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信じられないでしょうけど、ウィーアードの過去です!

思わぬところで転生者の話を聞けたな。

まぁ、その人の顔も名前も知らないから、今のところ手の出しようがないんだけどな。


「せめて名前がわかれば……」

「申し訳ないデスねー……」

「いや、別にいいよ。それにしても、逃げる程とは、よほどウィーアードのギャグがつまらなかったと見える」


そう言うと、ウィーアードはピクリと軽く肩を震わせるような反応を示した。

ウィーアードは怒ったフリをするか、盛大に笑うかするかと思っていたため、この反応は些か想定外だ。


「……? どうした?」

「いえ、ユベル氏は、『私が嫌われた(、、、、、、)』とは、表現しないのだな、と」

「嫌われたって思ってんのか?」

「いえ……ただ、私はこんな性格してますからネー。逃げられたと言ったら、大概の人は『あぁ、嫌われたんだな(、、、、、、、)』と自然に思います故に」

「あー……まー、わからんでもないが。別に今の話を聞いて嫌われたとは思わんだろ」


なんとなく、励ますかのような口調になる。

ウィーアードが、珍しく落ち込んでいるように見えたからだ。

ふむ。先程まで上機嫌で酒を飲んでいたというのに、なんともらしくないな。


「どうした。なんか変だぞ」

「元々変な奴がとか、的確かつ余計な一言が付いておりませんよユベル氏」

「茶化すな。まぁ、言いたくないなら別に無理に聞き出そうとはしないが……」

「……そうですね。ユベル氏は、私の友達ですか?」

「あぁ? なんだ急に。俺はそう思ってんぞ」

「……そうデスか」


ふむ。何が言いたいのかさっぱりわからんが、ウィーアードがゆっくりと深呼吸を始めたので取り敢えず待つ。


「ハッハッハ。では少々、ちっぽけなものを欲し、そして全てを失った馬鹿な男の昔話を、聞いてくださいますか?」

「……わかった」


俺は余計なことは何も言わずにただ肯定を示した。

それに少し口角を上げたウィーアードは、ポツリポツリと言葉を紡ぎ始める。


--- --- --- ---


私は、このゼウス国にかつて存在した、とある貴族の生まれでした。

元々は平民出のその家は、度重なる戦で幾度となく功績を挙げ、貴族の位を得ました。

私はその家の、三男として生まれました。

厳格な父と優しき母は、私、ドール・ピスケル・ウィーアードの誕生を心から喜んでくれました。


そう、生まれるべきではなかった


『呪われた子』の誕生を。


私たち家族は、皆が皆、武の才能を持っていました。

一番上の兄は剣、次の兄は弓、そして、私の父は珍しいことに盾の才能を。

母は戦闘の才能は持っておりませんでしたが、家事の鬼でしたね。いつも鍛錬や仕事で泥だらけになって帰ってくる父や兄たちをテキパキと適切な対処をし、皆んなタジタジでした。

家族の中で、母に敵う者はおりません。

厳しくも優しい、幸せな家庭でした。


「父様! 私も、みんなのように強くなりたいです!」


そんな私も、強く逞しい家族を誇りに思い、幼き頃から憧れておりました。

私にも何か才能があると思い時が経つのが楽しみでした。

どんな才能があるのか、考えては妄想にふけり、日々が楽しかった。


これがまだ、私が自分の才能に憧れを持っていた時のことです。


私の家では代々、6歳となった子供は『武の洗礼』という儀式を行います。

儀式といってもそこまで特別なことではありません。

ただ、本格的に戦いを学ぶにふさわしい年齢になったため、『検索球』をつかいステータスを図るというものです。

本格的にとは言いましても、家柄的に、4歳ぐらいにはすでに剣の一つや二つ、潰すくらいには修練を行なっておりましたし、兄弟や父、祖父との稽古ももう行なっておりました。

しかしそんなことは抜きとして、ついに自分の才能を知る日です。

自分の才能を知り、それからは、その才能を伸ばしながら今まで以上に修練に励む。

強くなれる。そう思って疑いませんでした。


今までの人生で、最高の瞬間になると根拠もなく信じていたんです。


今までの人生で、最悪の瞬間となるなどと、知ることもなく。


「……………………え?」


鑑定球に簡潔に、そして残酷に記された、私の才能。

それは、『逃げる』才能でした。


『武』器を扱う才能ではなく、『武』闘を扱う向きの才能でした。

戦いにおいて、逃げるという行為は大切なものです。

しかし、子供の頃の私に、そんなことを自分に言い聞かせる余裕はありませんでした。

胸の中に弾んでいた物が、ドス黒い感情に次々と侵食されていく感覚が胸全体に広がり、息ができなくなり、目の前がぐるぐると回り、無意識に助けを求めるように家族を見ました。

そして私の視線に、まるでこの世の終わりかのような表情をした家族が映りました。

激しいショックを受け、その衝撃に耐えられず、胸を押さえ膝をつき、過呼吸が酷くなり、じわじわと視界の端から黒い何かが目を覆い、ぷっつりと視界が暗転しました。


「……う……ん。……とお、さま……かあ、さま」

「おお! 目が覚めたか!」

「良かった! 本当に良かった!」


それから私は、3日程寝たきりで、常にうなされていたそうです。

目が覚めた時、父も母も心から安堵して、私を抱きしめてくださいました。

普段は少し意地悪な優しい兄達も、気遣うようにこまめに声をかけに来てくれました。


しかし私は、その家族の愛を、素直に受け取ることができる心境ではありませんでした。

理由は、自分の才能です。

期待してくれていたのに、応援してくれていたのに、せっかく稽古をつけてくれたのに。

期待に応えられず、裏切ってしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

そしてもう一つが、気絶する前に見た家族の表情です。

その表情が脳裏に焼き付いて離れませんでした。

少し経って、その表情の理由が私の思っていたものとは違うと知りましたが、当時この時の私は知る由もありません。


怖かったのです。


私に才能がないから、もう前のように愛してはくれないのではないか、一緒にいてくれないのではないか、失望して私を捨てようと考えるのではないか、そんなことを考え続け、その時に家族全員から向けられる優しさを信じることができなかったんです。


「…………怖い。私は、一体どうすれば……」


一人自分の部屋で過ごすことが多くなりました。

その度に嫌な想像は加速し、それでも自分なりに折り合いをつけようと必死になっていました。

ただ、その頃の私もまだ子供。折り合いをつけるどころか、つっかえては取れず大きくなり続けるモヤモヤを抱える結果となりました。

そしてある日、そんなモヤモヤがあった時は、いつも鍛錬をして発散していたと気づいたのです。

『儀式』の日から、私は無意識に修練を、戦うことを避けていました。

しかし、気分的に相当参っていた私は、少しでも楽になるのならと数日ぶりに自分の机に立てかけてある剣を取り立ち上がりました。

そして、剣を持って庭に行けばもしかしたら前のような日常に戻れるかもしれないと、期待してもいました。


「あ、父様。その、私は」

「ウィーアード! 何故ここにきたのだ! 剣などもう持つな!」

「……え?」


庭に出て、そこにいた父に怒鳴られました。

もはや貴様には期待していないと、そう言われたのだの思いました。

悲しくて、もう一度父や兄に認めてもらいたくて、私は。

最悪の選択をしました。


強さを認めて欲しくて、当時12階層まで開拓が進んだゼウス国のダンジョン『アンノーン』へと忍び込みました。

戦って、強くなって、エネミーをテイムしてこれれば、きっとみんなも認めてくれる。

子供らしい、短絡的な思考です。


甘かったですね。


当時の私には、2階層はおろか、1階層ですら突破できませんでした。

屈強・頑強なエネミーを相手に、ろくにレベルもない、テイムエネミーもいない子供には何もできませんでした。

いえ、ただその時からすでに才能の片鱗を見せていた、『逃げる』事だけはできましたかね。


「はぁ……はぁ……」


逃げて逃げて、攻撃を避けて、隙をついて攻撃。

しかし、武器も何も持っていない私のSTRの数値では、相手のエネミーのHPを削りきることはついぞできませんでした。

悲しかった、ということもあるのでしょう。

自暴自棄になり、集中を欠いた一瞬の隙を突かれ、私は怪我を負いました。

それほど深い傷ではありませんでした。

それでも、私に恐怖を植え付けるには十分過ぎました。


「うわあああああああああああああ!!」


逃げました。

全力で、泣き喚きながら、何も考えず、我武者羅に。


逃げきれました。

体はボロボロ、精神はガタガタ。満身創痍の状態で、足を引きずりながら家へと帰りました。


家族に一言、「大丈夫?」と言ってもらいたくて、家へと帰りました。



母は死んでいました。



「……え?」


優しき母が、私のことをいつだって思ってくれていた、最愛の母が。

まだ若かった母が、老人のようにシワシワになった顔で、どこか満足そうにベットの上で息を引き取っていました。

訳がわかりませんでした。


信じたくありませんでした。

これは悪い夢なのだと、何度も思いました。

剣なんぞ廊下に放り捨てて、母に駆け寄りました。


握った母の手が、思った以上に小さくて、ぞっと寒気が全身に走りました。

それが否応なしにこれは夢ではないと、私に残酷なまでの宣告をしたのです。


「なんでぇ! どうしてぇッ!?」

「ウィー……アード」


泣き崩れ、叫び声を上げる私に、その隣の、カーテンで仕切られたベットから声が聞こえました。

しゃがれた、かすれたような声でしたが、それでも、私はそれが誰の声がすぐにわかりました。


「父様!」


嫌な予感は的中。

父もまた、若かった父もまた、老人のように弱りきり、震える手で、私に手を差し伸べていました。

私はそれを握り、力無い父の手に、生気が感じられないことを知りました。


「すまな……かった」


父が最初に発した言葉は、謝罪でした。


「お前を、守って、やりたかった。まだ……子供のお前に、真実を、告げるのは……余りに酷だと、そう、思っていたのだ。しかし、話すべきで、あったな。我らの口で、直接……げほ……お前に、伝えるべきであった」

「父様!」

「すまぬ……もう、目も見えぬし……意識も、薄い……我らから、事情を話すことが、できそうにないのだ……。セボスに、話は伝えてある。後で、聞いてくれ。……これは我らの勝手だ……だが、無理にでも貫き通したい、勝手なのだ……!」


私は何も言えず、ただ父の言葉を聞いていました。


「だから、……これだけは…………伝え……なければ……我が愛した妻、ナーシャの残した、そして、我らの、我ら家族の、総意の……言葉を」


私は直感的に、糾弾されるのだと思いました。

思わず強く目を瞑り、来るであろうショックに備えました。


「愛していたよ。誰よりも。……フッハッハ、いや、ナーシャが聞いたら、私が一番だと怒りそうで、あるな。我も、負けぬが……家族全員、お前のことを、心から想っていた……」


そして、父の口から発せられたその言葉は。

私の予想の正反対。

私が、心から望んでいた言葉でした。


「お前のために、死ねるのだ……我が生涯に……一片の……いや、未練はあるな。ハッハッ……ハッ。何しろ、お前の未来を、見守ることができないのだからな……」


盾の、スパルードの名が泣くな。と父は普段見えない明るい表情で言いました。


「しかし……我だけ、ウィーアードと話して、いる……というのは、些か……不公平だな……ナーシャが嫉妬してしまう…………ナーシャも頑張っておったのだが……ナーシャの分を一部我やエルやメルが肩代わりしたのだが、それでも、持ちこたえられなかった。…………もう少し、我が受けてやればよかったのだがなぁ……」


しかしそれをやると、今度は我が話せないのか……と父は困りきったように笑い、それは嫌だなとも言ってくださいました。


「げほっ…………もう、時間がないか……まだ、言いたいこと、話したいことが、いくらでも、あったと……いうのに」


もう私の視線は父を輪郭でした捉えられなくなっていました。

涙が溢れ、次から次へとこぼれ落ち、それが点々と父の手に当たっては、流れ落ち、ベットを濡らしました。


最後の力を振り絞ってくれたのでしょう。

父は震える手で、それでも確かに、力強く、私の頬を撫で、指で涙を拭い、笑いかけてくれました。


「ウィーアードよ…………我ら最愛の息子よ。どうか……折れないでくれ。まだ、6歳。しかし、お前は我が、ドール家の……男。我らの息子で、メルとエルの弟だ。きっと、強く、優しく、なれる……しぶとく…………時に泣いても良い……そしてそのあとは……立ち上がれ。……………………生きるのだ」


その言葉を最後に、父は息を引き取りました。


--- --- --- ---


そして、父と母の突然の死を受けた私は、セボスに、別の部屋へと連れられました。

その部屋では、大好きだった、しかし儀式の日からは会うことを避けていた、兄達がベットで寝ていました。



「……やぁ、ウィーアード、来たんだね。……泣くなよ。僕たちの弟だろ? 後悔なんて、してないさ。……弟を、助けられたん、だから。今まで、照れ臭くて言えなかったけど、君の笑顔に、何度も救われていた。仕事で嫌なことがあっても、上司に怒られて憂鬱な時も、いつも、君の笑顔が支えだった。だから、笑っててくれないか」

「ケッ!……野郎のために死ぬなんざ、シャレにもなりゃあシネェなぁ! ……俺、らしくもねぇ! 未練たらたらダァ!」

「こらエル。君ってやつは。こんな時にまで……」

「うっせえぞ兄貴ィ! 俺ァなぁ、もっと、ドラマチックな死に方をしたかったんだ! 死ぬなら女の子の胸の中でって、決めてたんだっつーの!」


二番目の兄の、そんないつも通りの言葉が、その時の私にとって軽く受け止めることができませんでした。


「あぁー……ウィーアード、わかってると思うけど。エルの言ってることは、女の子に関する話以外逆さまにして聞いてね。ツンデレだから」

「だから! うっ……げほ! うっせえっつってんだろーガヨ!」

「はぁ……あ、ウィーアード。他のは多分無理だけど、グラムは持ってっていいよ。使い方は、君次第だ」


一番目の兄、『ドール・ピスケル・ウォンメル』は、彼の剣士の才能についてきた剣の一つを、私に譲ってくれるとおっしゃいました。

その剣は、少々事情があり、今現在私の手元にはありませんが、何度も私の命を救ってくれた、今でも大切にしている剣です。


「ケッ! 『魔剣』を進めるタァ、いい趣味してんじゃねえか」

「しょうがないだろ。僕の言うこと聞かないのがグラムだけなんだから。……他のは多分、僕についてきちゃうからね。……ぅ……そろそろ限界、か……なんだか、眠いな……これが、死ぬってやつなんだね。……ほら、エルも…………少し、くらい…………素直になれよ」

「…………」


二番目の兄、『ドール・ピスケル・エルスター』の、いつもの、いつも通りの、変わらない。

こんな状況となり、それでも私に対する態度を変えない、優しさをいただきました。


「………………………………………………歯ァ、磨けよ」

「はぁ……もっと、気が利いたこと、言えないのかな」

「…………うっせ。おう、ウィーアード、よう。……てめー、俺が……よしと言う前にこっちに来てみろ…………許さねえかんな。覚悟しとけ」

「……この期に及んで、そんな、悪態……。……ま、……それも君らしいよ、エル。…………それじゃ、そうゆう……ことだから…………ウィー……アー、ド…………元気でね……見守ってる…………さようなら」


意地悪で、でも根はいつも私を気遣ってくれる心優しい兄達との、最後の会話でした。


--- --- --- ---


一瞬にして、家族がみんな、私に言葉を残して死んでしまいました。

実感が湧くはずもありません。

私は、その時唯一残っていた、兄の残してくれた、『魔剣グラム』を抱きかかえ、呆然と涙を流していました。

兄の部屋で泣き崩れる私の前に、母と共に家の家事のほぼ全てをこなしていた男、セボスが立っていました。

訳がわからず、真実を知っているという、家の執事長、セボスにどうゆうことなのか、問いただしました。

一見冷静な判断に見えますが、冷静など、かけらもありませんでした。

泣き喚き、取り乱し、セボスの胸ぐらを掴み地面に押し倒し、何でもできた老人に絶叫するように叫び散らしました。


「ウィーアード様。落ち着いて、お聞きください。ご家族が命を落とされましたのは、寿命を奪われたから(、、、、、、、、、)でございます」

「寿命! 何でそんなものが、こんな、急に!」

「どうか心を強くお持ちになって、お聞きください。これは、決して貴方様のせいではありません。貴方様の、その身に巣食う、『呪い』のせいでございます」

「わ、私の、身に巣食う……呪い?」

「その通りでございます。貴方のアビリティ『闘神ノ呪』は、相手に与えたダメージ分、使用者の寿命を奪うというものです」


セボスの言葉に、頭の中が真っ白になりました。


「本来なら、貴方様の寿命はアビリティに奪われていたでしょう。しかし、そのアビリティには『返済義務』という力がありました。貴方様と契約した者は、貴方様の代わりに寿命を死ぬまで与えなければならないという力。契約方法は貴方様の血を直接経口摂取すること。貴方様が寝ている際、旦那様と奥様、メル様とエル様は、何のためらいもなくその契約を行いました。だから、貴方様のせいではないのです。これは……」


もはやセボスの声は頭の中に入ってきておりませんでした。


(私の、せい?)


母の顔を思い出す。


(私が、悪い?)


父の顔を思い出す。


(私が、殺した?)


兄二人の顔を思いだす。


「うぁ、あぁあああぁ、ぁぁぁああああああああああああッッッ!!」


程なくして私の精神は崩壊しました。

叫んだのか、何をしたのか、今でも思い出せません。

ただ、心の小さな拠り所となっていた、一本の剣を抱え込み、『アンノーン』へ向かって行ったということだけは、鮮明に覚えています。


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