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世界で一番不謹慎


男「ぐおお…」


女「ふふ…」


男「息が……」


女「ふぅ…ふぅ…」


男「息が……」


女「はぁ…はぁ…」


男「息ができる」


女「うぅ…酸欠になりそう…」


男「そっちの方が苦しそうだぞ?」


女「はぁ!はぁ!」


パサッ


女「今日はここくらいまでにしてあげます。死を前にして生のありがたさを実感したでしょう」


男「握力3くらいの実感した沸かなかったんだけど」


女「殺意の前に握力がない人間なので」


女「そもそも丑の刻参りって神社でするものですし、白装束や特別な髪型などが必要なんじゃないでしょうか」


女「こんな現代的なコートを着たまま人を呪おうだなんて贅沢ですよ」


男「えっ、でも中は裸体じゃ…」


女「隙あらば露出魔にしようとするのやめてもらえます?」


/


男「なんか重大な隠し事があるんじゃないかと中2心がワクワクしていたと言うのに」


女「丑の刻参りを疑われるなんて思ってもみなかったです」


男「なんだか安心したら小便したくなってきた」


女「公衆便所はここにはないですが」


男「漏れそうだからもうここでする。見たいならご自由に」


女「私も用事があるのでしたいならご自由に。よく飽きませんね」


男「なんだかマスゲームをしてるみたいな気分になるんだよ。オセロみたいに黒く塗りつぶしていくというか」


女「挟まれたお墓がひっくり返って死者が蘇らなければいいですね」


男「今どき死体の埋まっている墓なんかないだろう」ジー


女「会話しながら平然とチャックを下ろすのも人としてないでしょう」


/


男「さて、放出するか。ここからだと女が普通に見えるな」


男「音が響くのは恥ずかしいが、それよりも尿音を聞かれる興奮がまさるな」


男「うう、とかいってる間に出る…」


ジャー…


男「ああ…というか大事なこと聞けてなかったじゃないか」


男「あいつ、結局どうしてこんな時間に…」


男「って、お、おい、あいつ、まさか」


/


女「どうされました?ズボン、びしょびしょじゃないですか」


男「急いで尿を引っ込めようとして」


女「放尿の途中で我慢するプレイにでも目覚めたのですか?ますます上級者ですね……」


男「そうじゃない。そうじゃなくて……」


女「そうじゃないんですか」


男「本当に、すみませんでした」


女「何がですか?」


男「だって…」


男「あんたがお祈りしているその墓」




男「俺があの時小便をかけてた墓じゃないか」


/


女「……はぁ」


女「らしくないですね」


男「らしくない?」


女「急に罪悪感に苛まれちゃって。出会った夜の変態度を忘れたんですか」


男「だ、だって……」


女「つまらないですね。まぁ、世界はつまらないと思っている二人ですものね。面白いわけがないですね」


男「は、墓参りに来てただなんて」


女「墓地ですから、普通はその用事くらいしかありません」


男「家族の墓なのか?」


女「私が殺してしまったんです」


男「えっ?」


女「私、殺人者です。陽の光のもとを歩くことはもうありません」


/


男「…………」


男「やっぱり隠し事をしてる」


男「殺人を犯したなら刑務所にいるはずだろう」


女「逃走中かもしれませんよ?」


男「君が人を殺すわけもない」


女「まさか私だって私が人を殺すだなんて、人を殺すまでは夢にも思いませんでした」


男「煙にまいて」


女「けれど、たしかにそうですね。あなたの言う通り、あなたに大切なことは話していないし、話すつもりもありません」


女「知って欲しくもありませんし。私もあなたのこと、知りたいとも思いません」


/


男「俺はさ」


女「別にあなたの話は聞きたくないと」


男「実は、これといった悩みがないんだよ」


男「お父さんも、お母さんも、必要なものは買ってくれるし、時には厳しく叱ってくれるし、それでもいつでも愛情を感じるし」


男「学校での友達だって、お腹がよじれるくらいに笑わせ合う仲だし」


男「墓で放尿をしても同情されるような苦しみなんて抱えていないんだ。ただ」


女「…………」


男「ずっと好きな人がいて、その恋が叶わなかった」


男「その恋の代わりになるような女性からも好かれるような自分ではなかった」


男「それだけ」


女「…………」


男「風が吹くと桶屋が儲かるってのと似てる。モテなくて墓標に尿をかける」


男「いや、なんだろうな。本当に。まして、女性に言うことじゃ……」


女「赤くなってますよ」


男「えっ?」


女「あなたの顔、とても赤くなってます」


女「尿だの小便だの散々言って立ちションしてた人が、どうしてこんなに綺麗な話をする時が1番恥ずかしそうなんでしょうか」


男「うるさいな」


女「全然同情なんかしませんけどね。思い通りにいかない腹いせに罰当たりな行為をするような人だから、思い通りにいかなかったんでしょう」


女「運とかツキって存在すると思いますよ。それは周囲の『なぜだかこの人を応援したい』っていう気持ちのようなものだと思いますが」


女「私とあなたにはまるで存在していないようですが」


/


女「お互い用もすみました。そろそろお開きとしましょう」


女「あなたの過去を聞かせてくださってありがとうございます」


女「今が汚いと感じるほどに、思い出は綺麗だったという証だと思えます」


女「裏切られたと感じた相手は全て、かつて信じた相手であったということと似ていますね」


女「私も今を呪い続けます。まぁ、綺麗な思い出なんてろくになかったんですけどね」


女「それではお元気で。元気にならなくとも、心配はしませんけど」


/


男「俺は」


男「俺は!」


女「もう謝らなくてもいいです」


男「世界で1番、不謹慎な存在になってやる!!!!」


女「……はい?」


男「そばにいるだけで、こんなことしたら先生に怒られるんじゃないかって恐怖の100倍の気持ちを味わわせられるくらいに」


男「不謹慎なぁあああ!!!存在にぃぃいいい!!!!」


男「のわぁああああああ!!!!!!!」


タッタッタッタ……


女「…………」


女「そばにいる存在が、私じゃないことを願いますが…」

寒いね、と話しかければ、寒いね、と答える人のいるあたたかさ。


暗いね、と話しかければ、暗くないよ、と言って月の下まで引っ張ってくれる人がいる心強さ。


寄り添ってくれる気持ちも、引っ張ってくれる気持ちも、同じやさしさから生まれるに違いない。


次回「お墓でピンポン」


心配して、気づいて、理解して、そして精一杯知らないふりをしてあげる。

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