7 銀河系ニュース
銀河系連合に加盟した地球には、定期的に銀河系ニュースが配信された。
膨大な量のニュースに埋もれるように、例の、地球が詐欺にあった事件は、「僻地の話題ピックアップ」として、小さく取り上げられていた。
犯行グループの主犯は、取調べに対して、
「地球から発せられた電波を傍受・解析して、あの手口を知った。興味本位で、つい模倣してしまった」
と供述した。
解説記事によると、こと犯罪の手口に関しては、地球のレベルは銀河系連合でもトップクラスで、特に日本の『オレオレ詐欺』『振り込め詐欺』、あれはすごいアイディアだと、銀河系連合でも話題になっている。銀河系最大のメディアでトレンド入り。銀河系で知らない者のいないバズワード『オレオレ詐欺』――その手口は急激に銀河系連合全体に広まっており、銀河系警察機構の対応は後手後手に回っている。
記事を読んだ木本は溜息をついた。
「なにこれ? まるで地球が、詐欺手口の輸出大国、詐欺の本場みたいな扱いじゃん」
「その詐欺の本場が、まんまと騙された訳やから、宇宙中の笑いもんや」
ドクター丑松も憤慨していた。
「なんかもー、めっちゃ悔しいッス。名誉挽回できないんすか?」と中田くん。
「地球の名誉なんか考えてる場合ちゃうで」と丑松。
ドクター丑松の言うとおりだった。
銀河系連合から、新たな廃棄物転送技術が提供されたのである。
しかも汚染された地球環境の回復支援という人道的目的から、その技術は無償供与され、メイドイン銀河系連合のゴミ転送施設は世界中に急速に普及した。
「まるなげクン」は商売上がったり。
おまけに銀河系連合の気高い倫理性が地球中で賞賛され、その反対に、今まで私利私欲のために転送技術を独占してきた「まるなげクン」財団は、厳しい国際的非難を浴びた。
「まるなげクン」財団は収入源を失い、同時にO市も財政難に陥った。
「まるなげクン」の生む利益に依存するばかりで新たな産業の育成を怠ってきたO市。財政破綻を危ぶむ声も高まった。
どこに行ってもダニかゴキブリを見るような冷たい視線を浴びせられることに辟易し、家にこもりがちになった木本たちは、新たな食い扶持を考えあぐねて鬱々とした日々を過ごしていた。
その間も、宇宙環境保護団体「ブラックピース」日本支部代表者星野ひかりは、相変わらず意気軒昂として公式サイトでゴミ転送技術を批判していた。
「これ以上地球のゴミを宇宙に転送し続けると、地球の質量が減少してしまいます!
それは地球の公転軌道に悪影響を及ぼし、思わぬ自然災害を引き起こす危険性があります!」
銀河系連合歴1355XX年(地球西暦20XX年)、銀河系連合最大の広告代理店が主催する「銀河系流行語大賞」の第一位に「地球する」という言葉が選ばれた。詐欺師が詐欺にあう、自業自得、といったニュアンスで使われているらしい。こんな不名誉な言葉で取り上げられ、はっきり言えば小馬鹿にされているにもかかわらず、とにかく銀河系で一位だということだけで浮かれ騒ぐ愚かな地球市民の多さには、ただただ呆れる他ない。