信じられないでしょうけど、予想外すぎる睡眠時間と爆発物です!
「……そっか。あいつは無事か……そっか」
取り敢えず、よかった。
あのジャック相手にどうやったかは知らないが、ミルクルさんの言う通り水色なら大丈夫だろう。
ウィーアードはウィーアードでまた得体の知れない奴だが、この結果は素直に凄いと思う。
『運命は帰還する』から見ても、まだまだカードはありそうだ。
「ま、王都に戻らなかった理由はそれだけじゃないけどね。ユベルちゃん。自分のお腹見てみ」
「お腹?」
お腹なら貴女のせいで絶賛お祭り騒ぎですがなにか?
ミルクルさんが真剣なのでいまいち意味がわからないが言われた通りにする。
改めて自分の服装を見ると、死神パーカーは脱がされ下に着ていた軽く動きやすい服の姿となっていた。
……俺の体になんか変なことしてないだろうな。
「いいからはよ見る」
「見ると言われても、別になんら変わらな……へ?」
服を捲り上げて、腹部に触れた瞬間頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。
嘘だろと思いながら急いで視線を落とし確認し、事実を認識してしまう。
そう。露出した俺の腹部にはいつも通りの腹筋が――――なく。
ぽっかりと風穴が空いていた。
「ちょッ! マジかッ!」
「変な穴なのよねぇ。ユベルちゃんの『回復』でもいつまでたっても治らないし。そうだと思えば、なんか黒い穴が空いているだけでユベルちゃんの健康状態に関わってくるわけじゃない。内臓が見えるわけじゃないし。黒い筒状の穴が最初からあったんじゃないかって思ったぐらいなんだけど。そこんとこどう? もしそんなアバター作成してたんだとしたら、私ちょっとユベルちゃんのセンス疑うんだけど」
「なわけあるか。そんな作成もできるっちゃあできるけど、あくまでソレ『魔人』のアバターじゃないと設定できないし。俺のアバターの種族は『人間』だから無理。それに穴開ける意味って、装備できる装飾品が一個増えるだけだし、装備できる装飾品が少なすぎる上に見た目が悪いから、もし俺が魔人族プレイしていたとしてもそんな設定はしない。これはジャックのせいだ」
ジャックの『投影』アビリティ。
効果発動条件をクリアすることで、プレイヤー一人の分身となる影を作り出せるアビリティ。
その影の分身に取り付けたダメージを一回こっきりで相手プレイヤーに『投影』させることが出来る。
効果発動条件は確か、相手の影を『踏む』事だったな。
俺は必死だったから気づかなかったが、もしかしたら魔法陣が光った時にでも俺の影を踏んだのかも知れない。
それか俺が不用意にあいつに近づいた時か。
いやまぁ、今はそれはどうでもよくて。
問題はそのアビリティの効果は、よくて数時間しか持続しないことだ。
そもそも相手にダメージを与えるだけのアビリティであるから、こんな感じに体にダメージ判定がされても、あくまで体の傷はHPに依存しているはずなので回復すれば傷なんて残らいはずなんだが。
「どうなってんだコリャ」
「さあ? ユベルちゃん、検索して調べてみたら」
そうして見るか。
《マスターの体は調べたけど、異常らしい異常は見つからなかったよ》
「って、ミドリちゃんは言ってるけどね」
『検索』っと。
「………………チッ。呪われたな」
状態は健康だし、HPにマイナス補正がかかってわけでもないが。
アビリティ欄に『混沌』というアビリティが新たに追加されている。
しかもこのアビリティだけ検索不可。明らかにこいつの仕業だ。
「ジャックに嫌な置き土産を食らったみたいだ。変なアビリティを付与されてる」
「呪い、か。プレイヤーキラーがソレ系のアビリティを持つなんてありえないはずなんだけど」
「あいつがそれ以外に他人にアビリティ付与できるようなプレイヤーだと思います?」
「ああそりゃ無理だわ。呪いけってーい」
他人にアビリティを『付与』、強制的に与える力は二つに分けられる。
『祝福』と『呪詛』
『祝福』は、キャンディーちゃんの『妖精ノ福音』などのような、一定条件と確率と素質で相手にアビリティを与える、世にギフト系と呼ばれるプラス方面のもので。
『呪詛』が、今回のように一定条件とアビリティ発動者に対する制限で発動し相手にアビリティを与える、世にカース系・呪いと呼ばれるマイナス方面のものだ。
ちなみに『祝福』は例えば『福音』などのアビリティで付与できるのと同じく、『呪詛は、『呪い』等のアビリティで付与できる、のだが。
「呪い系アビリティは原則として、プレイヤーキラーには発現しないはずなんだ。なにせ、PKK専用アビリティだからな」
「正確に言えば、プレイヤーキラーに殺されたせいで、強制的にプレイヤーキラーキラー系のジョブに転職させられたプレイヤーにだけ、救済措置の一つとして発言するアビリティだからね」
「それを生粋のプレイヤーキラーであるあいつが使えるようになってるなんてな……どうなってやがる」
あいつの攻撃を受けたせいでアビリティが発現した、というセンも無きにしも非ずだが。
このタイミングで、しかもあいつから受けたこの傷が治ってないという状況から見ても、その考えは正しいとは言えないだろう。
今はなんともないが、今後コレがどう響いてくるかわかったもんじゃないし、時間が経てば次第にどうにかなるもんでも…………ん? あ、そういえば。
「てゆうかミルクルさん」
「なに?」
「つかぬ事をお聞きしますが、俺ってば何日ほどお休みに?」
「え? ああ」
言ってなかったけ? という顔をされたので頷いておく。
「えーっと……今日でどれぐらいだっけ?」
ミルクルさんは難しい顔をして、指を折りながら俺の方と頭の上で待機するアオとミドリに目線をやる。
《えっとねー》
《薬を飲ませたのが一昨日だからぁ……》
アオとミドリもミルクルさん同様うんうんと唸りだし。
三人同時に一つの答えを出した。
「《《三か月くらいかな》》」
起きてから最大の衝撃だった。
「ちょっと待ってぇ! 三か月! 嘘だろ!」
気づけば声を上げていた。
三人の言葉に嘘の感じがしないが、それがまた恐ろしい。
だって三か月だぞ? 三か月間、俺は意識がなかったんだぞ?
想像してみてくれ。
もし三人のいう通りだったとして。
今の俺の体は、寝込んだ状態で運動はおろか栄養補給すらままならない状況下でありながら三か月前と全く同じ肉付き。
ありえるか?
状態は極めて健康。お腹が痛いということ以外になんの違和感もない。
ありえるか?
ありえないだろ!
《嘘じゃないよぉ〜》
「じゃあ飲み食いとかどうしてたんだよ!」
日本の病院みたいに点滴で栄養とるとかできないんだぞ?
三か月も意識ない奴が、起きてから状態が健康でいられるはずないだろ。
絶対栄養失調になってるって。
「それはミドリちゃんの作った薬と、ソレのおかげね」
ミルクルさんが指差した方向へと振り返ると、アオがいた。
「アオ?」
「違うわよ。アオちゃん」
《うん》
アオのことをソレ扱いとは何事か、とミルクルさんを睨んだがそうではなかったらしい。
ミルクルさんがアオに呼びかけると、アオは返事をしてもごもごと体を動かし始め。
なにやら見覚えのある袋を取り出した。
それは……
「キャンディーちゃんからもらった、お菓子の袋?」
「そうみたいね。アオちゃんの『胃袋』にしまってあったらしいけど、私たちがここに飛ばされてから一週間くらいだった時だったかな? いよいよ持ってユベルちゃんが大変なのではないかと皆んなで話し合ってたらいきなり飛び出してきてね。勝手に袋の紐が緩んだと思ったら中に入ってたクッキーみたいなお菓子が一直線にユベルちゃんの口の中に入ってったのよ」
そのシーンを想像してみた。
ギャクアニメかな?
「そしたらユベルちゃんの顔色が良くなるわ良くなるわ。ミドリちゃんが結界で状態を確認しても健康のままでいつまでたっても変化しないのよねぇ。そんでどんな物だったのか見てみようとしても袋の紐は一向に緩まなくて。それ以降ずっとそのまま」
ミルクルさんの説明が半分以上頭に入ってこなかった。
お菓子がひとりでに飛び出した、ねぇ。
「ミルクルさん。頭は大丈夫か?」
「……秘剣『鬼殺』」
「冗談! 冗談です!」
急いで両手を突き出してブンブンと首を振る。
ふざけたことは謝る! 俺が悪かった! だからその抜きかけている秘剣を納めてくれ!
《もー。ダメだよますたー。みんな心配したんだから》
「アオ」
《特にミルクちゃんなんか、マスターが起きないせいで何度暴走しそうになっあ、ちょ! ジャミングやめて! 頭がわれるぅ〜! わかったから!》
「……」
二人とも……若干ミドリが可哀想なことになっていたが、そうか、ミルクルさんも心配してくれたのか。
そうだな。
ミドリの悲痛な絶叫と、ミルクルさんが秘剣を携え無表情でこちらをみてなければ、感激できたんだけどな……
「そうか。キャンディーちゃんも俺を助けてくれたのか」
ウィーアードもキャンディーちゃんも、全くあの二人組め。
見送りまで粋なことを。
アオから手渡された袋を見ながら頬を緩ませてると、ふとあることに気づく。
「うん? 紐ってコレのことか? 普通に解けるじゃん」
「へ? 何しても緩みすらしなかったんだけど」
「なにしたんだよ……って言っても、本当に開けられるぞ、ホラ」
ちょうちょ結びされていたので、一本紐を引っ張るだけで簡単にふうは解ける。
ミルクルさんがずいっとベッドに乗り上げてきて、スライム二人も同様にして、全員で袋を覗き込む。
「あー、えーっと、なんだ。これって」
「四次元○ケットかしら」
「時空の○間的な何かかもな」
とにかく、ぐにゃりぐんにゃりして、底が見えなかった。
水の上に絵の具を数種類垂らして、放置したみたいな感じになってる。
「これ、手入れていいもんかね?」
「さ、さあ? ユベルちゃんなら大丈夫なんじゃないかしら」
「な、なんで」
「だって、キャンディーちゃんから、ユベルちゃんがもらったものでしょう? だったらユベルちゃんを傷つけることは……」
「実はこのお菓子の袋、さよならする時に、すっごいキラキラする瞳で渡されたものなんだけど。そこら辺どう思う?」
「…………」
「やめて黙らないで! 目をそらさないで!」
この袋を受け取った時、思っていた行動と真逆すぎて、冷や汗を流したのを今でも覚えている。
なんか無性に怖くなってきたんですけど!
「……ごくり」
し、信じるぞ? キャンディーちゃん。
ゆっくりと手を入れると、ズブズブと明らかに袋の容積よりも深くてが沈んでいく。
だ、大丈夫だよね? 噛まないよね? キャンディーちゃんの怒りとか詰まってないよね?
…………バシーーーン!
「キャアアーーー」
ビクビクしていたせいか、いきなり俺の手のひらにバシーンという衝撃を受け生娘のような悲鳴をあげてそのまま手を引き抜いてしまう。
「な、なななによビックリしたわね!」
「だ、だって!」
なんか中で動いたんだよ!
そう言おうとして、ふと手に違和感を覚える。
なにかを、握っているような?
《あれ? マスターなに取り出したん?》
どうやら俺の手のひらにぶつかってきたその何かを、驚いた拍子に握って引き抜いてしまったらしい。
なんだろ。
手のひらを開いてみると、そこには星のような形をした金属製の機械のようなものがあった。
「「あ」」
俺とミルクルさんが同時に理解の声を上げ、アオとミドリが困惑する。
《え? なになに?》
《ボク達にも教えてよ》
スライムちゃんの呼びかけに、一度ミルクルさんと目配せし、すぐに返事をした。
「「爆発物」」
《《………………へ?》》
二人が理解するよりも早く、俺が装置を振りかぶりミルクルさんがアオとミドリを抱え伏せる。
「うおおおおお! なにが入ってるかわからんけど」
『逃亡』と『超逃亡』を発動しAGIフル強化モードで扉まで走り、扉をあけてソコソコの力で装置を放り投げなら即扉を閉める。
「取り敢えず伏せろぉお!」
直後に外で爆音が巻き起こった。
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