6 フレンドリーな艦長の話
支払いから数ヶ月後、巨大な宇宙船がまたもや飛来して、日本上空に停止した。
今度の宇宙人は、前回とは違っていた。
とてもフレンドリーな感じで、日本国首相に対して、スマホの有名な無料通信アプリを通じての映話の許可を求めてきた。映話は誰でもアクセス可能で、市民の多くが視聴した。視聴率は80%を突破した。
映話画面に映し出された宇宙人はとても朗らかな感じで、しかも流暢な日本語を話した。
「こちら宇宙船ディスカバリー号」
「どこかで聞いたような名前ですが」
「あはは。冗談冗談。いやー、地球の映画って、ホントーにいいものですね。旅の途中、電波を傍受して、たくさん鑑賞しましたよ。ネットに落ちてた海賊版ですがね」
「あの……なんの話でしょうか?」
肝っ玉の小さい首相は、多くの国民が注視していると考えただけで緊張し、話の内容もよく分からない始末。国会と違って、事前に配られる質問リストも、役人が書いた答弁原稿も、予定調和のシナリオもないのだから。
「いや、失礼失礼。当方の正式な名称は、銀河系連合の、僻地開発局ファーストコンタクト課の高速巡洋艦フロンティア号。私は艦長の§〒※¶〓¶‥¶と申します。よろしくお見知りおきを」
その名前は地球人には発音不能だったので、首相は困り果て、結局、艦長さんと呼ぶことにした。
「ところで、艦長さんはなぜ、この日本にいらしたのですか。目的は何でしょうか」
「日本はいいなーと思ってさあ。礼儀正しいし。専守防衛? 憲法九条? いいんじゃない?」
宇宙人の発言を聞いて、日本の知識人、リベラルや護憲派らは、みな感動に胸を熱くし、涙を流した。
「それだけじゃないよ、日本の素晴らしさは。
お・も・て・な・し♪
和食♪ それに、
ゲイシャ!
吉原!
アダルトビデオ!
JKリフレ!
いろいろ楽しそうじゃん? HAHAHA!」
それを聞いて良識派は憮然とし、日本国民の感動は潮が引くように消え去った。
――わたしたちの感動を返せ。
首相には、宇宙人のユーモア(というかイヤミ?)に対応できるスキルはなく、とりあえず無視して、事務的に尋ねた。
「とにかく我が国を気に入っていただけたようで(ゴホンゴホン!)あー、大変結構でしたが。それでですね、ここからが本題なのですが、あの宇宙空間を汚した件の賠償金は、きちんと環境回復に役立てていただけているのでしょうか?」
「それそれ。その件でわざわざ来たわけなんだけどさー、あれって、実は詐欺だったわけ」
「詐欺? どういうことでしょう」
「あー、もちろん犯人グループはすでに逮捕され、取り調べも進行中なんで」
「あの? 意味が分からないのですが?」
「銀河系連合環境保全機構という組織はたしかに実在するんだけどね、今回の犯人はなりすましだったの。名前を騙って、地球から金を巻き上げた訳。地球のみなさんも、ちゃんと相手の身元を確認してから、対応しないと」
「しかし、我々地球が宇宙を汚染したことは事実で……」
「汚染? あはは。たしかに汚染といえば汚染だ。しかしね、例えばあなた、家の目の前でウンコされたら憤慨するでしょ。糞害だけに。あはは。ウケル? ウケル? でもさ、それが太平洋の真ん中でウンコしたんだったら、ご自由にどうぞ、って感じじゃん? 海は広大だし、そもそもクジラのウンコだって莫大な量が垂れ流しなわけだし。まあ、今回の地球からのゴミ不法投棄ってのは、太平洋の真ん中でちょっとウンコしちゃった程度の話なわけよ」
「じゃあ、損害賠償ってのは」
「だから、詐欺なの。損害なんてどこにも発生してないわけ」
「しかし放射性物質を……」
「まあね、地球のような狭い環境中に放射性物質をバラ撒けば、それは大問題だ。でもね、宇宙は無限に等しいほどに広大なんでね。放射性物質自体、宇宙の中には、普通に溢れているわけで」
「なるほど……で、騙し取られた金塊は戻ってくるのでしょうか」
「銀河系警察機構が、金塊の行方を、一応は追っているけど……騙し取られた財物が戻ってきた話は聞いたことがありませんねぇ」
「そうですか」
「とりあえず、銀河系警察機構に対して、地球として正式に被害届を出すということでよろしいですか?」
「それは私の一存ではなんとも……」
自分一人では何も決められない首相だった。