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夜中寝ている間は、目が覚めるのが嫌なので、携帯の着信音、バイブは切りにしている。
よって寝ている間、携帯に電話やメールが来ても分からない。
朝起きて1階に行き、歯磨き、洗顔の後、朝食をとるためテーブルに着く。
朝食を食べながらメールなどをチェックするのが日課だ。
すると、件名に「CD届けて下さってありがとうございます」とあった。
送信者は「sound-traveler」と表示されている。
内容は、
「初めまして。CD−ROMの落とし物、遺失物センターに届けて下さいまして、ありがとうございます」
「back-upをとっていましたが、大事な物で大変感謝しています」
「ありがとうございます」
「そうか、落とし物が本人に届いたのか」
「良かったな」と思うと同時に、送信者名が「sound-traveler」とあったことから、音オタクなのは間違いないようだ。
でも、逆にこれは絶好な機会だ。疑問に残っていることをできるだけ聞いて見たくなる。
強い気持ちがこみ上げてきた。
そして、次の内容のメールを返信した。
「とんでもありません。CDが無事手元に届いて良かったです」
「でも……実はつい興味が勝ってしまい、CDの中身のファイル聴いてしまいました。本当に申し訳ありません」
「どうしてもそれらのファイルに惹かれてしまいました。すいません質問させて下さい」
「ファイルは、自然の音を録音されたもの、そして、ファイル〜Iは楽器?又は合成音?で創られた特殊な音というのは分かりました」
「また、ファイル名については、友人たちと日本の地名の北緯、東経、日時を暗号化されていることは分かりました。でも、それ以上のことは分かりません」
「自然の音は、何に着目して録音されているのですか?」
「また、その自然の音に対応された音源を、どうして意図的にお創りになり、何をお調べになっているのですか?実験しているのですか?どこかに向けて発信しようとしているのですか?」
「こんな立場ではないことは承知していますが、差し支えなければ、教えて頂けないでしょうか?」
「CDの中身を勝手に見て、聴いていながらの失礼をお許し下さい。でもとても知りたいです」
食事を終えて、学校に行く途中、自分で「sound-traveler」から再返事があった場合の内容を考えてみた。
「率直に、ファイルの録音、作成の意図の秘密を全部明らかにしてくれる」のか
「単に訪れた先々の場所の音を記念記録として録っているんですよ。そしてそれに感じた音を自分なりに表現して創って見ているんです」と事実を隠すかのようなありきたりな、とぼけた返事がくるのか
「それとも、返事も全く来ないか……」のか
午前中、授業の合間を見て「昼休みに落ち合おう、CDの落とし主からメールが来た」とTとYにメールした。
2人からそれぞれ「了解」の返事が来た。
昼休みになり、3人でいつもの場所に集合した。
食事を食べた後、自分はポケットから携帯を取り出し、CDの落とし主「sound-traveler」からのメールを見せた。
そして、自分の、CDに関する疑問についての質問メールも見せた。
話し合って見ても、今までの一連のことは、
「返事がくれば、最終的に分かるかも知れない」でも、「うまく隠されてしまうかも知れない」
何か特別なことがあるのは、ほぼ確定的だなのだが。
「返事が来なかったら、話たくないこと、他人関わりたくないのかも知れない」
3人とも同一見解だ。
しかし、「いずれにせよ、一連の件は、これで終わりにしよう」と皆で口を揃える。
そして、「返事が来たらすぐ連絡するよ」と自分は最後に言って、それぞれの教室へ帰って行った。
その日は何もなく、真っ直ぐ帰宅し、
「そうだ、ここのところ、彼女には、来たメールに対し適当に返事しただけだった」
「彼女も忙しそうで丁度良かったけど、もしそうでなくて、おざなりにしていたらアウトだったな」
「今日は自分からメールを打っておこう」と、
「明日、放課後あいてる?どこか行かない?」と打診した。詳しくは明日でいいな。
夜は、「sound-traveler」への質問メールも打って、後は待つばかりになったことから、気持ちが緩んでいた。
夕食、風呂にゆっくり入り、お笑い、ドラマ番組もゆったり見て過ごすことができた。0時前には寝た。
−−−−−−−−−
真夜中、暗闇の中で鳴る携帯のバイブ音で目が覚めた。
「何?」
時計を見ると午前3時過ぎだった。
気になってしまうたちなので、携帯に手を伸ばす。
メールが1件、受信になっていた。
送信者を見ると、あのCDの落とし主の「sound-traveler」だった。
件名は「お尋ねの件」とあった。
「何もこんな真夜中に送ってくれなくても……」
そして、「バイブを切っておくの忘れた。しまった」と思いつつ、メールを開く。
内容は、
「どのパターンの返信内容だろうか……」
次の文があった。
「度々、どうも」
「CDの中身を見て、聴いた件については、責めたりしませんから大丈夫です。安心してください」
「むしろ、あなた(方々?)がファイル名の暗号を解いたこと、そして、自然の音の録音の場所、さらにそのファイルに対応した別ファイルの音の特殊性についての質問……」
「CDを拾ってから短期間に、ここまで知ることができるあなたには、少しはお話が分かって頂けるのでしょう」
「全く自分だけじゃどうにもならなかったよ。ほんと、TやYや皆のお陰だよ」心の中で呟く。
「しかし、残念ですが、私の調査がまだ未段階であること、そして、内容が機微なものであることにより、今の私からあなたに伝えることができることは、次のことだけです」
「恐らくこれだけでは、私が何を目的に調査しているのか、ただちには分からないと思います。しかし、あなたのこと。事実をお知りたいと思われますから、次のワードを手がかりに調べてみてください」
「なお、以上の理由もあり、今後、あなたとの連絡、またやりとり、回答は一切いたしません。どうぞよろしくお願いします」
「ζ」「f(x)〜f(I0) I0=g(N4KJ631E34NK444)」
これで「sound-traveler」からのメール内容は終っていた。
ワードは、「ζ?」「f(x)〜f(I0) I0=g(N4KJ631E34NK444)?」
「何だこの文字?そして数式?」寝ぼけ頭で考える。
どこかの国の文字だろうけど。なんかの関数?凡庸な自分には残念ながら分からなかった。
「これだけか。もうちょっと説明が欲しかったよ」
でも、
「やはり、特別に意図的だったんだ……しかも何かを調査していることを認めている。そして内容が機微ということは秘密度が高いということ。問題はその何か……」
しかも、
「私となっている。同じように活動している人がいるということは、グループで行っているのか」
「ζという文字と、今まで自分らで分かったこととの関係とは何だろうか」
「降り出しに戻っちゃったよ……もったいぶり過ぎだよ」
と思いつつも、思わず笑ってしまった。
「まだ、仲間たちと一緒に過ごす時間が延びる。秘密を解くじれったさと、僅かづつだか分かっていく嬉しさも、まだ味わえる」
「何でも程々」の自分が変わったことを実感していた。
いや、忘れ去っていた古い記憶を思い出したかのように、自分の気持ちに素朴に従って生きていた時代の感覚が、再び目を覚ましたとも言える。
真夜中ではあったが、「CDの落とし主からこんな返事が来た。また明日も昼休みに」という文を加えて、この「sound-traveler」からの返事メールをTとYに転送しておいた。
「明日から、またTとYや……どんな鍵探しが始まるのだろう」
その後、ベットに横になったが、眠ったかどうか良く分からないまま朝を迎えた。
朝の支度をし玄関を出た。
いつもに加え上調子で学校へ向かった。
最後まで読んで下さいまして、ありがとうございます。
初心者で拙いですが、
次作作成の参考にさせて頂きたいと思いますので、忌憚のないご感想、ご意見をお待ちしています。
ありがとうございます。