真桜side
設定の矛盾などがありました、いってください。
多分あると思います。
その話は鈴木から学校の帰り道、電話で聞いた。
夕方、部活が終わり、途中まで部活の友達と一緒に帰り、友達と別れた後、手持ち無沙汰を紛らわすために、スマホを見た。そうしたら、いつも以上に通知の数が多いことに疑問に思った。
通知を確認するとその原因が鈴木だった。無料通話アプリの電話通知が鈴木から大量に来ていた。その数20以上。それを見た時、私は顔を引きつった。別に鈴木が嫌いなわけではない。しかし鈴木からの電話は大抵、自分の悩み事の話だ。要するに自己中心的な話。部活終わりの疲れた時に相手はしたくなかった。
でも、私は少し不思議に思った。鈴木は空気は読める男だ。急に電話がかかってくることはあっても、何度もしつこくかけてくることは長い付き合いだが、今まで一度もなかった。そう思い。よっぽどのことがあったのかな。と思い、かけ直してみることにした。
「あっ!やっと繋がった!よかった!もしもし」
電話はすぐにでた。一瞬だった。私は少し引いた。必死すぎだ。でも、声は今まで聞いたことがない声だった。焦ってもいるし少し鼻声になっていた。もしかして泣いていたのか?
「もしもし。ごめんね。何回もかけてくれたのに、電話にでられなくて、部活があってね」
少し皮肉を込めてそう言った。でも鈴木はそんなこと気にするそぶりもなく。話し始めた。
「愛野って、仁と幼馴染だったよな?」
私は思いがけない人物の登場にびっくりした。仁といえば関谷仁のことだろう。鈴木と私が共通で分かる仁といえば関谷しかいない。
「そうだけど……。それがどうしたの?」
「愛野、落ち着いて聞いてくれ」
その言葉に私はドキリとした。嫌な予感がした。私は歩いていたが立ち止まった。怖かったから、このまま通話を切ろうと思ったが、間に合わなかった。
「…………今日の朝に交通事故で仁が亡くなった」
予想したことが現実に起こり、私はスマホを落とした。
私の頭はなぜ?という言葉でいっぱいだった。
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
私はこのまま気を失いそうになったが、後ろから声をかけられたことによってなんとか持ちこたえた。
「真桜さーん。どうしたんですか?そんなところに立って。携帯も落としていますよ」
声の主は部活の後輩だった。後輩は私のスマホを拾い、画面、割れてますよ!と少し大きな声で言った。スマホの画面は割れて何も映っていなかった。
私は後輩からスマホを取り上げ、一言、ありがとうと言うと、その場から逃げるように歩いて行った。
その日どうやって学校から帰ってきたのか覚えていなかった。いつのまにか家に着いていた。家に着くとお母さんが
「おかえり。その様子は知ってるみたいね」
優しくそう言った。その言葉の意味を私は瞬時に理解した。そして改めて関谷の死を目の当たりした。
そして、ダムが決壊したかのように私は泣き崩れていった。
私と関谷は幼馴染だった。とはいえ遊んでいたのは幼稚園までだった。
関谷とは小学校では一度も同じクラスにならず、中学3年でようやく同じクラスになった。幼稚園の頃はお互い下の名前で呼んでいたが、流石に中学3年のときはあまりに時間が経ち過ぎていて、お互いを上の名前で呼ぶようになっていた。私にとって中学3年で同じクラスになったのは凄く嬉しいことだった。初めクラス表を見た時、心が踊った。
関谷は私の初恋の相手だった。同じクラスにはならなかったが、ずっと小さな繋がりはあった。委員会が一緒だったり。友達の友達だったり。地元の祭りで一緒にボランティアのスタッフをやったり……。
私はその度、彼の優しさ、彼の気遣いを見てきた。だから、私の中に常に彼がいた。彼の存在が薄れてきたと思ったら、ぽっと彼が出てきて、私にかっこいい姿を見せる。そんなことが何年も続いた。そのせいで、私は中学で何度も告白をされたことがあるが、全部断ってきた。だから、中学3年で同じクラスになったときは、これで彼にアプローチできると思った。
そして、彼の存在が特別になる出来事が起こった。中学3年の初夏、私の父ががんになった。ステージ4だった。末期がんの手前だった。私は変に同情されるのは嫌だと思い、このことは誰にも言わなかった。学校ではいつも通り、友達と喋り、授業を受けていた。でも時々、本当に時々思い出し、バレないように泣いていた。
夏休み明け、急に関谷からメッセージが届いた。最近、たまに学校で泣いてるけど、どしたん?と言う内容だった。本当に急だった。私はたまにと言う言葉に驚いた。私は学校では数回しか泣いていなかった。でも、彼は何度か私が泣いている姿を見ているようだった。
そのことに、きずいてもらったことで私は少し嬉しくなり、つい彼に電話をかけ、泣く原因を話した。彼は黙ってそれを聞いてくれた。そして、私を同情するのではなく、ただただ私のことを心配をしてくれた。そのことが私は凄く嬉しかった。
この出来事で私の中の彼の存在が特別なものとなった。その後、私は彼にたくさんアプローチをしかけた。たくさん話しかけ、家でもたくさんメッセージを送った。でも、反応は良くなかった。
学校で話しかけると、目も合わせてくれないし、話もすぐに終わる。メッセージの返事も返ってくるのもいつも遅かった。
そしてある日、彼が友達と無料通話アプリを使うのはめんどくさいと言う話を聞き私は青ざめた。目を合わせてくれないのも、話が長く続かないことも、私がメッセージを送り、そのことをうざい思っているから、そういう態度をとるのではと思った。
それに気づいた日私は大泣きした。父が病気だと聞いた時より泣いた。そしてこれ以上、嫌われないように。と思い、話しかけるのをやめた。そうこうしているうちに中学を卒業して、高校生になった、なんとか第1志望に合格し、高校では彼のことを忘れ、恋愛するぞ!と意気込んでいた。すぐに告白されて、私はその告白を受け取った。
しかし、付き合い始めても、彼の存在が消えることはなかった。いつでも、関谷と私の彼氏を比較してしまう。そして、関谷の方がいいと思ってしまうのだ。彼の存在は半年、一年と経ってもいなくなることはなかった。私は彼の存在を消すことを諦めた。当たって砕けてやると思った。
地元の祭りで彼がいたから、意を決して話しかけた。久しぶりに彼と話して、心が温かくなった。そしてなにより、私と目を見て話してくれたのだ。たったこんだけのことがどれだけ嬉しかったことか。
それをきっかけに、少しずつメッセージのやり取りを始めた。彼がめんどくさくないように、返すのは数日おきに、なるべく考えないで返せるメッセージを送ることを努力した。そんなこんなでようやく、友達と呼べる関係になった矢先、彼が死んだという話を聞いた。私の絶望感を想像できるだろうか?一度は諦めようと思ったが無理で、頑張って仲良くなってきたと思ったら死んだんだよ。
悲しいなんて言葉じゃたりないよ。
泣き始めて30分後、私はようやく泣き止んだ。というか、泣き疲れたのだ。私はソファーに行き、何も考えずそのまま眠りについた。
1時間後、お母さんに起こされた。関谷のお通夜に行こうと言われた。私はそれに行ってしまうと、関谷の死を認めてしまうようで、嫌だった。しかし、ここでいかなかったら、私は今後永遠にこのことを後悔すると思い、行くと決断した。
鏡の前に立ち、自分の顔を見た。見た瞬間、少し笑ってしまった。私の顔はあまりにひどかった。目は真っ赤で、顔に血の気がなく、髪もボサボサ。こんな姿で彼とお別れしたくないと思い、少し化粧をすることにした。
化粧しているといろんなことを考え、また泣いてしまう。そして、化粧が落ちる。もう一度化粧をする。それを何度か繰り返した。ついには、いつも通りに化粧をするのは諦め、泣くことが前提で薄く化粧をした。
化粧が終わったのは、30分後だった。いつもの6倍はかかった。
お母さんと一緒にお通夜が行われている場所に行った。着いたのは9時ごろだった。式は8時半からだと言っていたから、もう始まっている筈だ。ロビーには顔を知った人が何人かいた。喋っている人から泣いている人様々だった。
私は知り合いに目を合わさず、エレベーターに乗り、式場に行った。式場には人で溢れていた。特に学生がたくさんいた。その中にも顔を知ってる人がいたが、顔を知らない人も多かった。あちらこちらに泣いている人がいて、私もつられて泣きそうになった。でも、我慢して、お線香をあげる順を待った。自分の番か来た。遺影を見た瞬間、私は彼が死んだと実感した。その瞬間、涙ポロポロと落ちて来た。
なんとかお線香をあげた後、すぐにトイレに行った。
泣いている姿を人に見せないためだ。トイレには先客がいた。彼女も私と同じように泣いていた。しかも、家を出る前の私のように目を真っ赤にしていた。
制服を着ているから、学生だと思う。関谷と同じ学校の子かな?と思った。彼女は私が来るとそそくさとトイレから出て行った。私はなんとなく、彼女が気になった。
お通夜が終わった後、私は知り合いとは一切喋らず、家に帰った。時間は11時前だった。お父さんは帰ってきていた。
「おかえり。お風呂に入り、ご飯を食べなさい」
そう、優しく言うと、私は何も言わずにお風呂に入りに行った。ご飯は到底、食べる気にはならなかった。
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仁が亡くなり2ヶ月と少しがたった。私は今年受験のため、なんとか学校に行っていた。しかし、部活には顔を出さなくなった。遊んだりもしなくなり、彼氏とも一方的に別れた。そもそも、彼氏は告白防止でいたような存在だからどうでもよかった。もちろん、彼氏は私を励まそうとする。でも私は、お前は飾りなんだよ!と思い私をさらにイラつかせた。分かっている。これは八つ当たりだ。でも、彼氏の私が弱っているうちに一線超えたいという下心が見え見えで、それが心底気持ち悪かった。
そうして、彼氏に別れ話をした。彼氏に必死に止められたが、私は頑なに別れたいと言った。そうしたら、彼氏は逆ギレし、私を罵った。ああ、やっぱり仁以外の男なんてこんなもんだな。と思った。
女友達から遊びに誘われていが、全部断っていた。一度、半ば強制的に遊びに連れていかれたが、全然楽しくなかった。今までは楽しいと思っていたことが全部楽しくない。まるで世界から色がなくなったようだった。
私は何度も自殺しようと思った。分かっている。私は今おかしいと。病んでいると。分かっていてもどうしようもなかった。少しずつ、少しずつ自殺願望が強くなっている自分がいた。
このままでは危ないと自分でも思いつつも、このまま死ぬことが一番楽なのでは、とも思っていた。そんなことを考える自分が怖かったが、仁がいない今の世界のほうが私には怖かった。
ある日学校に行こうとしたとき、お母さんから一言言われた。
「無理して、学校なんて行かなくていいのよ。そんなもの来年にもう一年行ったらいいのよ」
私はこの言葉を聞いた瞬間、胸に刺さっていた針が抜ける感覚がした。私は心のどこかで学校には行かなくてはならないと思っていた、それによって、自分を追い詰めていた。いまは仁のことだけで精一杯やのに。お母さんからの言葉はまるで、今は仁のことだけを考えなさいと言っているようだった。
私はしばらく学校を休むことにして、カウンセリングの病院に行くことになった。そして、初めて病院に行く日の当日、朝起きて行く準備をしていたら、突然、床が光り始めた。えっ?と思っていると次の瞬間、視界が光で包まれていった。