対スライム
「よし!それじゃあ、狩りに行く場所決めようか!オークならそんなに遠くない所にいそうだけどせっかくなら少し遠出したいよね…」
「兄さんちょっと待って。俺がまともな戦闘したことがない上に魔力量も少ないこと知ってて言ってる?」
「こいつ確か、数年前にスライムに殺されかけてたっけ」
銀髪のサイドテールを揺らしながら、失笑するエリカ。
そうですよ!そこらに転がってるスライムにも勝てたことありませんよ!!!
まずスライムだからって侮ってはいけない。確かスライムを倒すためには下級火属性魔法で30分、中級で5分、上級ならば1分ほどあぶれば溶けるようなことがどこかの文献に書いてあったような気がする。これが兄さんなら能力持ちの脚で跡形もなくなるまで高速で踏み潰すみたいだけれど…。物理でスライムって倒せるんだな。
とにかく、あれは確か9年前だ。俺はどうしても接着剤が必要になったのだ。当時グンダムなんていうロボットを組み立てるおもちゃが俺の中でめちゃくちゃ流行っていた。接着剤は組み立てる時には必要不可欠。幸いスライムが溶けた物質を冷やしたものが接着剤の代わりにあたるとエリカの親から聞き、聞いた足で庭に出て転がってるスライムに低級火属性魔法をあてた。
まあ御察しの通り、30分なんて長時間俺の魔力がもつわけもなく。見事に返り討ちにあいましたとさ。
「確かわたしが行った時、スライムに覆いかぶさられて息できてなかったよね。ほんと、わたしが来なかったら死んでたんだからね。」
そこ!腹かかえて笑うんじゃない!親しき仲にも礼儀ありだぞ!
「ああ、そんなこともあったねえ。あの時エリカまだ5歳だったのに上級使えてたもんね。というか、5歳児の女の子に助けられるって…ぶふっ」
兄さん、今吹き出しましたね。確かにあれは俺の黒歴史だが!そのおかげで例えスライムだろうと魔獣の恐ろしさを知ることができたからな!だから俺はオークなんてスライムの何十倍も怖いやつのとこになんて行かないぞ。
「というかネオン。ちょっとそこのスライム倒してみて。さすがに今なら倒せるでしょ」
「おいおい、エリカ。俺が何年引きこもりしてたと思うんだよ。自宅警備のプロになった俺にスライムの一匹や二匹なぞ余裕よ」
そう、引きこもりの間ただ寝てるだけではないのがこの俺だ。少しずつ魔法の練習もしてたのさ。
「はい、じゃあこいつ」
エリカの風魔法で薄ピンクのスライムが持ち上げられた。そこに俺の火属性魔法をあてる。そう、5分ほどだ。
「中級、できるようになったんだ!おめでとう〜!」
にこにこ笑顔で手をポンポン叩く兄さん。
「18歳でまだ中級しかできないの?普通なら上級くらいできるわよ」
うるさい、まだ2分目なんだぞ。集中させろ。少しでも途切れたらスライムが動いて返り討ちにあってしまうではないか。あと、兄さんもっと褒めて。
じんわりと額に雫が出てくるからになってようやくスライムが溶け始めた。よし、いける!因縁の宿敵ともいえるこいつに勝てる!あと1分…!
「ふー…。まあ、ざっとこんなもんよ」
でろでろに溶けた物体を指差しながら汗を拭う。なんで清々しいんだ!もう今日は1週間、いや一ヶ月分は動いたぞ。今日は動きすぎたしもう部屋に戻って寝るしかないな!
「スライムの一匹や二匹どうってことないんじゃなかったの?」
にやにやするな。
「ネオンが動かなくなっても大丈夫。僕が担いで行くから」
それは年頃の男子としては恥ずかしいわ。
「だいたいさあ、俺別に狩りする職業にならなくてもよくない?」
お!我ながらナイスアイデア。俺の危険回避スキルが1上がった!
「あんた本当に馬鹿ね。今時自分で狩った材料じゃなきゃ高くて使えないわよ」
あ…。
「売ってるものなんてほとんどが偽物。本物だとしてもすごく高いじゃない。原価が高かったらどうやって商売なんてできるのよ」
そうだった。ここでは武器や防具なんて自分で作るのが当たり前、食料もほぼ自給自足なのだ。
「あ、でも王都付近の街は狩りに行かない人がほとんどだよ?」
「え」
「この辺り田舎だからねえ。昔ながらの風習?っていうのかな。今時王都で自給自足してる家とかめったにないよ。皆普通に加工物を売ってお金を稼いで暮らしているよ。」
「で…でもたまにくる商人の奴ら、自給自足してるって…。王都もそうだって言ってたよ…?」
エリカが少し焦りながら兄さんに聞く。
「僕も部隊派遣されて初めて王都に行った時は驚いたよ。聞いてた話と全然違うんだもの。商人の人達は僕ら田舎者が商売を始めちゃうといろいろ不便なんだろうねえ。僕達にとって魔獣のいらない部分が王都では流行り物になっていたりするんだもの。」
「それならなんでもっと早く教えてくれなかったのよ!私なんてそこらの男より強くなっちゃったじゃない!もっと可憐で健気な狩りなんて無縁の町娘になりたかったのに…!」
いや、可憐で健気は無理だろ。狩りに行かなくても乱暴さが滲み出「顔に出てるわよ」
あ、すみません。
「だってさあ、僕この生活好きだったからさ〜」
髪の毛をいじりながら照れる兄。そこ照れる場所じゃないから。エリカ切れそうだから。空気読んで、お願い。
はあ、てかあれ。もしかしてもしかしなくても王都付近に行けば働かなければいけないけど安全に平和に暮らすことができるんじゃないか?
働かなければいけないけど、かわいい女の子ときゃっきゃうふふできるのではないか?
都会の子は可愛いって聞くしな。エリカも美少女だけど話すと残念だからな。あとこの村にいるのなんて年に見合わない筋肉を持ったおばちゃんぐらいだしな。
うむ、都会移住計画は前向きに検討だ。