表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートはいらないって言わなかったか?  作者: 関谷 じん
第1章 変態王子、変態王になる
6/20

希美side

私はいま、恋をしている。

改めてこう言うと体がむず痒くなってくる。今まで恋という恋をしたことない私からすると、恋をした日から毎日が新鮮だった。

私は冗談でも可愛いと言える顔をしていなかった。身長が150弱の短身で、眼鏡をかけている。誰が見ても陰気なやつだな。と思うような顔だ。自分でも陰気な奴だな。って思うし、実際に陰気だし。

そんな私が恋?馬鹿じゃないの?と初めは思っていたが、その人のことを自然と目で追ったり、どんな時でもその人のことを考えたりしていると、次第にあぁ、これが恋なんだ。と理解するようになった。自分がその人に恋をしていると理解しても、内気で陰気な私にはこの気持ちをどうにかする事は出来なかった。

私にはその人を遠くから見ることしかできなかった。

その人が女子と話していると、嫉妬して。

その人が女子と笑い合ってると、嫉妬して。

その人が女子に勉強を教えていると、嫉妬して。

その人が女子に優しくしているところを見ると嫉妬して。

私はその度に、なんて嫉妬深い女なんだろう。と思い自己嫌悪に陥っていた。そんな高校生活、1年目を過ごした。


高校に入り2回目の梅雨、毎週水曜日に全員が強制参加の補講が終わり、いつも通り一人で帰ろうとしていると、後ろから声を掛けられた。声の主は関谷仁。私の好きな人だった。

彼は私に目を合わしながら、内田さんって電車で帰る?と聞かれ、私は慌てて目をそらしながら、小さく、そう。と言った。すると彼は、じゃあ一緒に帰ろ。いつもは自転車やねんけど今日は雨やから電車で来てんなー。と言い、私の横に来た。

流れで一緒に帰ることとなった。私の頭はパニックに陥っていた。何度も何度も夢?妄想?と思いつつ、チラッと横を見る。でも、当たり前のように彼がいて現実だと実感させられた。

何を話したのかなんて覚えてない。というか、私はほとん喋らなかった。彼が一方的に話していたわけではなく、私が彼と喋る余裕がなかったのだった。駅で彼と別れた後、緊張の糸が切れて力が出なくなった。そのまま、壁にもたれかかり、彼の後ろ姿が見えなくなるまで眺めていた。

家に帰ると、彼と一緒に帰った時のことを思い出し、

なんでもっと喋らなかったのか。

なんで目を一切合わさなかったのか。

なんで彼の話にうんやそう、へーとしか言えなかったのか。そう考えると私は自己嫌悪に陥っていた。あんなチャンス二度とないのに。絶対、彼に変な女だと思われた。絶対に嫌われたと思う。私はそう思うと、泣きそうになった。しまいには我慢できず、小学生以来の涙を落とした。


そもそも、私が彼を好きになったのは高校に入り少し経ってからのことだった。工業高校に入学した私は男の子ばかりの学校に戸惑いを感じていた。男の子は女のような、ねちっこさはなかったが、私たち女の気持ちに気付いてくれる子は全然いなかった。工業高校という、癖のある学校に入る男の子、というのも理由にあるかもしれないが。

その頃の私は学校に行くのが嫌だった。男の子は苦手だし、数少ない女とも上手くはいかなかったからだ。同性から、嫌われた理由は私には分からなかった。そんな風に、高校を3年間通うことに嫌になっていた頃、美術の授業の時に彼に出会った(この言い方は少しおかしいか)。

先生が実演するために、前に人を集めた。私はその時、後ろの方から人と人との小さな隙間からその実演を見ていた。しかし、その小さな隙間は男の子によって塞がれてしまった。私はまたか。と心の中で愚痴った。この学校ではよくあることだ。男の子の無神経さで私が困ることは。

隙間がなくなり、後ろから私の身長では、前に男の子がいる中、先生の実演を見ることはできなかった。見るのは諦めて、説明を必死に聞こうと思っていると、横にいる男の子がすぅと、横にずれた。そして、小さな声でどうぞ。と言った。私には言った意味が分からなく、反応に困っていたら。私の方を向き、その男の子は、そこからじゃ、見えへんやろ?

男の子が退いたことでできた隙間からは、視界が開けており、先生の実演がよく見えた。その言葉の意味が理解でき、私は咄嗟に頭を軽く下げて、一歩横に行った。

男の子は私の横で一生懸命、背伸びをしながら先生の実演を見ていた。私はその姿を見て、少し可笑しく思って笑った。

そこからだ。私がその男の子、関谷のことを気にし始めたのは。たったあれだけの出来事で好きになるなんて、我ながら単純だと思う。でも仕方がない。今まで男の子にいいイメージがなかった私に優しくしてくれた初めての男の子だったのだから。


私が関谷と一緒に帰った日から1週間経ち、また水曜日の補講がやってきた。その日も雨だった。朝からもしかしたら関谷と一緒に帰れるかもと思ったが、誰が話していて楽しくない私なんかともう一度、一緒に帰ろうと思うだろうかとも思っていた。でも、情けないことに希望は捨てられなかった。

補講が終わりいつも通り、家に帰ろうとする。私は横目でチラチラと彼を見て、彼より少し前になるようにタイミングを合わせた。そのままゆっくりとした足運びで、駅の方に歩き始めた。

しばらくしても話しかけられず、私はいないのかな?と思いつつ、角を曲がるタイミングで後ろをチラッとみた。見た先、遠くに関谷がいた。後ろを見た瞬間、目があってしまった。慌てて目をそらし、何事なかったのように、歩きはじめた。私はなんだか急に恥ずかしくなり、早歩きで駅に向かった。

駅に着く直前、後ろから声をかけられた。内田さんって歩くの早いね。と。関谷だった。

私は話しかけられたことでの嬉しさと、歩くのが早いね。言われたことでの恥ずかしさで頭が真っ白になり、おどおどしていると、そんなに慌てる?と冗談ぽく笑いながら彼が言った。今でも、その時の彼の笑顔が私の頭にこびりついている。


それからも彼は何度も話しかけてくれた。彼が話しかけてくるのは、決まって周りに誰もいないときだった。おそらく私のことを気遣っているのだろうと思い、嬉しく思った。と同時になぜそこまでして私に話しかけるの?とも思った。その疑問は解決しないまま、一年が経ち、私は三年生になった。


新しい教室にまだ慣れない様子で私は教室に入った、いつもの癖で彼の席をチラッと見た。いつもはこの時間にはいるのに今日はいなかった。しかし、そんなことはたまにある。寝坊でもしたのかな?と思いつつ自分の席に座った。

予鈴がなり担任が入ってきた。

担任は教卓の前に立ち主席を取りはじめた。


「関谷がいないな。欠席の連絡は来てなかったな。遅刻か?」


というと、先生は関谷と仲がいい友達に何か知っているか?と聞いた。その男の子は寝坊じゃね?といい周りの男の子も罰当番やー!と野次を飛ばしていた。

私はやっぱり遅刻か、と思った。結局、関谷はホームルーム中には来なかった。

一時間目が始まった。数学の授業だった。この先生はこのクラスの副担任の先生だった。

もう、一時間目も終わるという時に、担任の先生が副担任の先生を廊下に呼び出した。

私は珍しこともあるものだな。と思い気にせず数学の問題を解いた。数分後、副担任の先生が戻って来た、と思ったら担任の先生も教室に入ってきた。私はこの二人の深刻そうな表情を見た瞬間、咄嗟に関谷の席を見てしまった。その時はなぜ見たのか分からなかった。

授業中に担任が乱入してきたことで、教室が少しざわついた。そして意を決っした様子で、担任が静かにと言った。いつもと違う担任の様子に教室内は一瞬で静まり返った。静かになったことを確認すると


「さっき警察からこの学校の生徒が交通事故にあい亡くなった。という連絡を受けた」


教室が大きくざわついた。そして勘のいい人は関谷の席を見た。一人、また一人と関谷の席を見る人が増えていく。私もつられて関谷と席を見てしまった。いつもいつも見ていたその席がこの瞬間は別のもののように見えて仕方なかった。


「身元を確認したら、関谷だったみたいだ。酔っ払った運転手が車を暴走させたみたいだ」


そういい終わると、担任は泣きはじめた。生徒たちはあまりに急な話に頭が追いつかないのか静まり返っていた。しばらく、教室は担任の泣いている音しかしなかった。担任の先生の代わりに副担任の先生がその後の話をした。

どうやら、このまま授業はあるみたいだ。お通夜の日程はまだ決まっていないみたいだ。決まり次第連絡するみたいだ。


私は二時間目の授業に集中しようとするができなく、ずっと関谷のことを考えていた。あんな風に話しかけられた、あんな話をした、あんな風に気遣ってくれた、あんな風に褒めてくれた。そんな関谷ともう話すことができない。そう思うと泣きそうになった。いや、担任から話を聞いた瞬間からずっと泣きそうだった。でも泣くまいと思いずっと我慢していた。このままずっと我慢しようとしたが、私の頭はずっと関谷のことしか考えられなかった。

ついには耐えれなくなり、保健室に行こうと思った。職員室に行き先生に話した、私は保健室に行く理由をうまく言えなかったが、先生はそうか。というと保健室まで送ってくれた。そして、保健室の先生に休ませてあげてください。といいその場を立ち去った。保健室の先生は何も言わなかった、ただ暖かいものを入れ、私の側に置き、私を一人にしてくれた。

一人になった瞬間、滝のように涙が出てきた。泣きながら、車の運転手を殺したいと思った。何回も、何回も、何回も、何回も、殺すという言葉が頭をよぎった。自分の黒い感情に戸惑いつつも、その感情を止めることはできなかった。


それから、どのくらい経ったか分からないが、保健室に担任の先生がやって来て、私にお通夜の日程を教えてくれた。その後今日はもう帰りなさいと言われた。私はその言葉に素直に従った。

学校からの帰り道、関谷と一緒に帰った時を思い出し、また涙が止まらなくなった。泣きながら、帰り道を歩いた。

家に着くと、母が何も言わずに私を抱きしめた。人に抱きしめられる安心感から私の涙腺は崩壊した。そして、声を上げて赤ちゃんのように泣いた。


夜、七時半ごろ母と一緒に関谷のお通夜の式場に向かった。私は一人で行きたかったが、母がそれを許してはくれなかった。八時過ぎに式場に着いた。ロビーには顔の知った学生が何人かいたが、顔の知らない学生の方が多かった。その知らない顔の男の子が情けないほど泣いているのを見た。関谷のためにあんな泣いてくれるなんて。と思い、少し嬉しく思った。でも、不謹慎だと思い、そんな考えを捨てた。


八時半過ぎにお通夜が始まった。椅子は沢山あったが全然足りていなかった、私は早く来たため、椅子に座れたが座れない人も沢山いた。

お坊さんがお経を読んでいる中、また、彼のことを思い出し、泣きそうになった。でも人前では恥ずかしいと思い、我慢した。線香をあげるように促され、それに従い線香をあげた。

椅子に座っていた時から見えていが、近くで遺影を見ると、込み上げてくるものがあった。私は早く線香をあげ、その場から逃げるように元の椅子に座った。

数分後、式場の外でクラスの男の子が集まって、泣きながら関谷との思い出を言い合っている声が聞こえてきた。その話を聞き、やっぱり優しかったんだな。と思い、自分と関谷との思い出が頭の中に駆け巡った。涙が耐えれなくなり、私はトイレに逃げた。

トイレの中は誰もいなかった。私は手洗い場で泣いた。少し落ちついてきた後、ふと鏡を見ると、それはそれはひどい顔をした自分がいた。私はこんな姿で外に出たのかと思い、恥ずかしくなった。しかし、すぐにどうでもいい。と思った。

そんなことを考えていると、トイレのドアが開く音がした。鏡ごしに、すごく可愛い、私と同じぐらいの女の子が見えた。その子の目には大粒の涙が溢れていた、それを見た瞬間私は青ざめた。大泣きしている彼女を見て、私はもしかしたら関谷の彼女ではないかと思ったからだ。私は確認する勇気もなく、その場から逃げた。そして、お通夜が終わるよりも先に家に帰った。とにかく逃げたかった、全てから。

関谷の死から。

関谷の死で大泣きしている可愛い子から。


―――――――――――――――――――――


関谷が死んでから、二ヶ月と少したった。

それまで、私は何度もトイレであった女の子を思い出した。その度に泣いていた。考えれば考えるほど、あの女の子が関谷の彼女だと思うようになった。私は好きな人が死んだショックと失恋のショック両方を同時に受けた。いや、失恋は私の勝手な被害妄想だ。分かってはいるが頭がそれを納得してくれないのだ。


私は学校に行かなくなった。関谷がいない学校に行くのが辛かった。怖かった。両親は私を心配して、出来るだけそばにいてくれた。その時に私は関谷への思いを両親へ全部ぶつけた。それをうん、うん。と聞いてくれた。両親は無理して学校に行かなくてもいい。といった。そして優しく、見守ってくれた。

両親の優しを受けつつも、立ち直る見通しは全くたっていないある日の朝、突然床が光り出した。

そして、何かを考える間も無く。意識がなくなっていった。

この二人もヒロインです。

真桜はすごく可愛い幼馴染で、希美は根暗の女の子です。どっちが好きですか?作者は希美の方が好きです。ちなみにこの二人が出てくるのは先になると思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ