信じられないでしょうけど、王都の戦いです!
一方その頃。
ユベルとミルクルが地図を囲んでワイワイと盛り上がっている時。
置いてけぼりになったスライムちゃんズは。
《なんか二人とも、盛り上がってるね》
《そうだね。時々二人でわかりあってる時もあるし、今もそれに近いんじゃないかな》
テンションが上がってるテイマー二人に比べ冷静に、ご飯を食べながら話をしていた。
《むぅ……ますたーはアオたちのますたーなのに》
《仕方ないよ。マスターだもん。まぁアオちゃんの言いたいこともわかるし、ボクもそうは思うけどさー。マスターが倒れてた間、ボクたちと同じくらい、ミルクちゃんもマスターのこと心配してたじゃん? そんなとこ見たら、なんか親近感湧いちゃう所もあるしだしさ》
ミドリは野菜ジュースを飲み干したのか、少しずずずと空気を吸って、ストローをコップから取り出してヒューヒューと遊ぶ。
《ミルクちゃんも悪い子じゃないのはわかってるけど……ますたーを分けてあげたくはないなぁ》
《同感。でも少しぐらいならとは、ちょっとは思うよね》
《…………うん。全部が全部、アオたちで独占できるわけじゃないし……》
《そうできたらできたで、ボクたちは一向に構わないんだけどね》
《えへへ……キャンディーちゃん……元気かなぁ》
《あとウィーアードさんも。マスター、なんだかんだで心配してるし》
二人は友達のことを思い浮かべ、窓の外の景色を漠然と眺めていた。
--- --- --- ---
遡ること三ヶ月前。
王都ゼウス・テイマー学園地下にて。
「……『運命は帰還する』…………ユベル氏。お生きなさい。死んではならない。私より先に死ぬなんてことがもしあったら、あひひっ、許しませんよ」
アビリティを発動すると『飛ばし膜』と私たちが呼称している灰色の膜が現れ、ユベル氏たちを包んで行きます。
どう笑えば良いのか分からず、精一杯いつも通りに笑いかけましたが、失敗でしたかね。
ミルクル氏の表情が引きつってマーシた。
しかし、彼女がいてくれて本当に良かった。
我が友を心から思ってくれる彼女がいたからこそ、『運命は帰還するの面倒くさい制限を突破できたのデスから。
全くもって、無粋な相手だ。
もっと別れの余韻に浸り、もっと別れの挨拶をしたかったというのに。
とびっきり面白いギャグで見送ろうと、前々から準備していたというのに台無しデス。
ユベル氏、我が友よ。
私の目の前で、貴方を殺させはしない。
できるなら私も、逃げれるのならこれで逃げるんですけどねぇ。
なにぶん『運命は帰還する』は、男女一組でないと発動しないという制限がありますからね。
イヤァ、ミルクル氏がいてくれたおかげで助かりました。
自分で作ったアビリティというのは、使い勝手が悪くてこまります。
「な……ふ、ふざけんな……僕の獲物を…………テメェええええええッ!」
ふむ……歪んだ強さがヒシヒシと伝わってきますね。
おおっと。お怒りのところ申し訳ないですが。
「アヒャ、あひゃっ、あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ! 大声を出すと脳の血管キレますよ欠陥品。おっと、血管だけニィ! あひゃひゃひゃひゃひゃッ!」
こちらも、そろそろ抑え切れそうにない。
さてとさてと。いい感じに、サクサクに食感よく、じゃなくテンポよく温まってきましたし、アビリティ演算とゴールドの配分を今のうちから考えておきますか、ね。
私も本気で行かせてもらうとしましょう。
私の本領、逃げる事はできませんし、素の煽りはフル活用という方向で。
ユベル氏にアレだけのことをしてなにごともなくハイおかえりくださいというわけにも、行かないデスからね。
「ふざけやがって! …………誰が欠陥品だっ……僕は、主人公だぞ! モブのくせに……モブのくせにモブのくせにモブのくせに」
「あひゃ? モブ? いえいえいえ。私はいつだって舞台のど真ん中を陣取り、我が物顔で観客の全注目をその身を集める優雅な『道化師』。貴方のような『欠陥品』と一緒にしなーいでほしい〜ですね、はい」
片膝を曲げもう片方の足はピンと伸ばし、ピンと手と背筋を伸ばし、背中を折ることなく緩やかに手を胸の前まで下ろし、仰々しく礼をして。
とびっきりいやらしい笑みを持って笑いかけてやりました。
この少年はどこか歪です。
明らかに人間として大切なものが欠落している。
私だからこそわかる。
肉体と精神の不和。魂が体に定着せず、無理やり閉じ込められているような違和感。
まるで、『操り人形』の様デス。
「しかして」
恐らくですが……私では勝てない……
力が強大なのは確か。
そしてこの相手に勝てないイコール死でしょう。
私の才能が逃げろと訴えています。
戦っても、死ぬ。
逃げても、今のままでは死は免れない。
負けても、死ぬ。
まさしく絶体絶命。しかしそれでも、こんな窮地は何度だって、二人で必死で、逃げ延び、生き残ってきた経験がある。
負けられない。
死ねない理由が、増えすぎました。
是が非でも
勝って、生きるしかないのデス。
…………鍵はすでに空けてある。
ゴールドも、封印解除も万全だ。
あとは宣言するのみ。
戦う覚悟は、すでにできている。
ユベル氏。ここは私が……だから、お生きなさい。
「やりましょうカネ。キャンディーちゃん。スタート、battle the エネミー! 『魔王化』重ねて『お菓子の迷宮』!」
「うざいうざいうざい殺す殺す殺す。『影に潜む悪意』」
キャンディーちゃんの魔王化に伴いあたりの空間がお菓子の国へと塗り替えられる中、自分でも気づかぬうちに自分の立っている場所が変化する。
『逃神ノ闇』の効果で強制的に相手の攻撃を避けさせられたようですね。
常に視界の中に少年を写し警戒をしていたんですがねー……
「あ? 避けた? ……知ってやがったのか……いや、そんな雰囲気はなかった……チッ……勘のいいやつ……くひ、まぁいいさ」
「『ダンジョン化』が、遅い?」
キャンディーちゃんの魔王化は完成しているというのに、いつまでたってもあたりの空間がお菓子の空間に変化しきらない。
いや、これは、変化しきらないのではなく、何かにせき止められ、逆に別のものに塗りつぶされてるという感じですカネ。
いやはや、面倒なことを。
「『影に潜む悪意』の本当の効果はここからだ……くひひひっ」
私の影がむくりと起き上がったかと思うと、そのまま私に向かって攻撃をしてきたので、相手の影を操るアビリティだとタカをくくりましたが、違うようですね。
お菓子の空間が、少しずつ暗く濁っていきます。
おやおや……これは
「舐めるな」
少し面倒なこととになるかと思いきや、キャンディーちゃんが『ダンジョンパワー』のリソースを一部解放させたようですね。
白かったキャンディーちゃんの左目が赤く染まり、次の瞬間にはお菓子の空間が半ば強引に完成しました。
しかしキャンディーちゃんにしては珍しく、少し荒っぽいのでは……
「許さない……絶対に……」
あー…………ブチギレておりますなー。
そーいえばまぁ、ユベル氏があの少年に瀕死の重傷を負わされたんですからね。気持ちはわかります。
キャンディーさんや……ユベル氏の為にそこまで……おっとホロリと涙が。
娘の成長を目の当たりにした父親とは、このような気持ちになるんでしょうかねぇ。
嬉しいような、切ないような。
「えーっと……キャンディーちゃん? スコーシ、ペース配分を考えてくださると……」
「マスター?」
「お怒りはごもっともデース! この良き日、今日、力を解放し、協力してさっさとぶっ飛ばしましょー!」
今日力だけに…………おひょ。
「悪意ってのは……それが生き物だろうが、物質だろうが関係ねぇんだよ。……侵す……侵食する……食い破る! 『侵食する腕』」
おっと、笑ってる場合ではないデスね。
少年のアビリティ効果により、完成しかけていたお菓子の空間が、一瞬で半分、支配権を奪われました。
これ以上侵食されないように押しとどめることは可能ですが、逆に黒く染まった空間の支配権を奪い返すのも、骨が折れそうっという状況ですかねー。
「関係ない。その分リソースがういた。マスター。リソース残量は」
(いざという時のために温存しておく力を差し引いて65%ってところですかね)
「十分。マスター、そろそろ私、自分を抑えるのも限界。お願い」
キャンディーちゃんに言われるまでもなく、相手さんもいつ攻撃して来てもおかしくないですからね。
準備ができたのですから、早く行かせてもらいますトモ。
「わっかりましたぁ! では、美しき魔王の姫君と、私というピエロがお送りする、お菓子のサーカースショーを、お見せ致しまショウ! ショーだけにぃ! あっしゃっしゃっしゃっしゃ!」
「あぁ、あぁ、あぁ、あぁぁぁああああ! …………わざらわしい、うざったい、めんどい、うわぁ、あぁ、ああああ! ……ぶっ潰す……ぶっ飛ばす……ぶった切って、殺してるゥ!」
少年が座った瞳で呪詛を唱える中
私は盛大に笑いながらもう一度、深々とお辞儀をして、その格好のまま《鍵》のシルクハットをくるりと回転させます。
ぽふんと私の体から間の抜けた音がなり、キャンディーちゃんに自動的にゴールドが注ぎ込まれ、キャンディーちゃんと少年のアビリティ発声が重なりました。
「『お菓子の兵隊』」
「『屍どもが夢の跡』」
お菓子とかした空間の地面から、次々とお菓子の兵隊人形が這い出てくる。
暗い暗闇とかした空間の壁から、次々と黒い動物の形をした何かが出てきました。
どちらもその数、一つの軍隊並み。
かたやお菓子の兵隊に対し。
少年はさまざまな姿の動物の形をした黒い影の軍団。
アニマル・シャドウアーミー。と言った所ですかね。
「キャンディーちゃん。『実』は?」
「勿論、全乗せで」
「かっしこまり。実にリソース36%の無駄遣いデスねわかります。お菓子の実だけに。ぐひゅひゅひゅひゅ」
「マスター……なんだかんだで余裕あるわね……」
いえいえ、それ程でも。
冷たい視線アリガトウゴザイマース!
全ての兵隊の背中に、各色の小さな玉を取り付けします。
『赤』【攻撃の実】
『青』【防御の実】
『黄』【速度の実】
『緑』【再生の実】
『橙』【耐久の実】
『黒』【依存の実】
『赤』は攻撃力を高め、『青』は防御力を高め、『黄』は移動速度・反応速度を高め、『緑』はダメージにより壊れた体を少しずつ修復し、『橙』は確率で即死攻撃を無効化し(アオちゃんの捕食攻撃は何故か無効化できず)、『黒』はそのお菓子に強力な依存毒を付与する。
トッピングというか、ドーピングですね。
「……クヒ……クヒヒヒヒッ! 喰い散らかせ!」
「《 栄光あれ 》! 全軍、突撃!」
兵隊の完全指揮権を得るキーワードを唱え、各々の方法で飛びかかってくる影の動物型エネミーたちを迎え撃つ。
講堂の真ん中で兵隊と敵エネミーが衝突し、ここにお菓子の国と影の国の、狭き小さな戦争の火蓋が落ちた。
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「賭け金レイズ! ベット、5000万ゴールド、『ハイスピード・クッキング』」
戦いが始まって早六時間。
天井にへばりつき、戦況を確認しながらキャンディーちゃんの作った『栄養食』と『仮睡眠丸薬』を口にする。
これで数日間は食事と睡眠取らずに活動できます。
私はキャンディーちゃんを抱え相手の攻撃を全て避け、ゴールドをやりくりして相手の軍勢をなんとかして押しとどめていますが。
押しとどめることはできても、押し返すことはできていません。
防戦一方、といったところですかね。
こちらの強みは活かせず、あちらの強みは少なからずこちらに影響を及ぼしていますから。
こちらの『依存毒』はどうやら影である動物には無効のようですし、打撃攻撃を無効化する力を持っている影を相手に、打撃を攻撃の主とする兵隊は相性が悪すぎます。
お菓子武装を精製するにも魔王のダンジョンパワーのリソースをくいます。
些細なものとはいえ、チリも積もればなんとやら。
支給が十分でない以上、活路は見出せません。
「さて……どうしたもんですカネェ」
殆ど手札は切りました。
ゴーレムを出してもいいですが、影相手だと得られる恩恵も多くなさそうです。
なんとか、活路が見えるまで粘りたいところ……
「もう、めんどくせぇ…くひっ……あいにく……僕の包丁は料理用じゃなくてね……切る専用だ。…………くひっ、〈決して己のみと侮るなかれ〉〈覗けど眺めど、理解し難い愚者どもよ〉〈恐れ〉〈平伏せよ〉〈ここに触れを成す〉〈汝等が深淵を覗く時〉〈深淵もまた愚者等を除いているのだ〉…………」
と、思った矢先に相手に先に動かれた。
全身に悪寒が走りこれはいけないと思いますが、止める手立てがない。
手をこまねいているうちに急激に濁った影が空間に浸食を始め、あっという間に辺りがもはや影とは呼べない漆黒に包まれてしまった。
ソレのせいで相手を完全に見失ってしまいました。
これは、まずい、デスね。
視界が全くききません。
「マスター! ダンジョンの再構築を」
「ダメですね……支配権を奪うだけならまだしも、支配権を奪うために必要なリソースと、常に浸食を抑えながら支配権を維持するリソースを考えたら、とてもじゃありゃあせんが無理です。戦闘に支障をきたします」
懐から常備していた状態異常を軽減させる飴を口に含みます。
視界が少しは効くようになりましたが、それも微々たるもの。
全く面倒なことをしてくれた。
自動的に攻撃を避けるとはいえ、その先にある物は攻撃ではないので普通にぶつかるんですよねぇ、制御できないと。
なにも見えなくなった空間で、相手のアビリティが完成し、一つの言葉が鮮明に響き渡った。
「『混沌ノ穴蔵』」
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いったい
あれから何時間が経っただろうか……
それとも数日が経過したでしょうか?
視覚を失い、五感を失い、体の感覚を失った次には、時間の感覚の消失ですかね?
ぐっ…………
暗闇の中、とうとう立っていられずに膝をついてしまう。
身体中がダメージを訴え、精神が擦り切れそうだ。
何も見えない、何も感じない、何もない。
ただただそこに在り続ける混沌の沼に、光を求めて目を開くたび精神を汚染されている。
思考回路が低下してきてしまいました。
『混沌ノ穴蔵』なるアビリティ発動直後に、受けた謎のダメージが響いてきている。
ユベル氏もこんな攻撃を食らったのでしょうか……『逃神ノ闇』で9割ほど減衰させたうえで、一撃でHPの4割を持っていかれましたからね。
相手はこの暗闇の中を自由に行動でき、何のタネがあってかは知りませんが、私の『逃神ノ闇』の力も徐々に無効化され始めています……
分からない。何も感じない。キャンディーちゃんとの繋がりが、薄れていく。
気持ちが悪い。怖い。冷たい。寒い。不安だ。
どうしようもない孤独感に、何かを求めるように思考が回転する。
しかし、そんな思考も次第に薄れ……
あれ……私は…………いったい……なにを……
《………………スター…………マ、………ター!》
その声は本当に微かに聞こえた。
その微かな声で、真っ暗だった目の前に確かに炎が灯った。
暖かな、昔から、いつだって私を支えてくれた、たった一人の家族の、愛情という名の炎。
「ふ、ふはっ」
あぁ、全く。私という奴は。
「ふははははははははははっ! ふはっ! ふははははっ! ふぬん!」
地面に向かって思いっきり頭を打ち付け、頭がかち割れるような衝撃を受けたことで思考が定まる。
家族をもう失いたくない。
彼女は……心優しき彼女は……だれでもない私が、助けなくてどうするんデスかねぇ!!
情けない。自分という存在がひどく情けない。
聞こえた声に向かって走る。
見えない。それでもわかる。
繋がりを感じない。それでも、わかる。
彼女は私のために、戦っている。
私を助けるために、命をかけて。
ユベル氏なら、こんな時、自分のスライムちゃんを害されて、黙ってない。
私だって、そうです。
誰よりも、なによりも、守りたい。
「あひゃひゃっ! 出し惜しみなしの正真正銘最後の幕引き! ピエロの最大最高の手品をご覧に入れましょう! さぁ皆さん、ご一緒に手を叩いてェ! あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ」
この暗闇の何処かにいる彼女に届くように叫ぶ。
この場所のこの空気を塗り替えるには、もはや生半可の力では無理です。
だからキャンディーちゃん。
できるなら、許してほしい。
それが無理なら、許さなくてもいい。
ただ、恨んで生きるのだけは、勘弁してくださいね。
私は誰よりも、あなたの幸せを、願っているのですから。
《マスター? ……え? ダメだよ! だって、それは!》
ユベル氏から頂いた念話の力。
とても、便利です。
先程、暗闇に支配された脳では受け取ることができなかった声が、聞き取れました。
ありがとう。
そして我が友よ。
すみません。
貴方から貰った力を、貴方の最も嫌がる方法で使用します。
「最後までキャンディーちゃん任せで申し訳ありませんねぇ…………あなたの心に傷を残すこと……許してください……これは私のエゴだとわかっています。それでも、私は貴方に生きてほしい」
残された者の悲しみを、自分の命に代えても守りたい存在に味あわせることの、なんと残酷なことか。
キャンディーちゃんにも、ユベル氏にも、怒られてしまいますね。
守れるのは良いですが、それが原因でもし私が死んだりしたら、二人は死ぬほど自分を責めるでしょう。
そんな姿は、見たくはないですねェ。
「大丈夫。一つ仕掛けをしておきます。私のことは忘れて、ユベル氏のところへお行きなさい」
《イヤ! そんなの嫌! マスターの嘘つき! 私を置いて死なないって、言ったくせに!》
「ごめんなさい………………さよならです」
この力を発動すれば最後、もうキャンディーちゃんと話をすることはないでしょう。
「…………『お菓子ぶっ!!」
「よう、そこのいけてるお兄さん。通りすがりのヒーローはいらんかね?」
いざ能力を発動しようとした瞬間、横っ面を衝撃が襲いコールを中断させられ、横から聞いたことのない声が聞こえた。
その瞬間、失っていたはずの感覚がいくつか戻ってきました。
声が聞こえたのもそのおかげですかね。
聴覚が戻ってきています。
少なくともこの場にはいなかったはずの声デスが……
通りすがりの、ヒーローと、彼はそう言いましたか?
「なぁに、聞いてることは簡単だ。あんたは今、助けを求めてるか?」
状況についていけません。
いやはや、思考放棄してしまいそうです。
助けを……ヒーローが助けに来てくれた、とでも言う気ですかね。
あひひっ、ふざけてます……えぇ、ふざけてますとも。
急に出て来た、顔も知らない、得体も知らない相手の助けを、求める?
百歩譲って、この人が本当に私達を助けにきてくれた人だったとして。
相手の脅威を理解できていないとしか思えない。
あんな相手に挑むなど、自殺行為だ……
しかし、申し訳ありません……
顔も知らず、ろくに信用もできていない貴方を、頼ってもいいでしょうか?
つらいんです……彼女との約束を、破りたくないんです。
戦う過程で、それでも無理なら、私は、私だけは、いくらでも、死ぬことができます。
それでも、私が死ぬことで残された者の悲しみを背負うキャンディーちゃんのことを思うと、あまりにつらいっ!!
彼女を、助けてほしいッ!
「……求めてマス。えぇ……私はどうなっても構いません……私に出来ることならば、なんでもしましょう……だから、彼女だけは、私の家族を、心の底から、助けてほしい……」
「そうかい……事情はわっかんねーが、理由はいくつかある。俺はあいつが気に食わない。そして、あんたの言葉を気に入った。その理由に基づいて俺は、あんた達を助けることにするよ」
その言葉を聞き、私の体は壁に叩きつけられました。
感覚がなく、痛感を感じないせいか痛みはありませんが、衝撃でわかります。
「そこで休んでな。女の子もちゃんと保護した。ほら」
そして再び衝撃が今度は私の正面に。
何もわかりません。そんなわからない暗闇の中で、私の手元には確かな温もりを感じました。
「あぁ! ……お、お前、は……」
「よぉ〜。【 人切包丁 】。久しぶりじゃねえか。元気してたかん。おぉ?」
「……なんで、よりにもよって……ユベルの次はお前……あぁ、ふざけんなふざけんな! ……認めない! この世界は、僕の世界なんだぁ!」
「あー、うっせうっせ。発狂なら牢屋でどうぞ。犯罪者は俺が責任を持って連行するぞ」
ガンッ、ガンッ、ガンッと、話の合間に聞こえる音は、今も一定の間隔で鳴り続けています。
「……『浸食す」
「おせえ……『リリース』」
「……チッ、影の残量が……『影響』。……クッソが……!」
少ししか戻っていない聴力、一時的な難聴になっている耳で尚、爆発的な音が聞き取れます。
今のヒーローの謎の攻撃で、立ち去ったのでしょう。少年の声とともに気配は消え、暗闇が少しずつ晴れていきます。
「あ…………だぁーー! 逃げられた! マジで? アイツのこと笑えないじゃん。嘘だろぉ?」
ヒーローが叫んでいます。ひひっ、どこかユベル氏と似ているところがありマスね。
はぁ…………ひひひっ……また、生き残れました、か……悪運の強さは相変わらずですカネェ。
ぼんやりと見えるようになった視界に映るキャンディーちゃんを、抱きしめます。
キャンディーちゃんが起きたら、お説教が怖いですねぇ。
ジャックtueeeeee。
あれぇ? これそういう小説だったっけ?
王都では、こんなことになってました。
またフラグを少し回収しましたが、再びフラグ投入。
物語に関わってくるので、色々とぼかしております。




