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水鏡とエメラルド  作者: 桜木湊
第一章 好奇心と惹かれる者
1/3

一章 0 世界への怨嗟

輝く魂たちの歌が聖堂へと響き渡る。

空高く、かごの中の小鳥の鳴き声。

山中を木霊する、獅子の咆哮。

闇夜を疾る狼の遠吠え。

湖に溺れる緋色の花の波紋。

蒼穹に縛られる雲と吹きつける風。

呪詛、憤懣、世界を呪う声。

運命を、感情を、自らをとりまくすべてを悩む声。

それは泣き声にも、笑い声にも、叫び声にも聞こえた。

知的好奇心の犠牲。

終わらない苦しみへの焦燥、困惑。

手の届かない憧憬。

識らないことへの恐怖。

識ることのできなかった後悔。

愛せず、愛されないことへの無念と不満。

過ぎたことを望む下等への嫌悪。

外道への軽蔑。

罪を知らないものへの羨望。

怨嗟の声への罪悪感。

包まれるすべてへの害意、殺意。

いつか来る赦しへの期待。

双子の宝石の優越感。

二対の石ころの劣等感。

助けてくれないすべてへの怨み。

生きることの苦しさ、切なさ。


世界への怒り。


死への諦念。


生への絶望。


与えられず、奪われる空虚。

渦巻く運命への信頼、裏切り。

あるべきものがない、喪失感。

ないものはなに、焦燥。

たりないものは、困惑————————————









不当な運命、不当な喪失、不当な時間。

許さない、憤怒。

橙が輝く。

剣戟と怒号と悲哀。


失われる。


不当な運命、不当な喪失、不当な時間。

信じない、傲慢。

紅色が閃く。

連ねられる文字とゆがめられる歴史。


失われる。


不当な運命、不当な喪失、不当な時間。

妬ましい、嫉妬。

灰色が零れる。

磨かれた輝き、朽ちていく感情。


失われる。


食らいつくす、暴食。

黄色が弾ける。

満たされない空虚と渇望。


失われる。


見ないふり、怠惰。

茶色が迸る。

渦巻いた光と癒えない心と。

知ったことか、色欲。

何も知らずに、愛に身を潜められるなら。

奪い返す、強欲。

喪失、奪取、決して逃がさない。

不当な運命、不当な喪失、不当な運命。

しかし、正当な結末。

識って想って記して、

憂い続ける、憂鬱。

重ねて塗って壊して、

隠し通す、虚飾。




————————————失われた。



紫も青も消えた。

弾ける輝く閃く零れる光の中であふれ出す哄笑。

失われた輝きは宙をさまよい、戸惑うように揺れて。

橙色のそれに、自然と手が伸びる。




「おいで」





————————————刹那、聖堂から光と音のどれもが失われた。


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