信じられないでしょうけど、国の地図と食事処のワンシーンです!
「俺の目的とはちょっとズレるけど、それでも痛手であることは変わらないか。裏イベは置いとくにしても『ガンテツイベント』はなんだかんだでどれもいいもんだったし、報酬として打ってもらえるナイフもバカにならなかった。惜しいもんだな」
俺もなんだかんだで『ガンテツイベント』にはお世話になっていた。
なんというか、難易度に見合ったイベントなのだ。
高難易度のイベントをクリアすれば、それ相応の報酬が期待できる。
ゲームのイベントなのだから当たり前だと思うだろうか?
そんなことはない、ストーリーを進めるために必要なイベントでは難易度度外視で報酬などちっぽけなものだし、難易度に比べて割りに合わないイベントの方が圧倒的に多い。
そうでないと簡単にインフレが起きてしまうし、ゲーム上仕方がない面もあるからプレイヤーも目を瞑るが。
そんな中で、頑張った分それに見合った報酬が望めるこのイベントは古参プレイヤーに愛されていた。
なぜ古参のプレイヤーかというと、全てのイベントの難易度が高いから、が一番の理由だな。
「はぁ〜あぁ〜、てゆか、ユベルちゃん」
「どした」
落ち込み机に突っ伏しながら、俺に向かってジト目をしてくるミルクルさんに若干呆れながら返事をする。
子供みたいなことするんじゃないよ……今あんたの身体は取り敢えず大人仕様なんだからな。
「なんでミドリちゃんにだけあーんしてるのさ!」
「なんでって、ミドリだけご飯頼んでないから、せめて少しは美味しいもの食べて欲しいと思ってだな」
そう、なぜかミドリは野菜ジュースだけでいいやと言って料理を頼まなかったのだ。
お腹が空いていないなら無理に食べさせる必要もなし、でもなんか一人だけのけものはなんか嫌だから、俺の分をちょいちょい分けていたのだ。
《役得って奴だよミルクちゃん》
「ぐぬぬ……ユベルちゃん! 私、えこひいきは良くないと思うのよね」
「何言ってんだか」
「私にも頂戴よ!」
そしてバンバンとテーブルを叩くミルクルさん。
頂戴って、ミルクルさんにはミルクルさんのがあるだろうに。
パスタが食べたいなら頼めよな。
そうは思ったが、この世界ではお金とは生命線だ。
節約するに越したことはない。
そう考えれば、色々な味を出来るだけ節約して味わいたいというミルクルさんの気持ちもわからんでもない。
だがしかし、それではイーブンではない。
「ならば交換条件だ。ミルクルさんのその肉汁たっぷりの美味そうな肉を一口くれ。それなら俺のパスタを一口分けてやってもいい」
それならお互いに美味しい思いができる。
半分ずつ食べて交換っこするのでも可だ。
「ふぇ! い、いいの!」
「何もそんなに驚いているのか知らんけど、いいよ? 嫌なのか?」
「嫌なんかじゃない、けど」
「そうかそうか。じゃあほい」
先に一口とって良いぞ。
皿を突き出すが、ミルクルさんは皿を凝視するだけで一向に動こうとしない。
どうしたんだよ。
「……あ、あの、できたら、その」
「なんだ? まさか、あーんしてくれとかじゃないだろうな?」
半分冗談で呆れ混じりに言ってみたら、ミルクルさんは赤くなりながらも、小さく頷いた。
その反応に逆にこちらが驚く。
「マジで? …………まぁ、いいけどさ」
女の子にあーんをするという行為に険悪感があるわけではないが。
そういうのはカップル同士がするものだという意識が俺の中で強いせいか、少々戸惑ってしまう。
ううむ。コミュ障であった俺にはあまり縁のないものだったが、あーんはいつの間にそこまで深い意味ではなくなったのか。
考えながらくるくるとフォークを回転させて一口サイズにまとめ、よく分からなくなったので思考放棄でフォークを突き出した。
「ほい。あーん?」
「い、いただきます!」
なぜか先ほどやった筈のいただきますを、ちゃんと手まで合わせてもう一度やっていた。
どうでもいいんだけど、早く食ってくんないかな。
注目なんてされていないと理解しながらも、周りの視線が気になる。
「…………はむ。むぬ!」
少し乱暴にフォークを抜いてしまったようで、ミルクルさんが変な悲鳴をあげた。
「あ、悪い」
「むにゅむにゅ……ま、許す」
おぉ、許された。
普段だと食ってかかってくるからな。これが飯の力か。
胃袋を掴むという言葉がアレだけ神聖視されている意味がちょっとわかった気がする。
「次はミルクルさんの番だぞ。あ、そうだな。どうせだし、ミルクルさんもあーんしてくれよ」
俺がそう言うと、何も乗っていない自分のフォークを加えていたミルクルさんが一気に赤くなった。
ミルクルさんが赤くなりテンパるのは案外面白い。
いつもおちょくられてばかりだし、偶には俺の方からからかって意趣返ししてやろう。
ミルクルさんは自分がやらせたくせに赤くなってるからな、自分がやるとなったらもっと動揺するだろう。
しかも、俺がすでにやっているために断りづらい。
ふはははっ。せいぜいミルクルさんのあーんを堪能させてもらうとするぜ。
「わ、わかった」
意外にも割とミルクルさんは素直にかちゃかちゃとナイフとフォークをいじり始め、一口サイズに肉をカットした。
なんだ、もっと動揺するかと思ったのに、つまらんな。
まぁいいけど。
「は、はい! あ、あ、あ、あ」
「…………えっと、食べていいですかね?」
ミルクルさんは差し出しながらも、あーんと言うまで食わせる気がないのか俺が食おうとするたびに自分の手元へと引いてくる。
そのせいで二度ほど空振りした。
この人はおちょくっているのだろうか。
少しキレそうである。
「あ、あ、あ、〜ん」
「へいへい、いただきますよっと」
三度目でようやく肉にありつけた。
待てをくらい指示が聞けずに強制的に餌を遠ざけられる間抜けな犬を連想させられた。
もちろんその犬は俺である。
貴重な女の子のあーんの思い出がこんな物寂しいものになるとは。
本当にミルクルさんは女なんだよな?
あまりの女子力のなさに、いよいよ性別を疑うぞ?
失礼なことを考えながらミルクルさんを睨むが、ミルクルさんが予想外にも満面の笑みを浮かべていたので、その思考も吹き飛ぶ。
「はぁ……」
「美味しい?」
「あぁ、美味い」
俺は溜息を吐き、諦めて肉の味を堪能するのに専念することにした。
まったく、黙ってれば美人なんだけどな、この人は。
騙されそうになるが、『アバター』なんだよなぁ〜。
《ますたー……》
アオちゃんが寂しそうに小さく念話を送ってきたのをキャッチする。
視線を送ると、さっきまでモリモリと元気に食べていたアオちゃんの姿はそこにはなく、アオちゃんは自分の空になったお皿を眺めてぷるぷると震えていた。
「まったく、バカだなぁアオは」
そう言って俺はパスタをアオへと突き出す。
アオが顔をあげたので、ウインクしながらサムズアップする。
「俺がアオを仲間外れにするわけないだろ? 交換なんて気にするな。欲しいなら俺は喜んでこの皿ごとアオにあげるってーの!」
アオは嬉しそうにパスタを加える。
そんな姿を見て癒されていた、のだが。
いかんせんアオの寂しそうな雰囲気はまだ残っている。
なぜだろう
んー。アレかな? 貰ってばかりだと気がひけるとか、そんな感じかな?
「そうだなー、アオからもあーんして欲しいなー、注文するかなー」
今度こそアオがぱぁーと明るくなった。
よっしゃあ! 当たりを引いたようだ。俺グッジョブ!
店員さんを呼んで、ついでだから色々と追加注文をする。
《あ、じゃあーボクはこの野菜ジュースで》
「ん? いいのか? んじゃ遠慮なく……」
《待った待った。ストローから飲んじゃったらあーんにならないでしょ》
ふむ。なんでみんな、そんなあーんにこだわるの?
「ではどうしろと」
《ちょっと待ってね》
ミドリはストローに口をつけ、チュウチュウと何口か吸って、また俺に向き直った。
《はい。マスターあーんして》
「……ちょっと待て……大体わかったんだけどあえて聞かせて……なにしてんの?」
《んもう。女の子の口から言わせるなんてマスターのケダモノ。勿論、く・ち・う・つ・し》
「どこで習ってきたのそんな言葉!」
ミドリがいつの間にかこんなに成長してるなんて!
お父さん寂しい!
《冗談だよぅ。でもアオちゃんから水を飲むときにやってたくせに、ボクとはできないの?》
「わ、わかったよ! だからそんな悲しそうな声で言わないで! でもここ人目あるし」
《えーい! まだるっこしいなー!》
「え? ちょ、ま、んぐ!」
ミドリがいきなり飛びかかってきて俺の口元へと付着する。
そして空いていた口に直接ジュースが注がれ始めた。
数秒間に渡るジュース交換が終わり、ミドリがポロリと剥がれるように落ちる。
ゲホッゲホッ、溺れるかと思った……
《美味しかった?》
(美味しかったです)
声では出せないので念話で。
今声を出したら確実にむせる。
ろくに息吸ってなかった上に、鼻まで塞がれたから。
やれやれ、ミドリの愛に、溺れるところだったぜ。
ゲホッ……ホント、命がけだがな……
それと、アオちゃんとミルクルさんや。
そんなギラついた目で俺を見ないでくれるかな。
「けほっ……しっかし、本当にないんだな『頑鉄工房』。地図を買ってみたが、やっぱり見当たんない」
「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ〜」
「あぁどうも。あ、すいません連絡先……」
「ユベルちゃん?」
「冗談です」
ウエイトレスの女の子可愛かった。
うむ。俺ウエイトレスのエプロン姿はメイド服の次に好きだから。
なんかミルクルさんが怖いから話を戻そう。
皿を退けて空いたテーブルにガイアの地図を置く。
「ほら、本来ならここに、むぐ、工房があったはず、むぐ、なんだよ。でも、むぐ、こうぶぉうどころか建物すりゃ、むぐ、ちょ、むぐ、ほ、ほっほまっへ! あほひゃんほっほまっへ!」
地図を指差しながら話をしていたのだが、途中途中でアオが俺の口にご飯を放り込んでくるせいで喋れなくなる。
ごめん、ごめんて。
忘れてたのは謝るから!
横からそんな無理にご飯を詰め込まないで!
アオちゃんはうーうーと唸りながら器用に箸を動かして今なお俺の口に食事を放り込んでくる。
それのせいでろくに喋れない。
《ますたーのばか》
(ごめんって。ほら、あーん)
怒ってたのもつかの間、これで機嫌を直してくれるのだから安いものだ。
アオちゃんの無言ご飯詰め込み攻撃がやんだ。
「もごもご……は! ふぅ、ここな。色々と街並みが変わってたりしてるけど、わざわざ地図買ってわかったことといえば、頑鉄工房がないってことぐらい。割りにあわねぇよ………うん? おい、ミルクルさん、コレって……」
頬杖をついてなんとなしに地図を眺めていたのだが、適当にすっすっと指でなぞっていたら『ある事』に気がついた。
「ん? なになに」
「ほら、ここ」
乗り出してきたミルクルさんに見やすいように地図の場所をずらし、自分も乗り出して気になったところを指差しトントンと強調する。
「名前が」
「……え? んん? こんな名前の『工房』あったっけ? なかったよね。……しかもこの名前」
「だよな。やっぱりそう思うよな」
「え? なに、つまりどうゆうこと?」
「いや、俺もわっかんねぇけど、でも、希望はあるってことだろ」
自然と気分が高揚してくる。
国内の未知の領域には興味は尽きないが、まさかこんなことになっているとは思いもしなかった。
これは、急いで確かめる必要がありそうだ。
いかん、一向に話が進まねぇ(笑)
主人公たち遊びすぎだろ。




