謎の少女
すやすや、只今絶賛夢の中。なんかつんつんされてる気がする。いや俺寝てるんだって。放っておいてよ。おいこら髪を引っ張るんじゃない。ハゲたらどうするんだ。今から毛根を大切にしておかないと将来心配だろ。
あれ、俺防御結界の魔法陣描いておいたよね。
「ねえ、君の名前はなあに?」
すやすや
「ねえ」
尚も寝たふりを続ける俺。ここで目を開けたら絶対めんどくさいことになる。てか貴重な睡眠時間を妨害すんな。
「ねえったらーーー!「いってええぇぇぇぇぇ!!!」」
おいこいつ、初対面のやつを殴ってきたぞ。
「ご…ごめん!僕ちょっと他の人より力が強くて…。大丈夫…?」
殴られた脇腹をさすりながらしぶしぶ目を開けると、夕日で少し赤みを帯びた金髪の少女が横にいた。
てかなんだよ、か…可愛いじゃないか…。ボブより少し長めの髪に透き通るような白い肌。赤く大きな丸い目が印象的ないわゆる美少女がそこにいた。エリカも美少女だが、この子はまた種類が違う。
本当にこんな子にあんな馬鹿力が出せるのだろうか。
「立てないよね…?すぐに僕のうちに運ぶね。本当にごめん」
「いや、大丈夫。痛かったけど動けなくはないわ」
すぐにさっと立った俺を見て少女はぽかんとしていた。くそ、可愛い。
「え…動けるの…?今まで僕が力の加減を間違えたときに動けた人いなかったからびっくり…」
「そうなの?別にそんなでもなかったような」
カッコつけたけど普通に痛かったよ?めっちゃ痛かったからな。でもまあ動けるから良しとしよう。
「なんで俺を起こそうとしたの?」
そう問題はここだ。いくら可愛くたって俺の睡眠時間の妨害は許さないぞ!
「あ!そうだ。この辺り、上級魔獣の通り道になるから危ないよって伝えようとしたんだ。でもなかなか起きないから…。ごめんね」
「まじで?俺この辺りのこと詳しくないから下手したら食われてたかも…。君のおかげで助かったわ。ありがとう!」
知らず知らずのうちに助けられてたわけか。うわ、申し訳ない。
「ううん!全然!あ、僕の名前はチコっていうんだ!お兄さんの名前は?」
「俺はネオン。兄と従姉妹に連れられて魔獣と戦わせられる可哀想な男さ」
やれやれと疲れたしぐさをすると、
「魔獣?僕も魔獣狩りをしてたんだ!よかったら一緒にする?あ…でも僕が気持ち悪くなかったらだけど…」
「え?全然。なんで?むしろ可愛い子と一緒で嬉しいけど。むしろ俺の方が役立たずだからまじすまんって感じになると思う」
そう言うとチコはまたまたぽかんとした。そしてすぐに下を向き、左腕を突き出してきた。
先程からチコの左腕からちろちろと赤黒い結晶のようもの見えていた。その結晶が突然左腕全域に広がり、兄さんの両足のような装甲で覆われた。
「だって僕、インカーネイト発症者だよ…?しかも能力をしまいきれない半不適合者。気づかなかったの…?見えてたでしょう」
「知ってたけど、そんなの気にしないよ。俺の兄さんもネイト発症者だけどそんなの気にしたことないな。このあたりだと偏見とかあるの?」
俺が外に出なかった間に何があったんだろう。昔は偏見とかそんなものなかった気がするんだが。兄さんも何も言わないし…。
「ネオンはあの事件のこと知らないの?ネイト発症者による王都での大量殺人」
へえ、そんなことがあったんだ。あ、だから発症者は王都で特殊部隊なんていうものに属させられるのか。
「発症者だからってチコはチコだろ。お前が殺したわけじゃないのに初対面で偏見を持つのはおかしいんじゃないか?」
「…うっ」
「え、ごめん!泣かせるつもりなんてなかった!どうしよう、やばい!」
やばいよえぐえぐしてるよ。女の子鳴かせちゃったよ。兄さん、エリカ早く帰って来てくれ!!対処法が分からん!!
「いや、ネオンのせいじゃないよ。僕発症したあと仲のよかった友達や親からも嫌われて捨てられて…。あんなに仲良くしてたのに…。でも今のネオンの言葉で少し救われた気がする。そうだよね!僕は僕だもんね!」
1人でうんうんと納得してるけど俺はよく意味がわからないぞ。
「しかもネオンは僕の力にも耐えられるってことが分かったし、僕もうネオンのお嫁さんになるしかないかな?」
えへへじゃねえよ!意味がわからない!まず力に耐えられるって違うから、めっちゃ痛いから。軽く意識飛びそうなくらい痛かったから。
「いや落ち着け。俺たち出会って5分だぞ」
「うんうん、でもこれから2人の時間を大切にしていけばいいよね!」
ダメだこの子、頭お花畑だ。