信じられないでしょうけど、鉄拳返答と女湯サイドです!
「それが」
「ええ。キャンディーちゃんデス」
「……今のキャンディーちゃんと、だいぶ違うな」
「そうデスね。その部屋で私は数日過ごしましたが、赤ん坊のまま大きくなったような、そんな少女でした」
キャンディーちゃんのこと以外にも、聞きたいことはいくらかあった。
しかし、聞けないと思った。
なんとなく、そう思ったのだ。
「私は、救われたのデスよ。どうしようもなくなって、全てを失って、それでも人間らしく生きたくて。それができないのなら、いっそと……バカな考えデスねー。笑ってくだサイ。そんな当時の私の目を、覚ましてくれたのデス」
「…………キャンディーちゃんに感謝だな」
「フハハハハッ! 全くもってその通りデスともー! 感謝してもしきれません。ま、本人はその代価は受け取ったと言い張り、感謝は受け取ってくれなかったんですが」
「代価?」
赤ん坊みたいな彼女が何か見返りを求めたのだろうか。
そんなものを求めての行動とは思えないんだが。
「ハイハイー。一緒にいるから、一人にしないから、その代わりに『私と共にいてくれ』というものでしたネー。その時にテイムが成立しました。キャンディーという名前も私が名付けたんデスよ! ど〜です? このセンスの塊! 私、恐ろしい子!」
「へーへー、ご馳走さま」
『感情汚染』とか『傷』とかのアビリティを持ってたのはこういうことだったんだな。
称号の【 嫌われ者 】は、兄の恋人? や父の知り合いからの激しい憎しみのせいだろう。
【 道化 】【 楽観主義者 】【 数多の偽りを持つ者 】ってのは、『逃神ノ闇』による感情操作の影響か。
とは言え、今の話とこの性格の変わりようはなんなんだろうな。
感情操作をしてんのか?
「ユベル氏」
「あん?」
「一つ、質問してもいいデースか?」
「言ってみ?」
ウィーアードがおちゃらけた雰囲気を真剣なものにし、問いかけてきた。
別に質問ぐらいは構わない。
答えるかどうかは内容によるが。
「ユベル氏は…………私が、このような者でも、友達だと言ってくれマスカ?」
「…………」
温かい温泉の空気の中、張り詰めた静寂が漂う。
そして、一言。
「なぁ、ウィーアード」
「はい」
「歯ァ、食いしばれ」
いや、訂正。
一言ではなく『一発』をウィーアードの顔面に叩き込んだ。
「…………」
「…………」
しかし、ウィーアードのDEFは4236。
反射の伴わない俺の攻撃では、HP1レベルのダメージしか食らわないだろう。
それでも、全力でぶん殴った。
「もう一度そんなふざけたこと言ってみろ。次はガチでいくからな」
プラプラと手を振ってぶっきらぼうに言い、そのままザバリと湯船から上がる。
気づけばかなり長いこと風呂にいたようだ。
少しのぼせている気がする。
「ユベル氏」
「んだよ」
ウィーアードも俺に続いて風呂から上がってきた。
自分の頬を撫でながら、下手な笑顔で俺に向かって笑った。
「威力がないのに、今までで一番痛かったデスね」
「そうかよ」
「ユベル氏」
「あん?」
「すみません」
「おう」
「ユベル氏」
「ああ」
「ありがとう」
「おう」
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(時は少々遡り)
「いやっはー! 風呂だわー! 温泉なんてひっさしぶりね〜」
《ますたーと一緒に入るー!》
《ボクもー!》
「二人ともダメー!」
《女湯サイド》
《お風呂はますたーと入るって決まってるの》
「ダメったらダメ」
《なんでダメなの? キャンディーちゃん》
「え!? そ、それは」
魔王モードを解かずに身長が近くなったキャンディーちゃんは、急にしどろもどろになる。
「向こうにはウィーアードさんもいるから、ユベルちゃんだけの時にしましょうね」
《……なんかミルクちゃん。アオのこと子供扱いしてない?》
「んー? してないよー? よしよし」
《なんか妙に機嫌がいいねミルクちゃん。ボク気になるなー》
「あ、わ、私も……」
ふふふん。ユベルちゃんと何があったのか気になると、そう正直に言えば良いものを。
「……ふふふっ……二人だけの、ヒ・ミ・ツ」
《わー!》
《…………マスターに吐いてもらうしかないね》
「あ、私いい方法あるよ」
うお! なんか不穏な雲行き!
ユベルちゃんがこのままでは犠牲になってしまう!
…………まぁ、いっか。
時にはお灸も必要だよね。
まぁだ女癖の悪さが治ってないみたいだし。
このあたりでもう一回、女の怖さってやつを骨身に染み込ませてあげるのも悪くないかもしれない。
《ふーんだ。アオだって、ますたーと二人っきりでお風呂はいったことあるもん!》
「う………ちょっと羨ましいかも…………」
《あ、ボクもボクも》
「キャンディーちゃんは?」
「へぅッ!? わ、私はそんなの、ありませんよぅ!」
あ、赤くなってもじもじしてる。
可愛い。
こうゆうの見ると、余計いじめたくなるのよねぇ。
「ねぇ」
「は、はい?」
「お菓子の魔王様なのよね」
「そ、そうですよ?」
「媚薬入りお菓子って、作れる」
「ぶっ!?」
あら。
「び、びび、媚薬入りなんて、そ、そそ、そそそんなの作りませんよ!」
ちょっとからかっただけなんだけど、この反応。
もしかして
「……作れる、のね?」
「だ、だから」
「さっき貴女、『作りませんよ』って言ったわ。『作れませんよ』じゃなくて『作りませんよ』って。つまり、作れるのね?」
「むにゅ……」
そっーかー、へー、ふーん。
「作ったことがあるんだー。へー。きゃー、キャンディーちゃんたらえっちー」
「え、えっちじゃないもん! 私、全然えっちじゃないもん!」
「でも媚薬作ったんでしょお?」
「あれは、その、中毒効果の進化を研究してたら、勝手にできちゃったやつで、作ろうと思うって作ったわけじゃ……ごにょごにょ」
あー楽しい。
顔真っ赤で涙目になりながら否定するキャンディーちゃんが可愛すぎる。
これ写真撮っちゃダメかしら。
ユベルちゃんに売りつけたらかなりの額ふっかけられそうなのだけど。
裸が写らないように…………
って! そういえばスクショ機能がないんじゃない!
嘘でしょ! なんということか……
「ふっ……燃え尽きたぜ……真っ白にな……」
《なんかミルクちゃんから貫禄の哀愁が……》
《背後にロープが見えるよ……》
「うぅぅ……ユベルくん……」
さて!
「こんな茶番は置いといて早く体洗っちゃいましょ」
《あ、立ち直った》
「アオちゃん、背中流したげる………と思ったんだけど、アオちゃん背中あるの?」
《あるよー》
《でも、基本的にどこでも洗おうと思えば洗えるから、わざわざ流してもらう必要ないよミルクちゃん》
「す、スライムって、案外万能ね……」
これが本当の、『痒いところに手が届く』ってやつね。
まぁ、万能というか、器用というか。
「あ、じゃあキャンディーちゃん流したげるー」
「ひゃう! けっ、結構です!」
「まぁまぁ、遠慮しないー遠慮しないー」
「別に遠慮してるわけじゃ………ひゃぅん! ど、どこ触ってるんですか!」
「うむむむ……わ、私よりあるわね……着痩せするタイプかしら」
ふむ。どことはキャンディーちゃんの沽券のために伏せるが、私より大きいとは、けしからん。
「えーい! 揉みしだいでやるー!」
「ひゃああああああああ!」
うわーん。なんかちょっとショック受けるんですけどー!
牛乳飲んでも大きくならないのよねー。
どうしたら成長するのか、さっぱりわからないのよね、ここ。
《ミルクちゃん……》
「あ、そういえばミドリちゃんとか、アオちゃんとか、あるの? つまり、コレが」
キャンディーちゃんのを揉みながら指し示す。
《あるよ! し、失礼だなぁ!》
「あるの!」
《え? あ、アオに聞かれても、よくわからない、けど。そうなの、ミドリちゃん》
《………うぐ……アオちゃん……ボクよりあるくせにごにょごにょ》
ま、まさか。
スライムにもあったなんて!
この世界に来なければ知り得なかった真実よ!
いえ、確かに、スライムにも性別はあるのだから、ちゃんとあると考えるのが妥当よね。
私としたことが。迂闊だったわ。
「どこにあるのかさっぱりわからないけれど」
「あっ……ひぅ……い、いつまで、やってるんですかぁ!」
「おっとっと。逃げられちゃった」
はぁ……はぁ……と息を切らしたキャンディーちゃんがちょっと色っぽい。
そして、胸元を隠しながら、涙目で私をジトぉ……と睨む。
「あははは。ごめんごめん。ちょっとふざけすぎちゃった。久しぶりの温泉だから、つい」
こっちに来てからはろくにお風呂も入れなかったせいか、温泉にどうしようもなくテンションが上がってしまうのだ。
お風呂大好き日本人のため、許してもらいたい。
「ごめんってば」
しかしキャンディーちゃんは頬を膨らませてぷいっとそっぽを向いてしまった。
ありゃりゃ。
「ごめんごめん。お詫びにユベルちゃんの秘密教えてあげるからさ。許して」
そう言ったら、ピクリとキャンディーちゃんのお耳が反応した。
ちなみに、二つのプルプルした物体もピクリと反応したのは言うまでもない。
「《《秘密?》》」
「うん。本来なら私も知らなかったはずの、ユベルちゃんの秘密」
これ、ソロ仲間のとある人に教えてもらったのよね。
ユベルちゃんが、EGOをプレイする『前』にプレイしていたオンラインネットゲームの話。
「少し前、七年ぐらい前のことなんだけどね、実は、ユベルちゃんって――――」
私は、口元にメガホンのように手を当てて、みんなの耳元へと、とびっきりと秘密を囁き始めた。
「ふぅ、風呂上がりの牛乳は最高かな」
酒を飲んでいたせいか火照り気味であったウィーアードを先に返し、俺は自前の牛乳を飲んでいた。
「身長伸びるかね?……いや、でも牛乳っていうほど栄養あるわけじゃないんだよな。実際牛の子供に飲ませるためのものだから、人間が飲むためのものじゃないし。加工されているとはいえ、伸みすぎは毒だったったけか。腹壊すって聞いたことあるし」
そんなことをブツブツ呟いていたら。
《あ、マスター》
《ますたー》
「ユベルくん」
「おろ?」
三人とも風呂から上がったらしい。
ふむ、少し色っぽい気配が……
あ、あれ?
「あの、みなさん? その〜、おててにお持ちになっているのは〜、なんでござる?」
俺が気がつき後ずさり始めたことを察したか、三人の笑顔が消えて飛びかかってくる。
《正直にいいなさーい!》
《にげるなー!》
「痛くしませんからー!」
ええー! なに! なんで俺追いかけ回されてんの! ねぇなんで!
「ちょっと! その、その薬、自白薬って! 鑑定したらヤバイもん見ちゃったよ! あー、ちょ! なんでだよぉぉお!」
これがミルクルさんのせいであることを、ユベルはまだ知らない。




