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信じられないでしょうけど、謎すぎる状況です!

重く感じる瞼に力を入れてゆっくりとだが目を開ける。

薄ぼんやりとぼやけているが、視界に入って来る景色は何処か知らない所のようだ。

少しでもぼやけを取るつもりで目をこすろうとしたのだが、いかんせん手が動かないことに気づく。


意識してみると体全体が嫌にだるく思ったように動かせない。

これはいかん。

なにがなんだかわからんが、なにか異常が起きているとはわかるためにまずは自由な視界をクリアにする為高速でぱちぱちとまばたきをする。


「…………ァ……ッ……」


声を出そうとしてみたが、カラカラに干からびたように喉の水分が足りなくなっており、声は出ず代わりに咳き込んでしまう。

なんなんだこの状況は。

まるで病人みたいじゃないか。


思ったように動かせない体が、まるで神経への脳からの伝達がじわりじわりと行き届いていくかのように感覚を取り戻していく。

控えめに言って焦れったい。

こんなことをしている場合ではないのだ。俺を待ってるはずだ……迎えにいかなきゃ……アオが、ミドリは何処だ……俺はどうなったんだ……ここは何処だ



――――ガチャ


「あー、お腹すいた……」

「はいはい。私もよ」

「雑だなぁ〜」

「ご飯食べたら少しでいいから寝なさい。あんた達、一体何日徹夜してると思ってんの?」


不意に何処からか扉の開く音がして、俺のいる部屋? に複数の人たちが話しながら入室してくる。


ノックもなしにいきなり入って来られるもんだからつい寝たフリをしてしまう。

プチパニックを起こしそうになっている脳に冷静になれと命令を下しながら、急いで栄養が行き渡っていないせいか全く機能しない思考能力を回し始める。


「ボク達のこと言えないと思うけどなぁ……それに、寝られるんなら寝てるってば。そんな時期とっくに過ぎちゃったよ」

「はぁ……なら少しでも休みなさいよね。倒れられたらこっちが困るから」

「ご飯食べれば大丈夫だよ」

「HP回復するだけでしょうが。SPはステータスに反映されてないんだから、大丈夫な気がするのは気のせいだから」


俺を置いて会話をするのは二人。

しかも両方女性か。

一見穏やかな雰囲気があるが、どことなくぴりぴりしている。

そして俺はなぜ寝たフリなどしているのだろうか。

完全にタイミングを見失った。この状況でどうやって会話に混ざれというのだ。


聞きたいことがいくつもあるから、まずは話がしたいというのに。

ヤバイな……初対面でしかも女性だと、俺の癖が出るかもしれんし、そんなことになったら絶望的だ。

少し呻いて、あたかも今起きましたよみたいな演技をしてみるか?


……いや、そもそもこの会話している二名様が俺の味方だとは限らない。

俺が寝かされているこの場所がどこかわからないが、よく見えなかっただけでもしかしたら牢屋とかありうる。

もっと悪いところかもしれない。


(この人達が俺の味方とは断言できない。どうする、体は……少しは動くか……とはいえ敵とはわからないし、そもそも女性相手だし攻撃するのもなんか……。取り敢えずここはこのままスルーする方が賢いか? しかし、今は少しでも情報が欲しい。知らないことを後回しにすることは最悪手だろう。無知とは悪だ。ありとあらゆる面でマイナスにしか働かない悪魔の方程式と言っていい。ならば、どうする。ぶっちゃけここまで考えてしまって、うまく演技できる自信がない。だからといってこのまま、みすみすチャンスかもしれないものを見逃すのはあまりに惜しい……どうする、どうする、どうする)


自分の自分自身への評価が低くなり過ぎていて判断が遅れる。

我ながら優柔不断が酷い。

何かあっても俺なら別に大丈夫だろう。などという楽観的な考えがどんなことを生んだかは言わずもがな。

交通事故は一度するまで自分には関係ないと思い込むようなものと同じで、一度自分の身に起きてしまえば考え方は一変する。


不安が不安を呼び、疑心暗鬼が疑心暗鬼を呼ぶ。

考えすぎて脳の整理が追いついていかなくなってきている。

混乱してきた。もはやなにを信用すればいいのかわからなくなってくる。


ここにいる女性お二方、二人が二人、俺の命を狙っていてやろうと思えばいつでも俺を殺れる力を持っているんじゃないかとすら思えてしまう。


俺が、どうすればいいのか、という言葉がぐるぐると脳内をかき混ぜ冷や汗を流す中、聞こえてきた会話通りに料理でもしているのか、何かの作業と音と会話は耳の中に情報として全て入っており。

状況は変化していく。


「あ、また火が弱くなってきた」

「ちょっとどうするのよ。……とってくる?」

「あはは。さっきも言ったけどボクには無理だよ? 腕力皆無だからね」

「……わかってるわよ……じゃあ料理見てて。薪切ってくるから」


どうやら(かまど)か何かで料理しているらしい。

少々古典的だな。しかし、こっちの世界ではそれが普通なのかもしれない。


ドタドタと足音や何か準備する音でしばらく騒がしくなった後、キィと小さな軋む音が聞こえた為、どうやら一人がこの部屋から退出するらしい。


「あ、私がいない間、また変な薬投与すんじゃないわよ? いいわね?」

「す、するわけないでしょ! 失礼だな!」


なにやら聞き捨てならないセリフを言い残して扉は閉められた。


シンと静かになる部屋。


え? この部屋、一人残ってるよね?


そう思って必至に聞き耳をたてるが物音がしない。


それと、変な薬? 投与?


この言葉、今のこの状況に照らし合わせて見て、俺、他人事じゃないよね?


というか当事者だよね?


え? マジで怖い。


余計に起きることができなくなってしまった。


(待って待って待ってプリーズウェイト! ウェイトウェイト、落ち着け落ち着け〜? ……体が金縛りにあったかのように動かなくなってきたぞ? くそぅ、どうでもいいから目を開けたい。不安すぎる。視界から入手できる情報をまとめたい。真っ暗のままは精神的にキツすぎる。いよいよ持って恐怖を抱いてきたぞ?)


ここまできたら捨て身で逃げるか?

うん。心理的なものかどうかはわからないが、逃げるという選択肢が物凄く魅力的に思えてきた。

俺のDEFなら滅多なことがない限り、死ぬことはあるまい。

一人しかいない今は千載一遇のチャンスなのではないだろうか?

そうだ、きっとそうに決まってる。多分!


(よ、よし……逃げるにしても、ドアの場所がどこにあるかぐらいは理解せねば)


音を立てないように首を少しずらして、いざ薄目を開け――――


「どうして寝たフリしてるの?」


ビクゥッ!!

なんの気配もなく、声は俺の耳に囁くように届けられた。

体が跳ね上がり開けようとした目を全力で閉じる。

距離が近いなんてもんじゃない。超近距離、耳に吐息が感じられるレベル!

どうやって、俺に気づかれないようにここまで近づいて、いや、アビリティか……いや、それ以前にどうして俺が寝たフリをしているとわかったんだ。

アビリティを使った風には感じなかったのに……一体どうやって


「やっぱり。寝てる時と呼吸音、違うね。自分じゃ気づいてないかもしれないけど、寝てた間少しも微動だにしなかった体が、急に動くなんて不自然すぎるし、それに代謝も凄かった。表情筋がいつもの数倍痙攣してた、まぁ些細な変化だけど。ん? また発汗が活発になったね。どうかした? 大丈夫? とゆうか、いい加減寝たフリやめて、起きてくれないかな。そろそろこっちも……限界なんだけど」


寝てる奴の動向どころか表情筋、ひいては汗の量にまで気を使うとは恐れ入る。

言葉に隠しきれていない激しい怒気を感じる。

限界という言葉の意図はわからないが、その言葉に込められた怒りは、明らかに俺に向けられたものだった。


観念して、再びゆっくりと目を開ける。

最初開けた時よりはスムーズに開くようになった。

そして目を開けた視界に入ったものは、不健康そうな白い肌だった。


ギョッとして目を見開くが、次の瞬間には女性は俺から離れてくるりと一回ターンしてから、後ろ手に手を組んで俺を見る。


「やぁ、やっとお目覚めか。おはよう。起きるのを心待ちにしていたよ、それこそ、心からね」


女性の全体像が視界に入る。

しかしやはりというか、着ている白衣や、かけているサイズ合ってないのか額縁の広いメガネや、その小柄な姿など、見覚えのない少女がそこにはいた。

誰かと勘違いしているのだろうか?

まるで俺の知り合いかのような話し方だが、少なくとも俺は、この子との面識はない。


所々服が緑色に変色していたり、色々と目立つ格好をしているその姿から、忘れたという線は無いように思える。


「…………」

「…………」


俺が黙っていると、少女も黙る。

なんだこの沈黙は……


「……ぇっと、君は……だれ?」


掠れる声だったが、彼女に届いただろうか。


「……だれ、ね。ま、しょうがないのかな?」


どうやら届いたようだ。

しかしどうにも違和感がある。

彼女のことは見たことないはずなのに、彼女の声、どこかで聞いたことがあるような……

しかし少女がくるりと背中を向けて、そのまま扉のノブに手をかけたせいで思考がキャンセルされる。


「あ、ちょっと」


焦って話しかけた。

ここで出ていかれるのは困る。

話がしたいのだ。


しかし少女は、ニマニマとした笑みを浮かべて一言。


「んじゃ、またね」


俺の考え虚しく、少女はそのまま出ていってしまった。


「はぁ……っ……体いてぇ。喉もいてぇし、水……」


幸い、水差しのようなものがすぐそばにあったため、その近くに裏返しになって配置されているコップの一つを取り、それに注ぐ。


「んっ……んっ……くっ、はぁ」


かなり多めにいっぱいを入れたつもりだったが直ぐに飲み干してしまったためまた注ぎ直す。

思っていた以上に俺は飲食物を欲していたようだ。

冷たくも温かくもないぬるい水が、カラッカラの喉を潤し胃へとするする落ちて行く。


「ふぅ」


ようやく一息つけた。

だれも部屋からいなくなったせいか、落ち着きも少々復活。


少し余裕がでたおかげか、あたりをキョロキョロ観察する。


気張りの床と壁。一般的な小屋という感じだろうか。

それも、少し大きめの小屋だ。

恐らく外につながっている扉が一つと窓一つ。四角い机一つと、少々古臭い台所にベッドが二つ。

それ以外は特にない、非常にシンプルだ。


「はっ! アオ! ミドリ! 『通信』つなぎゃあ良いのか! なんで気づかないかな」


どうやら思考能力は最低にまで落ちていたらしい。

急いで『通信』を起動して声を張る。


「おーい! もしもし! 俺だ、ユベルだ! アオ、ミドリ! 平気か? なんともないか? 聞こえたら返事してくれ!」

《あ! ますたー起きたの!》

《……ッ! マスター、直ぐ行くよ》


二人の声が聞こえてきたため不安が拭われホッと一息。

ミドリの口ぶりから、直ぐに駆けつけられるほど近くにいるということだろう。

アオもミドリも、二人ともこのあたりにいるということだ。

そのことがたまらなく嬉しい。

頭の片隅で何か引っかかってる気がするが、今はどうでも良いと一蹴する。


待ちきれずに『探知』を発動すると、こちらに近づいてくる青い点が三つあることがわかる。

二つはアオとミドリとして、もう一つは、だれだ?


パガンとでかい音がなり扉が破壊された。


そこから青色の線と緑色と線が俺の腹へとダイビングをかます。


「ぐぇ」


みぞおちにバッチリ決まるが、そのまま二人を抱きしめる。

一度もう会えないと思ったのだ。

その後の再開である。感極まってしまうのも無理ないだろう。


《ますたー、ますたーますたーますたー!》

《体は大丈夫? 頭はちゃんと働いているかな? ボクの名前わかる?》

「あぁもちろん。二人とも、心配させて、ごめん」


状況説明よりもまず、謝罪をしてから、抱きしめて会えてよかったと伝える。

伝わったのかそうでないのか、二人とも俺に擦り寄るようにして抱きついてきてくれる。


俺がスライムちゃん二人と再会の感動を分かち合っていると、小屋の扉が音を立てて開いた。


俺は扉に目をやって、ピシリと固まる。

そこにとても整った容姿の女性が立っていたからだ。


腰まで伸びるウェーブがかった紫色の髪に、人形のように整った顔だち。


見覚えはあるが、見たことはある。


「…………ミルクルさん、か?」

「おはようユベルちゃん。調子はどう?」

「コンディションは最悪だな。アオとミドリのおかげでだいぶマシになったが」

「私がいないのが苛だたしいな……おっと、話が聞きたそうな顔してるとこ悪いけど、料理作ってあるからまずそれ食べよう。話はそれから」


ミルクルさんはそういって台所へと向かう。

黙ってても飯が出てくるシステムがこうまでありがたいとはな。

ふむ……料理か……


………………ん? 料理?


「ちょ、ミルクルさん? 料理が、できましたので?」

「んー? おかゆだし。簡単だから多分できてるでしょ。お米あったし」


ミルクルさんが大丈夫というならそうなのだろう。

不安要素しかないご回答ですが、大丈夫だろう。

紫色に変色した煙的なものが見える気がするが、大丈夫、のはずだ。


死刑宣告だった。


なぜ俺は寝たフリをしなかったんだ!?


心の中で今からでも気絶したフリをして回避しようかと本気で考えだす。

いや、むしろフリではなく、反射で自分を殴って気絶しても良いのではないか、とまで思考が走る。


いや、たとえ寝ていたとしても俺の口の中にブツは無理やりねじ込まれることだろう。

この(ひと)ならやる。確実にやる。


「…………ッ!」


どちらにせよ避けようのない、女の子の手料理という名の死に確イベントに、俺は血を吐く思いで笑顔を作るしかなかった。



だ〜れだ。

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