孝義
孝義は、度胸がないくせに負けず嫌いな、そんな、いじめられやすい性格だった。
だいたい小学校へ入ってからというもの友達ができずいつも一人で遊んでいたが、そのうち絵がうまいことがクラスで評判になり、人気が出た。天然で、なかなかおもしろいやつだったので、翔太と俺はいつも孝義をからかっていたのを覚えている。
ある日、翔太が格闘技の技を孝義にかけて遊んでいた時のことだ。
孝義が逆に技を翔太に掛けて苦しませていた。俺をふくむこの光景を見た全員が孝義をほめ、翔太を笑った。
これにガキ大将だった翔太はプライドを傷つけられたんだろう、本気で孝義に怒って喧嘩になってしまい、また孝義は一人きりになってしまった。
それで、二日くらいたった時翔太が、帰り道に孝義を待ち伏せようぜと言ってきたので、なぜかと尋ねたら、孝義に落とした鉛筆を拾ってくれと言っても無視して拾ってくれなかったり、授業中問題に間違えるとクスクス笑っていたりしてくるという。
これは孝義なりのやり返しだったんだろうが、いかんせん陰湿すぎる。そうおもった俺は手を貸すことにした。
その日の夕焼けに孝義の泣き声は響いた。
次の日学校へ行ってみると、友達皆が孝義に向かってボールが投げている。
孝義は反撃するのかと見ていたら何にもしてこない。俺の所にボールが転がったので、空気的なことから俺も投げた。
それからというものいじめは始まった。
孝義はというと、ずっといじめに抵抗し続けた。
パシリに使ってやろうとも絶対聞かない、数人がかりでどんなに殴っても、必ず睨みつけてくる。
何もできないくせに、やり返しもできないくせにそんな事するもんだから、俺ら皆の反感を、孝義は買い続けていた。
そんな日が一年ばかり続いた。
俺らが二年生に上がってしばらくたった時。あれはゴールデンウィーク前の事。孝義が翔太にいきなり後ろから襲い掛かかった。
そして、仰向けに倒れた翔太にすばやく顔をめがけ、全力で殴り続ける。
翔太からは血が、孝義からは涙が流れていた。
皆や俺も、予想外の出来事と、あまりの迫力に唖然として誰も止められなかった。
翔太も何とか逃げようとして体を動かしてはうつ伏せになって、頭を両手で守ったのだが、今度は、がら空きになった胴体を責めていく。
その時、孝義はなぜか、不思議な事に主に臀部辺りを執拗に責め立てていた。興奮していたからかな?
その後、騒ぎで駆け付けた先生が止めてくれたが、これ以来、翔太と目が合う度に襲い掛かったため、翔太はしばらく学校へ来なくなってしまった。
まあ、これ以来いじめはなくなり、孝義の方も、しばらくして登校して来た翔太へのやり返しなどもしなくなり、この件は一件落着した。
何でも孝義は、俺らにやり返すために空手をして鍛えていたらしく、俺と孝義が親友になった小四の頃、市大会で優勝したと喜んで伝えてきたのを覚えている。
それから孝義とは高校で離ればなれになった。
四十歳の今日、同窓会が開かれ、オカマになっていた孝義とぎこちなく話をしていた時。
俺はこの出来事を、辛い時や挫けそうな時、なぜかいつもおもい出すんだ。何かさ、エネルギーが沸いてくるんだよ、と話したら、雌豹の眼でこちらを見つめてきた。