信じられないでしょうけど、一人ぼっち……です!
「にしても、本当にやばいなこのパーカー」
なんかふわふわでしっかりしてて、ほんのりあったかくて、しかりフィット(これはアビリティ効果)、極め付けは
「通常攻撃の時は賭け金の十倍になるだけじゃなくて、金アビリティで、十分の一化しているゴールドしか賭けてないのに、ちゃんと元のゴールドアビリティ分の倍額が支払われてる」
さっきの戦いでも本来なら300ゴールドのところ、3000ゴールド支払われていた。
「このゲームじゃ明らかにバグアイテムだ……無いとは思うがBANされないよね……公式チートというやつでここは一つ」
《ますたー。ここにも宝箱あったよ〜》
「あーそれ即死罠。開けたら魂持ってかれるぞ〜」
《うひゃい!》
パーカーを見つめながら、スタスタと遺跡内を歩く。
《心配してよ〜》
「いや、まず開けようとするなよ危ないから……」
《手伝わせてよ!》
「うむ……じゃあ俺の肩の上に乗って、俺が指示するまでその場で待機だ。それがアオの仕事。頼めるか?」
《うん!》
ぴょこんっとアオが肩に飛び乗ってくるので、反射的に片目をつぶって首をそらす。
「よし。行くか」
ポケットに手を突っ込で、足を進める。
俺は少し開けたドーム状の空間にいる。
周りには、ちょっと間の抜けた感じが余計に気味悪いデザインの、岩で作られた奇妙な人形が大量に置かれており。
ありとあらゆる場所に洞窟の穴のようなものが空いている。
「今潜ってきたのは四つか……、となると、あっちか……」
そして一つの穴に飛び込むと、ヒュウウウンと落下する。
バタバタうるさいパーカーと、肩に乗っているアオを抑えながらしばし落下。
地面についたので、衝撃を膝を曲げることでそっくり地面に返還し立ち上がる。
「これで、5階。あと、95階」
というかまぁ、『地下』5階だけどね。
遺跡内はこんな感じで移動して行くのだ。
一つのルートを選択し、その一本道のルートをクリアすると、さっきみたいな穴だらけの部屋に出る。
そこから次の階層に移動する。
ここ、遺跡の国エンジンにある遺跡ダンジョンでは、プレイヤー命名『暗記ゲー』の名の通り、どこでどう潜るかがが非常に大きなポイントになる。
下手な階層でハズレ引くと、死ぬからな。
《は! これ手伝いになってない!》
気づいたか。
--- --- --- ---
ザッザッという音だけが一本道に響いている。
ルートはもう暗記しているから迷う必要がない。
今俺がフツーに歩いているこの道だが、俺が今踏んだ部分の一ミリ右隣を踏むと右側の壁から回避不能のメガトンパンチが飛んできて、ほぼ100%左に吹っ飛ばされるし。(パンチの速度はAGIにして999999くらい。これで死ぬ奴もいる)
吹っ飛ばされる先には、踏むと踏んだ場所からとんでもない風力の風が吹き出す罠があって、方向感覚を狂わされる上に上に放り投げられる。
吹っ飛ばされた方向の天井部分にだけ穴が空き、上の階におさらばだ。
そして性格が悪いのは、風の威力の調整が素晴らしいのか、必ず上の階の天井に叩きつけられること。
こんな危険な罠の数々が、数歩単位で何百個と敷き詰められてるから、この『道』のところにはエネミー達が少ないんだよね。
これでエネミーが強すぎると、無理ゲーとして運営叩かれる可能性あったし。
何よりこの罠の数だとエネミーが生きていけない。
「容量さえ守ればヌルゲーってことだ。……っと、ここか」
《ますたー―――》
何も言わずに思いっきり壁をぶん殴る。
俺は普通にやったつもりだけど、ズガァン! とかなり大きな音がなり、何も言わないで突然だったせいでアオがぷるぷるし始める。
《あ、え、ぁ、う》
「あ、ご、ごめん。びっくりしたか?」
ぷるぷるしているアオを抱えて優しくなでなで。
すぐに震えが止まり、もぞもぞと動いて俺を覗き込んでくる。
「別に驚かすつもりじゃなくてな。これこれ」
ガゴンッ! 俺が殴った音とは別の音が聞こえ、殴った部分の壁が機械的に後ろに下がって行く。
ヴィィン、ガゴッ! ジャジャジャ、ガジャジャジャジャジャ、ゴン! ゴン! ゴン!!
「はい、隠しアイテムご登場〜」
俺の目の前に一つの宝箱がせり出してくる。
「アオ。開けてみてごらん」
《……うん》
アオが触れると、宝箱は自動的に開き中から光のエフェクトを漏らす。
一連の光が止まると、中に入っているものが視認できるようになる。
《これは……》
「本だよ。前データじゃ俺が使ったからエネミーは獲得してなかったけど。ちょっとお得なアビリティが獲得できる、かもしれない」
本をアオの胃袋に収めてもらう。
《んっく。お得なアビリティって?》
「それはお楽しみってことで、な」
《教えてくれないとますたーのこと許さない》
「うぐぅ!」
心臓を抱えてその場に膝から崩れ落ちる。
座り込んで―――しっかりと罠を踏んでしまった。
「あ」
何かが、発動する。
だけど、ここって、なんだっけ!!
「アオ! 掴ま―――」
バシュンッ!!
ヒュゥゥウー…………
《……ま、ますたー?》
アオの声に応える者はいない…………
--- --- --- ---
「――――――どわっ! ぐ! が! がはぁ!」
光に激しく水平に弾き飛ばされ、地面に何度もバウンドしてから止まる。
「げほっ! ここ、どこ……アオ! アオ! どこだ!」
まずいぞ……アオとはぐれた。
俺一人だけ転移罠にはまっちまった。
「くそ! 急いでアオを見つけねぇと!」
『通信』アビリティ! 起動!
「アオ! アオ! 今どこだ! おい! 返事しろ!」
いくら呼びかけても、念話での応答がない、通信が繋がっていないのかと不安になる。
アオは純粋なステータスの強さじゃこのダンジョンのどのエネミーよりも強い。
だが子供だ。まだたった一歳の子供だ。エネミーが人間の子供とは成長の速度が違うことはもちろんわかっている。
それでもあいつはまだ、まだ、たった一歳……
『そんなあいつを連れてきたのは誰だ?』
ふと頭の中に声が聞こえてくる。
アオの念話に近いが、流れ込んでくるというより、響いてくる。
外部からというより、内部から。
そう思って気づく。これは、俺の言葉だ。
俺の奥底から響いてくる声は続ける。
『誰でもない。お前のせいだ』
違う!
『違わない。感情に任せて考えもせず否定するのはやめろ。お前だってわかっていただろう。自分の勝手にあいつを巻き込んでいると。あいつはそれでも、そんな俺についてくると言った。それに、許されたとでも思っていたのか? 本当に、愚かだよ。お前は』
うるさい! わかってるよ!
ちくしょう! 後悔してるよ時を巻き戻せるなら今すぐそうしたいさ!
でもできないじゃないか! そうさ連れてきたのは俺だ、こんなことになっている原因の大元は俺だよすいませんでした! でも今反省してなんになる!
今俺がすることってなんだ! 反省することか? 落ち込むことか? 違うだろ!
『…………ならお前は、今のままでなんとかできると本気で思ってるのか?』
今のまま? なに言ってんのかわかんねぇけど、あぁやってやるさ!
「『逃亡』! 発ど……」
足を踏み出そうとして、ピタリと足が止まる。
ここ、何階だ?
転移してしまったせいで、ここが何階層の、どこのルートなのかわからない。
黙った心の声が『どうした? ほら、なんとかするんだろ? さっさと行けよ』そう言っている気がした。
「あぁ……あぁ、行ってやるさ! 『逃亡』! 発動!」
アビリティを発動した直後、地面をえぐる勢いで蹴り前方に飛ぶ。
カチリッ!
――――――カッ!!
「……ちくしょぉ!」
―――バゴォォォオオオン!!!
--- --- --- ----
お前はなにもわかっちゃいない。
アオがどこにいるのかすらわからないのに、一体どこを目指せというのか。
この迷宮のようなダンジョンで、自分のいる場所すら満足にわからないのに。
ただ走れば、きっと見つかると、なんの根拠もない希望的観測にすがり、考えることを、恐怖から逃げている。
それだけだ。
どこか俺の冷静な一部が、そう呟いた。
声にならない小さな感情のつぶやきは、誰の心にも届かない。
--- --- --- ---
「はぁ……げほっ……はぁ」
爆発に吹き飛ばされ、また別のルートに来てしまった。
とっさに腕でガードしたし、減ったHPはもう回復している。
だが、問題なのは精神の方だ。
たった一回じゃ、罠に巻き込まれてもどこのルートか特定するのは難しいし。
何より一つで別のルートに吹き飛ばされるんじゃ、特定の意味がない。
やばいやばいやばいやばい!
どうするどうするどうする!
アオが、一人で、今頃困ってるはずだ、飯は……もたせてる。
ちゃんと戦えてるか? 泣いてないか? 危なくないか? 平気か? 大丈夫か?
どうすればいい、やばいやばいやばい落ち着かない思考がまとまらない。
とりあえず落ち着け、落ち着け、アオ、急いで
急いでアオのところに行かないと
「グルルルルッ」
「早く……早く……」
「グルルァァア!」
「チぃッ! うるっせぇんだよ!」
襲いかかってきたエネミーを殴り飛ばす。
「はぁ……はぁ……」
くそっ! どうすればいい。なにを、どうすれ……
「ガララララ……」
「グギャ! グ ギャ? グギグギョ!」
「ドュフフフフ」
「グルルルルル」
「ガア! ガア!」
「じゅるるるるるる」
ま、マジかよ……
目の前が真っ暗になる。
こんな時に………………『モンスターハウス』……
「……ッ! ……!」
無意識に拳に力が入る。
まとまりがつかなすぎる頭では、もう考えることが多すぎてキャパオーバーだ。
もうどう戦えばいいのか。なにをどうすればいいのか、もう効率も何もかもあったもんじゃない
そんなことを考える余裕なんてもうなかった。
あるのはたった一つ
アオを早く見つける、それだけ。
「邪魔を、するなぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
ここの何処かにいるアオに届くようにと、俺は叫び拳を振り上げる。