筋肉痛と昼食
今日二回目の起床はノック音だった。
「フウガさーん!起きてますかー?大丈夫ですかー?」
この声は…リラさんだな。まだ痛くて起き上がれないので寝てる間に解けた狼娘の姿に再度変身し、男の時より長い髪を顔から払いながら部屋のドアに向かう。
ドアを開けると思った通りリラさんが居た。
「良かった。なんとも無さそうで…あれ?なんでトランちゃんなんですか?はっ!?もしかして女の子姿の方がしっくりくるとかですか!」
何でそんなに目を輝かせながら言うんだ…
「いや違う、違うから…」
「違うんですか…残念です。まぁ冗談はさておき」
目が本気に見えたのは気のせいだと思いたい…
「特に体調が悪かったりするわけでは無さそうで安心しました!昨日聞いていたと思いますが、ギルド長から目をかけるように言われてますし、何より私自信も心配になったので来ちゃいました。」
リラさんも、会ったことはまだ無いギルド長もだいぶ過保護みたいだ。……この年で過保護の対象になるとは思わなかったが。
「で、結局なんで変身してるんです?」
「実は…昨日はヘルミネに剣を教えて貰ってたんだけど激しく動きすぎて動けないくらいの筋肉痛になっちゃって。それで変身したら何か変わるかもと思って変身したら筋肉痛が和らいだんだよ」
「なるほど~!」
納得してくれたようだ。
「ところでトランちゃんはこの後どうするんですか?」
名前は…忘れるわけ無いか…
「昼食でも食べようかと」
「なら一緒に食べましょうよ!少し遅いですけど私今お昼休みなんで!」
「そっか。なら一緒に食べようかな。ちょっと待ってて、お金を持ってくるから」
「はい!」
お金の入ったピーチを持って部屋を後にする。
そこまでリラさんの昼休みが長いわけではないのでギルド併設の食堂に向かう。
受付の前を通ったがこの姿のせいで他の冒険者からだいぶ注目を集めたようで向けられる視線に居心地が悪かった。
食堂に着くと今日もおばちゃんが厨房に居た。
「おや、アンタ見ない顔だねぇ…いや、銀髪に狼の耳と尻尾……アンタも大変だねぇ。まぁ、頑張りな」
「え……はい。ありがとうございます」
なんかバレてそうだなぁ…おばちゃんはいったいどこで情報を仕入れてるのだろうか。
「おばちゃん!あたしはサンドイッチで!」
「サンドイッチね。アンタは?」
朝食べてないから…
「ボクはサンドイッチ二人前でお願いします」
「はいよーじゃあちょっと待っててね」
しばらくして三人前のサンドイッチを受け取りテーブルに移動する。
いつもよりサンドイッチに入ってる肉が美味しく感じる。これはこの姿だからだろうか?
サンドイッチにかぶりついているとリラさんがじっと見つめてきた。
「…何か顔に付いてる?」
「いえ、美味しそうに食べるなぁって。つい見とれちゃいました」
「はぁ…でもボクの顔眺めたって何も出ないよ」
「可愛いからいいんです!トランちゃんはもっと自分が可愛くなっている事に自覚持った方がいいですよ!」
「でも…」
「でもじゃないです。今は女の子なんですから」
うぅ……そんなこと言われてもなぁ…
そういえばそろそろ変身してから30分経つな。今ここで変身が解けたら…と考えて身震いする。
リラさんに「ちょっと出てくるね。数分したら戻っくるから」と言い、逃げるように人が居ない場所を探す。
もう地下練習場でいいか。と思い地下練習場に駆け込み、ドアを閉めてドアを背に座る。座ってすぐ変身が解けた。
危なかった…もう少し遅かったら大惨事になっていた。とにかく変身をし直す。変身することに抵抗が少しなくなってきていることに
気付き一抹の不安を抱いたが努めて考えないようにして食堂に戻った。
「何しに行ってたんですか?」
「変身し直したんだよ。こんな多くの人が居る状態で変身し直したくなかったから…」
「別に私たち以外にも知られたっていいと思いますけどね。」
「ボクが気にするの!恥ずかしいし」
そんな話をしながらサンドイッチ二人前をペロリと平らげた。
「そろそろ戻らないとです。またご飯一緒に食べましょうね!」
エルさんは受付に戻っていった。
ボクは…どうしようかな。30分で変身は切れるからギルドの外に出る訳にもいかないし。
なら部屋から剣を持ってきて素振りでもしよう。
一旦部屋に戻って剣を準備し地下練習場に向かう。今日はヘルミネも居ないので一人で黙々と素振りを始めた。
素振りと行っても上下に振るだけじゃないので激しく動くと尻尾の毛がふくらはぎに当たってこそばゆい。
元の姿の時は100回も素振りすれば汗だくだったがこの姿では途中変身し直したりしたものの200回ほど素振りができた。
200回も素振りをしたので疲れた。ここらで終わりにして部屋でシャワーを浴びよう。
汗でワンピースもぐしょぐしょで気持ちが悪い。地下練習場を出て好奇の視線を浴びた事で気付く。
これもしかして汗でワンピース透けてたり…
恐る恐る体を見るとぐっしょりと濡れたワンピースが肌に張り付いて素肌が透けて見え、張り付いているため下着こそ見えていないものの局所的に
体の線が浮き彫りになっていた。
「~~~~っ!」
またもや恥ずかしさで顔を真っ赤に染めながら、どこか冷静な部分で異世界に来てから毎日のように顔を真っ赤にしてるなぁ…と思いながら
自分の部屋に向けて小走りで向かった。
毎回のことだがなるべく自分の体を見ないようにしながらシャワーを浴びベッドに寝っ転がる。
ワンピースは濡れていて着られないので下着のままだ。地肌はまだあまり触ったことは無いが、ふと尻尾が気になったので触る。
先ほどシャワーを浴びて乾かすときに触ったがこうしてシャワー以外でまじまじと触るのは初めてだ。すごくさわり心地がいい。しかも結構大きいので抱えることもできる。
抱きしめてみると温かくて気持ちがいい。癖になりそうだ…あまりのふさふさ感と尻尾を抱きしめられる安心感に手放す気を失う。やばい、気持ちよすぎて眠くなってきた…
結局眠さに抗えず素振りで疲れたのもあり熟睡した。