洗礼式の準備
俺ことフラムスティード・ポラリオンは7歳になりました。
ダンジョンにいた俺の同族と出会ったあと、紫衣はもう外に出たくない。と言い、レベル上げはあまり積極的にしていない。
そんな俺の今のステータスはこちら。
・レベル:55
・名前:フラムスティード・ポラリオン 7歳
・種族:人間 男
・地位:ポラリオン王国第一王子
・称号:変態、王子
・HP:5600/5600
・MP:2850/2850
・SP:5510
・AP:5505
・DP:5505
・LP:275
・スキル
[鑑定LVMAX]、[紫衣]、[全属性魔法LVMAX]、[MP超急速自動回復LVMAX]、[気配感知LVMAX]、[気配隠蔽LVMAX]、[全属性耐性LVMAX]、[全状態異常耐性LVMAX]、[物理耐性LVMAX]、[魔力操作LVMAX]、[魔力感知LVMAX]、[詠唱不必要]、[ステータス隠蔽LV4]、[完全看破LVMAX]、[付与術LV1]、[錬金術LV1]、[身体超強化LVMAX]、[オールクリエイトLV4]、[思考超加速LVMAX]、[危険察知LV1]、[全種族魅了LV1]、[恐喝LV1]、[痛覚超軽減LV3]
・スキルポイント:21
しばらく、スキルポイントも使っていない。てか使う理由がない。そのためたくさん溜まっている。そんな俺だが、いま使おうと思っている。
ステータス隠蔽にだ。
今は初夏ごろだ。この時期にはその年に7歳になる子供を集めて、教会で洗礼式がある。
この洗礼式に大勢の人の前で鑑定されるのだ。そのためステータスが露わにされる。今の俺のステータスが人前に出されると、騒ぎどころではない。そのためステータスを隠そうと思ったのだ。
紫衣によると、今のステータス隠蔽スキルのレベルでも問題はないみたいだが、一応レベルを上げておこうという話になった。
[スキルポイントを1消費して、ステータス隠蔽LVMAXにしました。現在のスキルポイント:20]
先程、洗礼という言葉が出たが、この国の教会が強い力を持っているわけではない。一応、国教が定められているが、教会が持つ力は微々たるものだ。
ぶっちゃけ、貴族たちはこの式は政治的な観点でしか見ていない。
なんて言ったて、この国の子供がみんな鑑定されるのだ。中には才能を持った子供だっているだろう。そんな未来モンスターを探すための式だ。
では、教会はどんなことをやっているのか。
教会は前世で言う、孤児院や病院などの運営をしている。もちろん、お祈りもできる。
それらはお布施費と国、もしくは領主からの支援金で運営されている。
そういう制度を先代王が導入したらしい。この王都では上手く運営されているようだ。
「王太子様〜。入りますね〜」
腑抜けた、声とともに部屋に入ってきたのは、毎度おなじみのキャロットだ。
俺は椅子に座りながら、本を読んでいるふりをしていた。そんな俺を見ながら、
「また、本をお読みになっていたのですね。お好きですね〜」
と言われた。そう俺は3歳ぐらいから文字の読み書きの練習を始め、4歳ぐらいからこの城にある図書館の本を片っ端から読んでいた。
4歳ぐらいならもう大丈夫か。と思ったのだ。
「さあ、王太子様。行きますよ。今日は神聖な洗礼式の日です」
そう言い、俺を部屋から連れて行こうとする。俺はもう抱っこはしてくれないかと思いながら、彼女について行った。
廊下では近衛隊やメイドたちがわきにそれ、道を譲っていく。初めは慣れなかったが今では慣れたものだ。
ある部屋の前で止まり、その部屋の門番が一言、俺に挨拶すると扉を開ける。
扉の先にはメイドが3人いた。
2人が年老いた女性でもう1人は中年女性だった。
それぞれが俺に自己紹介した後、女性たちによって服が脱がされていく。
初めは人に着替えさせてもらうのはきつかったが、だんだんと慣れてきた。慣れというものは恐ろしいものだ。
いつもならキャロットに着替えさせてもらうのだが、今日の服は洗礼用で1人ではとても着せることができない。そのためこうして複数の女性に着せられているのだ。
着替えさせてもらい、女性たちにご苦労と一言いい、鏡の前に来た。前世の世界と比べると少し淀んでいるが、この世界では最高級品らしい。
鏡の前に立ち、俺は感心した。見事なものだった。華美すぎず、でも目が惹かれる美しさがある。そんな服だった。
「王太子様〜。素敵です!」
俺はこの世界ではかなりの美男子のようだ。
初め自分の顔を見たときはつい前世からのイケメンアレルギーが発症してしまったものだ。
俺の顔は金髪で少しつり目だが愛嬌のある顔立ちをしている。かっこいい系というよりかわいい系のイケメンになりそうだ。
キャロットと俺は部屋を出る。次に向かうのは、父と母のところだ。
2人のところに向かう途中、廊下で4年前に生まれた妹のシャハルと会った。
「おにー様〜!」
「おっと、シャハル。走ったら危ないぞ」
俺の姿を見た瞬間、シャハルが俺に向かって走ってきて抱きついてきた。
キャロットはシャハルを止めようとしたが、俺はキャロットを止めた。
キャロットは俺の服を心配そうに見ていた。
「姫さま、いま王太子様に抱きついてはなりません」
シャハルの乳母、キャストは俺の方を向き、謝罪した。
「申し訳ございません。お召し物にシワがいってしまうかもしれません」
「いや、気にしないでくれ」
そう言い、シャハルを撫でる。
シャハルは目を細くしながら、気持ちよさそうにしていた。
「姫さま。今日、王太子様は大切な式がありますので、本日はこの辺で……」
シャハルは俺の腕を掴み、キャストの方を向きぽっぺをぷくーと膨らましながら言った。
「いや!おにー様と一緒いる!」
かわええ、なにこの生き物。
あぁ、いずれこの子も大っきくなんねんなー
成長なんて、12歳で止まればいいのに。
(ロリコン死ね)
今日初の紫衣からの罵りに興奮しつつ、軽くかがみ目線がかわい子ちゃんもとい、シャハルと同じくらいにくるようにする。
「ごめんな、シャハル。僕は今日、大切な式があるんだ。だから一緒にいることができない」
「うん!シャハル、良い子だから、我慢する」
無理やり笑顔を作りつつ、そう言った。
俺はそんなシャハルを見ると切なくなってくる。
「あぁ、シャハルは偉いな!違う日にまた遊ぼうな」
そう言い、俺はかがむのをやめる。シャハルは俺から手を離し、一生懸命背伸びをして俺の頭を撫でる。
「おにー様。頑張ってきてください!」
にやけが止まらなかったが、そんな情けない姿をするわけにはいかない。我慢して一言、ありがとうと言い、その場から離れて行った。
しばらく歩き、少し扉の大きな部屋の前まで来た。
この部屋は王家のプライベートスペースで家族団欒ができる場所だ。
それ以外の部屋は臣下などがいて、とてもではないがそんなことをする雰囲気ではない。そのため、この部屋がある。
門番の兵が扉をノックし、王太子様が来られました。と言った。
部屋の中からいれてくれ。という言葉がして、門番が扉を開け、俺は部屋の中にゆっくり入る。
部屋の中にいる、母と父に挨拶をする。
「おはようございます。母上、父上」
「あぁ、おはよう。まあ座りなさい」
はい。と言い、上座にある1人用ソファーに座る父の右手にある2人用ソファーに座る。母は机を挟み、俺の正面の2人用ソファーに座っている。
ソファーに座った瞬間、倒れる。という感覚が起こるほどソファーは柔らかくて沈んでいく。
このソファーは魔物の素材を使っている、高級品らしい。
「よく来たな。その洗礼服、よく似合っているぞ。一流のデザイナーがデザインして、一流の裁縫師に作ってもらったからな」
「あら、それではまるでフラン自身がかっこよくないみたいではありませんか」
「いや、そんなことは言ってない。妻に似て綺麗な顔をしている」
母はあら上手だわ。と言い、少し照れる。
俺は2人にお礼を言う。
「父上、母上ありがとうございます。このような素晴らしい洗礼服を贈っていただき、感謝の念に堪えません」
「堅苦しい言葉はいらん。我が息子の晴れ舞台にそれ相応のものを準備しただけだ」
そう、この洗礼式は俺の社交界デビューの日でもある。今まで培った知識やマナーを存分に発揮しなければならない日だ。
この時、貴族の子供がどの程度それらが身に付いているか見られる。それによってどれぐらい良い家庭教師を雇ったか、子供の才能はどの程度か、などが図られるのだ。
子供の評価によって、今後の婚姻などが決まっていく。そのため下級貴族はこの洗礼式は命がけだ。
婚姻の話は俺のような王家、上級貴族はあまり関係ないが、身分に見合った知識を身につけた子供でなければ同じ身分の人に侮られる。
「その様子では洗礼式は大丈夫みたいね」
「はい。王家の名に恥じない態度を心がけます」
俺がそう言うと、母が昔を思い出す様子で少し悲しげにいった。
「はぁー。小さい時のフランちゃんはもういないのね」
母に続いて父も悲しげにいった。
「そうだな。フランは少し大人になるのが早すぎる。もう少し親に甘えても良いのだが……」
「そう言うわけにはいけません。僕はじきに父上に代わり王になるのです。そのようなことは許されません。では、時間ですので僕はこれで」
そう言い、俺は立ち上がり部屋を出る。父と母の目線が少し寂しそうだったが、俺は無視した。
キャロットが後ろからついてくる。キャロットに小さく教会に行く。馬車は?と聞く。キャロットはすでに準備おります。と答る。
俺は満足気に鼻で笑い、城門へ行く。
「お待ちしておりした。王太子様」
深く深く俺に頭を下げる。御者。
その男が馬車の扉を開ける。俺はご苦労。と言い中に入る。その後ろをキャロットが行く。
馬車の中は高さは2m程あり広々としていて、床には踏むのをためらうふかふかの絨毯が敷かれていた。
これで馬車かよ。と思いつつ、少し気後れしつつ、椅子に座る。
御者が小窓から、では出発します。と言い、馬が石畳の道を踏む音がして、ゆっくりと馬車が動き出す。
意外と揺れないなー。と思いながら教会に着くのを待った。
教会に着き、御者に扉を開けられて、入り口で待っていた教会の者が降りてきた俺たちに挨拶をして、控え室に案内する。
控え室に入った瞬間、部屋の中は静まり返り、俺と同い年の子供とその従者が俺に跪く。
俺は軽く手を上げ、楽にしなさい。と言い、空席だったこの部屋で1番豪華な椅子に座る。キャロットは椅子の少し後ろに立った。
しばらくした後、身分の高い貴族から俺の元に来た。
「フラムスティード王子様。ロメアリンス・オブ・チャキセスと申します。チャキセス伯爵家の次男であります。王子様のお噂はかねがね耳にしておりました。私も将来、王子様の臣下としてお役に立てるように日々精進します」
金を基調とした遠目からでも目立つ、豪華な服を着ていた。しかし、美しくはなかった。
ただ、金がかかっているだけ。芸術性のかけらもない。そんな服だった。
そんな服に身を包んだ子供は腹が出ていて、顔は見ることも嫌になるブスで一目見た瞬間、嫌いだなと思った。
デブが金のかかった服を着ていると、豚に真珠という言葉が頭によぎる。
嘘くせーセリフだな。てか俺の完全看破スキルで最後の一文が嘘ってわかるのだが。
こいつとは絶対に仲良くしない。
「俺はフラムスティード・ポラリオンだ。俺が王になった時、お主のような臣下いると心強い。これからも精進してくれ」
心にも思ってないことを言いながら、子豚の様子を見る。
なぜか俺を侮っている顔をしている。
そんな表情すら隠せないとはやはり小物か。と思いながら、話を終わらす。
子豚はもう少し話したそうだったが、次が待っていると言い、無理矢理ひかせた。
俺はそんなことも分からないのかと思いながら、次に挨拶に来た、女の子を見た。
可愛いわけではないが上品そうな顔立ちをして、自分の顔に合った服を着ている女の子だった。
俺からの見た目の評価は上々だ。さて、中身はと思いながら口を開くのを待った。
「お疲れのところ申し訳ありません。お初にお目にかかります。私はロリンズ伯爵家、三女のフレアリード・オブ・ロリンズと申します」
その言葉を聞いた瞬間、笑ってしまった。
お疲れのところ、か。来てから数分しか経っていない俺に言う理由はさっきの子豚のことを見て、そう言ったんだろうな。子供が冗談を交えつつ挨拶するとは。なかなか面白い女の子ではないか。
「俺はフラムスティード・ポラリオンだ。子供の相手は疲れるものだ。気遣いに感謝する」
俺は意味深な笑顔をして、言った。俺の言葉を聞いた瞬間、彼女も苦笑いをした。
そして、2人で同時に子豚の方を見た。すぐにまた俺と彼女の目線が合い、2人で笑い出す。
その後彼女は、今日はこれで。と言いその場を離れた。
俺は彼女の後ろ姿を追いながら、面白い子供だ。と年寄りみたいなことを想いながら、次の子供を相手する。
次から下級貴族だ。下級貴族の子供は緊張してろくに喋れないか、俺と喋る意味が分かっていない馬鹿のどちらかだった。
俺はやはり彼女のような面白い奴はいないか。と思いながら洗礼式の時間まで待った。
次、洗礼式本番です。