信じられないでしょうけど、殺害予告です!
「反射パーンチ!」
「ぐわー、やーらーれーたー」
「オラー!」
「きくかばーか」
「ちょっと、男子静かにして!」
「うっせー、うっせー」
「……バカらしい」
「んだとぉ!」
「なによぉ!」
ギャアギャアとやかましかった教室内で、ついに一人の男子生徒と一人の女子生徒が喧嘩を始めた。
周りの子供達も、止めるどころか
「いいぞー、やれやれー!」
「エネミーバトルー!」
「二人ともエネミー持ってないけどね」
「さあー! かけたかけたー」
「なぁ、かけたとしてこれかえってくんの?」
「気分気分ー」
面白がって囃し立てる始末。
おい、これでいいのか担任さん。
と思い隣を見たら、担任さんが消えていた。
(オイッ!)
いや、待て待て。
逃げたわけじゃあないだろう。
プリントを取りに行った、そう、職員室に忘れ物を取りに行ったんだ。
もし何もなく手ぶらで戻って来たら、覚えてろよ……
(まぁ、ガキの喧嘩なんて日常茶飯事だし……)
とは思って傍観してるが、なんか熱くなりすぎやしてませんかね。
お互いの罵り合いから始まり、先に女子の方から手を出した。
どんどん二人がヒートアップして行く。
そして観客(囃し立てる生徒諸君)もヒートアップ。
遂に
「だー! もうキレた! ぶっ飛ばしてやる!」
「こっちのセリフよ!」
「俺に力を! 『怪力』!」
「火よ起これ! 『火球』!」
(おいおい)
少年は拳に赤いオーラのようなものを纏わせる強化系。
少女は手のひらに大小様々な火の玉を作り出す具象系。
共に自らの『アビリティー』を発動させた。
「だらあぁぁああ!」
「えぇぇぇええい!」
少年が飛び出し、少女が手のひらを操作してその上にあった火球が勢いよく飛び出す。
そして、それが少年の拳に着弾する
一歩手前で。
「……いい加減にしろバカ共」
『逃亡』を発動させてAGIを底上げし、間へと滑り込む。
少年の強化された拳ではなく手首を掴み動きを止め、逆の手で火球を全て受け止める。
一瞬のことに生徒たちは揃って呆け、シーンとした空気が広がる。
「あ……いててて! おろ、降ろしてくれよ先生!」
「はぁ……頭を冷やせ、あの火力に突っ込んだら火傷じゃ済まないぞ」
「う……で、でも」
「でももだってもない」
俺の叱責にしゅんとする少年。
それに勝ち誇ったような顔をする少女にも話をする。
「お前もだ」
「わ、私も!」
「当たり前だ。お前はあのアビリティーにどんだけ自信があったか知らないけどな、今のこいつの威力なら、傷を追いながらでもお前に十分なダメージを与えられたぞ。お互いに大怪我だ。ボケ」
「怪我したって、保健の先生が治してくれるし……」
「んな甘えた考えで卒業してからはどうすんだ。メルル先生はお前とパーティーを組んでくれないぞ?」
当然ながら、教師だからな。
まぁもしかしたらはあるかもしれないけど。
確率は低いと思う。
まぁそんなこと目の前の少女は思ってないだろうけども。
「私は、そこの男子がうるさいから、注意しただけです!」
「それが悪いとは言わんけどな、そういう注意すんのは実質教師の役目だ。だからまぁ、俺の監督不行届もあるが、それに、うるさいから注意して、そんでこの状況だろ? 余計うるさくしてどうするよ」
「うぐ……」
そして再び少年を見て、頭をはたく。
「あて!」
「笑ってんじゃねぇ。お前も同罪だろうが。つうかお前の方が悪いな。うん、圧倒的に」
「なんでだよ!」
「いいか、よく聞け」
俺が真剣な眼差しを送ると、少年は緊張で表情が固まり、ゴクリと唾を飲む。
周りも、一体俺が何をいうのか、張り詰めた空気で見守る。
すぅー……とゆっくりと息を吸い、そして
「男ってのは、いついかなる時だろうと、女を守れる存在にならなきゃならねぇんだ。お前は言っていたじゃないか、みんなを守れるように強くなるって。なら、例えどんな理由があろうとも、友達を、大切な仲間を、いつだって守るために拳をふるえ。お前の拳は何のためにある。信念なき拳はただの暴力だ。それを、よりにもよってクラスメイトの、しかも女子の顔を狙ってたぞ。少し短絡的だったんじゃないか?」
「うぐぐ」
少年は辺りを見回し、男子陣はそっと目をそらし、女子陣はウンウンとうなづいていた。
少年に仲間はいなかった。
つうか、調子いいなこいつら。
「ほら、あの子になんかいうべきことあるんじゃないのか?」
「わ、わかったよ……なんだ、悪かったな、怒鳴ったりして」
「わ、私の方も、言い過ぎた、ごめん」
「いや、こっちこそごめん」
うんうん、ちゃんとごめんができるんだからいい子達だな。
しかし、うるさいことを一つ言わせてもらうと
「少年よ、照れくさいのはわかるが、謝り方にもう少し男らしさが欲しいな」
「うわー、何で俺ばっかり!」
「お前は男の子だからな」
「男女差別だー!」
「失礼な。これは差別なんかじゃないぞ。男は自分の身以外にも、他人の身を気にしてあげる気遣いとか優しくとかが必要なんだ。だから男は色々と言われながらも、努力しなきゃいけない。女は女で、男より圧倒的にに色々な身の危険が多いから、その分自分の身を守る努力をしなきゃいけない。どうだ? 同じだろ?」
俺がペラペラと話している間に、途中でオーバーヒートを起こしたのか、プシューと煙を吐き出し始めた少年。
「おい、聞いてるのか?」
「うがー! ユベルくんの言ってることよくわかんねぇよー!」
「それはまだガキだからだな」
「同い年じゃん!」
「経験の差だ」
まぁ、男たるべしという俺の理論は、あくまで俺の理論だからな。
人によって変わると思うし。
無理に俺の理想を押し付けたりなどはしないよ。
あくまで自分の道を、貫き通してくれたまえ。
「ユベルくんってかっこいいよねー」
しゅばっと視線が声のした方へと向く。
「すっごく強いし」
「なんか大人っぽいし」
「クラスの男子なんかより全然すごいもんねー」
ふむ。
悪くないな。
初日や慣れない時などは、褒められてもなんか悪い気しかしなかったが。
これはロリコンにあたるんじゃないかと内心ガクブルもしていたが。
慣れてくるとなかなかどうして悪くない。
乙なものよのう。
「ユベルくんって時々バカだよな」
「変態だしな」
「カッチカチだし。あれ絶対脳みそも硬えぞ」
「早すぎ、動きゴキブリかっつーの」
「それに変態だ」
「恐ろしいほどスライムが好きだしな。変態でいいだろう」
「ありゃあ重症だわ」
「お医者さん、ユベルくんの容体は」
「お父さん……残念ですが、息子さんは、もう……」
ふざけ俺を罵る男子どもにグルリと首を上げて向き合う。
「なんか言ったか? 今」
にこやかに、笑っていない目で笑いながら、睨み問いかける。
男子どもは揃ってぶんぶんぶんぶんと首を振った。
おいおい、そんなに冷や汗をかいてどうした?
はっはっはっ。そんな青い顔をするなよ。
何もとって食おうってわけじゃないんだからさ。
「……喧嘩を止めようとせず逆に囃し立てた罰だ。一人につき反省文100枚な」
クラス全体にそう言い渡す。
色々と囁いていた男子生徒たちが揃って、(あれ?)という顔をした。
まぁ、俺に罰を与えられると思ったら、クラス全体にだもんな。
だがな、バカにされたぐらいで教師が生徒に手を出していたら、それは体罰だ。
犯罪なのだよ。
断じて、体罰はしてはならないのだ。
つまり
「あ、お前らは男の子だし、女の子を守らなきゃいけないよな。よし、女子生徒全員分をお前らで分けよう。お前らのみ、反省文500枚な」
正当な理由があるこれは、断じて体罰ではないのだ。
ぎゃああああああああああああ!!
クラスに絶叫が響き渡った。
--- --- --- ---
「いやー、すみません。遅くなりましたー」
それからしばらくして、担任教師が教室に戻ってきた。
そして、何人かの男子生徒が泣きながら俺にすがりついている姿を見てギョッとした目をする。
「あー、うるせーうるせー。あ、先生、遅いっすよ」
「ご、ごめん、ね?」
「あー、この状況は気にしないでいいっすよ」
「う、うん」
内心無理だとは思うけど、説明だるい。
反省文がそんなに嫌か。そーかそーか。
よかったよかった。
「で、なんで急にいなくなったんすか?」
「え!? あー、えっと…………理事長に呼び出されまして……」
「……ほーう」
冷や汗ダラダラで、目線ブレブレのそのセリフに信頼できる要素は皆無だった。
「理事長に、呼び出された、ね」
「は、はい」
ふむふむ。なーるほど。
「じゃ、後でウィーアードをぶっ飛ばしときますね」
「へ?」
笑顔で俺が言った言葉を、信じられないというような顔で聞き返してくる。
「いやだって、授業前のこんな時に呼び出すなんて普通に非常識でしょ? なにか緊急の用事があったとかならしょうがないから問答無用でとは言いませんけどね? 用事とかなら、授業に入る時間にならないように、時間を考えて伝えるべきでしょう。生徒たちにも迷惑がかかるし、授業の進行具合にも支障をきたすかもしれない。全く、あのバカはなにを考えてんだか」
腕を組み、怒りをあらわにするようなフリをして言葉を紡ぐ。
担任教師は、ダラダラと汗を滝のように流しメガネをせわしなくクイクイ動かしている。
「あー、いやーえー、そのー、なんとおっしゃいますか。かなり急ぎのー、ものでしてー」
「いえ、ウィーアードに聞くんで大丈夫ですよ?」
「ぐぅ……え、ええっとぉ……」
しぶといっつーか、往生際が悪いな。
いい加減にしねぇと俺もキレるぞ?
普段の俺なら他にも何か手を加えて優しく自白させるかもしれないが。
今日は、今日をもって俺はこの学校を出て行くって話をする日なんだ。
こんなところで変に時間食われたらたまったもんじゃない。
しっかりと話がしたいんだ。
そう思うと、自然に苛立ちが大きくなる。
「じゃ、授業に入りますか」
「そ、そそ、そうですね」
「…………」
まぁ、そこまで問いただす必要もないかと気を取り直し、さっさと授業を始めようと促したのだが。
なーんか、きな臭いな。
動きがあまりに変だ。
しゃあない、自分で言えないなら第三者に聞くか。
「ブルーベイビーズ」
《《《《はーい》》》》
担任教師の背後から、四体のブルーベイビーズが姿を現した。
《わーい》
《ますたー》
《あそんでー》
《あそんでー》
「おー、よしよし」
その姿を見て、担任教師がこの世の終わりのような顔をする。
いよいよもって、何かあるな。
逃げ出した時に、念のためブルーベイビーズをつけといて良かったぜ。
「さて、このおっさんが何してたか教えてくれ」
《んーっとねー》
《はなしてたー》
《はなしてたよねー》
《おじさんとねー》
「おじさん?」
ブルーベイビーズの発言を止めようとしたのか、こちらに詰め寄ってきた担任教師を押さえつけ、確認を続ける。
「ウィーアードか?」
《ちがーう》
《もっとこわそうだったー》
《なんかへんだった》
《んーっとねー、こういってたよー》
一人がそう切り出すと、残りのブルーベイビーズ全員が、口を揃えて言葉を吐いた。
《《《《あのがき、ゆべるは、きょうじゅうにまっさつするっ、てー》》》》




