剣の練習
目が覚めた。脳裏をよぎるのは昨日のシャワーの見間違いだが特に変わった様子は無い。
目が完全に覚めるまでぼーっとしてから身嗜みを整える。今日は酒場じゃなくて南の大門に行く道すがら屋台で何か買って食べようかな。
ギルドを出て通りを南に向かって進む。すると肉を焼くいい匂いがしたので向かってみる。
匂いがした場所はソーセージのようなものを串に刺して焼いている屋台だった。
昨日の夜も肉食べたけど…まぁいいか。
「おっちゃん!一本ちょうだい!」
「あいよー1本250イムだ!」
250イム払って一本手渡して貰う。早速かぶりつくするとパリッといい音を立てて膜が破れ肉汁とともに肉のうまみが口に広がった。
「あつッ!けど美味しい!」
そこそこの大きさだったがすぐに食べ終わった。
「ありがとよ!また買ってくれな!」
「また来るよ。ご馳走様!」
串も回収してくれたので捨てる場所を探さないで済んだ。
結構腹に溜まったので南の大門へ向かう。
例によってカインに取り次いで貰い事務所の個室に通される。
「…よう、一応聞いておくぞ。昨日のあれはお前だな?」
「はい。そうです…」
「よし、本人確認完了。もう帰ってもいいぞ」
「何も聞かないんですか?」
「聞いたところで何か変わるわけでも無いだろ喋り方まで変わっていたのには驚いたが…ただ次他の姿で来てもそう驚きはしないだろうな」
「そうですか…すみませんお手数おかけします」
「いいんだ。これも門番の仕事だからな…」
…そうはいってくれたものの目が少し泳いでいた。
南の大門を出てギルドに戻った。
地下練習場にヘルミネはまだ来ていないようで先に素振りでもしておこう。
剣を鞘から抜いて素振りをする。
素振りも三日目となりそろそろ剣にも慣れてきた…気がする。
体が温まってきた頃ヘルミネが来た。
「おはよう!フウガ。ちゃんと素振りしてるな!いいことだ」
と言って背負っていた大剣の他に手頃な大きさの木剣を取り出した。
「とりあえずこの木剣で素振りしてみろ」
木剣を渡されたので木剣に持ち替え素振りをする。
「少し手慣れてきたくらいか。じゃあとりあえず私にその木剣で斬りかかってみろ」
「えっいきなり?」
「魔物相手に型など不要だろ。実戦の方が遙かに役に立つだからかかってこい」
「怪我とか大丈夫なのか?」
「何のための木剣だと思ってるんだ。刃が付いてるわけじゃ無いんだから少し当たったくらいで大した怪我にはならん。だからかかってこい」
「わかった」
とりあえず木剣を構えて真正面から斬りかかる。右斜め上から振り下ろすも軽く受け流される。ならばと今度は横方向に振るが少し後ろに下がるだけで躱されてしまった。
「腰が引けてるぞ!もっと自信を持って堂々とかかってこい!」
一層気合いを入れて斬りかかる。もう一度右斜め上からの切り下ろし…また受け流される。今度はヘルミネが剣を振るう。
僕と同じ方向での振り下ろしだ。木剣の軌道上にこちらも剣を構え受け止める。
木剣同士が衝突した瞬間肩にずっしりとした重みが走った。そして抵抗しようとした時には押し負けていて、そのまま後方に押し飛ばされ地面に転がる。
「魔物相手に正面から力勝負を挑むのでは力負けするぞ。さっき私がやったように受け流すことを心がけろ。さぁ、まだまだやれるだろう。張り切ってかかってこい!」
「あぁ!もちろん!」
ヘルミネとの特訓は僕が持っていた木剣がミシッと音を立てて罅が入りさすがに危ないという事で終わりになるまで続いた。
腕が震える。元の世界に居たときは決して運動していないわけでは無かったがこれだけ体を酷使したのは久しぶりだ。
ヘルミネを見るとほぼ息が乱れていないのがわかる。これが技量の差かはたまた体力の差か、それともどっちもか。どっちもなんだろうな…と思いつつ休む。すると、
「まだまだ手が大ぶりだな。剣を大きく振りかぶるような大げさな仕草はいらない。もっと効率的に、最小限の動作で攻撃をしろ。だが初日にしてはなかなかいいんじゃないか?最後の方は少しずつ受け流せるようになってきていたしな」
アドバイスを貰った。次はアドバイスされたことも意識していこうと思う。
「さて、腹が減ったな。もう昼は過ぎているだろうし昼飯を食べに行こうか」
「あぁ、そうだな」
地下練習場を出るとやはり昼は過ぎていた。1時半くらいだろう。度々休憩を挟んでいたとしても四時間も剣を打ち合っていたことに驚きつつギルドを出た。