信じられないでしょうけど、一っ風呂です!
かっぽーん。
そんな擬音が今にも聞こえて来るんじゃないかと思うほどの、絶景。
広々〜と広がる、キラキラと水を反射する整備された石の床に、黙々と湯気を上げて良い温度を知らせて来る、温泉。
もう一度言おう、温泉である。
大事なことなので二度言いました。
柵で囲われてはいるが天井は無くかわりに広がる満点の星空がなんとも開放的だ。
月明かりに照らされ天高くそびえ立つアンノーンを眺めながら入る温泉はなんとも絶景。
そして、柵を越えた向こう側には、きゃっきゃうふふな空間の広がるパラダイス。
ふむ
素晴らしい。
「こーんナところで突っ立ってどーしたんデス? 早く体を洗っちゃいマショーッよ」
「…………あぁ」
後ろからタオルすら巻かずに何もかもをさらけ出して堂々と仁王立ちする男。
ウィーアードに、複雑な表情を向ける。
「マーッタク、タオルなんて無粋な。自信がないのですか?」
「言いやがったなてめぇ。ま、体洗うのに邪魔だし、湯を汚しちまうしな。取っちまうか」
確かに男湯で男同士。タオルなんざ無粋だったか。
まぁ、ウィーアードの視線が軽く気になるが。
「……」
「んだよ」
「……フッ、勝った」
「おいちょっと待て。今どこを見て言いやがった?」
ちょっと話し合おうじゃねえかおお?
今後俺の男の沽券にかかわりかねない事案だぁ、無視できねえぞおい。
「俺まだ6歳の肉体だぞ? 張り合って悲しくならないのかおっさん」
「6歳の肉体って……言い方……」
「違和感しかねぇんだって」
「まぁ違和感はワタクシも同感ですガネー」
まぁいいや。さっさと体を洗おうっと。
「それにしても、作法とかちゃんとわかってるんデスね」
「まな」
おっ。ここのシャンプー(らしきもの)いい匂いだな〜。
「あ、背中流してくれたりとかします?」
「その後か先に流してくれんならな」
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その後、ウィーアードのやたらがっしりしてる背中に少しの敗北感(認めたくない)を感じながら、背中を流し。
ウィーアードの寒いギャグを聞きながら背中を流されるという苦行をなんとか乗り切って湯船に浸かった。
本当に寒かった。
お湯をかけられながら寒さで鳥肌が立つという初体験。
いと気持ち悪うございましたとだけ言っておこう。
「あったけぇ」
色々な意味で暖かった。
そんなことを考え、ふと星の海を眺め昼のことを思い出す。
ミルクルさんとの決闘の後。
駆けつけたアオとミドリが、まぁ、なんだ、抱き合ってる俺とミルクルさんを目撃して。
そんで俺たちはその固まってるアオたちに気づかなくて。
次にウィーアードと一緒にキャンディーちゃんが来たらしくて。
キャンディーちゃんも固まって、ウィーアードも急いで口を閉じ
こらえきれずに吹き出したことで初めてみんながその場に来ていたことに俺たちは気がついた。
いやぁ、生きた心地がしなかったね。
確かに自分のマスターが女癖悪い男なんて嫌だろうとは思うけどさ。
わかるけどね? けど素直に言わせてもらうとあそこまでやることないだろうと思う。
なぜかミルクルさんだけは安全な場所へと避難させ俺から遠ざけ、俺は問答無用の正座と、声高々に掲げられた三人のハモリ罵声と、アオの攻撃しながらの訴えと、ミドリのやけに鋭いチクチクといやらしい嫌味の連打と、キャンディーちゃんのまるでべったりと貼り付けたような正論の説教の波。
死ぬかと思ったね。
これ5時間も続いたんだぜ。
「ふぃー……」
「ジジくさい6歳デスこと」
「ウィーアード黙れ」
その後は俺とミルクルさんがボロッボロにした校舎の修理費を払ったり。
騒ぎを駆けつけた生徒やら先生やらが増えに増えて騒ぎがどこまでも大きくなったり。
なんかわけわからんおっさんが俺に罵詈雑言を吐いてきたり。(トォーウ《有無を言わせぬアッパーカット《反射付き》》ぐわあああああ《おっさんが吹き飛ぶ謎の効果音笑》)
その場に集まった先生方に話を通して緊急会議が開かれたり。
あの名前を聞き忘れて保健室の先生こと、ルリリ先生や一度顔を合わせたぐらいの方々に囲まれての事情説明はかなりしんどかった。
緊張はしなかったのだがみんなの視線がなんか変な感じがしたのだ。
まぁ自意識過剰かもしれないけどさ。
なのでルリリ先生の隣の空席、『ミキャス』と名前の表が置いてある席にちょくちょく視線を集中して誤魔化しながらやり過ごした。
「にっしても風呂はいいね〜。心安らぐぜ〜。ばばんばばんばんばん』
そんな云々が終わり、ようやく解放されたと思いウィーアードが用意してくれたお茶をすすっていたら。
(なんだかんだで泥だらけになってしまいマシたネ〜。ミルクルちゃんも同様ですし、どです? お疲れのようですし、ここは一つ。温泉で心を癒すというのは)
という提案に乗っかって案内してもらい連れてこられたのがここだ。
(ゼウス国名物『天空温泉』ね……)
ギリシア神話のゼウス神が天空神だからついた名前なのか、それとも空を見ながら温泉に入るという事自体がこちらだと珍しい事だからそれからきてるのか。
どちらでも構わないが、この『性欲増強』っていう効能がなんだかなぁ。
めちゃくちゃすごい天空神だってことと同時に、めちゃくちゃすごい浮気神であることも有名だから。
まぁ、洒落てるっちゃ洒落てるのかもしれないけど、なんとも言えんね。
有名だかんなぁ。
下半神ゼウス。なんちゃって。
「ユベル氏! ユベル氏!」
「あ?」
見て見て! というように俺の名前を連呼するウィーアードの方へ視線を向けると。
ウィーアードはこちらに顔を向けながらテクテクと歩いていた。
「おい。よそ見してっと」
危ねぇぞ。と言おうとしたところで、ウィーアドが足を滑らせゴチンッ! と地面と濃厚なキスをした。
それ見たことか。
「おい……」
「あっはっは。失敬失敬」
「ガキみたいなことすんな。恥ずかしい」
「おぉ、ソーリーソーリ。これが本当の、滑るソーリー! おっひょっひょっひょっひょっひょっ」
おぉー、サムっ!
なんなの?
お前は少しでも真面目にしたら死ぬ病気でも患ってるの?
「おひょっ! では隣失礼して」
「他の客がいないんだからもっと広々と入ろーぜ?」
「マァマァそんな邪険にせず。あ! お酒用意したんですよ!」
「今、どこから出した?」
目にも留まらぬ早業とは、まさにこのこと。
ウィーアードは気がつけばその手に、一本の徳利と二個お猪口を乗せたお盆を持っていた。
「よいしょっ、とっとっと」
「おぉ、温泉でこんな風に酒を浮かすのは見たことはあれど実際にやるのは初めてだ。なんか感動するな」
「さぁ! 今日は飲みましょう! とは言え、明日も仕事がありますので徳利一本だけデスが」
ウィーアードがそう言っておちょこを俺に差し出してくるが、それを受け取らず押し返す。
「アホ。俺は6歳だ。わかってんだろうが。未成年相手に陽気に酒進めてんじゃねぇ」
「陽気に容器を差し出しすげなく要求を拒否される、っと。うひっ。座布団一枚。うひひひひっ」
「すでに酔っ払いがいるよ。ダメだこいつ。早くなんとかしないと」
お酒ねぇ。向こうではもちろん飲んだことはあるが、さほど美味しいとは思えなかったんだよなぁ。
子供舌だがなんだか知らんが、俺は酒よりファ○タとかコ○・コーラとか三ツ矢サ○ダーとかのが好きだ。
「これで座布団十枚に……」
「はい。座布団全部持ってって〜」
「そんなご無体な!」
「お前のセンスで座布団十枚なんぞありえるか! 明らかに不正だろ!」
「失礼な! ちょこっ〜っとお金を握らせただけですよ! 何が悪いというのデースか!」
「賄賂じゃねぇか!」
「フハハハハハハッ! この世界はゴールドが全て! ゴールドを持つものが正義なのデース!」
くっ……確かにそう言われればそうなのかもしれないが……
「そもそも、座布団十枚なんてゆう話どこで聞いたんだ?」
日本の文化、だよね?
「え? あぁ、ちょっと前、ゼウスを出る前の話なんですガネー」
「おう」
「その近くのフリーダンジョンで『金がない!』だの『我が正義の鎧が!』だの『ジュリエット〜!』だなどと奇声を発していた面白い男の子に会いまして」
「ほほう……ジュリエット?」
「その子にいつも通り声をかけたのデース」
ふむ。あのクソくだらんギャグと気色の悪い笑い方を披露したと。
「いや〜、照れますなぁ」
「褒めてねぇぞ。で?」
「そしたらデスねぇー。『上手い!座布団一枚!』と言ってくださいまして。どうゆう意味かと尋ねてみると、なんとギャグが面白かったことに対する評価の言葉だというではありませんか。そして『十枚集めたら世界一周旅行』とかいう情報を教えていただき。あ、学園にも誘ったのですが『すまねぇ、俺急いでんだ!』と言われて、まぁ、その、逃げられてしまいましたけどネェ〜」
「げほっごほっ!」
はいいい! そいつ絶対転生者やんけ!
思わぬ形で転生者の情報をゲットだ。
でもなんか食い違いがあるな。世界旅行ってなんぞや。
「なぁウィーアード。そいつの名前とか、わかるか?」
「いえ。お互い自己紹介をする暇なく、去ってしまいましたからね」
「そうか」
装備とか、外見とかは目印にならないんだよなぁ。
くっそ、なんとか特定できないもんかね……
ジュリエット、エネミーネームか?
わっかんねぇよなぁ、そんなんじゃ。
うーむ。取り敢えず、ミルクルさんにでも聞いてみるかね。
アオちゃんたちまた出てこない。
彼女たちは現在、ミルクルさんも加えてみんなで女湯です。
きゃっきゃっうふふですね。
それと、ちょっとお風呂続きます。




