信じられないでしょうけど、大変だし余裕はないんです!
「おい! 起きろ! もしもーし! あーさでーすよー! ビンタビンター! 目は覚めたかなー? 朝ごはんの時間だよー! グッモーニンエブリワーン! ハローハーワーユーアイファインセンキューッ!?」
大声を出しながら少々手荒な真似をしてでも担任教師ことゴーグンさんを起こそうと試みるが、当の本人は白目を向いたまま一向に目を覚まそうとしない。
アレだけ苦しんでいたのだから当然といえば当然だし、俺の行動は鬼畜極まりないだろう。
だがしかし。俺を殺そうとした相手に容赦してやるほど俺も甘くはないんでな。遠慮はしないぜ。
とはいえこれだけして目を覚まさないならしばらくこのままだろう。
死なれても困るため、俺たちはここから移動するが連れて行かない代わりに回復薬を数本置いておく。
「クッソ! なんの情報も手に入らないとかマジか! こっちはこっちで大変だってのに!」
「あ、あの、大丈夫ですか……」
「心配していただいてすみませんなんだけど、割と大丈夫」
俺は半分意地で叫び、扉を開け、引きずるようにして廊下を歩き出す。
未だアオに頭を食べられ、ミドリには抑揚のないレベルとはいかないが説教が続き、本気でハゲることを恐怖し始めた俺の姿は、どうやらセクハラを敢行されたヒノデさんをもってして、心配してしまうほどであったらしい。
だが、なかなかどうして、気分は悪くない。
断じて! 断じてMではない! 断じてMではないが、ちょっと嬉しかった!
だから、例え頭をガブられようとも。
例え懇々と説教されようとも。
ぶっちゃけ原因作った俺が悪いし、そんな二人が可愛いから、なんか元気出て来た!
あ、変態じゃないよ?
《可愛いとか言い訳してるけど、元気出たのってヒノデちゃんのお胸を揉みしだいたからだよね》
も、ももも、揉みしだいてませんしぃ!
ちょっと手のひらで押して、撫でただけだしぃ!
あ、待って待って! 痛いです痛いです!
頭とれちゃうぅ〜!
(悪かった悪かった。ちゃんと集中するから。そろそろ許してくれ)
《謝る相手がいるのでは?》
(今更俺から蒸し返せと言うのか? それなんて地獄?)
別になぁなぁで済ませてるわけじゃないし、さっき謝ったじゃん。土下座オプションで。
《『大変心地よかったです。ありがとうございました』って言葉の、どこが謝罪? お礼じゃん》
「ゲフンッゲフンッ!」
謝ろうと思ったら口が勝手に動いたんだよ!
《ますたー》
「お、おう、どしたアオ?」
《最低》
「ゲフッ!」
危ねぇ……廊下に血反吐をぶちまけるところだったぜ。
キリキリと痛む胃を押さえ、口からたれた血を拭う。
(だって、今更どんな顔して謝ればいいのかわからないんだよ!)
《自業自得》
《ますたーが悪い!》
……だよね。
悪いことをしたら、例え何がどうあれ、まずは謝ることが重要だ。
自分が本当に悪いと思っての謝罪は、そういうもんだ。
「ヒノデさん」
「はい?」
「……そのですね……先程は、事故とはいえ、言いづらいのですが、ヒノデさんの慎ましやかなお胸を」
ガツン!
「ヒノデ様の胸部への不用意な接触があったことを心より深く反省し、お詫びいたします。誠に申し訳ありませんでした」
ちょっと俺のおちゃめな癖が出かけたところで、アオとミドリの快い協力(震え声)、すなわち言外の《真面目にやれ》というお言葉のおかげで正気に戻り。
俺は丁寧に膝をつき、流れるような動作でしっかりとした謝罪ができた。
声が震えてたけどな!
「……えぅ……はい、あのような状況でしたし、ユベルさんにやましい気持ちがあっての行動ではないとわかっていますので。謝罪を受け取りましたので、どうかお気になさらず」
あぁ……よかった……
《ミルクちゃんに報告だね》
《そうだねアオちゃん》
よくなかったッ!
一難去ってまた一難とは、まさにこのことか。
何やら不穏な会話が脳内の片隅を駆け抜けたため、安堵に緩んだ精神が一気に真っ裸で南極に叩き込まれたような寒気を覚える。
よくない! それだけはよくないよ!
「ち、ちょ〜っと、お二人さん? もしかしてなんだけど」
「あ、あの! それでですね、ユベルさん」
「あ、うん」
頰を引きつらせながら、俺が二人にそれだけは勘弁してくれと懇願しようとした瞬間、なぜかヒノデさんに遮られた。
「つかぬ事をお聞きしますが」
「なに?」
「私の胸は、小さいのでしょうか?」
蒸し返すのかよッ!
つか、感想求めんなよッ!
なんて答えればいいのコレ!
意図がわからないせいで正解がわからない。
素直にいえばいいのか?
俺のテイムスライムのお二人さんが、なんかむくれながら俺のこと睨んでるんだけど……
「そ、その、私の体では、殿方のことを満足させられないのでしょうか?」
口を開けたままフリーズする俺になにを思ったのか、ヒノデさんはさらなる爆弾投下、というかカミングアウトを叩き込んできた。
そんなこと言われても、俺はどう答えればいいのかさっぱりわかんないんだって!
というか、こんなことやってる暇ないから!
今刻一刻と時間は迫ってきてるんだ、急いでことに当たらないとならんというのに!
「ど、どうですかね……俺としては悪くなかったというか、とても気持ちよかったというか、全然アリっていうか、あぁ、そうじゃなくて!」
があぁぁあ! 余計なことをぉぉぉ!
ていうか、アオさんミドリさん! これは俺悪くないだろう!
同性の方の暴走なんだから、止めてくれよ!
そう思って二人を見たが。
ミドリが何か口出そうとしているアオを説き伏せ、聞き耳を立て俺の返事を待っていた。
ふむ。
詰んだな。
ええい! 知ったことか。まずはやるべきことがある。終わった後考えよう。
早々に上手い言い訳や逃げ道を諦め、俺は食い止めていた思った通りの言葉をそのまま吐き出した。
「世間一般のことは俺はよくわかりませんが、俺は全然アリです」
サムズアップ付きだった。
これ、あとで怒られるのかな……
「……にしても、特に避難勧告がなされてる雰囲気でもないなコレ。ウィーアードのやつ、なにしてやがる」
廊下では特に騒ぎが起こっているなどが見受けられないため一安心だが。
いつもの授業中の静寂は感じられない。
「数人の教師はこちらにきている。さっきの悲鳴が届くところにいた人達でしょ。こっちにくるってことは敵ではないと思うけど、相手も動くチャンスだし、でもここでその裏をかいてくるか? 狙ってるのは俺の命みたいだから、俺を油断させて安全な場所からの奇襲か、それとも生徒に干渉して間接的に俺を追い詰めるか、どっちもあり得そうだな。でも、効率的にいいのは圧倒的に後者だろう。奇襲を受けても状態異常を俺は弾けるし、ダメージも入りづらい。そう考えると、ここで俺がやるべきことは……」
現状理解が追いついていない状況での不用意な行動は逆効果になりかねない。
この場でやるべきことはいくつかある。
さて、その中で俺はなにをすべきだろうか。
「……アオ。ベイビーズをミルクルさんのところに飛ばしてくれ。伝言は『正体・数ともに不明の敵発生。自分の思う最善でことに当たって欲しい』」
《了解! 行ってきて!》
アオがベイビーズを飛ばしたところで次の手。
「ヒノデさん。ウィーアードを探しつつ、生徒たちに危険が及ばないように避難させるなり何なりをおなしゃす。あまり不用意な混乱は避けた方向で」
「……まずは先生方に話を通します」
「その際は相手に十分気をつけて」
「ここの教師の誰かが敵だというんですかッ!」
「しー。声が大きい。ゴーグンがいい例じゃないっすか。可能性の話、なきにしもあらずかと。んじゃ、俺は疑わしい人物を探して、追いかけますか」
いや、その前にウィーアードの居場所だけでも今ここで探し出して伝えるべきか?
……でもあのウィーアードだ。必ず何らかの行動は起こしてくれていると思おう。
「ヒノデさん。またあとで会いましょう……『隠蔽』・『隠密』……っと」
手始めに姿を消して、次に気配を消す。
ヒノデさんは俺を見失い一瞬うろたえたが、直ぐに持ち直し教師たちの元へと歩いて行った。
そんなヒノデさんにエールを送りながら、俺も始動である。
(『探知』発動)
俺の体からソナーのようなものが放出され、レーダーのように学校内の情報が俺の頭の中へと流れ込んでくる。
(……ッチ! くそ、レベル不足か。学校全体を覆えない)
この学校も割と広い。
使用頻度のおかげでレベルは上がったものの、ちょくちょく『限界破壊』に食わしてるから結局プラマイゼロだ。
(『限界破壊』を…………いやダメだ。さっき使ったばかりだし、流石に使いすぎている)
確かに『限界破壊』を使えば、この学校全体を覆うレベルの『探知』が行えるとは思うが。
決して便利道具のような能力ではないのだ。
忘れてはいけない。『限界破壊』を使った時は爆発的に強化されても、使えば使うだけ、自分が弱くなることを。
(ここは節約……そろそろレベルアップボーナスの振り分けられる数値も少なくなってきたし、我慢すべきところだろ。探知の範囲は、移動速度でカバーする)
探知の範囲は俺を中心として移動するので、俺が移動すればその分範囲も切り替わる。
動き回って、マッピングと洒落込むかね。
(そんなにAGI一気にあげるとしんどいかな……『逃亡』発動)
廊下を走りながらも辺りに気を配る。
ちょくちょく人の気配はあるが、こちらに何らかのアクションを仕掛けてくる気配はなし。
この様子だと、ヒノデさんを単独行動させても大丈夫っぽいな。
そもそも、殺害予告を食らってるのは俺だし。
それにウィーアードとヒノデさんは巻き込まれた形だから、俺から離れといたほうがいいだろう。
(生徒たちの避難と言っても、どこが安全なのかわからんからなぁ)
外? 体育館? 別棟?
どこでも可能性が存在するせいで絞り込めない。
しかし、代わりに俺はその避難以外の仕事を一つ、こなすことができる。
聞こえたのは俺だけで、ヒノデさんがああいう性格の人だから言ってもいなかったが。
『名前は……メリ――』
俺はゴーグンの言葉を聞いている。
つまり、それだけは絞り込めるのだ。
その名前が頭文字、あるいはその他の呼び名となる人で、怪しい動きをしている人。という限定的な視点で、見ることができる。
(この学校内で、頭文字が『メリ』ね……)
この学校の生徒は無理でも、教師の気配はなんとなくで覚えている。
(どんな方法か予想もつかんが、ウィーアードは聞こえてたかな……となると、あいつなりに見当をつけて追いかけてるのか? でも生徒のことを考えるべき立場、いや、でもウィーアードだしなぁ〜)
そこまで考えて。
(あ)
ふと思い出した。
(この前の賭けであいつの全財産、俺全部巻き上げちゃったけど、大丈夫かな?)
まぁアビリティは使用可能だから危険性は少ないとして、キャンディーちゃんの金アビリティの使用禁止は、割と痛いのでは?
(…………さて、ウィーアードの独特な気配もついでに探さなきゃな)
因みに、ウィーアードはゴールドをわりかし持ってます。
ウィーアードの保持していたゴールドは全てユベルに回収されましたが、その後コネクションを利用しお金を借りたり増やしたりしてかなりの額がバンクに詰まってますので。




