身に着けた(鎧!?)騎士風の男が、僕が橋に差し掛かる前に近くまで寄ってきて、大声を出した。
「ーーーーーーー!」
困った、言葉が分からない。
「すいません、言葉が分からなくって」
と一応言ってみるものの言葉が通じている様子は無い。
しかし聞いたことの無い言葉だ。などと考えていると、目の前の騎士風の男がハッと何かに気付いた様子を見せ考え込む仕草を見せる。
しばらくすると男は僕の足元を指差した後、待っていてくれとでも言いたげな手の仕草をした。
「ここで待ってればいい?」
と言葉が通じていないとわかっていつつも手で自分の足元を指差し、男を見る。
すると男は手はそのままでこちらの顔を見て頷き、検問所(で合っていたようだ)へ走って行った。
この壁の規模からして大きな都市なのだろうなと考えながら、しばらくすると先程の男が橋の対岸から駆け寄って来て指輪を差し出してきた。
この指輪を嵌めればいいのだろうか、だがもしこの指輪に何か不思議な力が有ったりしたら…と受け取るのを躊躇していると、男は僕が警戒している事を察したのか自身の指に指輪を嵌めて危険が無い事をアピールしてきた。
男が指輪を嵌めて見せてくれ、危険が無い事を一応確認できたので今度は素直に受け取り指輪を嵌めてみる。
特段何か変わった気はしないが…
「これで言葉が通じるようになったか?」
さっきまで何を話しているのかが全く理解できなかった男の言葉が突然理解できるようになった!?
「えっあれ?言ってる事がわかる!?」
急に意思疎通ができるようになったことに動揺していると、
「通じているようだな。これは翻訳の指輪っつう魔道具でな、違う言語をお互いに話していたとしても片方がそいつを付けてりゃ話が通じるっつう代物だ。」
翻訳の指輪?魔道具?
「あーそうか転生者なら魔道具も何も知らなくて当然か」
聞き慣れぬ言葉ばかりだが転生者という言葉が引っかかりたまらず聞き返す。
「転生者…ですか?」
「そうだ。この世界には極稀に転生者と呼ばれるこことは別の世界から来た者達がどこからか現れるんだ」
転生者…か。
あの事故に巻き込まれ傷1つ無いことで薄々気づいてはいたがまさか本当に転生して別の世界にいるとは。
しかしなぜこの男は自分が転生者だと気づいたのだろうか。
「なるほど、しかしなぜ僕が転生者だとわかったんです?」
「そいつはだな、ここは二つの陸地で構成されたツイムーンと呼ばれている、この世界で確認されている唯一の大陸なんだが、言語は大陸全体で[ツイムーン共通語]として統一されてるんだ。
だからこの大陸でツインムーン共通語を理解できない奴はまだ憶えてない赤ん坊か転生者ぐらいなもんって訳だ。で、こういう検問所には極稀とはいえ転生者とを思われる者が現れたときに備えてこうして翻訳の指輪を置いてあるんだ」
なるほど、だからこの指輪を取りに行ったのか。
「ここでずっと立っているのもなんだし検問所へ歩きながら話そうか」
そう言って男は検問所の方へ橋を渡り始めたのでついて行くことにする。
「そうだ、まだ名乗ってもいなかったな。俺はカイン、この検問所の門番をしている。あんたの名前は?」
「楓翔です」
「フウガか、いい名前じゃないか。見たところこの世界に来てからそれほど時間は経ってないだろう?まだ何もわからないだろうしここはどこか話しておくが、ここはエンドール王国の王都ドールだ。形は円状で中心に王城があって東西南北に城壁の内外を隔てる大門に繋がる主要道路がある」
王都に王城か、見た感じこの検問所は主要道路に通じてるわけでは無いようだ。
「この検問所は大門じゃないようですけど王都のどこら辺なんですか?」
「この検問所は王都の南東だな。通常あまり使われない裏口みたいなもんだ。使うのは大門を使うよりここから城壁外に出た方が速く外に出られる冒険者の連中ぐらいだな」
そう説明されている間に検問所に着いた。検問所に連れてこられたもののここからどうするのだろうか。
「ちょっと待っててくれ、建物の中にいる連中も気づいてはいるだろうがあんたには身分証が必要だ」
そう言うとカインは検問所の中に入っていった。
冒険者かならその冒険者を束ねる組織があるのだろうかと考えながら少ししてカインが出てきた。
「ほら、これが仮の身分証だ。」
と仮身分証、フウガ(見たことの無い文字だが読めた。これも翻訳の指輪の効果だろう)と書かれ、検問所の物と思われるサインが書かれた紙が入った半透明のケースを渡された。
「こちらから先に連絡しておくからこれを持って冒険者ギルドに行ってくれ、たぶん身分証を得るならそれが一番速い。この検問所を出て左にしばらく進むと南の主要道路に出るから、主要道路を中心に向かって歩いて一番大きい建物が冒険者ギルドだ」
やはり冒険者を纏める組織があるようだ。
「わかりました、ありがとうございます」
「あぁ。すまない、案内してやれればいいんだが職場を長く離れるわけにはいかないんでな」
「いえ、助かりました。では行ってきます!」
「おう、なんか困ったら相談しろよ!」
「はい!」
送り出してくれたカインにお辞儀をしつつ、もらったケースを服のポケットに入れ冒険者ギルドへ歩き出した。