天国について
今日はラッパの音で起きた。正確には今日も、なのだが。使用人であるフローックという、現世にいるアヒルの姿に似た鳥が鳴らしたのだ。
この世界には大きく分けて2つの存在がいる。1つ目は現世で善行を積み、天国の門番に赦された魂が、次の転生までひと時の安らぎを得る為にいるもの。2つ目はこの天国で生まれ天国で生涯を過ごすもの。前者の中には永住する者もいるし、後者の中にも転生する者がいたりするが、基本は変わらない。
このフローックも含め僕や僕の周りの者は大体後者にあたる。フローックは、普段から騒がしく物忘れが激しかったりするが、集団行動は随一の能力を持つ鳥だ。その中でも我が城で暮らし働いているフローック達は精鋭揃いなので、今朝も日課を忘れることなく起こしてくれたのだ。
寝返りを5回打ってもまだ余裕のあるベットから体を起こして、ベットの近くに置いてある手鏡で自分の姿を見た。髪はぼさぼさで所々はねていて、茶色という色合いと相まって、木の幹が頭から生えているように見える。目も眠たそう…、なのはいつもだが、今は寝起きということもあり更に眠たそうだ。
窓から差し込む暖かな光を浴びながら、鏡を戻し背伸びをする。ベットから降りた立ち上がって、萌黄色で丈の長いだぼだぼのパジャマで目を擦る。
ベットの前の鮮緑色の机の上に、花緑青色のコップが置いてある。中にはひんやりと冷えた水が入っていたので、それをぐびっと飲んだ。きっとフローック達が用意してくれたんだろう。
ちなみに、この鮮緑色や花緑青色をしているのは、天国でしか採れない、瑞春石という特殊な鉱石で作られているからだ。机やコップだけでなく、奥にあるタンスや棚も含めこの部屋の全ての調度品は瑞春石で出来ている。
そろそろお気づきかもしれないが、僕は緑色が大好きだ。床や壁さえも緑にしてしまうぐらいに。服も緑が圧倒的に多い。流石に緑一色なのはこの部屋のみだが、城の中には随所に緑の調度品がある。
本当のことを書くと城も瑞春石に建て直したい。だがそんなことをすれば周りや国民がドン引くし、何より今のこの城がもったいない。まぁ、天国にもったいないなんてことはないのだが。それでも質素な気持ちは大事である。
水を飲んだことによりかなり目が覚めた。私室兼寝室を出て洗面所へ向かう為右に曲がる。
部屋の側に控えていたフローック達が敬礼をした。
「おはようございます、くりじい様!」
「おはよう、今朝も水をありがとう」
王様ではなくくりじい様と呼ばせているのは、僕が敢えてそう呼ぶよう言っているからだ。特に深い理由はないのだが、王と呼ばれるより名前で呼ばれる方がしっくりくるのである。
そのままフローック達はいつも通り洗面所まで付いてきてくれた。