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信じられないでしょうけど、行方不明のイベントです!

「なぁおっさん。悪いことは言わねぇ。俺の言う通りにしな。そうすりゃ、あんたの大切なもんは全部守れて、俺の目的も果たせる。実にウィンウィン」


あまりに唐突のことだった。

いつも通りの時間に起き、妻の愛のこもった弁当を片手に、兄者に負けない剣を作るべく工房で仕事をし、何事もなく仕事を終えて、帰宅した。

そんな何気ない日常の中に、唐突に異物が潜り込んだ。


帰宅して家に戻ると、愛する妻と娘が、まだ幼い一人の少年に取り押さえられ、首筋に剣を添えられているのだ。


その少年は頭陀袋のようなものを頭にすっぽり被っており、片目のみ見えるように穴が空いているだけで、表情が読めない。

それでも俺はわかった。

少年は、笑っていると。


「な、なにが目的だ……金でも、武器でも、俺に出せるものならなんでも出そう。だから、だから、妻とミーシェだけは……妻とミーシェの命だけは勘弁してくれ」

「ひゃっはっはっ。おいおい、困るぜおっさん。あぁ困る困る。困りすぎて笑っちまうぐれぇだ。そうだろお? 俺はあんたにお願いがあって来ただけなんだぁ。命を取る? そんな非人道的なことを俺がするわけないっしょう? 冗談きついねぇも〜へっへ」


どかりと樽に胡座をかいて腰掛け、剣を持ったまま手をプラプラと振り、こちらをおちょくるようなジェスチャーを取る。

そんな姿を見て、俺は確信した。

こいつはふざけてなんかいないし、人を殺すことになんの躊躇いもないし、お願いなんぞをしに来たのではない。

俺に、命令しに来たのだ。


「俺の言いたいことは一つだ。別に金が欲しいわけじゃないし、犯罪に手を染めるつもりもない。もしだ。もしあんたの所に、『ユベル』という名前のやつが剣を打って欲しいと来たら、それを断って欲しいんだ。うん? そんな意外そうな顔すんなよ。それだけだよ。それだけ、簡単だろ? で、どする? 答えは? イエス? ノー?」


少年は軽い調子で剣を逆手に持ち替え、娘の首筋に当てる。

愛する娘が、顔を青くして、涙を流している。


少年は娘の頭を撫で、それにより頭が揺れ剣が刺さりそうになり、脅える娘の反応を楽しんですらいた。


全身から、憎悪の感情が湧いた。


「俺のお願い、聞いてくれるよな?」


しかし、少年の声はどこまでも本気だった。

ここで俺がするべきは、怒りに身をまかせることでも、交渉をすることでもない。


「わか、った。いう通りにする」


この少年の言う通りにすると違うことだ。

俺が頭を下げると、少年は嬉しそうに笑い、妻と娘を解放し立ち去っていった。


俺に、拒否権などはなかった。


--- --- --- ---


「おい。ミルクルさん。ミルクルさんってば」


俺がミルクルさんにいくら問いかけても、もはや彼女の耳に声は届きはしなかった。


「なんでよ! なんで、『頑鉄工房』がないのよ!」

「お嬢さんが何を言ってるのか俺にはわからないよ。とにかく、この国に、そんな工房はない」

「嘘よ!」

「ないもんはないんだよ。地図なら、ほら、あのテントでいくらでも売ってるから気の済むまで確認してくれ。ほら、行った行った。これ以上は営業妨害で憲兵に突き出すぞ」


商品を買うわけでもなく店の前に立たれたらそりゃ迷惑だ。

しかし、頭に血が上ったミルクルさんは正常な判断ができていない。

尚も店主に食い掛かり、店主の態度にビキリと青筋を浮かべた。


「わぁー! それはヤバイ!」


今まで後ろで何度も止めようとはしたが。

いよいよヒートアップして来たミルクルさんが剣を抜きそうになったので、急いで両脇を確保し本気でミルクルさんを止め、店の前から非難する。


アオにも協力してもらい暴れるミルクルさんを抑え込む。


「それだけはマズイって! 落ち着け!」

「放して! 放しなさい!」

「犯罪者になる気か馬鹿野郎!」


取り敢えず手頃な路地裏にミルクルさんを放り投げ、転がった所にすかさずアオを放り投げる。

ミルクルさんの上空に飛んだアオが、キラリと太陽光を反射しながら、ガパリと口を開けた。


「えっ? あ、わかった落ち着くからそれは」


ミルクルさんも察したのだろう。

あたふたと手をアオに向かって突き出すが、そんなことで許すほど優しくはない。


「ちょっと頭冷やせ」


アオの口の中、正確には胃の中から、池から回収した大量の水がミルクルさんに容赦なく襲いかかった。


--- --- --- ---


「ぐすんっ」

「たくっ」

「ごめんってばぁ」


そのあと、水をぶっかけられ頭を強制的に冷やされたミルクルさんは正気に戻り。

あわや犯罪者になるところを助けてやったと言うのにお礼もなくこのままずぶ濡れは嫌だと駄々をこね、テントではなく一軒屋の装備屋さんで服を新調し、時間的にちょうど良かったのでそのまま昼食の流れとなった。


今は装備屋さんの向かい側にある食事処だ。


俺がこの席に着くなり、ミルクルさんにげんこつを与え、思いの丈を説教に乗せ思う存分叩きつけた。

そのせいか、注文が届く頃には、ミルクルさんはすっかり涙目になっており、ウエイターさんがギョッとしていた。

驚かせてすまない。このバカがどうしようもなくてな。


「確かに『頑鉄工房』が無いなんて思いもしなかったし、取り乱すのもわかるけどな。ちょっとは周りを気にしろっての」


テーブルに置かれた山菜パスタを一口味わいながら、話を戻す。


「ごめんって言ってるじゃん! ユベルちゃんはしつこいよ!」


ミルクルさんも怒鳴りながら目の前に置かれた何かの肉のステーキにかぶりつく。

アオはパンやら鍋やら肉やらをモリモリ貪り、ミドリは野菜ジュースをストローで飲んでいる。


「言いたくもなるだろ。はぁ、ま、いいや。はい、説教終わり。……それにしても、ミルクルさんがやりたかったのがまさか、『ガンテツイベント』とはな」

「そうそう。ガイアに来たら絶対やらなきゃいけないイベントランキング第一位だよ!」


確かにな。

挑めたら、だけど。


俺はパスタをクルクルフォークに絡めて、ミドリに突き出しあーんをしながら思い出す。


『ガンテツイベント』。


それはこの武器都市『ガイア』にて、古参プレイヤーなら誰しもが一度は耳にする有名なイベントであり。


ミルクルさんが求めていたイベントはその中でも、最高の超激レアイベントであり、難易度もまた最高級の最凶のイベントでもある。


「EGO屈指の最高難易度イベント『最強の(つるぎ)は何にも(まさ)る』。やりたかったよぉ〜……」


ミルクルさんがぺちゃりと机に突っ伏した。

そうだ。そのイベントはとあるNPCがイベントトリガーとなる。

そのNPCである二人の男が、本来なら『頑鉄工房』という工房を持っている、のだが。


その工房がこの国に無いとなれば、その人たちがどこにいるのかもわからないし、そのイベントを自分たちで進めようとも望む結果を得るのは不可能だろう。


ゲームシステムがないにせよ、性格とかはゲームに反映されているとしたら。

その素材を持って行って、ゲームの時のように振る舞えば剣を打ってくれる可能性もあった。


EGOで数少ない『裏イベ』


オンラインゲームであるEGOをプレイする全プレイヤーの中で、『一番最初に受けた者しかイベントを受けられない』イベント。



『最強の剣は何にも勝る』



EGO内でたった一本ずつしか存在しない『聖剣』『魔剣』を得るためのイベントだ。


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