信じられないでしょうけど、ガイア入国後すぐの出来事です!
《ふわ〜》
《わ〜お》
アオとミドリ二人の呆けた声が聞こえる。
武器都市には、王都とはまた違った賑わいがあるからな。
豪華できらびやかな雰囲気が王都だとしたら、熱血な声が飛び交う荒々しい喧騒が武器都市だな。
かなり幅が広く大きめの馬車が三つは並んで歩けそうな道に、その脇に点々と並ぶ大小様々なテントに、広げられた絨毯の上に所狭しと並ぶ多種に及ぶ『武器』の数々。
客引きや品の紹介・説明など、聞いてると口元がちょっと緩んじまうな。
「おい。おいって。君。人の話を聞いているのか?」
「おっと。ははっ、悪い。少しはしゃいでしまってな。で、いくらだっけか?」
ぼーっとしていたせいで、関所のお兄さんの話を聞いていなかった。
いや、失敬。
「はぁ。全く、男の方がそんなんでどうする。しかしまぁ、旅人ならそんな反応は珍しくないがな。身分証を提示してくれ。入国料はとらない。代わりに国から出るときに、滞在した日数につき1万ゴールドを支払ってもらう。しかし、国内で武器を三回購入してくれた方からはゴールドを取らないことになっている。その場合には、この国で売っている武器に必ずついているシールを三枚、国を出る際に提示してもらう。武器を購入した際にその証として、シールにその店の名前が彫られた判を押してもらえるから、無いとは思うが盗品は勿論カウントされないからな」
ウチのスライムちゃんが少しむくれた。
まぁまぁ。
《だって〜》
《なんか決めつけられたみたいで釈然としない》
(仕事なんだから仕方ないだろ? 決めつけてるわけじゃなくて、言うべきことを言ってるだけだよ)
警戒はするに越したことはない。
そう言う仕事をしているんだから、この人は正しいよ。
《むぅ》
「ふむ、こんなところだな。他に何か気になることはあるか?」
「そうだな。関所はここ以外にいくつある? それと何処にあるかも」
「関所というほど厳しい検査は行なっていないんだが。ここを含めて三つだ。場所は説明せずとも国の中を歩いていれば自然に見つけられるさ。歩き回るのが嫌なら、国の地図を買ってくれ。冒険者ギルドで売ってるぞ」
「……商売根性逞しいな」
こんな場所でセールスみたいなことをされるとは思わなかった。
悪質なものではないがな。日本のものに比べれば可愛いもんだ。
「しかし、えらいべっぴんさんを捕まえたもんだな。お前も若いが、大切にしてやれよ」
「あのね」
肩を組まれて小さな声でそんなことを言われた。
後ろに人がいないからか知らんが、割と話をしてくるおっさんだな。
それと一言余計だ。
おっさんは尚も続けてくる。
「苦労かけさすんじゃねえぞ? こう、男の方からリードしてやってだな」
「旅仲間で幼馴染だが、そんな関係じゃないっつーの」
「そうなのか? お前の方が年上に見えるが……まぁいい、せいぜい我が国を楽しんでくれ」
「ぷは……あぁ、そのつもりだよ」
解放されて俺が肯定すると、おっさんはうなづいてまた持ち場についた。
「さて、行きますか」
「そうだね」
おっさんに言われたからというわけではないが、率先して歩き出す。
その後ろをミルクルさんがついてくる形、なのだが。
「おーい。そこのお兄さん。ウチの商品見ていかなーい」
「そこのよりウチの盾なんかどうだい! 女を守れるいい男になれるぜ!」
「この装飾品なんて、彼女のプレゼントにぴったりだぞ!」
客引きがこんな感じになるのがなんかなぁ。
因みに今俺は
「兄ちゃん! いい装備してんなぁ!」
「威圧感半端ねー。そんなアンタに似合ういい武器があるぞ」
「テイムエネミー見せてくれればオーダメイドもお任せだ!」
リアルで俺が16歳ぐらいの時の大きさの体になっている。
俺がEGO時代で使ってたアバターの大きさだ。
『幻覚』で作られた体だから違和感がないわけじゃないが、それも慣れだろう。
それ以上に懐かしい。
紛い物とはいえ、ようやくこの姿に戻れた。
前の姿が嫌だったわけじゃないが、こっちはこっちでEGOをプレイしている気になる。
「それはいいんだけど。そこまで恋人に見えるもんかね、なぁ、ミルクルさん?」
そういやさっきから静かだなこの人。
「……ゲ」
なんか嫌な感じすんなぁなんて思いながら隣を見てみると、案の定というか、ニマニマと。
はぁ……人生幸せそうだなこの人は。
「ちょ、おい、ミルクルさん。大丈夫? 生きてる? もしもーし」
「はっ、なになにダーリン!」
「誰がダーリンだ……ちょっ、腕を組むな! この、離れ、いでででででで! 関節! 関節決まってるからぁ!」
わけのわからんことを言って腕に抱きついてきたかと思えば、引き剥がそうとした瞬間腕が曲がってはいけない方向へと力をかけてくる。
や、やめるんだ! 肘は! 肘はその方向へは曲がらない!
《ミルクちゃん!》
《ルール違反だー! 粛清対象だー!》
「ふっふっふっ。女の戦いはいつだってルール違反の連続なのよ!」
女の子と腕を組んで歩くという素敵イベントの筈なのに、腕の痛みに我慢し引っ張れる方向にしか動けない人形と化したこのイベント。なんだこれ。泣けてくる。
そして各々の店や道を歩く人たちから、ピーピーと言った口笛や冷やかしの声が飛ぶ。
目腐ってんのかお前ら。
「大丈夫ユベルちゃん。じゃなかったダーリン。いい思いできるんだから、ウィンウィンの関係でしょう。他の人から見たら嫉妬の対象よ? よかったわね。あ。あのお店見ていきましょう」
腕の関節をかけながらも、腕に抱きついてくる。
器用だな……というか、なんか複雑。
「なにこれ、デート?」
「で、でででデートッ!? な訳ないじゃない! それはちょっと自意識過剰なんじゃないの!」
「あ、やっぱ?」
「で、でも、デートがしたいっていうなら私は別に」
「デートじゃないなら腕組まなくてもいいよな。さっきから誇張されたシリコンましましの例のブツが腕に当たってぇえええええええ!」
ミシミシ! 腕がミシミシ言うてる!
やめてぇ! 俺のライフはもうゼロよ! 痛みで死んでまうがな!
「ユベルちゃ〜ん。大きな声出したら他の人に迷惑でしょ? し・ず・か・にいッ!」
「あ」
フッ、と目の前が真っ白になった。
その後のことはよく覚えていない。
なんてことはなく。
痛みで気を失い、痛みですぐに目を覚ました。
「いっ! むぐぅ!」
「だから静かにしろって言ってんでしょ!」
「むぐぅぅぅぅうううううううううう!」
イテーーーーーーーーーー!
口が抑えられてなければ言葉になっていたであろう絶叫が心の中で響き渡る。
とっさに辺りを見渡すが、周りも十分騒がしいのと、もう興味を失ったのかあんまり注目されていなかったせいか変な目で見られることはなかった。
そこまで理解したところで、腕の痛みが再発し、涙が出てきた。
この人……折りやがったな……なんて事しやがる……
「反省した?」
こんなことをやっておきながら、にっこり笑顔でそんなことを言えるのだ。
嘘だろ。地雷女め。サイコパスかよ。
ゲームだからと思わなきゃとてもじゃなきゃできない行動だ。
マジで一度痛い目合わせたろかこのクソ女。
《マスター!》
ミドリが襟元から服の中へと潜り込み、俺の折れた腕へと巻きつく。
《『実験室』。座標位置最高精密区分。固定。BB2.35点とBBB5.46点の一部融解。BB2.35点からCC6.95点までを接合。砕けた破片ZZ1からZZZ8949まで融解、接合座標表面をコーティング。固定。前マスターデータと検証……骨の強度加増、骨の形の誤差数ミリ。違和感は無し。成長により自然治癒可能。後遺症なし、回復薬での痛み回復可能、強度増加……不可能……使用上の問題なし》
ミドリがそう言った後に、俺の腕に『万能薬』と『回復』アビリティを合わせて作った特製の回復薬をかけてくれる。
そのおかげで痛みも完全に引いた。そのうえ、骨もくっついたらしい。
《実験完了》
ふぃ〜とミドリが一息ついて俺の首元へニュルリと戻ってくる。
当たり前のようにやってのけたけど、す、凄いな……
まさかこんなことができるようになるとは。
強度増加とか、なんか凄いこと言ってたし。
(ありがとな、ミドリ)
《ううん。ミルクちゃん!》
「え? いやだってユベルちゃんが」
そうだそうだー! 言ってやれミドリー!
《確かにマスターもデリカシーなかったけど!》
えっ!?
《やられて当然の最低なこと言っちゃったけど》
ぐふっ!?
《少しは手加減してあげなきゃダメだよ!》
「うぅ……ご、ごめん」
《ボクにじゃないよね?》
「うん。ユベルちゃん、ごめんね? 痛かった?」
う、うん。痛かった。痛かったよ?
でも、なんだろうな。ミドリの言葉の方が痛かったと言うか、なんというか。
えっと……俺が、悪かったの?
「いや。なんとゆうか、俺も、悪かったよ。そうだよな。人のコンプレックスは人それぞれでぇええ!」
「……」
《はぁ……マスター。なんでそう、思ったこと言っちゃうかなぁ。ミルクちゃんもミルクちゃんだけど、マスターもマスターだよ。なんとなく気持ちもわかるから、マスターはとりあえず制裁を受けなさい。大丈夫、安心して。また直したげるから》
さっきまで優しかったミドリさんが無情に!
安心できる要素が皆無!
「ごめん! ごめんって、謝る! 謝るから!」
「成長するし……これからだし……コレは誇張じゃないし……未来予想図だし……」
なんかブツブツ言ってて俺の言葉届いてないし!
この時、俺の脳内はこの危機を回避すべく、生存本能からなる驚異的な思考速度を実現していた。
(やれる……俺ならやれる……考えろ……起死回生の一手……というか最近こんなことしかやってない気が……)
そして、一つの結論を導き出した。
「ミルクルさんは……ミルクルさんの魅力は胸じゃないから……大丈夫!」
静寂が舞い降りた。
「…………」
一体何が大丈夫なのだろう。
さっきのも合わせて言おう。
ガチセクハラじゃねーかッ!
「……ユベルちゃん」
「な、なんでしょう」
汗がつーとほおを濡らした。
緊張のせいかな……喉がかすれる。
「私の魅力って、どこかな?」
ゔぇっ!?
どこ、と言われましても……
え〜……頭のネジがぶっ飛んでるところ、とか?
冷や汗が出た。
ミルクルさんは俯いていて表情が見えない。
絶体絶命だ。
「ハ、ハズカシイノデイエマセン」
片言だった。
もう最悪だ。もー無理。もーやだ。もー帰る。おうち帰る。
殺されますねこれは。
「……そう」
しかしなんたることか、腕の拘束が解け、今度は腕に抱きついてきただけだった。
「ミルクル、さん?」
「うっさい……目的地にさっさと行く。ほら」
「おわ、わ、わかったよ」
グイと腕を引っ張られるのでされるがままとなる。
そういやミルクルさんの目的地ってどこだろ……
俺もやらなきゃならんことがあるんだからなぁ。
「はぁ」
ま、こんなのもいいのかもな。
ガイアの入国後、初めて。
ミルクルさんに腕を引かれながら、そんなことを思った。




