義姉妹の契り
西園寺家に着いてからの一連の出来事は、まるで夢を見ているようだ。
こんな事が自分に起こるなんて、とても信じられない。
昨日まで、どれだけ意地悪をされるのか、どうにかして西園寺家にも、星蘭学園にも、行かない方法がないものかと考え続けていた。
でも、来たからこそこんな少女漫画の主人公のような出来事が起こったのだ。
まぁ、私は乙女ゲームの主人公らしいけど、ね。
そう言えば、乙女ゲームは乙女をゲットするゲームではなさそうだった。
攻略対象者は、全員男みたいだもんね、たぶん。
葵お姉様は攻略対象者に入っていないみたいだしね、たぶん。
お姉様の長いお話の後で、何か聞きたい事かあるかと問われ、私は答えた。
説明を受けている間に、ずっとずっと気になって仕方なかった事だ。
だが、人の話の腰を折るのはいけないことだと思って、ひたすら我慢したのだ。
今が言うべき時だ。
私は、意を決して伝えた。
「遙香さんなんて、他人行儀な呼び方は寂しいです。
ハルカと呼んで欲しいです」
私は、両手を握りしめながら、あざとく甘えた感じで見上げた。
お姉様は、なぜか頬を真っ赤にされて、とても照れていた。
まさか、華族の人たちにとって呼び捨ては恥ずかしい事なのか、何かとんでもなく失礼な発言をしてしまったのか、と焦ったが、お姉様はひたすらに優しかった。
「呼び捨てはできないけれど、ハルちゃんと呼んでも良いかしら?」
もちろん、良いに決まっている。
私は満面の笑みで頷いた。
そんな私の顔をマジマジと眺めていたお姉様は、小さなお声でこうおっしゃった。
「あのね、ハルちゃん。わたくし、提案があるのですが…。
わたくしたち、義姉妹の契りを結びませんか?
そうすれば、より確実にハルちゃんの力になることが出来るのです。
もちろん、今日会ったばかりですもの。すぐには、決められないものね。
お家に帰って、ゆっくり考えてくれれば良いのよ。
ご家族の方にも相談したいわよね。
分かりますわ。返事は急ぎませんし、わたくしに気を遣う必要はありません。
嫌ならキッパリと断ってくだされば良いのです。
大丈夫です。
どんな答えでも、わたくしがハルちゃんを全力で支える事はかわりませんわ。」
義姉妹の契り?
って、三国志で劉備元徳が関羽と張飛とやった義兄弟の契りの姉妹バージョンかな。
それとも、大正、昭和初期の戦前に、日本の女学生達に流行っていたエス(シスターの頭文字でS)の方かな。
活字中毒の遙香は、どちらの物語も好きで、かなり熱い気持ちで読んでいた。
特に、少女小説のエスには強い憧れがあり、その影響を受けて花園女子高校に通っていた位だ。
ハナジョでは、お姉様が出来なかったが、まさか共学の星蘭学園で念願のお姉様をゲットできるなんて。
図々しく、初対面の高貴で麗しい葵様をお姉様と呼んで良かった。
義姉妹の契り?
もちろん、良いに決まっている。
「ハルカのお姉様になって、葵様。」
あざとく小首を傾げながら、お姉様を見つめたのだった。