一眼レフを手に入れた1
合格発表まではかなり不安だったけど、無事に希望の地元では所謂進学校としての評価も高い高校に合格してから暫く経ったある日。自由登校という名の休日をだらだらと過ごしていた奈保は来客を告げるインターホンのチャイムでだるそうに立ち上がった。
インターホンのモニターを確認すると卓郎叔父さんの満面の笑みが映っていた。
「あれ~、叔父さんお久し振りです。今開けますね」
玄関の鍵を外しドアを開けると大きな手提げ袋を下げた卓郎叔父さんが挨拶しつつ中に入って来る。
「さっき兄貴に電話したけどさぁ、奈保ちゃん家にいるはずだからって…って、M高校合格したんだってね。おめでとう!」
手提げ袋を下げたまま叔父さんはいつものように良く通る声で話しかけてくれた。
「ありがとうございます!なんとか無事に受かりました」
下げた手提げ袋が少し気になる。あれはお菓子とかじゃあないなぁなんて思いながらも私が小さな頃から凄く優しくてお世話になっている叔父さんにお礼を返した。
「本当は兄貴のいる日にお邪魔するつもりだったけど、ちょっと明日から出張でね、たまたま今日はこっちで予定有ったからついでに前に約束してたこれ渡しに来たんだよ。」
叔父さんは話しながら手に下げていた袋を私の方に置いた。
「前の約束って…あっ、お正月の話しですか?」
私は一瞬考えたけど叔父さんがお正月に年始の挨拶に来た時に話していたことを思い出していた。
「確か、新しいカメラ買ったら古いの私にくれるって…」
「そうそう!遅くなっちゃたけど、やっと新しいやつ買ってさぁ、あの時約束してたからこれ渡しに来たんだ。」
叔父さんは置いた手提げ袋を指差しながら、
「一応作動確認してるから問題ないはずだけど、兄貴がそこんところは詳しいから聞いてな。また兄貴にも連絡しておくね。」
お正月に父と叔父さんの共通の趣味である写真の話しで盛り上がっていた時に私も写真好きでスマホでSNSに上げたりしてるよなんて自撮りなんかを見せながらしゃべっていたら、写真好きならカメラ持っていてもいいよね。今度新しいカメラ買う予定だから、買ったら古いカメラ奈保ちゃんにあげるからって流れになったんだっけ。すっかり忘れてたなぁ。
「うわ!忘れていた!本当にくれるんですか!じゃこの中身って一眼レフってやつなんですね。父のをたまにかまわせてもらった事あるけど凄く重いから私には無理かなぁなんて思ってたし、一眼レフって凄く高価なんですよね。」
「確かにスマホに比べたら重いけど、慣れたらそうでもないし、値段も申し訳ないけどこれは少し古い機種だからたいしたものでもないから慣れる迄の練習用だと思って。まぁ兄貴のカメラも見てるだろうし、使い方も兄貴のとほとんど同じだから詳しい話しは黙っていても兄貴がするはずだから。」
叔父さんは笑いながら話すと懐から祝儀袋を出して私に、
「高校合格おめでとう。これはお祝い!頑張ってね。あまり時間なくて今日はこれとこれ渡しに来ただけだから。兄貴とお母さんによろしく伝えてね。」
祝儀を渡し終えた叔父さんのドアノブに手をかける姿を見ながら私は、
「叔父さんありがとう!大切にします!」
声をかけながら見送った。