信じられないでしょうけど、最悪の再開です!
《ますたー!》
魔法陣から発せられた俺の視界を丸ごと封じる光と、俺の反射の一撃で巻き起こった砂ぼこりと衝撃に挟まれどうにか耐えている状態の中アオの声が脳の中に響いてくる。
だが等の俺には余裕がない。
一番の問題として、視界が遮られただけではなく、光がそういう力を持っているのかどうか知らないが、探知系のアビリティ全てが妨害されているらしく、【 探知不能 】の文字が頭の中に出てくるだけで情報が全くつかめなくなってしまっていること。
これではいざという時悪意ある攻撃から、アオとミドリを守れない。
俺に対する攻撃はいいのだ。防御力と体力にステータス値を全振りしているうえに、ほどんどの状態異常を無効化し、ダメージは少なくその衝撃は俺の攻撃として利用でき、減少した体力はアビリティ『回復』によって即座に回復するという、『人間要塞』『永久機関』とも呼ばれるガチタンクだからな。
むしろ積極的に攻撃してきてもらった方がありがたいぐらいだ。
しかし、ことスライムちゃんに限っては、特にミドリは危険である。
何が危険かって、アオちゃんは攻撃力寄りとはいえ比較的全体にステータス値を振っているのに対し、ミドリは本人の強い願いからレベルアップボーナスは全てアビリティの取得、レベルアップに振り分けたうえ、振り分けられるステータス数値もアビリティのレベル補正に回した徹底ぶりだ。
EGO用語にて、これを特殊能力全振り選択。
そのため、ミドリのステータス数値は全てレベルアップした時に強制的に上げられる部分以外全くの手付かず。
そのレベルに反して、身体能力が非常に低いのだ。
それはつまり、強力かつ凶悪な力を得ると同時に、『死にやすくなる』という大きすぎるデメリットを抱えるということだ。
なんとか頼み込んでHPに少しずつ振り分けることに成功しているし、固有で俺とアオ同様に『回復』アビリティをもち、しかも『回復』アビリティを獲得したことで条件を達成し『万能薬』の派生アビリティの中に《回復薬》も追加され、少しは死ににくくなってはいる。
だが、危険なものは危険だ。
当然俺は『成長したい方向は自由だし、お前の権利だ。だけど俺はお前のマスターとして、お前が死にやすくなることを容易に容認することはできない』と反対した。
その時ミドリは
《全体的にステータスを振り切っても、多分ボクじゃアオちゃんみたいなオールラウンダーにはなれない。とはいっても、安全に気を取られてそっち方面に力を入れても、マスターがいるからなんの役にも立てない。そんなのは嫌なんだ。ボクは二人が大好きだから、ボクのもう代わりなんてないたった一つの居場所だから、無くしたくないって思うし、絶対にずっと一緒にいたいって思う。ボクは、マスターにも、アオちゃんにもできない、ボクの、ボク自身のやり方でマスター達の役に立ちたいんだよ。ボクにもし可能性が残っているのならそれは、ボクのたった一つの『才能』、ユニーク個体のボクのアビリティだけなんだ。だから、お願いします……ボクに力をください。マスターがボクの体を心配するのなら、マスターがボクを守ってよ。代わりにボクはマスターを守るから。ボクに、幸せをくれるんでしょ?》
正直ずるいと思った。
だがそこまで言われて、テイムしたスライムちゃんにそこまで信頼を受けて、それで断るようならマスターの名が廃る。
「ぬ、ぬごぉおおお……」
アオは、ミドリは……俺が守る。
仲間へと向けられた悪意を、その身をもって受け止め、跳ね返す頑強なる盾。
それがタンクである俺の役目だ。
こんなところでヘマやって、仲間を危険にさらすなど言語両断。
回復さん仕事はよッ!
(アオ。ミドリ)
《ますたー!》
《なに!》
(外からは俺が見えるか?)
《光はともかく煙のせいでマスターの姿は見えないよ。それより、大丈夫なの? 身体に何か異常ある?》
ふむ。そうだな。
(異常有りだ。身体が動かん)
クッソが。新種のアビリティか……煙のせいでよく見えないが……
(『検索』!)
名:ユベル
性別:男
年齢:6
LV:???
職業:テイム・マスター
称号:【 黄泉返りし転生者 】
:【 最弱な最強達 】
:【 検索る者 】
:【 無効に至った者 】
:【 アオの主人 】
:【 捕食者の主人 】
:【 ミドリの主人 】
:【 科学者の主人 】
:【 手品師 】
:【 巡り会う者 】
:【 忠誠を右の腕に収める者 】
:【 賢人 】
:【 根性勢 】
:【 妖精魔王の祝福を得る者 】
:【 死神デス・プロウズの鎌を破りし者 】
:【 死神デス・プロウズに認められし者 】
:【 死神の後継候補 】
:【 世界三大神 〈死神〉 】
所持金額:999,999,999,999(+)
HP:853695(+2500……+2500)/897362
ATK:300
DEF:937000
AGI:3580
INT:10096
アビリティ
『テイム』『隠蔽』『検索』『看破』『探知』『防御』『反射』『合成』『逃亡』『ジャンプ』『超逃亡』『通信』『交換』『鑑定』『強化』『隠密』『体力超増強』『妨害』『水』『疲労耐性』『回復時間短縮』
固有アビリティ
『強化成功率上昇』『毒無効』『防御力還元』『睡眠無効』『麻痺無効』『ゴールド増加確率上昇』『○属性耐性』『対象認識阻害』『回復』『リンク』『大富豪』『疑惑の目』『飴職人』
特別アビリティ
『雑魚ノ反逆』『限界破壊』『アビリティセンス』
■■アビリティ
『■ヲ■■、死■■ウ』
なんかわけわからん記述が増えてんだけど、今はそんなことは後回しだ。
状態異常はなしっと。
チッ、にも効く麻痺毒の類いじゃないのか……また面倒な。
拘束系アビリティと見て間違いないな。
となれば条件を破壊さえできれば
「ふんぬぅぅうう!」
力づくじゃ無理だわ。つか俺なら余計に無理だわ。これでも限界破壊しているんだが。
魔法陣全体からなる共鳴圧迫といったところか?
反射でぶち壊せた部分だけでは俺に打ち付けられてる楔は外れないということか。
「俺じゃどうしようもないか、どうすっかな」
いよいよもって万策尽きたかと新しい案を練り始めた時。
「クヒヒ……どうだよ僕の、傑作のトラップは」
聞き覚えのあるものよりも高い、されど、激しく悪寒の走る声が、聞こえてきた。
「アオ、ミドリ! 魔法陣に入ってでも、俺の中に退避しろ!」
《《りょうかい!》》
「クヒッ……させるわけないじゃん。《〈けして己のみと侮るなかれ〉〈除けど眺めど、理解しがたい愚者どもよ〉」
俺の指示に従い移動を始めたであろうスライムちゃん達と、それを妨害しようとするであろう男の姿が、見ずとも理解できた。
させるわけない?
「こっちのセリフだボゲッ! 賭け金レイズ、ベット100,000,000ゴールド!」
《『食卓ノ法律』》
《『実験室』》
「〈今ここに触れを成す〉〈深淵を……っ! 『影分身』!」
ゴールドを注がれた二人の切り返しにより、男の怪しげな詠唱をキャンセルさせることが成功した。
二人の結界能力を、男は影分身アビリティで回避したらしい。
それにより、俺の予想は深まった。
かなり特殊なジョブでなければ獲得できない、レア度の高いアビリティだ。
そして煙が晴れ、二人が俺のパーカーの中に潜り込み、俺も自分の今の正体を目視する。
「ふっざけんな! ……なんで僕の好きにならない! ……ここは僕の世界なのに! ……ゴールドさえいなきゃなんとかなると踏んでいたのに……ユベル! お前のそのスライムはなんだ! エネミーは連れてこれないんじゃないのか! このチート野郎が!」
「テメェに…………」
現在俺の状況は極めて悪い。
今だに薄ぼんやりと発光している魔法陣全て、その中心点にサッカーボールぐらいの玉が置かれており、そこから発生しているプラズマのようなものが俺の体を締め付け身動きがとれない。
しかし、それよりも、この魔法陣を作り出したであろう男の方が重要である。
ゴールド……チート……この言葉で確証は得たに等しい。
なにより、あいつの薄気味悪いプレイスタイルから滲み出る雰囲気を、俺が忘れるはずがない。
「テメェにだけは、チーターとは言われたくねぇよ。クソが、なんでこっちにまで来て、テメェなんぞに会わなきゃならねぇんだ! 【 人切包丁 】ッ!?」
「クヒッ! クヒヒッ! クヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッッ! ……そうだ! そうだぁ! ……僕だ……僕だよユベル! お前の最大の敵! 【 最弱な最強達 】を殺す者! 『Jakku』だ!」
EGO内に数多く存在するプレイヤーランキングの中で。
数少ない、悪名ランキング。
その中の最たる、俺たちEGOプレイヤーの敵役。
今、俺の目の前で高笑いする男。
犯罪者プレイヤーランキング『PKランキング』第『2』位【 人切包丁 】『ジャック』
けして聞きたくなかったその返答に、噛み締めた奥歯がギリギリと鳴る。
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「〜〜〜〜ッあー、よ〜っやく到着かよぉ……本気で『走って』来たのに長かったなぁ〜。な〜んであそこまで飛ばされるかね」
王都『ゼウス』の巨大な門の近くで、ストレッチし体を動かすやたらと身軽な装備に身を包んだ少年がいた。
少年は一度伸びをしたあと、コキコキと首や手を鳴らし、自分のいた国を思い出し、何やらとんでもないことを言っていた。
少年の考えている『水の都』は、王都から遥か遠くに位置する国だ。
おおよそ、"捨てられた国"『イシュタム』と比べて、三倍は遠くにある。
それも、所々で休憩を挟みながら、子供の足で、子供の体力で。
『本気』であり『必死』ではなく、割とのんびりとした感覚で、
そこから『走って』来たなど、数週間でついたなど、誰が信じよう。
「はあ……」
そこで男は、楽しそうな笑顔を一瞬消して、寂しそうな顔になる。
そして、ボソリと一言。
「『ソロ仲間』がいたら、もっと楽しかったかねぇ」
そう言ったのだった。
そのあと、ブンブンと顔を振り顔が赤くなるくらいの力でパンパンと叩き、ニカッと笑った。
「ああー、ヤメヤメ。辛気臭ぇのガラじゃねえっての」
そして男は歩き出す。
「さてと……俺がここに連れてこられた理由って奴を、調べてみますか……」




