信じられないでしょうけど、動き出したゲームの裏側です!
薄暗く、明かりのない不思議な空間がそこにある。
存在が何処に在るとは定義できない、不明瞭かつ不確定。
真っ白な『面』が在るだけで地面はなく、薄暗くともわかる白き空間に天を遮るものはない。
そしてその空間を仕切る壁もなければ、行き止まりもない。
そんな場所に一つ、縦に伸びたテーブルがある。
テーブルは長く、長く、ただ長い。
どこまで続くのか想像することすら許されないと言わんばかりの空間にどこまでも伸びている。
そして一定間隔で、椅子がある。
数えられない程の、ずらりと並ぶ椅子。
その椅子が現在、七脚使用されていた。
「あんれ〜、久しぶりだから期待したんに、あっちゅうまに負けるたぁなっさけなぁ〜。誰の子よありゃ」
椅子を五脚くっつけてそれに寝そべりアイマスクを装着しケラケラと笑う少女と。
「死神、ですね」
頭から白いペンキを被ったように縫い目の全くない真っ白な服装を身に纏い、ひらひらの膜のようなもので顔を覆い表情の見えない女性と。
「ぶっふー! ちょっ、ジョーッダンっしょお? ミスミス! 人選ミスだって死神ちゃ〜ん。それか捨てたのかにー。かなりどーでも良さげだったしー」
「それは、無いね。デス君はともかく、プロさんは真面目な人さ。彼女が付いていてそんなことはあり得ない。嗚呼! 彼女のことを考えると身も心も脳も心臓までもが熱くなる! 僕を拒む彼女がたまらなく愛おしいッ! 狂おしいほどに、あぁぁん! この僕を焦らすだなんて、プロウズさん、なんて罪な人……」
隙間一つ、傷一つ、色落ち一つ無い空色の全身鎧で、緑と青の装飾をされた黄金の三つ叉の槍を携えた男が、叫びながら椅子を倒し立ち上がり、自分で自分を抱きかかえては身をよじる。
「にゃっひひひ。キモー」
「死になさい下半神」
「あぅぅうん! き、君たち、この僕に対して、あっ、し、失礼じゃないかな」
女性二人の厳しい指摘に男はそんな言葉を返すが、身を抱いたまま赤い顔で息を荒げている時点で説得力はない。
「あの変態はもうダメっす〜。ちっ〜わけで話戻すんけども、マジにあの子が死神ちゃんが選んだ子なの〜? だとしたら期待ハズレにあっちゃん泣いちゃうシクシク〜」
「アイマスクしながらよく見えますね堕落神」
「あっちゃん神様ちゃん〜。だからやりたい放題なのわからぁなぁ? めんどくても楽しいことには人一倍敏感なあっちゃんは今日もいく! あと会話会話ー、キャッチボールしようぜよ」
「はぁ……滅多なことは言わないほうがいいですよ。言い方は悪いですが、『貴方ごとき』の神が、死神を馬鹿にするなど、命知らずも良いとこです」
ゴロゴロして腹をボリボリとかいて独特のリズムで言葉を発する、堕落神。
白い姿で身動き一つ取らず堕落神と会話をする、歌神。
二人に無視されて体を痙攣させている、海神。
三名とも、世界の一つを支配する神である。
ここは、神の集う場所。
◇◆◇
「酷〜い歌ちゃん。あっちゃんショックで三日三晩マイベッドの中から出られないかも知れぬ」
「誰が歌ちゃんですか。消しますよ」
「やぁあってみ? 永遠におねんねしたいなら止めやせんがな」
ふざける堕落神に怒りを見せる歌神、さらに油を注いでいく堕落神。
歌神は僅に首を動かし、堕落神はニンマリと口元の口角を上げる。
そして歌神が動く。
「ちょっと待つんだ二人とも」
いや、動こうとした瞬間、歌神と堕落神の間を水と風の一線が吹き抜け、三つ叉の槍を向けたままその現場を作ったであろう男の一括で場が静かになった。
歌神はゆっくりと海神へと視線を向ける。
「邪魔をしないでください海神」
「いや、邪魔させてもらうよ。神同士の戦いは現在協定で禁止されている。それが僕の前で行われようとしているのに、止めない理由がない。僕は全力で阻止しよう。それでももし、どうしても矛が収められないというのなら」
男に先ほどまでふざけていた姿はない。
真剣な眼差しで歌人と堕落神を睨む。
「その時は是非二人で僕を痛めつけてくれッ! 僕は二人の美しき女性がお互いに傷つけ合うなんてことを黙認することなんてできないんだ! しかし高ぶる気持ちがどうしても抑えられないなら僕は喜んでこの身をさし出そうとも! うん、決してこれは僕がしてほしい訳じゃなく、仕方がないこと! うんっ! さぁ! 遠慮せず! さぁッ!」
いや、誰よりもこの男がふざけていた。
存在からふざけていた。
はあはあと息荒く、二人の女神に痛めつけてくれと懇願する海神。
先ほどまでの張り詰めた空気が血を吐きながら消滅した。
「……あっちゃんにその趣味ァないから自分で机に頭打ち付けちゃっておけ」
「ごめんない堕落神。少し喧嘩腰になってしまったわ」
歌神が謝り、発していた神気を身に収める。
「あっちゃんは常に煽ってるようなもんやから謝っても逆に嫌味になりかねましぇ〜ん。それでも謝ったほうがええん?」
「いえ、貴方に謝られたら直ぐに治癒神のところへ耳を治してもらいに行かなければならなくなるのでやめてください」
「あれ? あっちゃんディスられた?」
勿論、怪人ヘンターイはスルーである。
当然ながらそんな名前ではないが。
二人にスルーされていることで身を投げ出しビクンビクンしているので、あながち間違いでもない気もする。
「んじゃあなにか? あの子の将来性か何かかに?」
「さあ? そんなのはわからないので私に聞かないでください。私の子ではないのですから」
「あらそ。んじゃ、あの子をやったのは誰の子よ? アレもとりあえずは『神の子』っしょ? な〜んか、気持ち悪いっつーか、未完成っぽい感じだったけど」
「解析するのに時間がかかってますが……あの粗末な精神憑依は恐らく邪神でしょうね」
歌神が邪神の言葉を出したためか、堕落神がけたたましく笑い始める。
「にゃっははははははははははっ! うっそ〜〜〜〜! 邪神って〜っと、ハデスのぉ? あのろくに神界にも潜れない動物以上神未満の出来損ないが選んだ子かいよ〜! ははははははは! は、腹いてぇ〜! とんだ大番狂わせだ〜〜、バッカみたい」
「邪神ハデスはつい先日消滅しましたよ。ご存知ありませんか?」
「ご存知ないね〜。んで? いまの邪神ちゃんはどいつ?」
「神名、邪神『アビス』だそうです」
その名前を出した歌神は若干嫌そうだった。
調べて出てきた映像を見たからだろう。
「しっらっな。でもまぁゲームオーバーしたわけじゃないし、これからっつーこってぇ。あの死神の子にひっついてる、かんわいい『神の子』は、誰の子? 誰の子? 歌ちゃんの?」
「いえ。地獄神ですね」
「うっひょえ。そりゃ死神の子と一緒にいるわけだ……エンマちゃん、死神ちゃんに頭あがんないもんな〜」
「死神あっての地獄神ですからね。とはいえ、お互いに必要な仕事をこなしているわけなので地獄神があそこまでへり下る意味もわかりませんが。それに、わかってるとは思いますが子供達には神の事情なんて関係ありませんからね?」
少なくとも今は。と小声で捕捉されたその言葉に、堕落神はつまらなそうに唇を尖らせては、器用に椅子の上で寝返りを打ち欠伸を一つ。
「くあ。そうだっけぇ? でもあの邪神の子、使おうとしてなかった?」
「……ええ、まぁ十中八九、邪神のフライングでしょう」
「にゃっひひひひ! 必死やなぁ邪神ちゃんはぁ。これで勝てれば神格が上がるとでも思ってんのかね。チートしないとあっちゃん達と同じ土俵に上がれないような出来損ないの癖に、でしゃばるとか命知らずすぎやんなぁ」
笑いの中に怒りを孕んだ堕落神の言葉に歌神はため息を吐く。
自らの楽しみを奪うものは全て敵。
それが、人と価値観のズレた自分理論をお持ちの堕落神だ。
「それで死ぬのなら相手が弱かっただけのことです。それに、『死神の子』にもよかったでしょう」
「なぁにがさ」
「邪神の子のおかげで、芽が出ましたからね」
その意味深な言葉も、神である二人には通じたようだ。
「ま、土がいくらよくても、気にせず放置してればそりゃ成長しないからねん。欲していた大量の水をバケツひっくり返してぶっかけられて、ようやくお目覚めさぁ〜。こっからだよ。あっちゃんの子も、そろそろ頑張って欲しいもんだねぇ」
「貴方の子が頑張るなんて、どんな皮肉ですか? 堕落神」
「そんな堕落を強調せんでもわかってるよぉ、歌ちゃん。んじゃ、あっちゃんおねむなんで、ば〜いび〜」
あぐらをかき座り直して手をヒラヒラと振り、その場からフッと消えるように姿を消す。
「私も帰ります。それでは」
「僕一人かぁ……ま! また誰か来るまでここで待つさ! 君たちが来た時みたいにね! それじゃ、歌神さん、さようなら。あ、でももし暇なら僕とディナーでも」
「…………」
歌神は何も言わずにその場から姿を消す。
海神は何事もなかったかのように、歌神の座っていた椅子を机の中に戻し、堕落神のベットと化していた椅子を一つ一つ丁寧に元に戻した。
「さて、………………見るか……今度も、期待しているよ」
どこまでも続くテーブルの、一部で行われる神たちの会話は、人間の体感一秒にも満たない速さで幕を閉じる。
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ここは、どこだ?
体に変な感覚を覚える。
何かに寝転がっているような気もすれば、仰向けのままふわふわと浮いているような気もする。
というか俺はあの後どうなった。
ジャックに腹に風穴を開けられて、それで、死んだ、のか。
クッソ、なんなんだアイツ……馬鹿みたいに強くなってやがる……
いや、今は悪態を吐くよりも今の状況だ。
ここはいわゆる、死後の世界というやつだろうか。
いや、まさかこんな短期間で二度目の死を経験するなんて、思いもしなかったが……
『死んでないよ? 頭大丈夫?』
心臓が飛び出るかと思った。
急に話しかけないで欲しい。
一気に色々な疑問が頭の中に浮かび上がってくるが、体が動かせられなければ目も開けられないので姿も確認できないのだ。
迂闊に話もできやしない。
『心外だよ。まるで人を変質者みたいに』
人の心の中を読んでんじゃねぇよ! プライバシーの侵害だ。
それだけで十分変質者だっつーの。
『もう、デスは黙ってなさい。すみませんユベルさん。お加減はいかがでしょう』
また知らない声だ。
今度は少し高めの、女性っぽい声に聞こえる。
しかし前のやつの声に比べて俺の身を案じてくれている気はする。
個人的にはこちらの方と話がしていたい。
『あら、お上手ですね』
いやいや、それほどでも。
そして貴方も心読むんですね。
というか、聞きたいことがありすぎるというか。取り敢えず君たちは一体どこの誰なんだ?
『しかし申し訳ありません。貴方の現実の体の関係上、時間は限られています。なので長話はできませんし、貴方の疑問に答えることも出来ません』
え? ちょっおい! 人の質問に答えろ!
『ですので、必要なことだけ。まず、貴方は死んではおりません。ここは死後の世界ではないのです。そしてもう一つ。貴方の中にある力は、正真正銘、貴方の力です。どうか信じてあげてください。今はこれしか言えません。約束があるので。私達の力を使ったのです、幸せになってもらわなければ困ります。ふふふっ、では、よろしくお願いしますね、私達の騎士さま』
待ってくれ! 君たちは誰なんだ! 力? 約束? ナイトってなんだ! 訳がわからない、俺は、どうなったん、だ……
しかし俺の疑問はそこで途切れた。
沈むような浮かぶような、俺の体を支えていた不思議な感覚が薄れ、閉じた瞼が白く染まってゆく。
フラグ回、物語が着々と進み出す。
このゆるーい感じはもはや作者の病気です(笑)




