信じられないでしょうけど、理解と、願いと、決着です!
「『限界破壊』!」
ロックを強引に破壊した限界破壊が正常に起動し、体のリミッターが解除されなおす。
ずきんずきんと体の各部や頭から痛みが伝わる。
くっ、かなり無理が祟ってきてるな。
にしてもこんな急に痛みが来ることないだろうに……
あそっか。ルインの『装備者DEF超アップ』の効果が消されたからか。
さっきまでの無茶は、ルインの力があってこそなのだ。
心の中でルインに礼を言っておく。
「な、なんで、なんでロックされてないの!」
「アビリティ『限界破壊』のパッシブ効果だ。使用不可とか制限といった『限界』を破壊する!」
「そんなのきいたことない!?」
「ミルクルさんの『諸刃ノ剣』と同じさ。レベルが上がったんだ。レベルアップボーナス。アビリティはレベルアップで強くなる」
ミルクルさんの『諸刃ノ剣』がレベル1で身体強化剣の効果を、レベル2で『剣力』の効果を得たように。
俺の限界破壊だって進化すんだよ!
『一定時間が経過しました。ランダムで選定……アビリティ『疲労耐性』のレベルを強制的に1頂戴いたします。『疲労耐性』のレベルは5です』
「っと、時間もねぇ。ミルクルさん、これでわかったろ。怪我したくなかったら、剣を引いてくれ」
そもそも、ここまでお互いに奥の手や全力を使って戦う必要があるのかわからない。
ミルクルさんが本気だったから俺も本気で相手をしたけれど、本来こんな争いをすることはないんだ。
「はぁ……はぁ……『秘剣』」
「ミルクルさん!」
しかしミルクルさんは戦おうとする。
震える足を叱責し、剣を杖のようにして立ち上がり『秘剣』のコールをする。
「うぐ」
先ほども言った通り『諸刃ノ秘剣』はステータスが低くなっているミルクルさんでは体の負担が大きすぎる。
ミルクルさんは小さくうめき声をあげ、秘剣のコールが中断。
アビリティ効果で変形しようとしていた剣が元に戻る。
しかしミルクルさんはこちらに向かって歩みを進める。
『重力操作』で無理やり動かされた筋力も体力もすでに悲鳴を上げているはずなのに。
戦う必要もない。
勝率もない。
それでも、ミルクルさんは立ち上がり、剣を握る。
「なんで……なんで、そこまで」
「いや……なんだ」
どうしてそこまでして止めるのか。
ミルクルさんの尋常ではない執着に疑問が募り、投げかけたところそう返答された。
「もう……おいてかれるのは、いやなんだ、いやなんだよ、ユベルちゃん」
「お、おいてく? 一体なんの」
「負けない。負けられない。負けたくない。負けたら、また、君に置いていかれる。君は、貴方は私を見てくれない、見てくれないから、知ろうとしてくれない。いつも、いつだって。だからユベルちゃんは、私の言ってることがわからないんだ」
フラフラになりながら、ボロボロの剣を持ち、それでも一つの意思を振り絞り、俺へと言葉にしてぶつける。
「まっ、まってくれ。置いていくって、そんな、だって、他の『みんな』だって、ここにいるからしれないんだぞ。心配じゃないのかよ」
ミルクルさんはくしゃりと瞳を歪ませて、今度は力なく、今にも泣き出しそうな、そんな掠れた声で言葉をひねり出した。
「どうして、私を『みんな』に入れてくれないの?」
「何言ってんだ。勿論ミルクルさんだって『みんな』の中に入ってるに決まってんだろ? 一緒にゲームで遊ぶ『ソロ仲間』で、友達だろうが」
「そうじゃない。ユベルちゃんはわかってない。そうじゃないよ」
「だから何がっ!」
首を振るミルクルさんに苛立ち混じりの言葉をぶつけてしまう。
ミルクルさんが何を言いたいのかがわからない。
会話が成り立っていない、成立していないのだ。
「ユベルちゃんは! いつも私を遠ざける! 仲間仲間って、思わせぶりなこと言ったりしたりするくせに、後には私を避けるんだ! クエストにも、狩にも誘ってくれない。誘っても断られる。誘おうと思っても私を避けるようにいなくなる。ユベルちゃん気づいてるかな? ユベルちゃんの言う『ソロ仲間』と『私』の対応は違うんだよ? その度に私がどんな気持ちになるかわかる? 仲間だって、友達だって思っているのが私だけなんだって突きつけられる気持ちが。それをどんな気持ちでごまかして笑ってたかわかる?」
「そ、そんなの。当たり前だろ? 一人一人、対応なんて誰でも変わるに決まってるじゃないか」
「『仲間』との対応と『わたし』の対応が違うって言いたいの。要するに、私のことを仲間のように扱ってくれてないってこと」
「そんなわけ――――」
「じゃあどうして、今まで私のことを避けてたの? 私のことを友達とは思ってなかったからじゃないの?」
避けているつもりなんかなかった。
避けてなんかいないし、友達と思っているに決まっていると、俺は本心で言える、筈だ。
しかし、先ほどのミルクルさんの涙がフラッシュバックし、ミルクルさんの言葉をそのまま否定するのは違うのでないかと思ったのだ。
とても冗談で言えるようなことじゃない。
ミルクルさんは、彼女は、そう思っていたのだ、そう感じていたのだ。
「ミルクルさん。……俺は、あんたを避けようと思ったことなんか一度もないよ。でも、正直苦手意識は……あったと思う」
だから俺はよく考えて、本心を話す。
友達だと思っているし、仲間だとも思っているが。
こっちで再開した時の俺の態度でなんとなくわかるだろう。
ゲーム時代では、何度もキルされた相手だし。よく怒るし。関節技かけるし。この人の攻撃痛いって感じるし。
「でも」
言い募ろうとするミルクルさんを手で制して、俺は言葉を続ける。
「もしかしたら、ミルクルさんの言うように、無意識に避けていたのかもしれない。ごめん。どうせゲームだからって、人との関わりをないがしろにしてた時も、あった」
どうせゲーム内なのだからと。どうせゲームが変わればそれで一生関係を持つことは無いくらいの、本当の名前も顔も知らない相手なのだからと。
本当の意味で友達になることなんかできないのだからと、そう思っていたから。
「でも、ソロ仲間のみんなと話している時だけはそんな風に思うことはなかった。そんな風に思わなくなった。楽しかったから。心の底から笑って、ふざけあって、たまには喧嘩もして、そんでもって仲直りして、前よりもちょっと親しくなれたから。そして、ミルクルさんのことだってそう思ってる」
嘘偽りのない俺の本音を受けて、ミルクルさんは俯きながら疑問を重ねる。
「でも、私のこと、その、苦手、なんでしょ? 無意識に避けちゃうぐらい」
「それは」
「ただ遠ざけるだけなら、すごく寂しいけど、悲しいけど、それでも、無理やり自分に言い聞かせることぐらいできた! なのに、会えば、話せば、楽しげに話してくれる。私のふざけたノリにもノってくれる。私のこと、友達だって言ってくれる。そして、そして、友達だって私を信じさせて、信じさせてから、ふと気がつくとユベルちゃんはいないんだ。もう嫌だ。その度に、目の前からいなくなる度に、置いていかれる度に、裏切られたって思う気持ちと泣きたくなるほどの悲しさと、ユベルちゃんを信じたいって言う期待と……」
ミルクルさんは俺の目の前まで来て、剣を握ったまま、下を向いたまま。
俺の肩に頭を乗せるような形で俺にもたれかかる。
背格好が似たぐらいだと、こういうとき、格好がつかないな。
「人に好かれるような性格してないって自覚してるから、自分を信じられない不安とか、ごちゃごちゃの気持ちが混ざり合ってぐちゃぐちゃになって、完全には混ざらなくって、また分離して再発して、また混ざるような、そんな気持ちになるんだよ。不安で悲しい。でも、ユベルちゃんとまた会えた時は嬉しい。心から喜んじゃう。ユベルちゃんがどうであっても、ユベルちゃんは私の『仲間』なんだもの」
そしてミルクルさんは力なく俺の胸を押して、剣を構える。
「だから、負けない」
すでにガタガタな彼女の体が、何故だか大きく見えた。
「貴方が私を見てくれるまで、私は貴方を追いかける。貴方の前に立ちふさがって、貴方に私と言う存在をきざみつける。貴方が私を見てくれるまで、私は諦めない、認めない、負けない!」
「……」
震える右手で剣をゆっくりと持ち上げて、俺へと振り下ろし。
いや、振り下ろせずに、取り落とし、ふらりと力尽きたように倒れるミルクルさんの体を再び抱きかかえるようにして支える。
「それが私の思い。他のみんなとも会いたい。私だって会いたいよ。でも、行かせたくない。私を置いて行かないでほしい。一緒にいてほしい。ユベルちゃんの友達になりたい、『仲間』になりたいのよ」
「……『限界破壊』、解除」
まずはまぁ、俺はもう戦う意思はないよという意味を込めて、『限界破壊を解除する。
もうこれ以上は戦わないという意思表示だ。
『……解除コードの破損を確認……緊急メンテナンスのため、スリープモードへと移行します』
珍しく、というかアビリティがそんなことできるのか不明だが、気を使ってくれたらしい。
特に何かを追及されることもなかった。
少し躊躇われたが、ふるふると震えるミルクルさんの体を支えるだけではなく、しっかりと抱きしめる。
頭に手をぽんぽんとあてて、言葉を紡ぐ。
「ミルクルさんが俺のことを友達だと思ってくれてるなら、誰がなんと言おうと、『俺』と『ミルクル』さんは友達だよ。お互いがお互いを友達だと思ってるんだから間違いない。そこのところを間違えないでくれ。俺は確かにミルクルさんが苦手だ」
はっきりとした俺の物言いに、ビクリッと体を震わせたミルクルさんを落ち着かせるように頭を撫でる。
「どうどう。まてまて。話を最後まで聞いてくれ。……でもまぁ、なんかあったら一回はキルされているんじゃないか? ゲーム時代の時。しかも、俺のDEFを抜ける数少ない人物の上、かなり高確率で攻撃してくる人を苦手に思うのは仕方なくね?」
「……」
「それに会えば弄るしふざけるし俺のことをおちょくるしで、俺のことを嫌ってるんじゃないかとすら思ったからな。まぁ、そんな態度を取るくらいだから嫌われてるわけじゃないってことはわかったけど」
「……」
「それでも、おかしなことだけど、苦手って言いながら、それでも俺はミルクルさんのことが好きだったよ。リアルでもそういうノリで会話できる相手ってあんまいなかったし、好みのアニメの話で盛り上がるのは凄く楽しかったし、ぎゃーすか喚くのも今まで誰ともしたことないものだったんだ。そんで、こっちの世界に来て、二度と会えないんじゃないかって思った時に、そのことに気づいた」
ミルクルさんはもう何も言わなかった。
ただ、小さく嗚咽を漏らしながら、泣いていた。
言ってしまえば、『ソロ仲間』全員に対してあんのクソ野郎どもと思っている。苦手意識だってある。
事あるごとに弄ってくるしおちょくってくるしな。
でも、それでも仲間だったんだ。友達だったんだ。
それこそ、現実世界の友達なんかよりよっぽど、友達だった。
だからこそ、こっちに来て、もう会えないと思って、悲しかった。
こっちに来てから、そのことに気づいたんだ。
でももう遅かった。遅いと思っていた。
今更気づいてももう会えないのだからと。
だけど、まだチャンスがあるって知って、だからこそ嬉しかった。
だから俺は探しに行きたいんだ。
「だから、ゲーム時代の時、避けていたのは苦手だったからで。決してミルクルさんのことを友達だと思ってなかったわけじゃないんだ。本当に変な言い回しだけど。こっちの世界では何だかんだ言いながらそれでも嬉しかったし、だからこそ、今度こそ失いたくないって思う。だから、どこにいるかわかる、安全なところで待っていてほしいって思ったんだ」
だから、俺はミルクルさんは学園に残るべきだと言った。
ソロだ何だの説明だって嘘じゃない。
でも、ミルクルさんだってみんなに会いたいに決まっているし、何をすればいいのかわからないから学園の門を叩いたって話を聞いたし、ここに残らなければならない理由はないのだ。
「でも、そんなものは俺の勝手だ」
ミルクルさんは、自分の意思で、全力で俺を引き止めた。
「ミルクルさんが、もし、良ければなんだけど……」
そして『友達になりたい』と『友達なら、置いていくな』と。
俺にそう言ったのだ。
あぁ、負けたよ。俺の完敗だ。
俺は心の中で、今尚俺の腕の中で泣きじゃくる少女を撫で、勝者への敬意をもって、俺の言いたくなかったけど、言えないと無理やり言い聞かせていたけれど
それでも、言いたかった言葉を伝える。
「俺と一緒に来てくれ、ミルクルさん」
「…………うん」
パリィィィン……領域が優しく砕け、キラキラと光る水晶の粒のようなものが、光を反射しながら、ゆっくりと、ゆっくりと舞い、抱き合う俺たちの周りを照らしていた。




