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告げて、はじまり  作者: 冬野ふゆぎり
六年目:
56/62

重ねて、六年

 恋の話をすること自体は嫌いではないけれど、どちらかといえば、自ら進んで話す、ということはあまりなかった。昔から、周りには話したがりな友人が多かったから、延々と繰り出される惚気に相槌を打っている方が余程気楽だったし、何より気恥ずかしさが勝つ性分だから、話さなくていいのならそれで良し、という気持ちも、正直なところあって。

 けれど、何故だか良充さんとのことに関しては、奈緒や久保さんに上手に聞き出されるままに、ふっと零してしまうことも多くて、酔いが醒めて我に返ることもあったものの、二人ともが口が堅いから、秘めた想いが誰に漏れることもなかったのだけれど。

 しかし、いくら周囲から押されたとはいえ、わざわざ外に向けて、それをさらすことになろうとは。

 「良充さん、第一問に、どれだけ時間掛けるつもりなんですか?」

 十月も半ばに入った、秋の夜長。薄いキーボードを叩く音が静かに響く、彼の書斎で。

 グレーのワークチェアを軽く回して、まるで、かつて共に机を並べていた時のように、私はすぐ左隣の席に座っている良充さんに、そう声を掛けていた。

 すると、忙しく動かしていた手を止めて、同じデザインの黒の椅子を軽く軋ませた彼は、珍しく困ったような視線を向けてきて、

 「だって、馴れ初めっていうテーマだからさ。やっぱりサビ子さんのことは入れないといけないし、美冬さんが言ってくれたことも、笑顔が可愛くてきゅんとしちゃったことも大事なポイントだから、どうやってコンパクトに纏めようかって悩むじゃない。そうだ、フォントサイズもっと小さくしてもいいか、交渉してみようかなあ」

 「……そんな詳しい心情まで、周りに知らしめないでいいですから。『猫を拾ったことが縁で』くらいで十分じゃないですか」

 妙に悩ましげな声で、チェアと色を揃えたスチール製の黒い机の天板に肘をつきながら、さらりと恐ろしい台詞を投げてくるのに、私は呻くような声を上げていた。

 彼の目の前に置かれた、ノートパソコンのモニタに展開されているのは、ブーケと星、そして色とりどりのハートで構成されたフレームで飾られた文書ファイルで、その中にはポップな雰囲気のフォントで記された標題と、幾つかの設問が並べられている。

 A4サイズに指定されたそれは、既にレイアウトが完成していて、用意されたスペースに問いの答えを直接入力できるようになっているのだが、第一問のそこには、正に限界までみっちりと、文字が詰め込まれているようで。

 「うーん、シンプルでそれもいいんだけど、久保さんに『惚気とラブ度にかけては絶対うちが一番ですから!負けませんからね!』って言われちゃったから気合い入れようかな、って。あ、そうだ、僕だけじゃなくて、美冬さんのその時の気持ちも重要だよねえ」

 「ちょ、そんなこと今更聞かなくたって分かってることじゃ……もう、すぐそうやって迫ろうとするんですからー!!」

 キャスター付きなのを最大限に利用して、足のひと蹴りで椅子ごと身を寄せてきた彼が、抱きすくめようと長い腕を伸ばしてくるのを必死で避けながら、私は事の起こりとなった、若い部下の屈託のない笑顔を脳裏に浮かべていた。



 藤宮市役所の中には、不思議なことに職員の間で自然発生したグループが幾つかあって、そのうちの代表的なものが『ユース』だ。遥か昔には、青年会、などと呼ばれていた頃もあったそうだが、とにかく若者同士の親睦を深め、あわよくば新人女子とお近づきに、という、発起人のいささか邪な思惑から生まれたものらしい。それが何をどう転んだのか、発足から数十年経った今でも、入りたくなければ入らずともよし、齢三十になったら引退、という伝統を守って、その活動は脈々と受け継がれてきている。

 そして私はと言えば、所属していた当時はそれなりに企画やイベントにも参加し、主に奈緒含む同期と組んで、真面目なことも馬鹿なこともやらせてもらって、楽しんだ記憶がさまざまに残っているのだが、もう引退して随分経つから、現況などは把握していなくて。

 だから、今年の新規採用者二人が、私の元に連れ立ってやってきた時も、何が起きたのかも分かっていなかったのだけれど、

 「……『新婚カップルに10の質問』?あの、これっていったい、何なの?」

 木曜日、昼の休憩時間も終わり間際になった、自分の席で。

 目にも眩い色彩のハートのフレームに囲まれた中に、何やらずらりと設問が並んでいる用紙をいきなり手渡されて、私は困惑しながらそう尋ね返していた。

 「実はですねー、来月のユースの会報の目玉企画でしてー。ほら、ひぐっちー解説ー」

 「えっと、実は、ここ一年以内に結婚したカップルが例年より多かった、ってことで、突発インタビュー企画やろうかってことになりまして……それで、是非とも係長ご夫妻にご参加いただければということで!」

 ふわふわとした特徴的な癖のある髪を揺らして、機嫌良さげな笑顔で応じた川名さんに、促すように背中を叩かれた樋口くんが話してくれた概要は、こういうことだった。

 昨年九月から一年の間に結婚した夫婦に、簡単なアンケートと、テーマに沿った写真を何枚か提供してもらい、それぞれ見開きの記事にするということらしいのだが、

 「せっかく八組もいらっしゃるんだし、皆さんにただご協力いただくだけじゃもったいないですから、どのご夫婦の記事が良かったか投票してもらおう!ってことになって」

 「優勝者にはですねー、豪華!かどうかは予算の都合でまだ分からないんですけどー、ユースメンバーセレクトのなんか新婚っぽいアイテムをご用意する予定でー」

 「……ちょっと待って。この『投票基準』って……」

 セールストークめいて交互に繰り出される台詞の合間に、私は返した裏面に記載された、ある一文に目を止めていた。



 ☆投票基準☆

 八組の新婚カップルのうち、皆さんが一番『愛を感じる!』と思われた方々に一票を!



 ……この時点で、もう嫌な予感しかしないんだけれど。

 内心でそう呟きながら、これを読んだ良充さんの反応が目に見えて想像出来てしまって、思わず額に手が伸びてしまう。しかも、表面に並べられた設問もなかなかのもので、



 1:お二人の馴れ初めは?

 2:初めてのデートは?

 3:結婚を意識したのはいつですか?

 4:プロポーズはどちらから?出来ればその言葉もお願い致します!

 5:お相手のことを何と呼んでますか?

 6:お相手の一番好きなところを教えてください

 7:喧嘩したことはありますか?

 8:お相手に貰ったもので一番嬉しかったものは?

 9:これから結婚するカップルに向けてアドバイスを

 10:お相手に向けて一言どうぞ



 まだ手始めという感じの一問目でもかなり気恥ずかしいのに、四問目や六問目となると、それが後々にまで文字として残る、と思うだけでも、到底耐えられそうになくて。

 「えっと、あの、これって、参加辞退っていうわけには……」

 いかないかな、と穏便に切り出しかけた私の声は、ショックを受けたように息を呑んだ樋口くんの表情に、喉元で押し止められてしまった。

 「ええっ、係長そんな!渋りまくってた尾野(おの)さんも久保さんもご参加いただけることになったんですよー!あとは係長ご夫妻だけなんです、本当になんとかお願いします!」

 「ちょ、ちょっと声抑えて!それに、七組分記事が確保出来たんならもう十分なんじゃ」

 「それじゃだめなんです!八組で丁度末広がりだからおめでたいし全員説得してこい!って幹事さん方に言われてるんですー!!」

 「ついでに言えば、倉田さんの『あ、全員説得出来なかったら一発芸披露だからねー』っていうプレッシャーもあったりするんですよー。ひぐっちー半端なくビビリですからー」

 リアルに泣きの入った樋口くんに続いて、にこやかに川名さんが言ってくるのに、私はちょっと眉を寄せると、ふと浮かんだ疑問を投げてみた。

 「倉田くんが幹事なの?なら、彼のことだから、先に平岩課長に打診してくればいいよ、とか言いそうなのに」

 今名前の出た倉田くんは、良充さんのかつての部下であり、私とは一年だけ同じ担当だったことがあるから、夫婦揃ってその人となり(そつがなく抜け目ない)を知っている。そしてそれは、翻れば向こうもこちらの性格を把握している、ということで。

 私の問いを受けた川名さんは、少しばかり驚いたように目を見張ると、すっと唇の端を吊り上げて、

 「さっすが係長、鋭いですねー。実は企画会議でも、課長に当たれば絶対受けてくれる、って皆で話してたんですけどー、井沢さんにがっつり止められましてー」

 またもや知った名前を出してきたのに、今度はこちらが目を丸くしていると、どうにか落ち着きを取り戻したらしい樋口くんが、そろそろとその後を取ってきた。

 「あの、『絶対先に係長にストッパーになって貰わないと、小西代理みたいに惚気攻撃にやられちゃう羽目になるよ!』って……」


 ……さすがに、自己の所属でくらいは、自重してるだろうって思ってたのに。


 係員にまでそう言われるとか普段いったい何してるの、とか、小西さんでもいなせないとかどういうことなの、とか、眩暈を覚えるようなことばかりが頭に浮かんで。

 答えを返すどころではなく、帰ったらどう問い詰めようか、などと考えを巡らせているうちに、午後の業務開始を知らせるチャイムが辺りに鳴り響いて。

 「あ、ちなみに住民課では皆もう慣れちゃったみたいなんで大丈夫ですよー。森谷さんなんか、『あれだけ聞いてれば、いい加減耐性も出来てきますよ』って言ってましたから」

 最後にさらりと恐ろしい現況を暴露してくれた川名さんは、それでは失礼しまーす、と、同じフロアの総務課へと、足取りも軽く去って行ってしまった。

 「あの、係長、まだ締め切りまで長いですし、僕もちゃんと一発芸考えときますから!」

 「……うん、この分だと、十中八九気持ちだけ貰っとくことになると思うけど」

 ダメージが目に見えて分かったのか、気遣いを覗かせる部下の言葉にそう応じながら、私は手遅れとしか思えないこの状況の巻き返し策を、回らない頭でひたすらに考えていた。



 その後、とにかく夫婦に、と依頼された以上は秘匿しておくわけにもいかなくて、家に帰って落ち着いてから切り出したものの、彼の舞い上がりようときたら、この上もなくて。

 それじゃ早速写真選ばなきゃ!と、積み上げたアルバムから嬉々としてピックアップを始めたかと思うと、あっという間に付箋だらけにしてしまうわ、家デートって初デートのカテゴリに分類すべきだと思う?と真剣に尋ねられるわで、結局、溢れんばかりの熱意に押し切られてしまって、こうなっているわけだけれど。

 「じゃあ、初デートは二人で初詣、だね。あの時、僕がおみくじで大凶引いちゃって、君が『私の吉と相殺すれば解決ですから!』って言ってくれたことなら書いてもいい?」

 「あ、はい、それなら……だから、枕詞みたいに『可愛い』って書かないでください!」

 案の定というか、ことあるごとに特定の形容詞を使おうとするのをどうにか防ごうと、横からそうやって口を出してみると、良充さんは手を止めないまま、笑って続けた。

 「でもねえ、一生懸命な表情が可愛かったんだよ。そっちは別に悪い結果じゃなかったのに、並べて結べばきっといい方に転じますよ!って言うから、それも嬉しくてさ」

 「……本当に、どんなささいなことでも、一言一句正確に覚えてますよね」

 それは、自分だって、ことこれに関しては、鮮明に思い出せてしまうけれど。

 次々と繰り出されてくる、過去の細々としたエピソードのあれこれを再生されて、私は黒い天板に突っ伏してしまいたい心地で、そう返した。

 加えて言えばプライベートのことだけではなく、仕事上でも疑問に対するレスポンスの速さときたら、比類するものもないほどで。

 「しかも、時系列含めて完璧でしょう?ファイリング能力が高いんだなあ、ってずっと思ってたんですけど」

 「うーん、それはちょっと、認識が違うかなあ」

 わずかに響きの変わった声に気付いて顔を向けると、高い背もたれをぎしりと軋ませて、椅子に深く背中を預けた彼が、考え込むように腕を組んでいて。

 「仕事はねえ、一応は自負も持ち合わせてれば責任もあるから、つまらない手抜かりはしないことにはしてるんだよ。気を緩めて、しっぺ返しを食らうのは自分だけじゃないし……けど、美冬さんとのことは、全く別の感覚なんだよね」

 言葉を切って、小さく首を傾げてみせると、しばしの沈思に入ったらしいその横顔に、じっと瞳を据える。

 こんな風に、目を伏せ気味にして黙している姿は、幾度か見てきている。残業の折に、宴会の合間に、ふと私が投げた迷いや問いに、いつもこうしていて。

 やがて、気を抜くように息を吐いた良充さんは、腕を解いて膝の上で指を組むと、口を開いた。

 「随分昔の話だけど、前の妻に言われたことがあるんだよ。あなたは何事も自己で完結しているから、他人なんか必要としていないんじゃないの、って……まあ、正直に言えば自覚がまるでないわけでもなかったから、そうかもしれないね、って答えたんだけど」

 静かに放たれた言葉に、じわりと鈍い痛みが胸に走る。長い付き合いの間にも、数えるほどしか零したことのない『彼女』が、未だに彼の中に痕を残していることが、辛くて。

 揺らぎが面に表れるのを、せめても隠そうと顔を俯けていると、同じトーンの声がまた耳を叩いた。

 「それから、ふたりになって、ひとりになってさ。抜け殻、とまではいかないなりに、確かにあったものが無くなったことだけは分かって、少しスタンスを変えるべきかなってぼんやりと考えてたところに、君が傍に来てくれたんだよ」

 柔らかく途切れた語尾に、少し迷いながらも、続く言葉を求めるように顔を上げかける。

 と、椅子を回して、私の方に向き直ってきた彼の腕が、すっと伸びてきて。

 さっきのように抱き締めようとするのかと思いきや、そろりと髪に手を置いてくると、猫たちにする手付きにも似た仕草で、撫でてきて。

 「最初は、異動の前歴も凄いし評価も高いしで、厳しい子かな、って構えてたところも多少はあったんだけど……一緒にいるうちに、どんどん印象が塗り替えられていってね。気付いたら、君と毎日のようにやりとりするのが凄く楽しくなってて、反芻したりしてさ」

 「……怒っても、生意気につっかかっても、ですか?」

 異動したての、振り返れば恥ずかしいくらいに気負っていた頃を思い出してしまって、ちょっと茶化すようにそう言ってみると、彼は、低く喉を震わせて。

 「そうだね、例えどんな言葉でも。それが君のものだから、って気付くまでには、随分時間がかかっちゃったけど」


 だから、忘れるなんてあり得ないんだよ、と、当然のように笑んで。

 身勝手につけた傷を癒すかのように、優しく動かされる手の熱に、痛みも消えて。


 高鳴る鼓動に急かされるままに、きっと面を上げると、椅子を鳴らして立ち上がる。

 頭に乗せていた手を宙に浮かせたまま、弾かれたように見上げてきた彼に一歩近付くと、黒の背もたれを両手で掴んで、強引に机の方に、向かわせて。

 「え、美冬さん、もしかして怒って」

 「ないですから。前、向いててください」

 慌てて振り向こうとするのを制するように、肩に手を置いて、身を屈めて。

 やや伸び気味の、だけどそれも似合っている、柔らかめの髪に頬を寄せて、微笑んで。

 「一問目と二問目は後で添削するとして、三問目から五問目までは至って簡単ですから、これは後回しでいいので、六問目に関しては、私から今、先に答えます。いいですか?」

 「……構わないけど。照れちゃうから後で書きます、って言われると思ってたのに」

 「……その手がありましたね」

 「いや、だめだよ、言質は取ったんだから!当然、口頭でいいからね」

 嬉しげにそう言いながら、いそいそとキーボードに指を置いた良充さんの耳元に、唇を寄せて。

 「あなたの仕事に対する姿勢、それに人を良く見て、掬い上げるように手を差し伸べる、そんなさりげない気遣いが出来るところは、もちろん好きなんですけど」


 出会ってから、八年。机を並べていたのは、三年。

 そして、恋に落ちてからは、もう、六年も経っていて。


 「負けず嫌いで、可愛げのない自分を、柔らかく解いてくれて、甘えさせてくれて……いつだって真摯に、私のことを愛していると示してくれるから」


 重ねてきた言葉に、ひとり追われていた影も、薄れて、溶けて。

 ふたりで積み上げた心のかけらが、恋とはまた違うものへと、それを変えて。


 「……だから、私も」

 瞼を伏せて、掛け値なしの想いを、そっと、囁いて。

 ぴくりと一度身を震わせたあとは、そのまま微動だにしなくなってしまった彼の肩に、腕を回して、しがみついて。

 「……ほんと、僕殺しだよねえ、君ってひとは」

 「先に仕掛けてきたのは、あなたじゃないですか」

 盛大なため息とともにうなだれてみせた良充さんに、積もり積もった仕返しとばかりに、笑みを含んで、そう切り返す。

 初めて、可愛いなあ、と言われた時も、君が好きなんだよ、と真顔で告げられた時も、どれだけ心臓に負担を掛けるつもりなのかと、うろたえるばかりでいたというのに。

 負け続けだったけれど、ようやく一矢報いたという妙な高揚感に浸りながら、そろそろ身を離そうと腕を緩めた、その瞬間、

 「こら、勝ち逃げはだめでしょ」

 鋭く飛んできた声と同時に、肩越しに伸びてきた右手が、私のそれをあっさりと掴んで。

 ほんの軽くだけ、くい、と引き寄せられて、すぐに元の体勢に戻らされてしまって。

 「逃げは、しませんよ?」

 「当たり前でしょ。まだ、僕からの返礼も受けて貰わなくちゃいけないっていうのに」


 わざと怒ってみせている、その肌が、紅を刷いたように、赤くて。


 「もう、先にこんなにハードル上げてくれちゃったから、言葉選んでる余裕ないからね。全部、直截的表現でいっちゃうから」

 「こちらこそ、ですよ。最後の設問だって、楽しみにしておいてください」

 沸き上がる熱をエネルギーに変換するかのように、十本の指をハイスピードで駆使する彼の姿を、瞳に焼き付けるように、ひたと見つめて。


 こうして、いつもあなたの隣に、私があれるように。


 願いから、揺るぎない現実へと変えたものを、腕でも心でも包み込んでしまいながら、私は迷いなく綴られていく確かな言葉を、一文字たりとも見逃すまいと目を走らせていた。



 とはいうものの、出来上がったものを外に出せるかどうか、となると、話は別で。

 「……お願いですから、これは、二人の間だけにしておきましょうよ」

 「……うん。違うバージョン、作った方が身のためだね」

 翌日の朝、冷静になって読み返してみれば、あまりにも、と頷き合ってしまう、そんな内容で。

 結局、『新婚アンケート・マイルドバージョン』と付された、そのファイル名について、目ざとく気付いたユースメンバーから周囲に広まった挙句に、


 「マイルドじゃないバージョンはどうしたんですか!?全力で受けて立つよ、って約束したのにー!!」


 と、すっかりご立腹の久保さんに、良充さんも私も、揃って叱られてしまった。

 ……それはいいとして、この『情熱バージョン』、厳重に保管しておかなくちゃ、もう。

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