公爵令嬢 西園寺葵の考察
百合子叔母様の、あの態度は何なのか。
あの日からずっと考え、調べている。私が知っている叔母様は、ほとんど感情を表に出さない人だ。あんな風に泣いている姿を見たのは、当然、初めてだ。おまけに、突然の訪問。
年の離れた兄であるお父様が苦手で、普段からこの家にはほとんど寄りつかない叔母様が、だ。
絶対に何かある。しかも、ハルちゃんに深く関わっている何かだ。
叔母様は、わざわざハルちゃんに会いに来た。
大切だと何度も繰り返していた、ハルちゃんに似たピアノを弾く人との関連性を確認しにだと思う。
情報源は、理事長だろう。
理事長と叔母様は、幼馴染みだと聞いた事がある。
だから、学園の運営にも協力的なのだと。
2人が、知っている誰か。でも、今まで叔母様があんなにも号泣するほど大切な方が亡くなったなんて、聞いた事がない。
ゲームの時も、不思議だと感じていたが、転生してから、更に違和感を覚えていた事がある。
いくら何でも、華族の為の学園に、庶民の主人公が入れる訳がない。
ハルちゃんは、きっと、かなりの地位を持っている方の高貴な血筋なのだ。
だって、あの百合子叔母様が遙香様と、様付けで呼んだのだから。
元々のゲームのストーリーでも、ピアニスト西園寺百合子は主人公の味方だった。
ピアノを熱心に指導しつつ、プライベートでも可愛がり、最後には養子にしたいとまで言い出すのだ。
そこで、登場するのがこのわたくし西園寺葵だ。
メインヒーローである一条叶翔の婚約者であり、天才ピアニストの西園寺百合子の姪で公爵令嬢、西園寺葵は、実は主人公にとっては何よりも厄介な、ゲーム内1番のボスキャラなのだ。
もちろん、私はハルちゃんを愛しているので、意地悪をしたりはしない。
ハルちゃんと対立する事になるフラグを折るためにこそ、ヴァイオリンを選んだのだから。
そもそも、ゲーム内のアオイがピアノを習っていたのは、叔母であるユリコに憧れていたからだ。
けれどもユリコは、姪であるアオイを特別扱いする事なく、一生徒として扱うのだ。
普段から交流のない2人は、叔母と姪とは言え、仲良くはない。
けれども、アオイはユリコに認められ、親しくしたいとずっと思っていた。
だけど、思っていただけでは駄目よね。行動に移さないと。
もし、西園寺葵がハルちゃんだったなら
「叔母様に憧れて、ピアノを始めたのです。教えて頂けませんか?
お家に遊びに行っても良いでしょうか?」
と可愛く行動に出ると、思うもの。万が一、ユリコが冷たくしても、コンサートには花束を贈ったりしてアピールし続けて、いつかは仲良くなれているはず。
何もしないのに、いつか仲良くなりたいなんて甘いことを考えてているアオイでは無理だったのだ。
せっかくの血縁関係と言う利点も全く活かせず、ただ待っていただけ。
どんなに思っていても、口に出さなければ、行動に移さなければ、人には伝わらない。
厳しいが、思っていなかったのと同じになってしまう。
傷つくのが怖くて、そのままにしておいたのに、他の子が仲良くなるのを邪魔する権利なんてないのだ。
けれど、恵まれた環境で甘やかされて育ってきたアオイには分からなかった。
まぁ、そんな風にずっと生きてきたアオイだから。
突然現れた庶民の主人公が、可愛がられているのを見てしまったら、そりゃあね、悲惨な事件をたくさん起こして大騒ぎしてしまいますよ。
元々、家柄にも自分自身にもプライドを持っている子だしね。
それだけではなく、婚約者まで取られちゃうんだから救いがない。
ハルちゃんにも言った通り、ゲーム内で、いや学園の生徒内で1番面倒くさいのはなんと言っても生徒会長の一条叶翔だ。
家柄、外見、成績、運動と全てに恵まれたパーフェクトな男。
けれども、トワには1つだけ手に入らなかったものがある。
それが、初恋相手であり、2つ年上の従姉である一条佳乃様だ。
トワの初恋相手であるヨシノ様は、実はトワが好きだった。
どちらも初恋の両思いだったのだ。
それが分かるのは、ヨシノ様の結婚式の前日という悲劇的展開。
理由は分からないけれど、18歳で子爵家に嫁ぐ事になったヨシノ様。
思いを確かめあったのに、一緒になれなかったトワは、俺様叶翔様生徒会長様となっていく。
そんなトワを、主人公の健気さが癒していくのがゲームのメインストーリー。
でもね、元々両思いなんだから、2人が結ばれれば何の問題もないわけなんですよ。
むしろ、なぜ一緒になれないのか分からない。
少し、血は近いけれど、身分的にも法律的にも問題ないでしょう。
と、言うことで、少し画策して2人には婚約者になって頂きました。
そうは言っても今後はどうなるのか分からないのが、恐ろしいところだ。ハルちゃんの為にも、一刻も早く、結婚式を挙げて欲しいです。
それで、叶翔様は大丈夫なはず。