クラージュの羽ばたき
この話はクラージュsideにするか悩みましたが、結局は主人公sideにしました。
どうも、フランことフラムスティード・ポラリオンです。クラージュが第三近衛隊隊長に就任して、半年経ち俺たちは8歳になりました。
クラージュが第三近衛隊隊長になってからは色々とやかましい奴らがいたが、クラージュが俺tueeeeをしたらすぐに黙った。そもそも、近衛隊は家柄などには左右されず究極的な実力主義だ。そのため喧嘩売ってくるやつがいたら力でねじ伏せる。と言うことをしていたら、いつのまにか認められた。
なんか、クラージュが主人公みたいでかっこよかったよ。下級貴族の三男という陰が薄い子からエリートの近衛隊、しかも隊長に抜擢される。なんてサクセスストーリーなんだろうねー。まあ、それをアシストした俺の株もぐんぐん上がっているんだけどね。
俺とクラージュは洗礼式の日から一緒にいることが多い。というか、クラージュは俺の第三近衛隊隊長だから護衛されている。正直俺のステータス的に護衛とかいらねーよって思っているけど、一応俺の身分的にしゃーなしで護衛させてあげている。
クラージュはこの一年は王都とダンジョンにしか行っていない。王都で勉強して、ダンジョンでレベルを上げるという、毎日顔面が総白になっていたが結構充実した毎日だったと思う。
7歳から本格的に勉強が始まっていた、今まででも勉強はしていたが、読み書きや簡単な計算、歴史など基礎的なことを学んでいた。しかし7歳からは自分にとっての専門的な分野の勉強も行なっていく。例えば俺なら王に必要な教養や知識などを教えられる。クラージュなら護衛や戦う術を学ぶ。
洗礼式が行われた日からそれらが始まるため、この一年は俺にとってもなかなか忙しい毎日だった。クラージュをダンジョンに連れて行き、勉強して……。まあクラージュの面倒はほとんど紫衣が見ていたんだけどね。二人は半年間ほとんど毎日一緒だった。だから、クラージュは凄く紫衣懐いてしまった。俺のご主人様だのに。ご主人様の浮気者……
(突っ込みませんからね)
ちなみに今、紫衣は俺の側にいない。あの浮気者は近衛隊の人たちを鍛えている。父からどうやってクラージュを鍛えたのかを聞かれ、誤魔化しきれなくなったため説明をぜんぶ紫衣に押し付けた。そうしたら父が紫衣を連れて来いと言われ、連れてきたら魔法の力が買われて王国陣営に引き入れようとした。でも紫衣はめんどくさかったのか全力で断った。そして、妥協案として近衛隊を鍛えてることになったのだ。ちなみに、俺と紫衣の関係は適当にでっち上げのストーリーを作った。たまたま、俺が紫衣を助けて恩義を感じた紫衣が俺に協力してくれたというふうに。説明したとき父は納得してなさそうな顔をしていたが紫衣が軽く脅したら黙った。ごめんなさい。父よ。
ダンジョンのことも父たちに言った。紫衣が見つけたと。しかし、エミリアが可哀想だったのでダンジョンには手出しをしないという約束をした。しっかりと書面にも残した。
さて、話しは少し変わるのだが今日はクラージュの領地に行く日だ。あと少しで待ちに待った学園生活が始まる。俺とクラージュは同じ学校、国立ポラリオン学園という安直な名前のエリート学校に行くのだが、そのための書類を親に書いてもらいに行くのだ。本来ならクラージュ一人でも問題ないはずだが、なぜか俺も呼ばれた。
多分、両親に俺を紹介したいのかな?まあ俺は将来この国のトップになるから紹介して損はないと思うけど。
やっぱりクラージュも貴族の子供なんだなーと実感した。まあ、俺のパートナーのクラージュのためだ。仕方がないな。
「フラン様。本日は僕のわがままにお付き合っていただきありがとうございます」
馬車に乗ったら、クラージュが何度も聞いた言葉をまた聞いた。俺はそんな彼に対し相変わらず腰が低いなーと思った。
「いやいや、何度も言っているが気にするな。俺もクラージュの家族に挨拶したいと思っていた」
俺の言葉になぜか俯くクラージュ。でも、しばらくして何かを決意した強い目ではっきりと言った。
「ありがとうございます。もうこんなこと二度とお願いしませんので」
いやいや気にするなよ。と言うとしたが、クラージュの目を見るという気が失せた。
この子は拷問のような訓練をしてから根本的なものが強くなったように思う。初めて会った時から強い子だと思っていたが、さらに磨きがかかったように感じる。まあ腰はスッゲー低いが。
王都からクラージュの領地までこの馬車で3日かかる。クラージュは王都に来た時は5日かかったようだが、この王族専用と馬車は辺境の下級貴族が準備した馬車とは比べ物にならないほど速い。これが財力だ!俺の金じゃないけどね。
この時が初めての馬車での長距離移動だったが、案外しんどくなかった。俺の従者としてキャロットが付いて来て、彼女が料理を作ってくれた。材料は父からアイテムバックというマジックアイテムを借りていた。そのためなかなか豪華な食事を楽しめた。
豪華な馬車に相変わらずクラージュが恐縮しまくっていた。俺はまだ慣れてねーのかよ。でもこれがクラージュいいところでもあるから、このままでいいかと思っている。
しかし、もし紫衣がいなかったらクラージュはもっと調子に乗っていたかもしれない。紫衣という先が見えない山があるから、自分なんてまだまだと思い、謙虚な姿勢を崩さないのかもしれない。まあ持って生まれた性格もあると思うが。
そうこうしているとクラージュの領地についた。俺たちが乗った馬車が領地最大の町にやってくると、町の人々に凱旋したかのように歓迎された。俺は心の中でうわ……と思った。
クラージュはどう思っているのかな?と思い顔を見ると見たことのない怖い顔だった。
俺は緊張しているのか?と思った。
そんなんだったら、これからどうするんだよ。これからこの国の英雄として沢山の人にちやほやされるのに。
領主の家に着き馬車から降りる。見えた屋敷はまあまあ及第点をあげれるかなと言えるものだった。降りると顔の怖いおじさんが真ん中で左右に10代ぐらいの男達と何人かの従者が石畳の道に跪いていた。
「お初にお目にかかります、フラムスティード様。私はクラージュの父のカルバン・オブ・クラッキーと申します」
慣れた言葉遣いで顔が怖いおじさんことクラージュの父が挨拶する。そして左右にいる男たちも自己紹介をする。
「お初にお目にかかります。私はクラージュの兄で長男のケルビン・オブ・クラッキーと申します」
「お初にお目にかかります。私はクラージュの兄で次男のガルバォン・オブ・クラッキーと申します」
少しぎこちないがまあそれなりに堂々と挨拶をした。おそらく何度も練習をしたのだろう。
「初めまして、クラッキー家の皆さん。僕は第一王子のフラムスティード・ポラリオンと言います。あなたたちの家族のクラージュは僕の近衛隊隊長として役に立っていますよ」
クラージュの父は一瞬クラージュを見て、邪険に扱うような顔をしたがすぐに笑顔で
「ありがとうございます。自慢の息子がフラムスティード様に微力ながらもお力になっていることに誇りに思います」
微力って……。お前、クラージュの実力知らねーだろ。今この子、この国で3番に強いと言われてるくらいの実力があるんだぞ?
俺が少し、カルバンの言葉を怪訝に思っていると珍しくクラージュが横から口出しをした。
「フラン様。こんなところではなんですので、早く屋敷に入りましょう」
「ん?あぁ、そうだな。それでは案内してくれるか」
クラージュが言った言葉にあからさまに嫌な顔をする兄の二人。父はなんとか無表情を保っているが若干不快そうな顔をしているように感じる。
この家、なんかあるなーと思いながら、クラージュ家に足を踏み入れるのだった。
俺が通されたのは芸術品が違和感を覚える配置の客間だった。俺を上座に座らせ、近い方から父、長男、次男、クラージュという謎の配置で男だけの茶会が始まった。
俺はいつも通りコーヒーを頼んだ。出されたコーヒーは俺がいつも飲むコーヒーの豆を使われたものだった。でも、美味しくはなかった。いや十分に美味しかったが、入れ方が悪いのか俺の口を満足にはさせなかった。俺の後ろにいるキャロットもそんな俺の様子を見て、顔が引きつっていた。
そんな心情を知らずにカルバンは口を開いた。
「こちらのコーヒーはフラムスティード様のお好きなコーヒー豆で淹れさせました。お口に合いますでしょうか?」
「あぁ、やはりか。いつもの違ったため分からなかったな」
少し皮肉を込めてそう言う。その言葉にクラージュの兄たちは俺を小馬鹿にするような顔になる。
おそらく8歳のガキがコーヒーを飲み、豆の違いとかそんな調子に乗ったことを言っていると思っているのだろう。
「豆がお分かりになるとはさすがですな。それで私の息子のクラージュはどうですか?」
「それは本人から聞いてはどうですか?」
俺はこの家に違和感を覚え、かまをかけた。さて、なんて答えるだろう。
「それはもちろん、クラージュから後で聞きます。ですが、フラムスティード様はどのように感じておられるのかをお聞きしたいのです」
ダウト。嘘ついてる。
今、完全看破を使っているから分かるが、前半のほうは嘘だな。
そしてさらにかまをかける、俺。
「なるほど。そう言うことでしたら答えましょう。クラージュは確かに強いですが、少し調子に乗る節がありますね。弱いものをいじめたり、横暴な態度が少し目立ちますね」
俺の嘘に凄い嬉しそうにする3人、クラージュは目を大きく開いて驚いている。そんなクラージュに対して俺は目で黙っていろと合図する。
「それはそれはお恥ずかしい。私の教育がなっていなかったのですな。確かにクラージュは小さい頃から横暴な態度が目立っていました。長男と次男はそんなことはないのですが」
はい。ダウト。どこだって?言わずとも分かるだろう。クラージュは小さい頃から〜と長男と次男はそんな〜の部分だ。この父親は息子たちの性格さえ知らないのかよ。
クラージュのステータスは貴族にしては残念な部類に入る子だった。そんな彼を邪険に扱っていたのだろう。というか、多分ほとんど口を聞いていなかったのではないだろうか。
こんな感じで、俺のクラージュが貶されるという非常に不愉快な茶会は2時間弱で終わった。その後、ダイニングに移動して晩御飯が振る舞われた。食事の時間になるとクラージュの母親が帰ってきて、クラージュ家全員と食事を共にした。
「是非とも我が長男をフラムスティード様の近衛隊の一員にしていただけないでしょうか」
晩餐会も終盤に差し掛かった頃、カルバンは随分と調子に乗ったことを言い始めた。
「長男のケルビンは騎士学校に行くほどの実力を持っております。決してクラージュにも遅れを取らないと思います」
騎士学校と名前はいいが、そこは主に冒険者を育てる学校だ。なぜか騎士学校という名前になっている。この学校は魔物などの戦闘には強いが対人戦は苦手なはずだ。それにそもそも実力が優れた学校でもない。俺とクラージュがいく学園の方がレベルの高い冒険者を輩出しているだろう。
おそらくこのおっさんはコネで近衛隊に入れると思っているのだろう。俺は久し振りに心の底から不快に思い、こいつらに現実を見せてやろうと意気込んでいると急にクラージュが立ち上がった。
「あなたは近衛隊を舐めておられるのですか?僕の主人であるフラン様をお守りする資格はあなたたちにはありません」
子供とは思えない見る者を震撼させる怖い顔をしながらクラージュは言った。
俺はクラージュがあったセリフで笑い転げそうになった。しかし、そんなことを言われた人たちの顔は今にも殴ってきそうなほど怒りをあらわにした顔だった。
「おい!お前はなに調子に乗ったことを言っているのだ!?少し強くなったからって親に向かってそんなことを言うな!」
「あなたは僕が尊敬するお方を侮辱するようなことを言いました。それは僕には耐えられません。はっきり言います。今日ここに来たのはこの家から出ていくためです。あなたたちの態度でそう決心しました。あなたたちは僕の家族でもなんでもありません」
いつもの腰の低さなんて全く感じさせないはっきりとした様子でそう言った。家から出ていくと言う言葉に俺は少し驚いたがクラージュがそう決断するほどこの家は終わっているのだろうと思い、彼の意思を尊重してあげることにした。
そんなクラージュの言葉にカルバンは耐えられなくなったのか机をばんと強く叩き、怒鳴り始めた。
「調子乗るのも大概にしろ!!お前は黙っていろ!!」
「黙るのはお前だ。おっさん」
俺はさっきまでの仮面を被った様子と一変して言った。殺気もバリバリ出して。すると不快な男は一瞬で大人しく黙った。
「クラージュよ。お前はそれでいいのか?一度出ると二度と戻ってこられないぞ」
クラージュはさっきまでの怖い顔とは取って代わって清々しい、なにか強い意志を持つような表情で言った。
「はい。フラン様と過ごしたこの1年間で僕の居場所は貴方の側だと実感しました。ですので、この気持ちは揺らぎません。そもそもこの家にはなにも思い入れはありませんし」
クラージュの強い強い意志を感じ、これ以上は何も言わずに認めてやることにした。俺はゆっくりとクラージュ側まで行った。
「そうか、分かった。それならお前はもう家名を名乗ることができないな。だから俺から新たなラストネームを授けよう。……よし、お前はこれからクラージュ・ヒーロアスと名乗れ」
俺は右手の甲を差し出した。クラージュは跪き
「僕のわがままをお聞きくださってありがとうございます。この命が尽きるまで貴方様をお守りします」
そう言い、俺の手の甲に口づけをする。俺は少し体がぶらりとする。慣れないなーこれ。
そして、いつの間にか部屋から出て行っていたキャロットが部屋に入って来た。
「馬車の準備ができました。いつでも主発できます」
ありがとうと一言いい、俺とクラージュは部屋を出ようとする。そこでようやくカルバンが口を出す。
「なにガキたちが言ってやがる!遊びも大概にしろ!」
その言葉でクラージュは一瞬で隠していた懐刀を出し、カルバンの背後からそれを首に当てた。あまりの速さに何が起こったのか分かっていない。
多分、俺に対しての舐めた言葉遣いにクラージュ怒ったのだろう。
「言葉を慎め。フラン様の一言でお前を殺すことだったできるぞ」
クラージュからだされているとは思えないドスの効いた声で言った。カルバンは恐怖からか体が震えている。
確かに今、カルバンが俺に言ったことは不敬罪として罰を与えれる。でも俺はそんな馬鹿らしいことしない。
「クラージュ。お前がそんな男で手を汚す必要はない。さあ、行くぞ」
「はっ!」
また目で追えない速さで動き、元いた場所に戻ってきた。キャロットは扉を開け、俺は部屋から出ようとするが、言い忘れていたことを思い出し止まった。
「キャロットのようなものが、本当の従者と言うのだよ。勉強になったか?」
そう言い、俺は部屋を出た。
部屋から出るときに見たクラッキー家の人たちの顔は絶対に忘れないだろうと思うほど醜いものだった。
クソな父親に育てられなかったから、あんなクラージュ少年がいる。そう考えてみると皮肉なものですね。
次の更新もっと遅いかもです。