信じられないでしょうけど、魔匠の関門です!
(ふむふむ。ミルクルさん。アレと、アレと、アレは買いだ。当然今すぐに買いだ。破格のお値段。爆アド間違いなし)
(それに加えてアレなんてのはどう? 明らかに値段設定ミスでしょ。というか、なんであの値段でアレを置けるのか不思議でならないわ)
流石は『武器都市』。
ソードストリートと呼ばれている(プレイヤーの勝手な名付け)通りにずらりと並ぶ武器屋の小屋やテント。
そこに並ぶ武器アイテム、掘り出し物がゴロゴロしていやがる。
小屋にも扉はなく外から入りやすくなっているため確認しやすい。
ざっと見ただけで5つはあったぞ。
(ケーメルンでもそうだったけど……物の価値があまり知られてない説に一票。『北魔女レシピ』なんて1340ゴールドだったからね? ゲーム時代オークションでいくらしたと思ってんだか)
(『北魔女レシピ』って、まさか『北の魔女の合成レシピ』?」
(うんにゃ。そこからひとまわりレア度上の『こだわり』シリーズ)
(『北の魔女のこだわり合成レシピ』! めちゃめちゃ激レアじゃん! それが2000ゴールド以下? 信じられない)
うん。ケーメルンに置いてあったから目ん玉飛び出るかと思ったよ。
あの街の商品、単価の価格上限が1万ゴールドだって知ってなかったら、まず手に取らなかっただろうな。
それでも安すぎると思ったし。
(取り敢えず、あそこの『ナイトキラー』『擬態マスク』『仕込み脇差し』は買っていてくれ)
(がってん。他にも必要そうなのあったら買ってみるね)
(俺持ちだから好きにやってくれ)
ミルクルさんとお互いにグッと親指を立てサムズアップし、ミルクルさんが店へと歩き去って行く。
ふむふむ。まったくアドすぎてもうほくほくですわ。
適当な理由をつけて少しの間ミルクルさんとは別行動をとると言ってある。
本来は俺も一緒に行きたいのだが、今回は訳ありだ。
それと言うのも、ミルクルさんがいると色々と不都合があってな。
ミルクルさんのことだ。心配せずとも無駄遣いなく、いい買い物をしてくれることだろう。
地雷とはいえ、あの過酷なEGO最前列をソロで走っていた猛者だ。
さて、俺は俺でやる事をやるとするかな。
「あー、すまん。ちょっといいか?」
訳あってもう決めてある店を選んで突入し、奥で新聞を読みながら佇む店主と思わしき老人に声をかける。
「…………」
老人は俺を一瞥したあと、無言で視線を読んでいた新聞らしきものに落とす。
その行動が予想通りだったため思わず苦笑いしてしまい、それを誤魔化すように話を続けた。
「わかってる。聞きたいことがあるなら買い物をしろってことだろ?」
両手を上げて降参の合図をしてから。
「そこ。あんたの後ろに立てかけてある剣。そう、それだ」
老人が視線のみその剣に送り、俺がそれを欲しがっていると思ったのか剣に手を伸ばした。
しかしそれは勘違いだ。
「その剣を『立て掛けてる』木材をくれ」
その言葉に老人がピクリと反応し、俺をジロリと睨んだ。
その視線のプレッシャーを笑って受け止める。
さてさて。これが通用するか、まず最初のバクチ。
少しの間続いた静寂だったが、程なくして老人は目を伏せ、しわがれた声を発した。
「…………はいんな」
〜〜〜〜ぃいっよっしゃあ!
その言葉に内心でガッツポーズを取りながら叫んだ。
やはり思考などはゲーム時代の名残がある。
自由に生きているせいかゲーム時代とは違っているところもあるし、無理かとも思ったがどうやら成功したようだ。
小屋の裏側へと回り、岩の壁としか思えない場所に老人が手をやると、からくり仕掛けが作動し人一人入れるぐらいの立法系の穴が現れる。
その穴から下に続く階段を老人が歩き出したので俺もそれに続くと、穴は小さな地響きを立てて完全に閉まった。
「凄いな。こんな仕掛けになっているのか」
穴がふさがると同時に、階段しかないその通路の壁伝いに設置されたランプのようなものが一斉に灯る。
ゲーム時代にはこんなパフォーマンスはなかったはずだ。
やはり、変わってるところはあるんだな。
「ケッ……何処でその合言葉を知ったかしらねぇが、それを言ってここにきた奴なんぞ数十年ぶりじゃ」
「……あれ以外にも方法はあるのか?」
「ふん。さあの。知らないのなら資格が無いというだけじゃ」
老人の厳しいお一言に再び苦笑い。
「あともう少しでつく。この老いぼれに何をさせたいかは知らんが、まずは証を示せ」
老人はそう言い残すと、パッと姿を消した。
なにも知らない、前知識のない奴からしたら、目の前にいた老人が一瞬で目の前から消えたように見えるだろう。
まぁ実際消えたは消えたんだけども。
《びっくりしたぁ! え? 手品?》
《うわわわわ! お、おばけ!》
ミドリよ。安心しろ。幽霊みたいな顔してるけど、あの老人はちゃんと生きてるぞ。
「違う違う。さっき老人が立ってた場所は。今俺が立ってるところね。ここは、階段1段境に薄い幻惑効果のある膜みたいなものが貼られてるんだ。この膜を越えた人は、膜の外にいる人からは見えなくなる。そんで、見えなくなった一瞬の隙をついて階段のからくりが起動してくるりと一回転。爺さんがいなくなると同時に膜を出す魔道具の効果を停止させる。するとあら不思議。気がついたらいませんよ。の種明かし」
ゲーム時代の知識だから若干の違いがあるかもしれないけどな。
《あぁそうなんだ……そうだよね。おばけなんていないよね》
「なんだ。ミドリって意外とおばけとか苦手なのか」
科学で証明できないものは無いとか熱弁ふるう科学者みたいなもんか?
プラズマ説ってあれマジなのかね? テレビで心霊系みるとCGじゃねって思うけど、別にいないとも思わないんだよなぁ。
おばけはいないか……
「わからんぞぉ。この世界じゃ生き死にが激しいから、人間の幽霊の一人や二人いるんじゃないか? それに現実的な事を言うと、おばけといわれる類の物は、このゲーム内でアストラル系エネミーとして実在するぞ?」
《嘘だ!》
おぉー、なんでそのネタ知ってんの?
ま、十中八九ネタで言ったんじゃないだろうけどな。
声がガチだった。
《ねぇー。早く行こうよー。おじいちゃん待ってるよ?》
そしてアオさん。マイペースを地で行くスタイル痺れるっす。
ミドリの悲痛なる叫びはスルーですか。流石っす。
おっとアオよ。
グイグイ引っ張ってくれるところ悪いが、それはダメなんだ。
《なんで?》
「あの爺さん。証を示せって言ったろ? ぶっちゃけるとな、この階段の先行き止まり」
そんで行き止まりにつくとその階段の地面が抜けて、からくりが起動してあっという間に外に放り出される。
因みに、ゲーム時代のEGOだと放り出される場所は完全ランダムだった。
不貞腐れるミドリをなでなで撫でて宥め賺しながら話を続ける。
「俺は今、擬似的にイベント『老い錆びた心に熱を打て』を進行してる。最初に言った『立て掛けてある木材』をくれ。ってのは合図みたいなもんでさ。『俺はここにおいてある剣じゃなく、あんたの打ってくれる剣に用がある』ていう意味な。あの爺さんには頼みたいことがあってな。その前段階として、爺さんマル秘印の隠し工房にいかないとならん。そこにたどり着けないと武器を打つどころか話すらろくにできないからな」
話を戻そう。
この階段の先は行き止まりなのだ。つまり、そこまで行ってしまったら、証は無いと判断される。
結果ゲームオーバー。
この長ーく続く階段の中に一つだけ、ひっくり返るものがある。
そのひっくり返る階段のみが、その工房に行くための唯一の扉だ。
そしてその正解はすでに示されている。
つまりはだ。
「今俺が立っているこの階段。ここが正解なんだよ」
爺さんが使った通り道であるここ以外、下の工房につながる道は無い。
ここで試されるのは、注意力と、どんな状況でも動じず冷静かつ適切な判断をできるかということと、単純な力量、つまりはレベルだ。
そして爺さんが判断したレベルにあった剣を打ってくれる。
階段の左端を思いっきり踏みつけると、ぐるんと視界が反転し真っ逆さまに落ちる。
最初は顔面着地を決めた上にそのままずざざざとスライディングしたものだが、今は違う。
もう地面との距離はわかりきっているので空中で一回転してバランスを取りながら、狭いアパートの一室ぐらいの広さしか無い工房に降り立つ。
一度やったことがあるから、ちょっとチートくさいな。
「…………まぁまぁじゃな」
「せめて合格ぐらいは言ってくれよ」
あくまで辛口の爺さんだが、その表情から満足してくれているのは明白。
よし、まずは第一関門クリアだ。
「で。ここまで来たんじゃ、お主はワシに、なにを望む。小童」
「なぁに。アンタに頼みたいことなんてそう多く無いさ。そうだろ爺さん。いや、『魔匠』のイジ」
爺さん改ため、イジはジロリと俺を見据える。
そんなに嫌そうな顔をしないでくれよ。そこまで無理難題を言うつもりはないさ。
「数々の『魔剣』を打って名を馳せ、魔の剣匠『魔匠』とまで呼ばれるに至った男。あんたに一つ、打ってもらいたい剣がある」
「……はぁ…………一体何処でそんな昔のことを……」
材料はダンジョンのドロップアイテムやその他諸々色々とあるが。
やはり、これ以外にはなかろう。
「材料はこの『引き継ぎ玉』でどうだろう?」
『魔剣』を作るための素材となるアイテムはなんでもいいわけではない。
その効果やアイテムのあり方による制限がある。
例えば、龍種の鱗などは龍の持つ属性が魔剣の力となるし、ヴァンパイアの牙などは血液を吸い取ると言うあり方から魔剣の素材となりうる。
そして『引き継ぎ玉』。
名前だけではあまりそう受け取られないが、『魔王』を作る効果の鉱物であるこのアイテムは、ある意味最高級の『魔剣』の素材となるのだ。
アオの『胃袋』から、手乗りサイズの紫色に光る水晶玉を取り出してテーブルの上に置く。
これを材料として持ってくるとは流石に思わなかったのだろう。
イジが明らかに目を剥いた。
「他にも素材はいくつか用意してある」
「小童、お主……」
「イジ爺さん。あんたの懸念はわかってる。大丈夫だ。絶対に呑まれたりしない。その証明として、この玉だ。この玉を取ってこれる奴だからこそ、あんたの剣を使いこなせる」
まぁ正確には、俺が使うんじゃないけど。
俺よりも、もっと上手く剣を使ってくれる人がいる。
「俺を信じて、打ってくれ。頼む!」
俺は全身誠意頭を下げる。
これが第二関門。これでダメならばもうどうしようもない。
黙って引き下がるしかない。
この爺さん相手に必要なのは、誠意だ。
金はいくらでも出すなんて一言でも言ってみろ。一発アウトで叩き出されるどころか出禁にされちまう。
返事をもらうまで頭を下げ続けるつもりでいると、アオとミドリまでもが服から飛び出してペコリと頭を下げた。
そしてさらに数分。
静寂の中、黙って同じ姿勢のまま頭を下げ続け。
それがとどめとなったのかはわからないが。
「………………わかった。この老いぼれにそんなでかい仕事を任せたことを、後で後悔しないことじゃ」
イジ爺さんは一度ため息をついてニヤリと笑い、手入れのされた鍛冶道具を手に取った。
「……ッ! よっしゃ!」
「小童。老骨に鞭打っているのじゃ。せいぜいこき使ってやるから覚悟せい」
「わかった!」
「返事しとる暇があったら準備せんか!」
「わ、わかってるよ!」
『引き継ぎ玉』をイジ爺さんに手渡し、ついでに道具を準備する。
もうすでに一度やったことがある作業だ。すっすっとスムーズに体は動く。
その動きに爺さんがいい顔をするもんだから、こちらもやる気が燃え上がる。
爺さんの枯れた鍛冶魂を燃え上がらせることがこのイベントの必須条件。
俺はイベントの成功を感じながら、全力でサポートをさせてもらう。
事前に『交換』にて、『鍛冶』『精密技術』『クラフト』『刀匠ノ超感覚』を厳選して獲得してある。
『交換』のレベルアップにより、固有も交換できるようになったため、数あるうちの一つ『刀匠ノ超感覚』を獲得した。
これで少しはついていけるだろう。
さて、忙しくなる。




